「工具」と聴いて誰もが思い浮かべる代表的なアイテムのひとつが、ネジを回すためのドライバーではないでしょうか。新しいバイクではプラスビスの代わりに六角ボルトや六角穴付きボルト=キャップボルトやトルクスボルトが多くなり、バイクのメンテナンスでドライバーを使う場面は以前に比べて減ってはいますが、多くの人にとってドライバーはなじみ深いハンドツールだと思います。

プラスドライバーは押して回すのが当たり前と言われる理由とは?

プラスドライバーでビスを回す時はドライバーを押しつけるイメージが重要。作業者が右利きの場合、右手でドライバーを握って回す前に、左手でグリップの後端を押しつける様にしてから……

右手でグリップを包み込むように握ることで「押し回し」を意識できます。ビスとドライバーのサイズが合っていれば、グリップ後端を押しつけた左手を揺らしてもドライバーはビスに吸い付いて安定しているはず。ただしドライバーを長期間使用すれば先端が摩耗するので、サイズが合っているのに安定しないときはドライバー自体の交換時期かもしれません。

プラスドライバーを使う際は、ドライバーをビスに押しつける力に全体の70~80%を使い、回す力は20~30%で良いとされています。力の割合はともかく、ドライバーを使ったことのない人でも無意識に押しつけ動作をしているはずです。
なぜ押すのか? 理由は単純で、ドライバーを押しつけないと先端がビスの十字穴から浮いてしまうからです。ビスとドライバーはスムーズに噛み合うよう、接触面にテーパー角が付いています。このため回転力を加えた時にビスの十字穴のテーパーに沿ってドライバーの先端が抜け出そうとしてナメるカムアウトが発生します。したがって意識的に押しつけなくてはならないのです。
カムアウトはプラスビスにとっての宿命であり、大量生産の現場では品質安定の観点からキャップボルトやトルクスボルトが台頭し、プラスビスはトルク管理がうるさくない場所で用いられるようになっています。

ビスとドライバーのサイズ不一致や、十字穴に汚れやサビが詰まってドライバーの先端が密着していません。またサビによる固着を無理に緩めようとすると、このように十字穴が潰れてナメてしまうこともあります。こうなると修復が面倒なので、事前にナメない対策を講じておくことが重要です。

プラスビスを傷めないためにドライバーのサイズを意識しよう

下からNo.1、No.2、No.3とバイクではほとんど使わないNo.4サイズのプラスドライバー。番号順に大きなサイズとなっていきます。日本のメーカーでも海外メーカーでもサイズ表記は基本的に同一ですが、実際にはブランドによって先端のフォルムに違いがある場合も。国産ブランドを比較しても、JISの認証を取得した製品と、あえて取得せずメーカーのノウハウによってフィット感を追求した製品もあります。

左下から時計回りにNo.1、No.2、No.3、No.4の先端部分。バイクで使用されるプラスビスはNo.2とNo.3が多く、その分愛用のドライバーの先端の表面処理が摩耗によって剥がれています。さらに使い込むことで十字部分が痩せると、プラスビスの十字穴に当てたときに遊びができて、サイズは合っているのにフィット感が低下する原因となります。

ネジの太さによって十字穴のサイズが変わり、適切なドライバーサイズも変わります。ネジの太さがΦ1.4~2.6mmならNo.0、Φ2.0~2.6mmならNo.1、Φ3.0~5.0mmならNo.2、5.1~8.0mmだとNo.3を使用。この関係を理解すれば、M5サイズならNo.2、M6サイズならNo.3のドライバーを選択すれば良いということが分かります。

M6サイズのポイントカバービスをNo.3のドライバーで外すと、先端が磁化されていなくても十字穴にしっかり食いついて下向きにしても外れません。このフィット感でなおかつドライバー自体をビスに押しつけながら回せば、カムアウトは起きづらくなります。

ソケットレンチやメガネレンチに10mm、14mmといったサイズあるのと同じく、プラスドライバーにもサイズが存在します。ドライバーには先端のサイズに応じてNo.1、No.2、No.3というサイズ区分があり、一方プラスビスにもネジ径や十字穴の形状や深さにも基準があります。ビスの十字穴とドライバーのサイズの関係は、六角ボルトとソケットのサイズの厳密さに比べれば若干ルーズさがありますが、No.1相当の十字穴にNo.2のドライバーの先端は入りませんし、No.3相当のビスをNo.2のドライバーで回そうとすれば噛み合わせが甘くてガタガタになります。
先ほど、プラスビスにとってカムアウトは宿命であると書きましたが、十字穴をナメないためにはビスのサイズに合ったドライバーを選定することがとても重要です。No.3のビスの十字穴にNo.2のドライバーを当てると、多少のガタはあるものの回せそうな雰囲気があり、実際にビスを緩められる場合も多いです。しかし本来、ビスとドライバーのサイズが一致していれば、十字穴に押しつけたドライバーは磁化されていなくてもピタッと密着します。
トルクアウトを防止するためには、プラスビスに対してドライバーを真っ直ぐに押しつけることも重要です。両者のサイズが一致していれば、ドライバーとビスは一直線になります。No.3のビスにNo.2のドライバーを合わせると遊びが大きく軸がブレるため、ビスを回せたとしてもナメやすくなります。
そうしたトラブルを避けるには、第一にビスに合ったサイズのドライバーを使用し、横向きに取り付けられたビスには水平方向から、縦向きに取り付けられたビスには垂直方向から押さえる力を加えながら回すことが重要です。

M6サイズのビスにNo.3のドライバーを合わせるとジャストフィットです。

あえてワンサイズ小さいNo.2ドライバーだと十字穴の外縁部分にわずかな隙間ができます。

さらに小さいNo.1ドライバーをセットすると、先端部分が十字穴の中で完全に遊んでしまいます。回転方向にガタが出るのは当然で、軸方向にもグラグラ傾いて安定しません。締め付けトルク次第ではこの組み合わせでも緩めることができますが、No.3のドライバーを使った方が良いのは言うまでもありません。

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