2023年5月20日、21日に、栃木県のモビリティリゾートもてぎにて、「2023 Hertz FIMトライアル世界選手権第3戦 大成ロテック日本グランプリ」が開催された。

スポンサーなどの関係でえらく長い大会名だが、ようは世界各国を回りながら開催しているトライアルの世界選手権の第3戦が日本で行われたってワケ。しかも、このコロナ禍で日本でトライアル世界選手権が行われるのは実に4年ぶりのこと。

バイクが宙を舞う! トライアル世界選手権

アダム・ラガ選手

2日間とも3位で表彰台入りしたアダム・ラガ選手(GPクラス/TRRS)はGPクラス最年長。両日とも3位という安定した走りを見せた。

トライアル界の王者・トニー・ボウ選手

トライアル界の王者・トニー・ボウ選手(GPクラス/モンテッサ)。なんと16年間連続でシリーズチャンピオンを取り続けている鉄人だ。

 

競技の内容は……なんて難しいことは抜きにして、とにかく選手たちの超絶技巧を視覚的に楽しめるいうのが、このトライアル競技の素晴らしいところだ。

通常のロードレースだと、選手のプロフィールに乗るバイクのカラーリングなどを把握し、レース中も実況中継に耳を傾けながら目の前を通る選手たちを観るのはもちろん。モニターや電光掲示板などで選手たちの順位や動向を把握……なんて感じでレース観戦初心者には状況がつかみにくく、かなりハードルが高く感じることもあるだろう。だけどトライアルはそうじゃない。

2023 Hertz FIMトライアル世界選手権第3戦 大成ロテック日本グランプリ

競技する選手の目の前で観戦できるのがトライアルの特徴。レース競技というよりはゴルフ観戦のイメージに近い。

 

目の前を走る選手が“難所を足をつかずにうまく越えられるかどうか?”この一点だけに集中して、「おお、越えた! すげぇ!!!」と盛り上がっていればいいだけなので非常にわかりやすい。


それに変わるがわるやってくる選手を観ていると、自ずとレベルの違いがわかるようになる。今大会では、「トライアル2クラス(青ゼッケン)」、「トライアルGPウーマンクラス(紫ゼッケン)」、「トライアルGPクラス(赤ゼッケン)」の3カテゴリー、56人の選手たちが参戦。赤ゼッケンの「トライアルGPクラス」が世界最高峰のクラスとなる。

ベルタ・アベラン選手

トライアルGPには「トライアルGPウーマンクラス」もあり、今大会は10人がエントリー。写真はナオミ・ムニエル選手(ウーマンクラス/GASGAS)。

 

まぁ、クラスによって通る場所の難易度がそもそも違っていたりするのだが、同じクラスの中でも上手い選手は後から走る仕組みになっているので選手の技術の違いがものすごくわかりやすい。

黒山健一選手

日本人もワイルドカード枠などで結構な人数が走る。黒山健一選手(トライアル2クラス/ヤマハ)は、電動トライアルバイク(YAMAHA・TY-E)で参戦した唯一の選手。大ベテランであり、ルーキーたちとはやはり動きや選ぶラインが違い、なんというか派手で華のある走りが特徴だ。

トライアル観戦のここが面白い! -超絶技巧-

ハイメ・ブスト選手

世界選手権となると、もう人が歩いたりよじ登ったりするのさえ難しそうな場所を平気で越えていく。どうやったらバイクで越えられるんだ? 2日目の優勝はハイメ・ブスト選手(GPクラス/GASGAS)。現在2023年のランキングは首位タイ。王者トニー・ボウ選手の17年連続優勝に待ったをかけるならこの選手が有力だ!

 

繰り返すようだが、やっぱり世界レベルのトライアル競技の見所は選手たちの超絶技巧である。世界レベルの競技者にこんな例えをするのは失礼かもしれないけど、カンフーなんてやったこともないし、よくわかってない人がジャッキー・チェンの映画を観て、そのカンフーアクションを単純に楽しめるように、トライアルもムズかしいこと抜きに選手たちの動き、それだけで十分楽しめる。

バイクに乗った選手が、岩の上をぴょんぴょんと跳ねながら移動したり。人の背丈くらいの岩に飛び付いて登り越えたりするのが単純に面白いのだ。

トニー・ボウ選手

右の岩から左の岩へジャンプ! 他の多くの選手が一度降りてから再び岩に取り付いたのに対し、 トニー・ボウ選手(GPクラス/モンテッサ)助走もない状況からのロングジャンプをキメて観客がどよめいた。選手によって得意不得意、見せ場があるのも観ていて飽きないポイントだ。

 

