社会問題などを取り上げる機会が多い当コラムですが、今回は閑話休題的に、タイヤ会社にまつわる話をしてみましょう。イタリアのピレリが創業150周年を迎えたことから調べてみたところ、なぜかタイヤメーカーは長寿企業が多いことがわかりました。いったいなぜなのでしょうか?

●文: Nom(埜邑博道) ●取材協力: PIRELLI, MICHELIN, BRIDGESTONE

代表的なメーカーは、後発でも96年前に創業していた

2022年1月28日、イタリアのタイヤメーカーであるピレリ(Pirelli)が創業150周年を迎えました。

1872年にジョバンニ・バティスタ・ピレリが創業し、1879年にピレリケーブル&システムを設立。当時、普及が始まった電話用通信ケーブルの製造を開始し、電話網が伸び、広がるとともにピレリも成長し、1890年には自転車用タイヤ「ティポ・ミラノ」を発表。

ここから現在に至るタイヤメーカーとしての歴史が始まり、1899年にバイク用タイヤのMilanoを発表し、1901年には自動車用タイヤ・Ercoleを発表。1986年にはドイツのモーターサイクル用タイヤ専業メーカーのメッツラーを買収して現在に至っています。

現在は、創業地のイタリアに加えて、ドイツ、ブラジル、中国、インドネシアなど計12の国に製造工場を持つグローバル企業になっています。

このピレリの創業150周年の報を聞き、他のタイヤメーカーは創業からどのくらい経っているのだろうと思って調べたら、代表的なタイヤメーカーはこぞって長寿企業だということが分かりました。

創業年別に挙げると、
●コンチネンタル 1871年
●ピレリ 1872年
●エイヴォン 1885年
●ミシュラン 1889年
●ダンロップ 1889年
●メッツラー 1892年
●グッドイヤー 1898年
●TOYOタイヤ 1904年
●IRC 1926年
●ブリヂストン 1931年
となっています。

なぜ、タイヤメーカーは長寿企業ばかりなのでしょうか。

何か共通する理由があるはずだと思い、150周年を迎えたピレリ、初めてラジアルタイヤを開発したミシュラン(フランス)、そして日本メーカーを代表してブリヂストンに長寿の理由を聞いて見ました。

モータリゼーションの発達とともに成長した、人々の生活に欠かせないものがタイヤなのだ

まず、ピレリによると、1800年代の終わりにダイムラー・ベンツが自動車を発明して、欧州などでは急激にモータリゼーションが発達。それとともに交通インフラも発達することでタイヤ自体の需要もどんどん増え、それが現在まで減ることなく続いているからではとのこと。

中国山東省にあるピレリのYANZHOU(ヤンゾウ)工場。かなりの巨大施設であることが分かる

また、タイヤの製法自体が創業期からほとんど変わっていないこともその理由ではないか、とくに、ラジアルタイヤが生まれてからはほとんど変化がないということも、ひとつの企業が長く生き残ってきた理由ではないかと言います。

さらに、タイヤ産業というのは規模の商売で、大きな工場で大量のタイヤを作れるところが有利なので、新規メーカーがなかなか参入しにくいことも長寿メーカーが多い理由として挙げてくれました。

創業当時は足袋の専業メーカー「志まや」を名乗り、1930年代からタイヤ製造をスタートしたブリヂストンの広報担当者も、タイヤメーカー各社の長い歴史について明確な理由は分からないがと前置きしながら、ひとつの理由として、IT製品などと違いタイヤは流行廃りのない常に必要な機能部品として過去から需要があり、製造の難しさと大掛かりな設備投資が必要になることから途中参入が少なく、比較的歴史の長い会社が多いのではないでしょうかと、ピレリと同様の回答をしてくださいました。

ブリヂストンの第1号タイヤは、前身の日本足袋タイヤ部による試行錯誤の末、1930年に誕生した。創業者が家業の仕立物業を継いだのが1906年、そしてブリヂストンの前身である「ブリッヂストンタイヤ株式会社」は1931年に設立された。

そして、1949年に世界で初めてラジアルタイヤを開発したフランスのミシュランは、やはりモータリゼーションとともに発展してきたことが大きな理由ではないかと言います。

ミシュランの二輪用最新タイヤが、2月16日発売のパイロットロード6(重両車向けのGTもラインナップ)だ。

自動車の黎明期、まだヨーロッパでも数百台しか自動車が存在しないような時代は、移動すること自体がとても危険なことで、移動=アドベンチャーでした。

それに対し、タイヤメーカーは移動に伴う危険を低減するような、より安全で快適なタイヤを作ることが使命となり、自動車の発展とともにタイヤも発展したという、タイヤは自動車にとってなくてはならないパートナーになったことが存続してきた理由ではないかと言います

また、モータリゼーションの発展とともに、人が移動することは生活にとって欠かせないことになってきて、生活=モビリティという時代になるにつれ、モビリティの課題を解決するためにタイヤの存在がとても大きなものになりました。

それとともにタイヤメーカー自体も常にユーザーの課題解決に取り組んできたことがタイヤメーカーを社会的存在にして、それゆえ必然的に長寿企業になったのではとのことでした。

確かに、人が生きていくことに移動=モビリティは欠かせないもので、どんな乗り物でも足元を支えるのはタイヤです。

意識はしないものの、人の暮らし、生活にとってタイヤは欠かせない必需品で、だからこそタイヤメーカーは常に必要とされてきた企業なのでしょう。

そう考えると、タイヤメーカーがこぞって長寿企業=常に人々に求められ続けてきた企業だということが納得できます。

ピレリの150周年から、思いもかけずタイヤメーカーの歴史に触れることになりましたが、みなさんもご自分でその歴史をたどってみてください。きっと興味深い発見があるはずです。

ちなみに、ピレリとブリヂストンの説明にあった新規メーカーが参入しにくい産業という話ですが、最近は中国や台湾、アジアン諸国の新興タイヤメーカーが続々と誕生しています。

その理由は、歴史の長いタイヤメーカーが製造設備を刷新する際に、それまで使用していた製造機器を放出し、それを政府などの資本援助を受けた新興メーカーが買い取ることで、タイヤの製造に参入してきたとのことです。

さらには、古参の大手メーカーを退職したエンジニアたちが新興メーカーに参加して、それまで培ってきたノウハウを伝授することで新興メーカーの製造技術もどんどん進化。いまやバイアスタイヤは、新興メーカー製のほうが優れた性能を実現していることもあるそうです。

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