2017年12月の発売直後からかなりのバックオーダーを抱え、ビッグバイクとしては近年稀に見るヒット作になったモデルがカワサキZ900RSだ。その勢いは今も衰えることなく、メーカーとユーザーとカスタムパーツを手掛けるショップが三位一体となってバイク界を盛り上げている。果たしてZ900RSは、なにがそんなにいいのか? 今一度じっくり試乗してみた。

●文/写真:ヤングマシン(伊丹孝裕) ●写真:伊勢悟

新たな『Z』の定義とともに、その地位を確固たるものにした

カワサキ「Z900RS」は、2017年10月に開幕した東京モーターショーで初披露された。発売は同年12月で、2018年~2020年の販売登録台数は小型2輪部門(401cc以上)において3連覇を達成。2021年は生産遅延の影響によって台数こそ減少しているものの、相対的には好調を維持している。排気量的にも、ネオクラシックというカテゴリー的にもライバルが多い中、今も新鮮味を失っていない。その魅力が一体どこにあるのかをあらためて探ってみたい。

Z900RSは、カワサキのアイコンとも言うべき「900 Super 4」、いわゆる「Z1」をモチーフにしている。「ゼファー400」(1989年)や「ゼファー750」(1990年)、「ゼファー1100」(1992年)がそれに近い存在だったが、「Z」という直接的なネーミングが与えられることも、「900」という排気量が採用されることもなく、ちょっと古めかしいネイキッドとして存在。燃料タンクの意匠も400と1100が角Zを彷彿とさせる一方、750には丸Zの雰囲気を盛り込むなど、様子を探っているような雰囲気があった。


ゼファー1100(2006年モデル)


ゼファー750(2006年モデル)

このゼファーは、ネイキッドというスタイルを根付かせながらもネオクラシックのムーブメントを作り出すほどではなかった。その一因は、空冷エンジンやツインショックに技術の後退を覚える層も少なくなかったからだ。とりわけゼファー1100のエンジンは、ボイジャーⅡの水冷4気筒をわざわざ空冷に仕立て直したものであり、ある種のあざとさは否めない。日本のマーケットはさておいても、少なくとも欧米目線からは中途半端な最新モデルに見えた。

だからといって、水冷エンジンとモノショックのモデルをクラシカルな外装で包み、そこにZ1の名を与えればいいというものでもない。今振り返ると、その頃のカワサキは色々と逡巡していたのではないか。というのも、水冷エンジン&ツインショックの「ZRX1100」(1997年)によって再度ネオクラシックの可能性を模索したかと思えば、2003年には「Z1000」を発表。この時ついに「Z」の名が復活したわけだが、ZRX1100が80年代のローソンレプリカ風なのに対し、Z1000のデザインは極めて先鋭的だった。その大きな振り幅の中で、「Z」というブランドの立ち位置を探っていたように見える。


ZRX1200DAEG ファイナルエディション(2016年モデル)


Z900(2021年モデル)

過去を振り返るか、未来を見据えるか。そんな天秤の末、カワサキはしばらく後者を優先した。Z1000に加えてアグレッシブな「Z750」、「Z800」をラインナップし、2016年に発表されたのが「Z900」である。これをもってカワサキの伝統を引き継ぐ「Z」と「900」というキーワードが揃い、結果的にZ1(900 Super 4)をオマージュしたネオクラシック誕生の下地が完成。それからおよそ1年後、「Z2」こと「750RS」の車名も盛り込んで送り出されたのが、Z900RSというわけだ。

Z1が鮮烈なデビューを果たし、2022年には50周年を迎える。盛大なアニバーサリーイヤーまでの助走という意味で、Z900RSの登場はいいタイミングだったと思う。その一方で、「Z H2/SE」という超ハイパフォーマンスモデルも追加され、姿形がクラシックであれ、モダンであれ、「Z=スポーツネイキッド」というイメージの確立に成功。カウルを備える「Ninja」ブランドとの差別化が明確になった。

キャブレターを思わせる空冷4気筒的サウンド!

さて、そんなZ900RSは乗るとどんなバイクか?

