カウンターステアを当てるか、当てないか…。絶妙なアングルで安定した進入スライドを見せる、モトGP・ドゥカティファクトリーの2台。後輪の制動力を高める狙いで、スリッパークラッチを作り込んでいるようだ。細部も手を抜かない開発姿勢…。

●監修:青木宣篤 ●文:ヤングマシン編集部 ●写真:Yamaha Redbull MotoGP.com

モトGP界の先駆者として、テクノロジーをリードするドゥカティ

マスダンパーや空力パーツ、そしてホールショットデバイスなど、ちょっとしたことでも逃すことなくトライし続けているドゥカティ。モトGP界の先駆者として、テクノロジーをリードしている。

そして今、ドゥカティはまたひとつ、地道ながら効果的な進化を遂げたようだ。
▲モトGP最終戦で1-2-3を達成したドゥカ勢。

’21シーズン最終戦バレンシアGPでは、ドゥカティファクトリーチームのフランチェスコ・バニャイアとジャック・ミラーの二人が、安定してリアをスライドさせながらコーナーに進入するシーンが見られたのだ。しかも、無駄なカウンターステアを当てることなく…。

「え? 進入スライドってレースでは当り前なんじゃないの?」と思うだろうか? しかし最近のモトGPでは、リアタイヤの無用な消耗を防ぐために、進入スライドをかなり抑えた走りが主流になっている。

ではなぜドゥカティは、あえて進入スライドをさせているのか。実はスライドさせることが目的ではなく、後輪の制動力を高めた結果として、進入スライドが発生しているのだ。

モトGPマシンのカーボンフロントブレーキは圧倒的な制動力を誇るが、よりハードなブレーキングをするためには、後輪もできるだけ活用したい。だが、リアブレーキは制動力という点では心もとない。よく利く後輪のブレーキといえば、そうだ、エンジンブレーキだ! 4ストエンジンの強大なエンジンブレーキを今まで以上のレベルで使いこなそうとドゥカティは考えたようだ。

ちなみにライダーとしても、後輪から引っ張られるような利き方をするエンジンブレーキは、安心感をもたらす大事な存在である。

ご存じの通り、電子制御のひとつとしてエンジンブレーキコントロール(EBC)が搭載されている。だがドゥカティが面白いのは、電子制御頼みではなく、スリッパークラッチをかなり精密に作り込んでいることだ。

「今さらスリッパークラッチ?」と意外に思うだろう。だが、スリッパークラッチの作り込みとEBCの合わせ技がうまく行っていることは間違いない。メカニカルなパーツもまだまだやりようがある、ということなのだ。

レギュレーションで開発に縛りが課せられたなら、別の部分でどうにかライバルを出し抜こうとするドゥカティ。劇的な進化というより、小さなことを疎かにせず積み重ねることで、マシンの完成度を高めている。

▲進入スライド時は後輪の荷重が抜けがちだが、今のドゥカティはしっかりと荷重がかかり、高い制動力を発揮している。写真は”荷重の使い手”バニャイアだが、チームメイトのミラーも同様の走りを安定して行っている。
▲進入スライドを抑え気味のモトGPに対し、頻発しているのがモト2だ。だがこれはフロントブレーキにより後輪荷重が抜け、自然発生的に起きているもの。ドゥカのそれとは質が異なる。

 

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