ST250のエンジンは最も成功した250cc空冷単気筒

ひとつのエンジンで多数のモデルを開発するのはよく見られる手法で、代表格はハーレーダビッドソンだろう。全盛期は伝統の空冷Vツインユニットで毎年何十ものモデルをラインナップしていた。さすがに近年はハーレーでもモデル数を絞ったり新エンジンを開発したりしているが、基本は今でも同じだ。

ここで紹介するスズキST250Eも同じエンジンの兄弟が多数存在しているモデルで、250cc空冷単気筒では最も成功したシリーズと言えるかも知れない。元祖は1982年発売のDR250SとGN250Eというオフロードとクルーザーで、コンセプトの異なる2つのモデルを同時に発売した。

エンジンはスズキ独自のTSCC(2過流燃焼室)を採用し、2つに仕切られた燃焼室が燃焼効率を高め扱いやすいトルク特性や低燃費を実現。GN250Eは、軽量なダイヤモンドフレームと無接点点火方式の採用によるメンテナンスフリー化などによりオンロードモデルとしての性能を高め、ヒットこそしなかったが後の礎となった。

このプラットフォームが一躍脚光を浴びたのは1994年のボルティーからで、なんと言っても29万8000円という低価格が魅力だった。その激安プライスが実現できたのもGN250Eのエンジンとフレームがあったからこそで、ガラッとスタイルを変えているが基本設計は1980年代から受け継いでいるのである。

ボルティーをベースに2004年には、ST250/Eタイプが登場。クラシック路線をより強化したスタイルとし、さらにEタイプはキックスターター付きとしたことから250cc版SRのような存在となった。扱いやすいエンジンと何の変哲もないシンプルな佇まいが、GN以降35年に渡るロングセラーに結びついたのだ。

スズキの250ccオフロードで初の4ストロークモデルとして1982年にデビューしたDR250S。4バルブのTSCCエンジン以外にもリアにはリンク式のフルフローターサスペンションなど最新装備を採用していた。

DR250Sと同時にデビューしたGN250E。当時流行していたスポーツモデルのカスタム仕様に近いスタイル。他にも共通ボディのGN125Eも同時デビューしており、これは最近まで中国産モデルが日本に輸入されていた。

バブル崩壊後の日本経済低迷期、1994年に税抜き29万8000円でデビューしたボルティータイプIは苦戦するバイク業界でもヒット。ブラウンのシートやメッキパーツを奢ったタイプIIは同32万8000円だった。

ボルティーの後継機として2003年にデビューしたST250は税抜き34万9000円。キックスターターやメッキパーツを装備した上級版のEタイプ(写真)は、37万9000円だった。

最終仕様のST250EタイプはFIを採用して近代化を果たした

撮影車はST250Eタイプの2009年モデルで、2008年にモデルチェンジして燃料供給にFIを採用した最終仕様。DR250S/GN250E由来の空冷単気筒エンジンは、2004年にST250シリーズに進化した際に従来の4バルブを2バルブ化しており、クラシック路線に振るとともによりトルク重視のエンジン特性となった。

この変更で4バルブならではのTSCC機構を捨てることになるが、エキゾーストパイプを1本省略することができるなど部品点数の削減でコストダウンや軽量化(同系エンジンのグラストラッカー比で3kg減)にも貢献している。元々スズキ250ccオフロード初の4ストロークエンジンとあって性能重視だった装備が最適化されたのだ。

骨格はGN250Eをルーツとするダイヤモンドフレームを継承し、これに中期以降のSR400と同様に前後18インチのスポークホイールを組み合わせている。タンクもボルティーの異形デザインからプレーンな形状とし、メッキタイプのメガホンマフラーで定番スタイルを実現している。

残念ながら2008年のFI化のタイミングでキックスターターは廃止され始動はセルのみに。シングルファンにはたまらないマニュアル式のデコンプレバーも同時に外されてしまったが、大半がセルでエンジンをかけるため、これらはむしろ不要な装備だったと言えるかもしれない。車検もなく、より気軽に付き合えるシンプル版SR400として、中古車相場も上昇中なのがST250シリーズだ。

写真の2009年型はSR風のカラーリングが特徴でどことなくエストレヤのスタイルも取り込んでいる印象。シート高は770mmと低めだがエストレヤの735mmには及ばないレベルだ。

