1999年の初代SV650、2003年の2代目SV650、そして2009年のグラディウス650を経て登場した現行SV650にたっぷりと試乗。そろそろモデル末期との噂も聞くが、熟成に熟成が重ねられたVツインエンジンは、後世に引き継がれるべき名機だ。

●文: ヤングマシン(伊丹孝裕) ●写真: 長谷川徹

不等間隔爆発Vツインと軽量コンパクトな車体が“爽快感”を実現

スズキのミドルスポーツ「SV650 ABS」(以下、SV650)のウェブサイトを覗いてみると、製品概要ページのトップにこう記してある。

「不等間隔爆発がもたらすVツインエンジンの鼓動感。
路面を蹴り出すように力強く加速する高揚感。
スリムで軽量コンパクトな車体が生む一体感。
軽く素直なハンドリングで意のままに操る爽快感。」

いや、まったく見事な文言だと思う。小難しい言葉をまったく使うことなく簡潔にまとめ、SV650の魅力をほとんどすべて網羅。全部で89文字に過ぎず、ツイッターでつぶやいたとしても、ひとつの投稿に余裕で収まってしまう。こうしたセールスコピーには、「それはいくらなんでも盛り過ぎじゃね?」という表現が入り混じるものだがそれもない。「そうそう、そういうこと!」と100%納得できた。

2016年9月に開催された発表会では、それらをさらに圧縮して「Vツイン ファンバイク」という表現が使われた。今にして思えば、これもまた見事なひと言であり、あらためて触れた今回の試乗期間を楽しく過ごすことができた。スズキの良心が感じられる秀作と言っていい。

SUZUKI SV650 ABS

スリムさに特化したライディングポジション

さて、あまりのっけから持ち上げると「アイツは鈴菌感染者だから」という色眼鏡で見られそうだ。ことわっておくがスズキの軽トラックはこよなく愛していながらも、スズキのバイクは久しく所有しておらず、この仕事をし始めてずいぶんと時が経ちながらも、試乗会にはただの一度も呼ばれたことがない。それくらいの関係性に過ぎず、スズキ愛は完全なる一方通行である。

それはさておき、まずはライディング環境から見ていこう。シート高は785mmだ。このクラスのモデルとしては数値そのものが低く、またがるとその恩恵はさらに大きい。身長174cmの私(伊丹孝裕)だと両足のカカトがべったりと地面に接地し、楽なことこの上ない。スズキの資料では身長160cmでも両足のツマ先がしっかり着くことが確認されており、かなりの体格をカバーする。

このシート高は日本人向けというわけではなく、世界共通だ。アメリカ人にもドイツ人にもイギリス人にも同じ仕様が提供されているわけだが、実はSV650の数少ない難点がここにある。というのも、座面のフラットな部分とサイド部分の境目が裁ち落とされたように明確で、ホールド性に欠けるのだ。長時間乗車しているとお尻に荷重が集まり、内包材そのものが少ないことも手伝って疲労が溜まりやすい。シート前端部はすっきりと絞り込まれているため足の出し入れがしやすく、スリムかつコンパクトな印象にも貢献しているのは間違いないものの、ハイシートがオプション設定されているとベターだ。

スリムかつコンパクトと言えば、ハンドルもそうだ。グリップの端から端(バーエンドは含まず)までの距離を実測すると約680mmで、かなりタイトに抑えられている。絞り角と垂れ角も少なく、街中快速仕様(というか、すり抜け仕様)を目指したようなあつらえである。

だからダメだというわけではないが、スズキ車の多くはそれがネイキッドであれ、スーパースポーツであれ、ライディングポジションのしっくり感に美点がある。シートとハンドルとステップと燃料タンクの位置関係に、長年蓄積された黄金比のようなものがあると推測するが、その意味でSV650のポジションは変化球的で、とりわけスリムさに特化したような印象だ。

シート高は785mmに抑えられている。その前端部分とフレームが細身なこともあって足着き性は良好そのものだ。ハンドル幅も同様に絞られ、ライディングポジションはかなりコンパクトな部類に入る。(ライダー身長174cm/体重63kg)

鼓動感を伴いながらもコントローラブルな90度Vツイン

もっとも、最初に感じたそういう違和感も、ひと度走り出せばすぐに忘れる。SV650最大の魅力は、足着き性でもライディングポジションでもなく、エンジンに他ならない。

搭載されているエンジンは、645ccの水冷4ストロークVツインだ。シリンダーの挟み角は90度で、クランクが「270度-540度-270度-540度」と回転する毎に爆発する不等間隔となる。これとまったく同じ形式を持っているのが、ドゥカティのLツイン(同社は90度をLと表現する)で、並列2気筒ながらクランクを位相して同じ爆発間隔を再現しているのが、ヤマハMT-07などだ。

