ヤマハのヘリテイジモデル、XSRシリーズ。その次兄であるXSR700が、XSR900に先立ち’22年4月8日に発売を開始した。ベースとなっているMT-07と比べて、その乗り味はどう違っているのか。XSRならではの魅力をヤングマシンメインテスター・丸山浩が試乗して掘り下げる。
●文:ヤングマシン編集部(宮田健一) ●写真:山内潤也
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ライディングポジションは個性的だが、面白いように曲がる
ヤマハのミドルクラスヘリテイジに位置するXSR700がモデルチェンジした。エンジンやフレームまで新規となって生まれ変わった兄貴分のXSR900とは異なり、700の方はエンジン本体には手を加えず、吸排気系のみの変更でユーロ5相当の最新排出ガス規制をクリア。他は全灯火類のLED化/フロントブレーキディスクの大径化/メーターの反転液晶化といったもので、フレーム/タンク/サイドカバー/テール形状も従来から変わらずと、マイナーチェンジの域に留まりちょっと淋しい気もする。だが、これが乗ってみると完成度の高さにビックリ。乗って非常に楽しいマシンに仕上がっていた。
【YAMAHA XSR700 ABS】■全長2075 全幅820 全高1130 軸距1405 シート高835(各mm) 車重188kg ■水冷4スト並列2気筒DOHC4バルブ 688cc 最高出力73PS/8750rpm 最大トルク6.8kgf-m/6500rpm 燃料タンク容量13L ■タイヤサイズF=120/70ZR17 R=180/55ZR17 ●色:白 黒 ●価格:93万5000円
まず跨ってみると、高いところに座っているような独特のライディングポジションが印象的だ。MT-07より30mmも高くなった835mmというシート高はもちろんだが、ハンドルバーも高いので、前傾のない殿様乗りのMT-07のポジションがそのまま上に高まったような感じになる。スポーツ性を高めるために前傾姿勢になるかと思っていたので、これはちょっと意外だ。
しかし走り出すとこのポジションに納得。シート&ハンドルに対して低く抑えたタンク天面が「高いところに乗っている感」をさらに強めているのだが、なんだかこれは記憶にある。そうだ、馬に跨っているような’70〜’80年代ネイキッドのあの感じの再現じゃないか!
▲XSR700はシート高835mmと高めだが、車体がスリムで足もまっすぐ下に伸ばせるので両足指がしっかり着く。ポジションはほとんど前傾なしの直立スタイルだ。[身長168cm/体重61kg]
MT-07とライディングポジション比較
一方のMT-07は母指球部分まで接地。ポジションはXSRと似たような感じだが、シートが低いぶんコンパクトに収まる感じだ。ステップ位置は同じなので、XSRのほうが下半身も含めておおらかな印象。
軽快ハンドリングに脱帽!
走り出すと、低回転から高回転まで気持ちよく回り、欲しい時に欲しいパワーを的確に引き出すことのできるMT-07譲りの並列2気筒エンジンにあらためて感服。このエンジンはMT-07だけでなくYZF-R7にも採用され、街中〜高速~峠に留まらずサーキットまでカバーしているのだ。不足を感じず扱いやすい73PSという絶妙なパワーのおかげで、トラクションコントロール/ライディングモード/ウイリーコントロールといった電子制御は持っていなくても、その必要性をほとんど感じさせない。MT-07もそうであったが、このエンジンがあったからこそXSR700も普段乗りから週末のツーリングまで楽しく乗れるマシンとなっている。
そんなエンジンの良さを引き出すXSR700のハンドリングは極めて軽快だ。着座位置の高さもあってコーナリングではMT-07よりも俊敏に反応してくれ、スポーツ性能では上。さすがに飛ばしすぎるとハンドルバーが高いためにフロント荷重が不足ぎみに感じてくるが、そこまでのペースで走りたいならセパレートハンドルで本格前傾ポジションのYZF-R7を選べばいい。また、あまり伏せられずハンドル幅もワイドなXSR700でハングオフを行うと、身体のアウト側にぽっかり空いたような空間が生じるので、ちょっとしっくり来ない。旋回性能自体は高いので、それよりも昔ながらのリーンウィズの方がリズムよく軽快にコーナーをクリアしていけるので楽しい。このあたりの走り方も、スタイル通りに昔懐かしいオーセンティックなものが似合っている。
ハンドリングと言えば、XSR700はブレーキも秀逸だった。ディスク径が16mm拡大されたフロントブレーキは効き自体こそ強めという感じではなく、あくまで標準的な範囲に収まっていたが、コントロール性の高さが印象的。どんな速度からも安心してブレーキがかけられる。そしてフロント以上に感心したのがリアブレーキだ。こちらは従来モデルから変わってはいないが、そのスピード調整能力は卓越の一言。峠ではフロントブレーキでコーナリングのきっかけを作り、あとはリアブレーキで速度を調整するような走り方が得意。なんならリアブレーキだけでつづら折れを流していくような走りも可能で、とてもラクチンだ。
都内から出発して高速道路を乗り継ぎ、一気に峠の上までと、ここまであまりにもラクに乗れてきてしまったので、バイクを停めるときに足着き性がちょっと高めだったことを思わず忘れたほど。それほど手軽に楽しめる。もっと足が着きやすくスタンダードなものが欲しいならMT-07。サーキットも含めてバリバリにスポーツしてみたい人にはYZF-R7。XSR700は、ちょうどその中間に位置するポジションだ。オーセンティックな雰囲気を楽しみつつ、そこそこスポーティに楽しみたいライダーにピッタリと言えよう。
【軽快ハンドリングに脱帽】XSR700のコーナリング性能はMT-07を上回り、よりスポーティな走りをしたい人にも応えてくれる。リーンウィズでも俊敏に曲がっていくので、とにかく簡単で面白い。
MT-07/YZF-R7はどうだった?
MT-07は下から駆け抜けるようなトルクの盛り上がりがありつつ、上までクセなく回していける扱いやすさ。ハンドリングも軽快で、よく動くサスはスポーツ性も高い。’21で大柄になったポジションも極めてスタンダードで、純粋に270度クランクのエンジン特性を味わうのにピッタリだ。[写真上:MT-07/写真下:YZF-R7]
ユーロ5対応&オーセンティック度マシマシに
▲並列2気筒ならではのスリムさを生かした車体は、マフラーの張り出しも最小限に抑えられている。全灯火類はLEDに変更。車体色は黒・白の2色を設定する。
▲MT-07と同じく最新排出ガス規制に適合した688cc並列2気筒エンジン。従来型より最高出力73PSはそのままに発生回転数を250rpm下げるなど最適化が行われ、その扱いやすさは健在。
▲フロントブレーキのディスクは282→298mmへと大径化。またペタル形状から一般的な円形状に改められた。タイヤは従来のピレリ製ファントムからミシュラン製ロード5に変更。
▲ヘッドライトは待望のLED 化が行われ、ハウジングも新デザインとなって、従来よりもモダンな雰囲気に。上下2段式でロービームでは上側のみ点灯。ハイビームでは両方が点灯する。
▲ウインカーもLED化。フロント側はマウント位置も従来のヘッドライト脇からMT-07と同じラジエターサイドへと変更。リア側は従来通りナンバープレートステー脇となる。
▲メーターはデザインはそのままネガポジ反転液晶へとグレードアップし、視認性と質感を向上。トップブリッジ左側にオフセットしてマウントされるのは従来と同じだ。
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