ライダーが増え、バイクが売れているいま、その背後にある不安や不満を払しょくするために各界のトップはどう考えているのか。国内のレース競技を統括するMFJ(日本モーターサイクルスポーツ協会)会長の鈴木哲夫さんに、誰もが楽しさを享受できる持続可能なバイクライフをこの先も実現するための考えについて尋ねた。

●取材/文:ヤングマシン編集部(Nom) ●写真:ヤマハ発動機, 風間深志事務所, MFJ, Moto rider support, ヤングマシン編集部

【鈴木哲夫(すずきてつお)】’83年4月本田技研工業株式会社入社、’83年12月本田技術研究所朝霞研究所 第二設計ブロックに配属され、CB400Super four、CBR1100XX Super Blackbirdなどの車体設計を担当するなど数々の市販車に加え、レーシングマシンの開発にも従事。’19年にMFJ会長に就任。国内外の二輪マーケット、レース業界の事情にも精通している。

MFJはレースのためだけの組織ではなくツーリングも事業内容のひとつなんです

MFJはレースのための組織で、一般ライダーとは接点がないように思っている方が多いと思うが、事業案内には「ツーリング」という一般ライダーを対象とした、レース以外のアクティビティも含まれている。具体的にどういう活動をしているのだろうか。

「MFJはFIM(フェデレーション・インターナショナル・モーターサイクル=国際モーターサイクリズム連盟)の下部組織で、FIMと同様、モータースポーツやツーリングなど、モーターサイクルスポーツの普及・振興を図るのが目的で、英語表記は『モーターサイクル・フェデレーション・オブ・ジャパン」。ただ、文部科学省傘下に入るときに『スポーツ』という言葉が入ったので、このスポーツがレースを連想させているし、我々もレースの普及・振興に注力してきました。その結果、MFJはレースのためだけの組織という印象を与えてきたかもしれません。

しかし、事業案内にはツーリングという言葉もしっかり入っていますし、実際、’15年から、東日本大震災で被災した東北地方をツーリングで訪れて復興を支援しようと一般ライダーに呼びかけた『走ろう東北! MFJ東北復興応援ツーリング』を’19年まで5年間主催し、’20年からは『にっぽん応援ツーリング』と名称と開催内容を変更しながら継続しています。また、風間深志さんが主催しているツーリング・ラリー『SSTR(サンライズ・サンセット・ツーリング・ラリー)』も後援させていただいています。

’15年からMFJ主催で開催された「走ろう東北! MFJ東北復興応援ツーリング」。東北地方をツーリングしながら、現地の復興の手助けをしようという趣旨で開催されたものだ。左上の写真中央に鈴木会長の姿もある。

同様に今年の9月10~11日に箱根エリアで開催され、アネスト岩田ターンパイク本線を貸切ってレーシングマシンを走らせるなどした『モトライダースフェスタ2022 in 箱根』も後援させていただきました」

残念ながら、一般ライダーを対象としたそういうイベントにMFJがかかわっていることがあまり浸透していないように思われる。

「組織として人的リソースが潤沢とは言えない状況で活動していますので、どうしてもすべての活動において十分に行き届いていない部分があります。そういうこともあって、レースよりも数が少ない、我々がかかわっているツーリングイベントがあることが、一般ライダーの間に浸透していない部分があるのかもしれません」

元スズキのライダーである加賀山就臣さんが主宰する「Moto riders support」が今年9月に箱根で開催した「モトライダースフェスタ」。普段は走行できないスーパーカブなどの小排気量車もターンパイクを走行。もっとバイクを楽しんで欲しいという加賀山さんの思いを形にしたイベントだ。

新規ライダーがバイクを降りないように会議体を作って施策を検討しています

MFJという長い歴史を持つ団体が、一般ライダーを対象としたイベントなどに関与していることはとても素晴らしいこと。そういう活動もしているなら、コロナ禍で新たにライダーになった方々に対しての施策を行って、彼らがバイクの世界をより深く楽しめるようになるため、積極的に関与していただきたいものだ。

「いま、コロナ禍の中で、二輪業界の長年の課題であった若い人たちの新規参入が相次いでいますが、ここにきてそのピークは過ぎてしまった感があります。そして、いざバイクに乗り始めてみたら、特に都心部などでは駐車場がないために使いづらい部分があるし、高いお金を出してバイクを買って用品も購入したけど、周りにバイクのことを話をする人がいないし、楽しみ方が分からないといって新規ユーザーが早々にバイクを降りてしまうのではと、とくに国内4メーカーの販売会社の方々が非常に危惧している現状があります。

そこで、いま4メーカーの販売会社さんと、輸入車メーカーの方々にも入ってもらって『普及対策部会』という会議体を作って、モータースポーツをベースに、そういう新規ユーザーをバイクの世界に引き留める施策を講じようとしています。

バイクの楽しみのひとつとしてモータースポーツを知ってもらうことで、新規ユーザーさんが楽しめる環境を整えようとしているんです。

具体的には、たとえば「にっぽん応援ツーリング」では、全日本選手権ロードレースが行われているサーキットをポイント対象地点にして、レースにあまり興味のない方にもサーキットに足を運んでもらうようにしていますし、今シーズンの途中から全日本選手権モトクロスのEチケット(電子チケット)を4メーカーの販売店さんやウェブサイトで購入できるようにして、これまでよりも手軽にチケットを入手して、会場に足を運べるようにもしています。