選手たちが繰り出すアクションを観ているだけで楽しくなってくる。それに面白いもので選手の動きを観ていると、だんだん目が慣れてくる。「あ、この人さっきの選手より安定していてうまい!」とか、「この選手、失敗も多いけどなんだかアクセルの開けっぷりがよくて小気味よい動きをする!」なんてことがなんとなくわかるようになる。そうなればしめたもので、お気に入りの選手を見つけて応援するのが面白い。

トニー・ボウ選手

世界トップライダーの超絶技巧が間近で観られる! ランキング1位のトニー・ボウ選手(GPクラス/モンテッサ)の安定感はすさまじく、観ていて動きに危なげなところがない。

2023 Hertz FIMトライアル世界選手権第3戦 大成ロテック日本グランプリ

トライアルの観戦の仕方は自由。折りたたみのチェアを持ち込んでどこか一つの場所に腰を据え、「トライアル2クラス」→「トライアルGPウーマンクラス」→「トライアルGPクラス」の選手全員を観るのもいい。また、競技は12セクションを1日2周する。お気に入りのライダーを見つけたら、全てのセクションを同じペースで帯同するのは難しいが、1→3→4→5→9→10→11……って感じでセクションを移動しながら推しの選手を追いかけるのも楽しい。

トライアル観戦のここが面白い! -めちゃくちゃ選手との距離が近い-

ハイメ・ブスト選手

距離が近いので選手たちの表情がバッチリ見える! ランキング首位タイのハイメ・ブスト選手(GPクラス/GASGAS)。2日目の最終セクションで失敗……したところは観てないのだが、移動路で叫びながらバイクを走らせるハイメ・ブスト選手に遭遇。僕はスペイン語はからっきしだが、きっと「くそう! なんてこったッ! よりによって優勝がかかった最終セクションでやらかすなんて!!」なんて感じで喚き散らしている雰囲気だった(笑)。ちなみに2日目の結果は、この最終セクションの失敗が響きトニー・ボウ選手と同点という結果で競技が終了。ただ周回タイムが僅か30秒ほど早かったハイメ・ブスト選手が優勝することになった。

 

他のバイク競技と違い、速度域の低いトライアル競技は、観客との距離がものすごく近く、かぶりつきで観られるのが大きな特徴だ。

アダム・ラガ選手

選手たちはトータルの制限時間があるなかで“下見”と呼ばれるセクションのチェックを行うことが許されている。写真はランキング3位のアダム・ラガ選手(GPクラス/TRRS)だが、真剣に走行ラインをイメージしている表情が手にとるようにわかる。後は下見の順番待ちをするのは、ランキング首位タイで1日目は2位、2日目は優勝したハイメ・ブスト選手(GPクラス/GASGAS)。

 

ヘルメットがオープンタイプなこともあって選手たちの顔が見え、観る場所によっては選手たちの掛け声や息遣いまで聞こえるくらい。クラッチレバーの使い方や体重移動の仕方なども非常によく見える。

それに成功すれば笑顔になったりホッとしたり、逆に失敗すれば露骨に悔しそうにする表情がものすごくよくわかる。それだけに観客も感情移入しやすく楽しめるのだ。他の選手が失敗するような場所を成功させたり、華やかな動きをする選手には自然と拍手や声援が起こり、失敗すれば一緒にため息をつく。そんな一体感が味わえるのもいい。

トニー・ボウ選手

ランキングトップのトニー・ボウ選手(GPクラス/モンテッサ)は最後発。セクションアウト時の計測ポイントで、すかさずライバル達の減点具合をチェック。16年も連続総合優勝しているにもかかわらずどんな場所でも真剣に下見を行い、油断ない姿勢がとにかく真面目だ。今大会では1日目は優勝、2日目は2位という結果だった。

氏川政哉選手

距離が近いので観客の声援がダイレクトに届くのもトライアルのいいところ。移動区間で声援を受ける氏川政哉選手(トライアル2クラス/Honda)。

トライアル観戦のここが面白い! -お手軽-

2023 Hertz FIMトライアル世界選手権第3戦 大成ロテック日本グランプリ

ゲートオープン前から並んで、かぶりつきの観戦場所をゲット! 折りたたみ椅子を持ち込む観客が多い。

 

今回、僕も世界トップレベルの技術が観られるチャンス!と2日間会場に通い詰めたんだけど、驚くのはその観戦の手軽さだ。

なんせ前売り券を購入すれば、なんと2日間行われるトライアルを見放題。しかも、価格は高校生以上で2023年大会の場合5,300円。このほかにモビリティリゾートもてぎの駐車券が必要だけど、こちらも通しで2,000円とお買い得。つまり7,300円で世界トップレベルの技が2日間も観れてしまうのである。

2023 Hertz FIMトライアル世界選手権第3戦 大成ロテック日本グランプリ

駐車場には、会場に泊まり込みで連日観戦する強者も!

 

ちなみに今回、このページに掲載している写真は全て一般観戦エリアから僕が撮影したもの。一般観戦チケットでもこのくらいの至近距離で選手たちの超絶技巧を見られるのだから、観に行かない方がもったいないというわけだ。

気分はトニー・ボウ選手!

