カブにもあったスポーツバージョン!!

 ツインリンクもてぎ(栃木県芳賀郡茂木町)内にある「Honda Collection Hall(ホンダコレクションホール)」では、クルマやモーターサイクル、パワープロダクツなど市販製品からレーシングマシンまで、ホンダのあゆみを語る約300点が展示されています。

 また、動態保存されている歴代モデルたちもあり、新しい製品を販売するだけではない、ホンダの“ものづくり”に対する真摯な姿勢が伝わります。

 

 
 ここでは、ボクが試乗させていただいた珠玉のカブたちを紹介しています。1952年(昭和27年)から1958年(昭和33年)まで生産した自転車用補助エンジン『F型カブ』にはじまり、前回は初代『スーパーカブC100』(1958年/昭和33年)でした。

 そして今回はホンダ50ccスポーツの原点『スポーツカブC110』(1960年/昭和35年)をご紹介いたしましょう。

 配達などのビジネス用、あるいは通勤の足などに使われるイメージが強いホンダ・カブシリーズですが、“スポーツカブ”なるものがあったのです!

すっかりスポーツバイクに変身!

 排気量49cc、空冷4ストローク単気筒OHV2バルブ。『スーパーカブC100』のエンジンに常時噛合式の4速マニュアルトランスミッションを組み合わせ、プレスバックボーンフレームに搭載した派生モデルが『スポーツカブC110』です。

 
 ご覧の通り、すっかり“スポーツ”なカブ。軽快なアップマフラーも備えて、若者の人気を集めました。

これがホントにカブ!?

『スーパーカブC100』の最高出力が4.5PS/9500rpmであるのに対し、『スポーツカブC110』では吸排気系の見直しなどもあって5.0PS/9500rpmを発揮。重量は65kg→66kgでわずかに1kg増しとし、最高速度は70→85km/hと大きく引き上げています。



 冷却効果を高めるため、シリンダーヘッドを左右に10mmほど拡幅し、フィンも長い。スポーティなライディングポジションをとれるようシートはセミダブル仕様に。燃料タンクは6リットルの容量があり、ニーグリップができるようパッドも備わっています。

 そしてスポーツバイクのムード満点なスピードメーターには、100km/hまで目盛りが刻まれているではありませんか。ヘッドライトボディにあるパイロットランプは右がニュートラル、左がウインカーです。

スーパースポーツCB72が登場した時代

 価格は『スーパーカブC100』が5万5000円であるのに対し、『スポーツカブC110』は3000円増しの5万8000円。これまで同様に当時の物価を見てみましょう。下記の通りです。

■1960年/昭和35年の物価
大卒初任給(公務員)1万800円/高卒初任給(公務員)7400円。
牛乳14円、かけそば35円、ラーメン50円:喫茶店(コーヒー)60円。
銭湯17円、週刊誌30円、新聞購読料390円、映画館180円。

 若者にジーパンが流行した時代で、ヒット曲は小林旭のズンドコ節。安保闘争が高揚し、カラーテレビの本放送が開始、タカラ「ダッコちゃん人形」ブームが起きました。


 この年には世界市場を見据えて開発されたホンダ初の本格スポーツモデル『ホンダドリームSUPERSPORT CB72』もデビューしました。空冷4ストロークSOHC並列2気筒エンジンは最高出力24PSを発揮し、北米市場にもホンダの名を広めます。

世界グランプリを走った“カブ”もあった!?

 マニアの間では有名な“スポーツカブ”ですが、一般的にはカブとスポーツはなかなか結びつきませんよね。しかしもっと驚くことに、世界グランプリを走った“カブ”もあるのをご存知でしょうか。

 1962年(昭和37年)にロードレース世界選手権に50ccクラスが新設され、ホンダはワークスマシン『RC110』を投入。小さな燃焼室に4つの吸/排気バルブを備えた排気量49.99ccのDOHC4バルブエンジンは「精密機械」と呼ばれ、ホンダの技術力の高さを世界に知らしめます。

市販レーサー「CR110カブレーシング」(写真は公道仕様)。

▲市販レーサー「CR110カブレーシング」(写真は公道仕様)。

 その市販レーサーが『CR110 カブレーシング』(同1962年/昭和37年)で、1962年のマン島TTレースでは2ストエンジンを搭載するライバルらを相手に9位入賞を果たす実力の持ち主。ミッションはなんと8段! 最高出力8.5PS/13,500rpmで、最高速度は130km/hに達しました。

 全日本モーターサイクルクラブマンレースではデビューウイン。その後、国内外で販売され、多くのプライベーターたちが愛用し、名レーサーを育てる役目を担ったのでした。

侮れない運動性能!

 今回の主役『スポーツカブC110』に話を戻しましょう。始動はもちろんキックスタート。ホンダコレクションホールのマイスターたちによってコンディションが完調に整えられていますから、キック一発でエンジンが元気よく目覚めます。

 タイヤサイズは前後とも2.25-17。大径ホイールに細いタイヤの組み合わせでハンドリングはヒラヒラと軽快です。エンジンも50ccにしては充分に力強く、この時点でスポーツバイクとしての完成度がかなり高かったことがわかります。

 同年に世界戦略車としてCB72を発売していますし、自転車用補助エンジン『F型カブ』からわずか8年で、もうこれほどのスポーツバイクへ進化を果たしていることを考えると飛躍的な技術発展であり、その進歩の速さは驚異的としか言いようがありません。当時のホンダの勢い、技術力発展のスピードが、カブF型→スーパーカブC100→スポーツカブC110と立て続けに3台乗ることで強烈なほどに実感できるのでした。

 とまぁ、歴代カブシリーズの試乗を締めくくるような言い方になりましたが、まだまだ続いていきます! ここらへんでネタバレしてしまいますと、輸出仕様の『ポートカブC240』(1962年/昭和37年)、元祖ハンターカブといえる『90TRAIL CT200』(1964年/昭和39年)、OHC化した『スーパーカブC50』(1966年/昭和41年)と、ファン垂涎のカブシリーズを乗りましたので、この続きもどうぞお楽しみに!

 今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。最後は『スポーツカブC110』の軽快な走りを動画でぜひご覧ください。チャンネル登録もお忘れなく!!

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