東北復興ツーリングは、’20年から「にっぽん応援ツーリング」に名称を変更、風間深志さんが主催する「THE ROUND 4 POLES」との併催となり、チェック地点を訪れポイントを獲得したライダーを年末のMFJ表彰式で表彰するようになった。

今年で10周年を迎えた「SSTR」も後援。太平洋で朝日を見てから走り出し、その日のうちに石川県の千里浜に設けられたゴールを目指すこのイベント、今年は5月に開催されて9000人が参加。また、9月には10周年を祝う「プレミアム」というイベントも開催された。

いままでも、モータースポーツの普及や周知についてMFJとしてケアはしてきたつもりですが、コアユーザーに向けたケアが主体で、裾野のユーザーさんへのケアが足りていなかった点もあると認識しています。そこで4メーカーの販社+輸入車メーカーさんの方々と一緒に活動していくことで、バイクの魅力のひとつであるモータースポーツをより多くの方々に知ってもらい、それをきっかけにしてより深くバイクを楽しんでもらえないかと考えています。

モータースポーツというアクティビティは、バイクの世界を楽しむための大きな武器だと思うんです。全日本選手権だけでもロードレースが8戦、モトクロスが7戦、トライアルが8戦、エンデューロが5戦、スーパーモトが5戦あって、さらにそれぞれのレースで地方選手権が各地で行われているのですから、ライダーが楽しめるコンテンツとしては十分な数があります。しかし、なかなか新規に入ってきた方々が、そういうコンテンツがあることや、どうやって観戦するかなどの情報を仕入れることが難しい、仕入れ方が分からない状況にあるとも思うんです。ですから、まずはその障壁を取り除いて、気軽に観戦チケットを購入できるようにしました。将来的には、ロードレースにもEチケットを導入する予定です」

できるだけ早い時期にCNを実現するバイオ燃料を国内レースに導入します

バイクを楽しむコンテンツとして、確かにレースは見て面白いモノだと思うが、開催場所が地方の山奥など、行きにくい場所が多いことがネックになっているように思う。

「8月に、大阪の泉南りんくう公園で『シティトライアルジャパン』を開催しました。一般の人たちも多く訪れる場所で、そういうところで開催することも積極的に考えていきたいです。

また、FIMが、電動二輪車を使用した「Eエクスプローラー」という競技を企画しています。これをぜひ日本でも、一般の方の目に入る場所で行えないかと検討中です。四輪のフォーミュラEも、’24年の4月に東京のビッグサイト周辺で開催すると発表されましたが、そういう街中でレースを行って、一般の方々に興味を持ってもらう動きが必要だと思います」

大阪の泉南りんくう公園で、今年の8月に全日本選手権第5戦として開催された「City Trial Japan」。アウトドア・アクティビティなどを楽しむ一般客で賑わう公園のビーチがトライアル競技の舞台に大変身! 多くの方々の注目を集めた。

「FIMトライアル世界選手権第5戦フランス大会」に参戦した、ヤマハが開発中の電動トライアルバイク「TYE2.0」(ライダーは黒山選手)。CNとエコで楽しいバイクの創出を目指したプロジェクトだ。

二輪もEV化が進むと、新たな見るスポーツとしての可能性が出てくるのではないだろうか。

「Eエクスプローラーに加えて、来年からトライアルにEV車両の参加を認めることにしました。排気音や排気ガスが出ない車両での競技は、開催場所の自由度を大幅に広げて、新規ユーザーはもちろんのこと、バイクにまったく興味がない人の目に触れる機会ができることで、モータースポーツの楽しさをさらに訴求できるのではと考えています」

EVに限ったことではなく、レースの世界でもカーボンニュートラル(以下CN)への対応が迫られている。モトGPも’24年から非化石燃料を40%以上使用し、’27年には100%非化石燃料を使用することを目標としている。

「そうです、実は非常に切迫した事態になっていて、レースといえどもCNに前向きな姿勢を取らないと、社会的に認められないようになってきています。ですから、国内の二輪のレースでも、CNの燃料の導入・使用を検討しています。予定では、CO2を発生しないCN燃料の導入を考えていて、現在、国内4メーカーさんが導入に向けての検討を行っているところです。さまざまな条件が整い次第、できるだけ早いタイミングで導入したいと思っています」

※編注:鈴木会長の言葉通り、11月5日に全日本ロードレースMFJグランプリが開催されていた鈴鹿サーキットで、来シーズンからJSBクラスに100%非化石燃料のバイオ燃料を採用することが発表された。

国内のレースにもCN燃料の導入が検討・予定されていて、すでに国内4メーカーがその燃料で検討を行っているという。MotoGPも’27年に100%非化石燃料の使用を目指しているように、レースの世界もCNがどんどん進みそうだ。

なかなか進まない二輪のCNだが、市販車より一足早くレースの世界でそれが実現する日がやって来そうだ。そしてまた、大規模なツーリングイベントの後援や主催だけではなく、モータースポーツというコンテンツを武器にして、幅広い層の方々がバイクやモータースポーツを楽しめるようにしようとしているMFJの尽力に期待したい。

鈴木会長の提言
 ●レースを知ってより深くバイクの楽しさを知ってもらう
 ●手軽に入手できるEチケットの導入国内レースに
 ●CN燃料を導入

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