カーボンニュートラル燃料でレーサーマシンが走る!

3月24日、第50回東京モーターサイクルショーのステージ記者発表において、2023年全日本ロードレース選手権・JSB1000クラスの参戦車両にカーボンニュートラル燃料(以降、CN燃料)が全車統一で採用されることが発表された。

ワンメイク供給されるのはドイツの特殊燃料メーカー「ハルターマン・カーレス」社が開発した「ETS Renewa Blaze NIHON R100(以降、ETS)」というバイオ燃料で、100%非化石由来のレーシング燃料となる。ETSは、植物ゴミや木材チップなどのバイオマスを原料としており、石油由来の原料を一切使用していない。
二輪のレースでは2027年までにmotoGPが100%非化石由来の燃料とすることを発表していたが、全日本のJSB1000クラスがひと足先にCN燃料を使用することになった。

ETSは、精製するのに複雑な工程が必要とあって高額な導入コストがネックとされていたが、ハルターマン・カーレス社がJSB1000クラスの冠スポンサーとなること、車両・タイヤメーカーが支援することで購入価格を軽減できたという。各開催サーキットも燃料の受入れや保管などで協力体制を整え、カーボンニュートラルの実現に向けて二輪業界が一致団結して取り組む。
ハルターマン・カーレス・ジャパン合同会社代表取締役社長の川本裕喜氏は「当社のETSで、二輪ではJSB1000、四輪ではスーパーGTでカーボンニュートラルへの取組みをサポートさせて頂きます。CN燃料を含めて特殊燃料については一日の長があると自負しております。技術と経験を通じて、今後の環境対策、さらなる内燃機関の発展に貢献したいと考えております」とコメント。

モーターサイクルショーの会場内には、モーターサイクルスポーツにおけるカーボンニュートラルへの取組みに関するコーナーが設置され、ETS導入のメリットも掲示されていた。

脱炭素化へ。なぜCN燃料が選ばれるのか?

こうした植物由来のバイオ燃料がCN燃料とされているのは、原料となる植物や微細藻類が生育する過程で光合成によって大気中からCO2(二酸化炭素)を吸収しているため、燃焼時にCO2を排出しても大気中に戻るだけで「全体として見ればCO2の総量を増加させない」という考え方に基づいているからだ。

CN燃料には大きく分けて3つの種類がある。

●カーボンニュートラル燃料の種類

種 類 原料・精製法 なぜCN?(考え方)
1. 合成燃料

※欧州では再エネ由来の水素を用いた場合、e-fuelと呼ぶ
CO2と水素を合成

燃焼時にCO2が発生するが原料がCO2のため排出量は実質ゼロ

2. 水素燃料

①水の電気分解(自然エネルギー電力から作るとグリーン水素)
②石油・天然ガスから精製
③工場での副産物から精製
④廃材などバイオマスから精製

燃焼時には酸素と反応して水になるクリーンエネルギー
3. バイオ燃料

※バイオマス燃料とも言う
トウモロコシやサトウキビ、木材や草など動植物由来の生物資源(バイオマス)を微生物発酵 燃焼時にCO2が発生するが植物の生育過程でCO2を吸収しているため実質ゼロ


なお、ブラジルやアメリカなど南北アメリカ諸国で一般的なバイオエタノールは、ガソリンとエタノールの混合燃料で、バイオ燃料の一種だ。日本のバイクメーカーもこうした市場向けにバイオエタノール燃料(一般的なE10だとガソリンにバイオエタノールを10%混ぜたもの
)が使用可能な車両を長年に渡ってラインナップしており、内燃機関技術としての蓄積は十分にある。


日本は、日米首脳声明(2022年5月23日)においてバイオエタノールの利用拡大に向けた取組みを位置付け、日本のバイオエタノールの需要を2030年までに倍増させるためにあらゆる手段を取るとしている。

また、CO2排出量世界第3位のインドでは、20%混合のバイオエタノールを今年から前倒しで導入するほか、バイオ燃料の利用義務やガソリンへの混合義務、価格的なインセンティブ施策の実施、精製プラントの建設拡大などを進める国も増えている。

ただし、バイオ燃料の普及は穀物や農産物の相場を高騰させるといった側面もあり、人口増加で食用や飼料用の穀物消費が増えるなか大きな課題も残されている。

日本の強み、内燃機関でカーボンニュートラルへ!

「2035年までにハイブリッド車を含むガソリン車の販売を禁止」すると発表していた欧州連合(EU)にも大きな動きがあった。今年の2月、ドイツやイタリアなどの加盟国が「合成燃料(e-fuel)については新車販売できるようにすべき」と主張していたが、3月の欧州委員会(EUの執行機関)でこの主張が通り、2035年以降も内燃機関車の新車販売が容認された。

自工会の豊田章男会長は「脱炭素への道はひとつではない」と常々発言してきたが、EV化を主導してきた欧州がこうした方針転換を見せたことで、その姿勢が正しかった(現実的だった)ことが証明された。内燃機関であれば、様々なCN燃料の使用により、
優位性の高い日本の技術でカーボンニュートラルの実現に向かうことができる。

日本政府は「2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする」というカーボンニュートラルへの達成目標を打ち出している。バッテリーに関する多くの課題が長期にわたって改善されない今、CN燃料への注目はますます高まっている。

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