10月30日から始まったジャパンモビリティショー2025にて、スズキの鈴木俊宏社長がペダル付折り畳み電動バイク「e-PO」について、“2026年の発売に向けて開発中”であることをプレスカンファレンスの中で言及した。

ジャパンモビリティショー2025のスズキブース。出展テーマはコーポレートスローガンである「By Your Side」とし、4輪だけでなく2輪の参考出品車や市販予定車の出展も多数あった。
混迷する原付一種(50ccクラス)の状況
原付一種、……つまり50ccクラスを取り巻く環境は、近年目まぐるしく変わってきている。従来からあった原付一種(〜50cc)、原付二種(51〜125cc)に加え、最近になって「特定小型原動機付自転車」、「特例特定小型原動機付自転車」といった新しい車両区分が誕生。

① 「特定小型原動機付自転車」と、②「特例特定小型原動機付自転車」は、いわゆる電動キックボードの登場で生まれた車両区分。その主な違いは③「歩道走行ができない」か、④「歩道走行が可能」かであるが、ナンバープレートの装着が必要なのに運転免許が必要なかったり、ヘルメットの装着が努力義務だったり……。中には走行状況に合わせて「特例特定小型原動機付自転車」と「特定小型原動機付自転車」を切り替え可能なモデルもあったりするなど、ちょっと複雑でわかりにくいのだ。
また、その一方で排出ガス規制の強化や生産量の減少などにより50ccモデルの生産継続が難しくなったことから、原付一種に新たな区分基準(通称:新基準原付)も誕生。これは“125ccクラスのモデルであっても最高出力を4.0kW以下に制限すれば原付一種とする”という法規だ。

ホンダは、新基準原付に適合したスクータータイプの「ディオ110ライト(23万9800円/右下)」を2025年11月20日から発売。さらに「スーパーカブ110ライト(価格:34万1000円)/左上」、「スーパーカブ110プロライト(価格:38万5000円/右上)」、「クロスカブ110ライト(40万1500円/左下)」といったモデルを2025年12月11日から市場投入。
早い話が125ccクラスのモデルをパワーダウンし原付一種として売るというのが新基準原付。車体やエンジンをいちいち専用に作り直さなくていいぶん生産的なスケールメリットが生まれ、長期的にみれば価格上昇も抑えられるという寸法である。ただ、それにしても現状ではちょっと値付けが高めな印象。これら新基準原付車は、確かに現状の原付二種モデルより若干価格が安いものの、従来からの原付一種(50ccモデル)に比べると随分と割高。“庶民の足であるはずの原付一種が高くて乗れない…”なんて時代になりつつある。
安くて、お手軽な原付一種はスズキの『e-PO(イーポ)』

ジャパンモビリティショー2025のスズキブースに展示されたスズキの『e-PO(イーポ)』。前回のジャパンモビリティショー2023での初お目見えから丸2年。ほぼ完成車に近づいているらしく、来場者が触れられるコーナーに置かれていた。
さて、そんな感じでごたついている原付一種の界隈にスズキの『e-PO(イーポ)』が登場する。スタイルこそ電動アシスト自転車に見えるが、この『e-PO』はあくまで原付一種に区分される乗り物。スズキでは“折り畳み電動モペッド”と呼んでいるが、運用にはナンバー登録や原付免許が必要となり、ヘルメットの着用義務もある。
2024年9月には、この『e-PO』コンセプトモデルの報道試乗会が行われ、筆者も乗ってきたのだがなかなかに興味深い乗り物だった。操作感や乗り心地は電動アシスト自転車そのものなのだが、電源をオンにしてスロットルをひねると、ペダルを漕がずともスルスル加速。筆者の75kgの体重でも35km/h以上の速度が出せる乗り物になっていたのだ。

2024年の試乗会で『e-PO』のコンセプトモデルに乗る筆者。漕がないと進まない電動アシスト自転車とは違い、スロットル操作一つで進んでいくのが新感覚。ちなみに電源をオフにして漕ぐ場合でもヘルメットの着用義務がある。
詳しいインプレッションは2024年当時の記事を参照してほしいが、①室内保管ができそうなほど車体がコンパクトなこと、②パナソニック製の電動アシスト自転車をベースとしたことで価格が抑えられること、③自転車へのモビリティチェンジが可能となれば公共の自転車駐輪場が利用できるようになること、……といった特性から世の中に新しい価値観をもたらす可能性がある乗り物だと感じた。
そんな気になる原付一種『e-PO』についてスズキの社長が“2026年の発売に向けて鋭意開発中”と名言したのだからたまらない。さっそくジャパンモビリティショー2025のスズキブースで『e-PO』チーフエンジニアである福井大介さんにお話を聞いてみると、この面白そうな乗り物の現在位置が見えてきた。
ほぼ完成車!? 2年をかけて熟成した『e-PO(イーポ)』