角型のボルティーに対して丸型のテールランプが個性的なST250のリアビュー。メッキのチェーンガードはボルティータイプIIと同様の装備で、1980年代から丸パイプのスイングアームを引き継いでいるリアルレトロでもある。

空冷単気筒エンジンは2バルブ化とともにエキパイを1本に集約。手曲げ風のカーブでよりトラディショナルな雰囲気に。2008年型より平成18年規制に対応するために燃料供給をキャブレターからFIに変更している。

クロームメッキが施されたメガホンタイプのマフラーは歯切れの良いサウンドに仕上げられている。FI採用とともに排気系にはO2センサーやキャタライザーを備えている。

メッキ仕上げのリムを採用したスポークホイールは前後18インチでクラシカルな印象を引き立てるサイズを採用。フロントには2ポットキャリパーのディスクブレーキを装備し十分な制動力を確保する。

GN250Eと同じシンプルな取り付け方法のステップは厚盛のゴムで快適性を重視。こういったディテールにも1980年代の雰囲気が残されていてGN以来の歴史を感じさせる。

タンク容量はボルティー以来変わらずの12Lを確保。この外観だとタンクのシート側部分を絞ってティアドロップ形状にしたかったところだが、容量を優先したのだろう。

あえて前後シートを分割しているのがボルティー以来のスタイル。後端がラウンドしたシートフレームと丸いテールランプでリアまわりを演出している。

アップライトなパイプハンドルでゆったりとしたライディングポジションのST250。スイッチ類は現代のものを使用しているので、SRやWシリーズほどのクラシック感はない。

超シンプルな単眼メーターを採用。オドメーターやトリップメーターも機械式で味わいがある。ニュートラルランプや燃料警告灯も昭和チックだ。

2009年型ST250Eタイプ主要諸元

・全長×全幅×全高:2070×750×1075mm
・ホイールベース:1375mm
・シート高:770mm
・車重:132kg(乾燥)
・エンジン:空冷4ストローク単気筒SOHC2バルブ 249cc
・最高出力:19PS/7500rpm
・最大トルク:2.1kgf・m/5500rpm
・燃料タンク容量:12L
・変速機:5段リターン式
・ブレーキ:F=ディスク、R=ドラム
・タイヤ:F=90/90-18、R=110/90-18
・価格:42万9000円(税抜き)

ライバル紹介(同門含む)

DR250S/GN250E系空冷単気筒は様々なバリエーションを生んだが、最も異形なのが1992年のスズキSW-1。デザインは1980年代後半に日産のパイクカー・Be-1やパオ、フィガロなどのデザインを手がけたWater Designの坂井直樹氏によるものだ。

スズキは2003年の東京モーターショーでSW-1を意識した「ST250 デザインスタディモデルB」を出品し、2004年に「ST250Eタイプ Sカスタマイズ」として限定200台で発売。生産終了後に中古価格が高騰したSW-1人気に応えた。写真:なみへいさん(Webikeコミュニティより)

当時のクルーザーブームに合わせて1998年にデビューしたスズキ・マローダー250。DR/GN系エンジンを採用し税抜き38万4000円という安価で攻めたが、他社製クルーザーが2気筒エンジンを採用する中で苦戦。今だったらレブル250のいいライバルになったはず。

クルーザーブームの後にトラッカーブームとなり、スズキはまたもやDR/GN系エンジンで2000年にグラストラッカーを投入。フレームはボルティーでも使われたGN系を採用し、こちらも税抜き38万4000円という低価格で話題に。翌年にフロントフォークとスイングアームを延長し、前後ホイールを1インチ拡大したビッグボーイを追加。

ボルティーやST250誕生のきっかけにもなったと言えるのが1992年デビューのカワサキ・エストレヤ(249cc)。こちらはメグロジュニアのリバイバルと言える存在で、細部にこだわった作り込みが特徴。写真のファイナルエディション(2017年)は現在プレミアム価格となっている。

トラッカーブームで2000年に登場したFTRをベースに、スタンダードネイキッドに仕立てられたホンダCB223Sは2008年デビュー。前後ともトラッカーサイズのタイヤのままで、スタイルにちぐはぐさがあった。

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