博物館に飾られるような“お宝”

ホンダコレクションホールに展示されるホンダの自転車用補助エンジンたち。戦後間もない1946〜49年に生産されたもの。

▲ホンダコレクションホールに展示されるホンダの自転車用補助エンジン(+自転車)たち。戦後間もない1946〜49年に生産されたもの。撮影:青木タカオ

 前回、自分のカワサキW1が旧車ファン、メカ好きに愛される『モトメカニック』(内外出版社)の表紙を飾ったことを自慢しましたが、そのなかでツインリンクもてぎ(栃木県芳賀郡茂木町)のコレクションホールにて動態保存されているたいへん貴重な『F型カブ』(1955年)や初代『スーパーカブC100』(1958年)に試乗させていただいたハナシもしました。

 すると。

そっ、そんなすごいハナシ、あったんですかっ!

だってそれって、博物館で見るような

たいへん貴重な“お宝”じゃないですかっ!!

 と、担当者が驚愕しているので、今回は日本が誇るホンダ・カブシリーズの歴代モデルに実際に乗ってみたボクが紹介していきます。

ホンダは“ものづくり”だけでなく販売も斬新だった

 ホンダの原点が『F型カブ』でございます。1952年(昭和27年)に製造されはじめ、これはオートバイというか、エンジンと燃料タンクが同梱されるキット販売。段ボール箱に入って送られてきて、既存の自転車の後輪に取り付けるんです。

ホンダF型カブは自転車に“後付け”される補助エンジン。撮影:青木タカオ

▲ホンダF型カブは自転車に“後付け”される補助エンジン。撮影:青木タカオ

 つまり、補助エンジン。かの本田宗一郎氏率いるホンダは、全国約5万軒の自転車屋さんにダイレクトメール(お手紙)を送って、販売を募りました。

 ホンダの本社が浜松から東京都中央区槇町へ移転した頃のハナシで、当時、オートバイの販売店は日本全国でおよそ300店くらい。その内、ホンダを扱う代理店は20店ほどしかなく、まだまだ弱小メーカーでしたが、これが大ヒットし、全国にホンダの販売網を築くキッカケにもなっていくのです。

ラーメン25円の時代に2万5000円!

"白いタンクに赤いエンジン"のデザインもいいし、女性も気軽に乗れるということで『カブF型』の名は一挙に広まります。昭和27年6月に発売されると、たった5カ月間で累計2万5000台を売る大ヒットとなりました。

見るからにスマートでかわいらしい。自転車用補助エンジン『カブF型』は"白いタンクに赤いエンジン"で人気を博しました。

▲見るからにスマートでかわいらしい。自転車用補助エンジン『カブF型』は"白いタンクに赤いエンジン"で人気を博しました。撮影:青木タカオ

 宛名も含め手書きで手紙を書かなければならない時代に、全国5万軒の自転車販売店にダイレクトメールを送るという戦略は当時画期的で、ホンダはものづくりだけでなく販売戦略にも長けていたことがわかります。

 自転車屋さんもしっかりと利益が出る仕組みで、3万軒以上から「関心あり」と返事が届きます。『カブF型』の小売価格は2万5,000円、卸価格は1万9,000円に設定。物価を調べますと、以下の通り。

 大卒初任給(公務員)6,500円、高卒初任給(公務員)4,600円。牛乳14円、かけそば17円、ラーメン25円、喫茶店コーヒー30円、銭湯12円、週刊誌25円、新聞購読料280円、映画館120円。

 大卒初任給の4ヶ月分に相当しまして、現在の大卒初任給平均22万6,000円から換算しますと、ざっと90万円超え! 現代のバイクなら上級クラスの新車が買えるくらいでしょうか。いずれにせよ安い買い物ではありませんが、売れまくるんです。

1952年8月に開催された『モーターバイク祭』でも注目を集めたカブF型の一大デモンストレーション。同月発行のホンダ月報No.12には、「当日は他メーカーも含めて150余りの宣伝車が、日比谷公園から日本橋、上野、池袋、新宿、渋谷、芝の都内目抜き通りをデモ行進し、モーターバイクの一大普及運動を展開した」と記されている。

▲ホンダコレクションホールに当時の写真や資料も展示されています。撮影:青木タカオ

 人気絶頂だった日劇ダンシングチーム50人がカブF型に乗って、東京・銀座の大通りを華やかにパレードするなど宣伝活動もじつにダイナミック。2輪車業界ではかつてなかったことを、次々に仕掛けていくのでした

原動機付き自転車のルーツはココにあった!

 できるところはすべてダイキャスト化され、重さはわずか6kg。軽量小型であることも人気の秘訣で、2ストロークの補助エンジンの排気量は50cc(49.9cc)。そうなんです! そうなんです!! だから50ccのバイクは、

原動機付き自転車

っていうんです!!

 乗るには14歳以上を対象とする「許可制」にし、1960年(昭和35年)の道路交通法施行に伴い、16歳以上を対象とする「免許制」となっていきました。以来、ずっとずっと免許制度も道交法も「原動機付き自転車」のまま。制限速度30km/hっていうルールも、この時代が基準なんですね。

キット内容は、赤いエンジンと水筒のような円盤形の白い燃料タンク、そして「Cub」(カブ)の刻印が入ったライト。

▲キット内容は、赤いエンジンと水筒のような円盤形の白い燃料タンク、そして「Cub」(カブ)の刻印が入ったライト。撮影:青木タカオ

 排気量は49.9ccで最高出力は1馬力。後輪左側のシャフト部にエンジンを吊り下げ、チェーンを介して後輪を駆動させます。自転車に元々あるスプロケットやチェーンとは別に、補助付きエンジン用のチェーンと大きなスプロケットを後輪に組み込む必要がありました。

最高速は35km/h!

 さぁ、乗ってみましょう。まずは自転車を漕いで勢いをつけます。エンジンはもちろんセルスターターなんてありませんし、キックペダルなどもついていません。

 どうやって始動させるかと言いますと、“押しがけ”です。弾みがついた状態でクランクを回せばいいですからね。

 あとは手元のレバーでスピードを調整して走ります。減速したいときや停止は自転車についているブレーキを使うので、あくまでも自転車用の補助エンジンであることがわかります。

 ホンダコレクションホールにて動態保存されているたいへん貴重な『F型カブ』を、試乗させていただいたのはとても光栄なことです。その走行シーン&エンジンの音を含め、前回もココで紹介しましたが、改めてもう一度。ぜひご覧ください!

 そして次回以降、歴代のカブシリーズに乗ったボクがこうして1台ずつ紹介していこうと思いますので、どうぞお楽しみに!! ネタばらししますと元祖ハンターカブであったり、スポーツタイプなども登場します。今回も最後までお付き合いいただきまして、ありがとうございました。

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