このバイクが最も巧みなのは、エンジンとマフラーが発するサウンドだ。今までのネオクラシックはこの部分をおなざりにしていることが多く、見た目を空冷風にしたり、キャブレター風を装ったりすればするほど、エンジンを始動させた時の味気無さにがっかりしたものだ。

しかしながら、Z900RSのそれはちゃんとかつての空冷4気筒的であり、キャブレターを思わせる「ズオォォォ」という力強い吹け上がりを見事に再現。スロットルを開け閉めするだけで、開発過程の緻密な作り込みを伺わせる。

エンジンの造形はコンパクトそのもので、マフラーはショートタイプの1本出しだ。キャブレターにまでバフ掛けが施されていたZ1エンジンの存在感には到底かなわず、伸びやかな4本出しマフラーと比ぶべくもない。にもかかわらず、それを忘れさせるだけの音質があり、大きく重たい車体がもたらす風格よりも軽量コンパクトに収められている方が現実的にはメリットが多い。


コンパクトな集合マフラーにもかかわらず、Z1の空冷4気筒を思わせる“音”がつくり込まれている。

オリジナルのツインショックがモノショックに、前19インチ・後18インチのワイヤースポークホイールが前後17インチのキャストホイールになったことも同様だ。「Z1はZ1、Z900RSはZ900RS」として受け入れられたのは、走りに必要な機能は現代のモノで固め、燃料タンクやヘッドライト、メーターといったカギになる部分にだけ、Z1のテイストを盛り込んだことが要因だろう。クラシックを追求し過ぎなかった寛容さが幅広いユーザーの獲得につながった。対称的な存在が、ホンダの「CB1100」シリーズだ。

走り出してからも音質の「らしさ」は続き、たっぷりとしたトルクで車速を押し上げていく。その気になれば10000rpm超まで使え、チューニングされた空冷のように鋭く回り切る一方、タコメーターの針を5000rpm前後で行き来させた時のレスポンスもいい。その領域では吸気音と排気音と鼓動感がバランスし、耳と身体に心地よく響き渡っていく。


シート高は800mmと低く、足つき性はいい。ただし、ステップとの位置関係は近くなるため、平均的な成人男性の体格なら足元が窮屈だったり、お尻に痛みを感じる人がいそうだ。その場合はオプションのハイシート(835mm)を試すことをおすすめする。上体姿勢はほぼ直立し、特に街中ではリラックスして操ることができる。(身長174cm/体重63kg)

もっとも、気になる部分がまったくないわけではない。低回転域や高ギヤ域で燃調が薄い部分があるせいか、冷間スタートからしばらくはアイドリング回転数がかなり高かったり、エンジンブレーキが希薄になるタイミングがある。このあたりの煮詰めが進むとほとんど完璧と言っていい。

ハンドリングは文句なしだ。速度域やバンク角に関わらず常に軽やかで、ニュートラルな旋回性を披露。重心位置が比較的低いところにあるため、わずかな入力で車体はリーンを始め、ラインの自由度も高い。タイヤの面圧やサスペンションのストローク、ステアリングの舵角といった小難しいことを意識しなくても、コーナーでは滑らかな弧を描き、すべての動きがしなやかだ。この部分で対称的なのがスズキの「カタナ」で、こちらが剛のハンドリングだとすると、Z900RSは明らかに柔である。

端的に言えば、同一カテゴリーのライバルと比較して圧倒的に扱いやすいのがZ900RSだ。乗り始めた瞬間から身体に馴染み、特別速くも快適でもない代わりにストリートにおけるナチュラルさに重きが置かれている。

思い返せば、Z1がまさにそういうバイクだった。当時世界最大の排気量を誇り、カタログには200km/hに達する最高速、1/4mile(0-400m)12秒という文言が誇らしげに謳われていたが、Z1の本質は絶対的なパフォーマンスがありながらも日常性がほとんど犠牲になっていなかった点にある。

Z1とZ900RSを繋いでいるのは、一体感という目には見えない感覚性能だ。だからこそ、他メーカーが追従するのは簡単ではなく、それを体感したユーザーの声が今も途切れることなく伝播。他を圧倒し続けるシェアに繋がっている。

奇をてらうことなく作り上げられた良質なモデルが、開発陣の思惑通りに受け入れらえることは案外少ない。Z900RSはそれを見事にやってのけ、ユーザーの審美眼もまた確かだった。おそらく、Z50周年を記念したアニバーサリーモデルも登場するのでは、と想像する。Z900RSの躍進は、まだしばらく続きそうだ。


普通二輪免許所持者がクローズドコースで大型バイクを体験できるイベントで、その日に初めて大型バイクに乗った19歳のライダーが「一番よかったのはZ900RS」と言ったことに、このバイクの官能性能が端的に表れている。