これらに照らし合わせると、SV650の爆発フィーリングはドゥカティのモンスターほどシャープではなく、ヤマハのMT-07ほど牧歌的ではない狭間に位置。アイドリングや低回転域では力強くパルシブなサウンドを奏でつつもレスポンスは俊敏過ぎず、メリハリのある鼓動感を伴いながら「ダララララァ……」ときれいに吹け上がっていく。

ひとことで言えば、コントローラブルだ。パワーもトルクも回転域も手の内で管理でき、エンジンが先走り過ぎてスロットルを戻すこともなければ、物足りなくて開け足す必要もない。ライダーの望みを過不足なく忠実に再現してくれるところが素晴らしい。

最高出力と最大トルクは、76.1ps/8500rpm、6.5kgf-m/8100rpmを公称する。ちょっとユニークなのは、それぞれの発生回転数がほとんど離れていないところだろう。一般的には少なくとも2000~3000rpm程度の差があるものだが、SV650は400rpmに過ぎず、ふた昔前の250ccの2ストロークにも似ている。

ともすれば、高回転重視のピーキーなキャラクターを思わせるが、既述の通りそんなことはない。フレンドリー、もしくはフレキシブルと表現して差し支えなく、排気量があるだけにトルクフルそのもの。わずか2500rpmに過ぎない6速60km/h巡航状態からでも、右手を捻るだけでドコドコと増速していくほど粘る。トルクのピークが下ではなく上に寄せられた分、回転がワイドに使え、ほとんどの回転域でダイレクトな瞬発力を見せてくれる。

例えばもし、「2気筒ってなにがそんなにいいの?」とか「Vツインらしさってなに?」という疑問を持ったなら、このSV650に試乗することをおすすめしたい。そうすれば、「SV650より気持ちよかったかどうか」が、ひとつの判断基準になるはずだ。

大排気量モデルや多気筒モデルを乗り継いできたベテランにとっても新鮮な乗り味に違いないが、ビギナーに対するフォローも忘れていない。その筆頭が「ローRPMアシスト」と呼ばれるもので、半クラッチ状態の時の回転の落ち込みを抑え、エンストのリスクを軽減してくれる機構だ。

言われなければ気づかないほどのデバイスながら、発進時に意識してゆっくりとクラッチレバーを離すと分かる。スロットルを開けなければストールする領域に差し掛かってもそれは起こらず、スロットルから右手を離していてもタコメーターのバーグラフが微妙に上昇。それを大きなお世話だと思わせない、見事なサポートだ。

控えめながらも確実なサポートはABSも同様だ。ブレーキの制動力自体は最初に利き過ぎるわけでも、後半になって急激に立ち上がってくるわけでもないフラットな味つけで、扱いやすい。そこから追い込んでもABSの作動は最後の最後まで見極められ、いざ介入してもキックバックが最小限に留められているところが好印象だ。

SUZUKI SV650 ABS

スズキの誠実さがカタチになった「ファンバイク」

ハンドリングもよく作り込まれている。巡航時はバネ下の慣性力を感じさせ、重厚な乗り味を発揮しつつもいざ車体をリーンさせると素直に追従。フロントタイヤとリアタイヤから伝わる接地感がほぼ均等で、終始バランスのよさが感じられる。

そのハンドリングを支えているのが、やはりエンジンで、パーシャル状態から少しスロットルを開け始めた時の滑らかなレスポンスが絶妙だ。車体に余計な挙動を与えることなくタイヤが路面を掴み、早い段階でスロットルを開けていけるのだ。それによってラインが安定し、リアタイヤから回り込むようにグイグイと旋回。開けやすさがトラクションの確保につながり、結果的に安定性と旋回性を向上させる……という一連の流れは本来ヤマハが得意とする分野ながら、SV650にもそれがある。

あえて難クセを探せば、ギャップを拾った時のサスペンションの吸収性がそれに当たる。とはいえ、目くじらを立てるほどのものではなく、及第点に到達している。

とにもかくにも気負うことなく走り出し、エンジンが発する鼓動や、それが生み出すトラクションを存分に楽しめるという点において、SV650は突出している。このモデルに乗って恐怖心や不安感を覚えるライダーはきっといないだろうし、もしも最初のビッグバイクとして選んだのなら、それはかなり選択眼のあるライダーだ。

特別速いわけでも、特別豪華な装備が与えられているわけでもなく、ただただ真面目に作られてきたスタンダードバイクだが、それゆえ熟成の領域に到達している。Vツインエンジンはパラレルツインと比較すると部品点数が多くなり(=コストが掛かる)、前後長が長くなるゆえにディメンションにも制約がある(=スペース効率が悪い)。