会場には、飲食店はもちろんだが、さまざまなブースが出展している。 HRCブースには、ダカールラリーの競技車両があったり、新型車が置いてあったり。中でも人気だったのがシーソーに取り付けられたトライアルバイクに跨って、フロントアップやジャックナイフの体験ができるコーナー。気分はトニー・ボウ選手だ!

プレミアムチケット

ちょっと高額だがプレミアムチケット(1万8,000円)を購入すれば、一般観戦チケットとは別のさらに選手を近くで観戦できるエリアに入ることができるほか、専用休憩スペースなどの嬉しい特典も。

“やさしい”トライアル競技の見方

目の前を走る選手たちの超絶技巧を観ているだけで楽しいトライアルだが、全部とは言わないまでも、ルールや仕組みを多少理解しておくとさらに楽しめるようになる。そんなトライアル観戦を楽しむためのルールをちょっとだけ紹介しよう。

2023 Hertz FIMトライアル世界選手権第3戦 大成ロテック日本グランプリ

選手はセクションと呼ばれる競技エリア(今回は12箇所)を1日で2週走り、その減点の少なさを競う。「トライアル2クラス」、「トライアルGPウーマンクラス」、「トライアルGPクラス」のクラスによって走行する場所(難易度)が異なる。同じクラスでも選手によって選ぶ走行ラインが違ったりするのも面白い。

①セクション内の決められた場所を走る。

2023 Hertz FIMトライアル世界選手権第3戦 大成ロテック日本グランプリ

選手は、セクションに入ったら、コーステープ内でマーカーと呼ばれる赤や青の矢印の間を走らなければならない。これらを破ると減点5。ちなみにマーカーはゼッケンと同じ色で、「トライアル2クラス」が青の矢印、「トライアルGPウーマンクラス」が紫の矢印、トップレベルの「トライアルGPクラス」が赤の矢印だ。

②地面に足をついてはいけない。

2023 Hertz FIMトライアル世界選手権第3戦 大成ロテック日本グランプリ足を付くと1点の減点対象。1〜2回までの足つきは加算されるが、3回以上は何回足をついても減点3のままで加算されない。

③落車してはいけない。

2023 Hertz FIMトライアル世界選手権第3戦 大成ロテック日本グランプリ

転倒するのはもちろん、バイクから降りてしまうと5点の減点対象。減点1や減点2を目指して落車するくらいなら、何度でも足をついて減点3で確実に回ろう……なんて戦略上の駆け引きも成り立つのだ。

④停止したり後ろに下がったりしてはいけない。

2023 Hertz FIMトライアル世界選手権第3戦 大成ロテック日本グランプリ近年加えられたルールで、より難しい条件を加えることでより競技性がアップ。ただ停止の判定は難しいらしく、「なんで? 今のは停止じゃないよ!? 」って感じで選手がオブザーバー(審判)に抗議することも。写真は、まさかのところで後進してしまい5点減点となったアダム・ラガ選手(GPクラス/TRRS)。

⑤競技は減点制。

2023 Hertz FIMトライアル世界選手権第3戦 大成ロテック日本グランプリ

①から④以外にも色々ルールはあるけど、これらを破ると減点対象。1セクションあたり最大5点減点が課せられ、競技を終えた時点でポイントが最も少ない選手が優勝となる。同点の場合は、より少ない時間で全セクションを回った選手の勝ち。ちなみに減点なしでセクションをクリアすることを“クリーン”と呼ぶ。

 

トライアルは、これらの主要ルールを踏まえて観戦するとより競技が楽しめる。ちなみに競技中はオブザーバーと呼ばれる審判数人がライダーの動きをチェック。指の本数で減点を数えているので、観客からも現在の減点状況がよくわかる。

2023 Hertz FIMトライアル世界選手権第3戦 大成ロテック日本グランプリ

選手の動きと、オブザーバーの手の動きを見ながら観戦できるようになるともっとトライアルは楽しくなる!

trialgp_2023_JAPAN

選手は、アシスタント(旧名称:マインダー)と1組でセクションに入る。アシスタントは選手や車両に触れられないが、岩越えなど選手からは見えない走行ラインをわかりやすく指示したり、もしもの転倒や落車時に車両を確保したりもする。

 

……なんてウンチクたれてみましたが、難しいことは考えずその場に行って観るだけで、子どもから大人まで、誰もが「この選手すげー!」と楽しめるのがトライアル競技の魅力。ぜひあなたもトライアル観戦してみませんか? 今年はコロナ禍の影響で4年ぶりの開催となったけど、例年5月下旬にこの栃木県のモビリティリゾートもてぎで日本グランプリが行われるのが恒例なので、来年の予定をあけておこう!

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