世界最高峰のレースであるMotoGP。その戦いの中で、毎年形状が進化しているのがカウリングのエアロパーツである。各メーカー様々な形状を試行錯誤。当然、エアロパーツをたくさん装着して大きくすればハンドリングに重さが出るが、エアロパーツがないとウィリーしやすく高速域で安定しないバイクになってしまう。今回は2022年シーズンの1/3が経過しようとする第6戦スペインGPでその形状を比べてみた。

●文:ミリオーレ編集部(小川勤) ●写真:ミシュラン

ウイングからエアロパーツへ。前輪の接地感向上からウィリー抑止のアイテムへ

2022年、MotoGP第6戦スペインGPはヘレスで開催。ストレートは比較的短めだが、後半セクションは中高速コーナーが続き、エアロパーツが重要視されそうなコースだ。そのヘレスで各車のエアロパーツを比較してみた。

まずは、このエアロパーツの効果を改めて紹介しよう。

元々はドゥカティが積極的に採用していたパーツで、2016年辺りから急速に普及。その後、ウイングレットと呼ばれるものはライダーへの接触などもあり、レギュレーションで禁止に。しかしボックス形状のエアロパーツとして進化し、幅や形状などがレギュレーションで決められ現在に至る。近年は毎年のように形状を変え、セッティングパーツとしても普及している。

2016年頃はMotoGPのタイヤがブリヂストンからミシュランに変更されたこともあり、旋回中のフロントタイヤの接地感向上を狙う声も多かった。その一方で、ハンドリングの重さから使用しないライダーもいたアイテムだ。
▲2016年のドゥカティのMotoGPマシン(上)。この頃は完全に羽の形状。これは現在の市販車に継承されている。2022年モデルのドゥカティのMotoGPマシン(下)は完全にボックス化。カウリングのアイデア勝負はドゥカティが一歩先をいっている印象が強い。

エアロパーツが普及してからライダーはフィジカルを強化

少し前までカウリングの目的は、空気抵抗を減らし最高速を伸ばすためのものだった。しかし、ここにきてダウンフォースを稼ぐ目的が大きくなり、現在はすべてのマシンがエアロパーツを導入している。でも、ここで問題になってくるのがハンドリングへの影響だ。

MotoGPマシンは直線だけでなく、当然コーナーリングが大切。これだけのエアロパーツがあればハンドリグは重くなり、ライダーへの負担が大きくなる。カウルのどこにどういう風を当ててどう剥離させるか、ダウンフォースと運動性の両立を各メーカーはひたすら研究しているというわけだ。もちろん冷却など他にもカウリングに求められることはたくさんある。

以前、マルク・マルケスの転倒後のコメントで印象的だったのは、ウイングが片方なくなるとストレートはバランスが悪くなるというもの。それだけカウルの形状や左右のバランスは重要だということだ。

さらにライダーにはフィジカルが求められるようになっているのもここ最近の傾向。マルク・マルケスホルヘ・マルティン中上貴晶などのインスタグラムをチェックすると、まるで彫刻のような身体に驚くはず。ファビオ・クアルタラロは細身だが体幹がしっかりしている印象で、各ライダーかなりトレーニングを重ねていることがよくわかる。

まずはヘレスに登場した各メーカーのエアロパーツのカタチを見てみよう!
▲ホンダはウイング形状ではあるが、かなり複雑なデザインであることがわかる。この後のヘレステストではさらに新しい形状もテストしていた。
▲ヤマハもウイング状ではあるが、凝った形状。エアインテーク部分がとても大きいのも特徴。

▲スズキはシンプルなボックス形状を採用している。
エアロダイナミクスをひたすら研究するドゥカティ。その形状はアンダーカウル部分を含めてとても複雑だ。
▲ウイング形状のアプリリア。ブレーキまわりも含めた、ボディライン全体の繋がりは、見た目にも空力的にも良さそうな印象。
▲KTMはボックス形状を2段構え。エアインテークも二重構造になっているのが気になる。
▲こちらはヘレスでドゥカティが装着していたフロントディスクのエアロパーツ。コースによって使い分けているが、果たしてどんな効果があるんだろう?
▲ちょっと見慣れてきたシャコタンのスタートシーン。このライドハイトデバイスや電子制御とあわせてエアロパーツは進化している。

エアロパーツは、MotoGPマシンから市販車へ

エアロパーツは市販車にも続々と採用されるようになった。市販スーパースポーツに初めて採用したのはアプリリアのRSV4だが、その後はドゥカティが積極的に採用している。今後もこのジャンルはかなり変わっていくはずだし、バイクのデザインを大きく左右するディテールだけに注目していきたいと思う。
将来のスーパースポーツは、さらなるエアロダイナミクスの進化や車高の変化を楽しめるのだろうか……。ぜひ、期待したい。

KAWASAKI Ninja H2R
2015年に発表されたカワサキのニンジャH2R。具体的な参戦レースカテゴリーを持たないまま2016年に発売された市販レーサー。搭載するスーパーチャージドエンジンは、310ps/14,000rpm(ラムエア加圧時:326ps/14,000rpm)という、いま見ても怒涛のスペックを発揮。カーボン製のウイングが当時はとても斬新だった。
DUCATI PANIGALE V4S
パニガーレはV4Rが最初に採用。V4Rはカーボン製だったが、同形状の樹脂製を翌年V4Sに採用している。
▲パニガーレV4Sは、実際にサーキットで走行した際にメーター読みで299km/hを何度も体験した。実測はおそらく270km/hほどだとは思うが、その時は約30kgのダウンフォースがかかっていたことになる。299km/hでも抜群の安定感を発揮し、体感速度はその数値より遥かに低かったし、ハンドリングの重さもまるで感じなかったのが印象的だ。
DUCATI SUPERLEGGERA V4
500台限定で発売されたスーパーレッジェーラV4。カーボン製のフレームやスイングアームを採用し、乾燥重量は159kg。224ps/15,250rpm (レーシングフルエキゾースト装着時234ps/15,500rpm)を発揮。2020年に1,195万円で発売された。
DUCATI STREETFIGHTER V4 SP
ドゥカティはついにネイキッドであるストリートファイターにもウイングを採用。フロントマスクは映画『ジョーカー』をイメージしたデザイン。ネイキッドだが208psを発揮し、その加速をサポートするバイプレイン(二翼)ウィングが開発された。この空力パーツによって270km/h時に、28kgのダウンフォース(フロントホイール:20kg、リアホイール:8kg)を発揮する。
HONDA CBR1000RR-R
ホンダのCBR1000RR-Rもウイングを装備。アンダーカウルは、リアタイヤ近くまで後端を伸ばし、ドライ時には
リアタイヤに当たる空気量を減少させて空気抵抗を低減、ウエット時はリアタイヤにかかる水量を減らし、リアタイヤの温度とグリップ力の低下を抑止する。サーキットの速度域で、効果的なダウンフォースを発揮するウイングレットは、左右のダクト内側に3枚ずつ配置し、加速時のウィリーを抑制。ブレーキングおよびコーナリング時における安定感の向上させている。

※本記事は“ミリオーレ”から寄稿されたものであり、著作上の権利および文責は寄稿元に属します。なお、掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。 ※特別な記載がないかぎり、価格情報は消費税込です。

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