にもかかわらず、1999年にデビューした初代SV650以来、41万基以上(2016年時点発表)の生産実績を残し、世界中のライダーに愛されてきた名ユニットとして今に至っている。スズキの誠実さがカタチになったものがSV650であり、可能ならば失われてほしくない「ファンバイク」だ。

SUZUKI SV650 ABS

SUZUKI SV650 ABS[2021 model]

主要諸元■全長2140 全幅760  全高1090 軸距1450 シート高785(各mm) 車重197㎏(装備)■水冷4ストロークV型2気筒DOHC4バルブ 645cc 76.1ps/8500rpm 6.5kgf-m/8100rpm 変速機6段 燃料タンク容量14L■タイヤサイズF=120/70ZR17 R=160/60ZR17 ●価格:78万5400円 ●色:黒、白×赤、艶消し黒

フロントブレーキはトキコの4ピストンキャリパーとφ290mmのフローティングディスクを組み合わせ、十分な制動力とコントロール性を確保。フロントフォークはφ41mmの正立タイプでアジャスト機構は備えていない。

リヤブレーキはニッシンのピンスライド1ピストンキャリパーとφ240mmのソリッドディスク。ABS介入時の自然な制動が好印象だった。

1999年に登場した初代SV650から基本設計を変えることなく受け継がれてきた伝統のVツインエンジン。とはいえ、2003年にインジェクション化された他、2009年のグラディウス650からは約60ヶ所ものパーツが見直されるなど、時代に応じて最適化。2021年モデルの環境規制への対応はユーロ4に留まっている(欧州仕様はすでにユーロ5適合)。

645ccの水冷90度Vツインは、スズキ車として初めてピストンスカート部にスズメッキと樹脂コートが施され、フリクションを低減。エンジンストールを抑制する「ローRPMアシスト」やセルボタンをワンプッシュするだけでエンジンが始動するまでモーターが回る「スズキイージースタートシステム」を採用している。

フレームはスチールパイプで構成されたダイヤモンドタイプ。エンジンとは裏腹に、1999年の楕円アルミダイキャスト、2003年の高真空アルミダイキャストと大きく変遷。現行のパイプフレームは2009年のグラディウスから大部分が踏襲されている。

スイングアームは楕円形状のスチールパイプ。前後ホイールにはアルミダイキャストの5本スポークを採用し、ダンロップのスポーツラジアルタイヤ「ロードスマートIII」が純正装着されている。

マフラーは曲線を多用したグラディウス650のものからデザインを刷新。三角断面によってスポーティさが強調され、より軽量コンパクトになっている。

ステップはアルミのダイキャスト。取り立てて剛性が高いわけではないが、グリップ力や両ペダルの操作性は良好だ。

リヤサスペンションはリンクタイプのモノショック。プリロードが7段階の幅で調整できる。

タンデムステップのペグもアルミダイキャスト。ヒールガード部分は荷掛けフックとしても活用できる。

燃料タンク容量は14L。カタログ上の燃料消費率は26.6km/L(WMTCモード値)だが、試乗中の実測データは満タン法で31km/Lを記録している。

785mmの低シート。足を降ろした時、内股が当たる部分がかなり絞られていることが分かる。反面、内包材は少なく、長時間乗車ではやや負担が掛かる形状だ。リアシートとは表皮の材質が異なるなど、デザイン性への配慮が見て取れる。

メーターには軽量小型のLCDディスプレイを採用。6段階の輝度調整ができ、各種情報の視認性は高い。表示されるのは、タコメーター、スピード、オドメーター、トリップメーター、ギアポジション、水温、航続可能距離、平均燃費、瞬間燃費、燃料計、時計など。

ヘッドライトはシンプルな丸型で、マルチリフレクターのハロゲンバルブを採用する。楕円型だったグラディウス650とは大きく印象が異なり、奇をてらわないプレーンなデザインに戻された。

テールランプとストップランプには2灯式のLEDを採用。高い被視認性が確保されている。

垂れ角、絞り角ともに少ないナロータイプのバーハンドルを採用。前傾姿勢は緩やかだ。

クラッチレバーはワイヤー調整式で、ブレーキレバーは5段階の位置調整が可能だ。

ハンドルスイッチは右側にセルボタンとキルスイッチ、左側にハザード、ライトのハイ/ロー、ウインカー、ホーン、パッシングというオーソドックスなもの。

シート下には車載工具(±ドライバー/スパナ/フックレンチ/ヘキサゴンレンチ)が収納されている。工具ケースの横に見える筒状のものは、蒸発したガソリンを回収するキャニスターだ。

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