KAWASAKI Z900RS[2021 model]

主要諸元■全長2100 全幅865 全高1150 軸距1470 シート高800(各mm) 車重215kg(装備)■水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ 948cc 111ps/8500rpm 10.0kg-m/6500rpm 変速機6段 燃料タンク容量17L■タイヤサイズF=120/70ZR17 R=180/55ZR17 ●価格:135万3000円 ●色:キャンディトーングリーン、エボニー

KAWASAKI Z900RS[2021 model]Candytone Green
アナログの2眼メーターと液晶パネルを組み合わせたディスプレイ。液晶部分にはギヤポジションや時計の他、トラクションコントロールの介入レベルも表示される。

 

 

ハンドル左側のスイッチボックスにはディスプレイの表示情報や設定を変更できるセレクトボタンが備わる。トラクションコントロール(1/2/OFF)の切り換えもここで行う。

 

 

Z1のイメージを色濃く受け継ぐテールカウルの丸みと伸びやかなライン、そしてオーバルレンズのLEDテールランプには細身のLEDウインカーが組み合わされる。

 

 

φ170mmの大径丸型LEDヘッドライトを装備。レンズそのものに丸みを持たせていることとその周囲を囲むクロームメッキリング、そして砲弾型のメーターカバーによってクラシカルな雰囲気が強調されている。

 

 

Z1へのオマージュが最も色濃く現れているのが、このティアドロップ型の燃料タンクだ。流れるような曲面を艶やかな塗装で包み、高い質感を実現。シート下まで伸ばすことによって、スリムな形状ながら17リットルの容量が確保されている。満タン法による実測燃費は21.2km/lだった。

 

シート座面にはタックロールが施され、デザイン性とホールド性を両立。ライダー側の先端部分は大きく絞り込まれているため、足つき性も良好だ。

 

 


空冷をイメージしたフィンを持つエンジンは、948ccの水冷4ストロークDOHC4バルブエンジンを搭載。111PS/8500rpmの最高出力と10.0kgf・m/6500rpmの最大トルクを発揮し、低中回転域の力強さとスムーズなスロットルレスポンスを実現している。クラッチにはアシスト&スリッパークラッチを標準装備し、軽い操作性と滑らかなシフトダウンを両立。

ステンレスを主素材とするメガホンタイプのショートマフラー。エキゾースト部分は中空の2重管構造が採用され、アウターパイプによる存在感とインナーパイプによるトルク感が演出されている。また、独自のサウンドチューニングによって低く厚みのあるクラシカルな音質の再現に成功している。

 

スリッパー&アシストクラッチの恩恵だけでなく、ミッション自体の精度も高い。そのため、シフトチェンジはアップ側もダウン側も小気味よく決まり、ギヤレシオも適切だ。

 

 

フロントブレーキにはφ300mmのダブルディスクとラジアルマウントされた4ピストンモノブロックキャリパーを採用。フェンダーのステーにはアルミダイキャストが用いられ、凝った構造を持つ。

 

 

フロントフォークはφ41mmの倒立タイプ。基本セッティングは柔らかめで、プリロード無段階、伸び側減衰力12段階、圧側減衰力10段階の調整幅を持つフルアジャスタブルだ。また、ハンドル切れ角は左右それぞれ35度あり、小回りやUターンを容易にしている。

 

リアブレーキはφ250mmのシングルディスクとシングルピストンキャリパー。ホイールのスポークは真横から見るとワイヤーに見えるほどの繊細さを持ち、表面には切削加工も施されている。標準装着タイヤはダンロップのスポーツマックスGPR-300。

 

水平近くまで寝かされたホリゾンタルタイプのリンク式リヤサスペンヨン。構造上、エンジンやマフラーが発する熱の影響を受け難い。プリロードと伸び側減衰力は無段階での調整が可能だ。

 

 

シート裏面に専用のホルダーが設置され、車載工具(ドライバー±/メガネレンチ14mm・17mm/ヘキサゴンレンチ/延長グリップ)が収納されている。

 

 

シートを取り外した内部スペースにはETC2.0車載器を標準装備。カードの有無はメーターのインジケーターに表示される。

 

 

 


ヘルメットホルダーを1個、荷掛けフックは4個装備し、荷物積載時の利便性が確保されている。

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