スズキ『e-PO』チーフエンジニア・福井大介さん。「プレスカンファレンスでの鈴木俊宏社長のコメントで“『e-PO』が2026年の発売に向けて開発中”という言葉を聞けてよかった。これで発売できます!」と第一声。また、『e-PO』のカラーリングは5色展開を予定しているとも語る。その話し振りからするとジャパンモビリティショー2025に展示されていた『e-PO』は、もはやほぼ完成車と推察できる。
2024年9月に行われたコンセプトモデルの報道試乗会での試乗感想や意見を踏まえ、さらに進化することになった『e-PO』。大きな変更点としては、それなりに速度が出る乗り物であることからリヤブレーキもディスク化し、フロントフォークの幅を大きくしてタイヤとのクリアランスを確保。ただ折り畳み部のあるメインフレームはパナソニック製の「オフタイム」からそのまま引き継ぐことで、極力売価が上がらない努力をしているという。

ベースモデルのパナソニック「オフタイム」より太めのタイヤを履くこともあって、フロントフォークの幅を広げクリアランスを確保。リヤブレーキがディスク化され、サイドスタンドの取り付け方式も変更した。
細かい部分では、前後の泥除けが実用性を考えて大型化に加え、ウインカーなどの灯火類もブラッシュアップされており、昨年試乗したコンセプトモデルよりさらに完成車に近づいた感じ。これらのブラッシュアップに関しては、『e-PO』の最大の持ち味である“お手軽で誰もが乗れそうな雰囲気”を極力崩さないよう配慮したという。

泥除けに関しては、折り畳み構造の邪魔にならないことはもちろん、『e-PO』ならではのコンパクトさやお手軽感を損ねないようにサイズや色を工夫した。
実際、モビリティーショー2025での会場では色々な方が『e-PO』に興味を示していたが、とりわけ驚いたのは車の免許を取ったばかりという女性が『e-PO』の詳細を説明員に熱心に尋ねていたこと。なんでも、クルマの免許を取ったばかりで当然バイクには乗ったことがなく、スクーターすらもちょっと自分とは関係ない乗り物と感じていたとのことだが、“『e-PO』ならば私でも乗ることができるかも?”と心が動いたというのだ。
まさにスズキが考える『e-PO』のターゲット層だったというわけだが、この『e-PO』をきっかけとして、より多くの方がバイクショップに足を運んでバイクと触れ合う機会が増えることを願うばかり。

見た目に関しては、ほぼ折り畳み自転車にしか見えない『e-PO』。このサイズ感なら駐輪時に場所を取らない。庭先や軒先が置き場所になるのはもちろんだが、集合住宅の玄関にだって置けそう。電動モデルなのでガソリン車のように匂いやオイル漏れに気をつかうこともない。車に積んでどこか遠くの土地にサイクリングにいくなんて使い方も面白そうだ。
気になる『e-PO』の“モビチェン化”に関しては、スズキの中でも検討は重ねているとのことだが、現在のところ純然たる原付一種モデルとしての販売スタートを考えているとのこと。このためナンバーステー部分はユーザーが勝手に取り外せないような構造とし、もし故意に取り外したり、配線を切断してしまったような場合には、動力がカットされるような工夫も盛り込んでいる。

『e-PO』の航続距離は1回の充電で30km以上。近所を1日4kmくらい移動しても充電なしで1週間使えるようなイメージだ。もちろんペダルを漕げば、それだけ電気の消耗を減らすことができるし、バッテリーも交換式なので予備バッテリーを持っていればさらに多くの距離を走ることができる。
いよいよ2026年の発売開始が見えてきたスズキの『e-PO』。販路に関しては、免許やナンバー登録が必要なことから既存のバイクショップに限定するとのこと。売価などはまだ全く未定とのことだが、ベースモデルであるパナソニックの「オフタイム」が約16万円であることを考えると、そこまでべらぼうな価格アップにはならないハズ…である。ぜひ既存の原付一種モデルの平均価格帯か、それ以下で登場してくれることを期待したい!!
