GSX-S1000の弟分的なスタイルで登場したGSX-8S。流行りの2気筒ミドル帯、価格的にも主にエントリー層をターゲットにしたマシンなのだろうか?ライバルとなるホンダ&ヤマハのミドルモデルとの比較テストの結果をお送りする。
●文:ヤングマシン編集部(谷田貝洋暁/宮田健一) ●写真:真弓悟史 ●外部リンク:スズキ/ヤマハ/ ホンダ
【テスター:谷田貝洋暁】ヤングマシンでは、ガチテスト企画や試乗記事を担当することが多いフリーランスライター。GSX-8Sと共通プラットフォームを持つVストローム800DEのインプレッションをイタリア・サルディーニャ島からお届けしたこともある。
【’23 SUZUKI GSX-8S】■全長2115 全幅775 全高1105 軸距1465 最低地上高145 シート高810(各mm) 車重202kg ■水冷4ストローク並列2気筒DOHC4バルブ 775cc 80ps/8500rpm 7.7kgf・m/6800rpm 変速機6段 燃料タンク容量14L ■ブレーキF=油圧式ダブルディスク R=油圧式シングルディスク タイヤサイズF=120/70ZR17 R=180/55ZR17 ●価格:106万7000円
【’23 YAMAHA MT-07】■全長2085 全幅780 全高1105 軸距1400 最低地上高140 シート高805(各mm) 車重184kg(装備)■水冷4ストローク並列2気筒DOHC4バルブ 688cc 73ps/8750rpm 6.8kgf・m/6500rpm 変速機6段 燃料タンク容量13L ■キャスター24°50′/トレール90mm ブレーキF=油圧式ダブルディスク R=油圧式シングルディスク タイヤサイズF=120/70ZR17 R=180/55ZR17 ●価格:83万6000円
【’23 HONDA CB650R】■全長2120 全幅780 全高1075 軸距1450 シート高810(各mm) 車重203kg ■水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ 648cc 95ps/12000rpm 6.4kgf・m/9500rpm 変速機6段 燃料タンク容量15L ■タイヤサイズF=120/70ZR17 R=180/55ZR17 ●色:青 黒 ●価格: 100万1000円/102万3000円(黒)
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大柄だけど乗りやすいGSX-8S/コスパの高さで圧倒的なMT-07
それではGSX-8Sとライバルたちとの直接比較だ。最初の相手は2気筒ミドル帯の代表格であるヤマハMT-07。同じカテゴリーに入るのだけど、排気量&パワー的にはGSX-8Sの775cc/80㎰に対して、MTは688cc/73㎰。車重は8Sの202kgに対してMTは184kg。価格は8Sが106万7000円でMTは83万6000円。けっこう大きな開きがある。このあたり、どういう違いがあるか興味津々だ。
まずライディングポジションを比べてみると、MTはエントリー層にも乗りやすいスタンダードかつコンパクトな感じが印象的。足着きに関しても身長172cmの僕だと両足かかとまでベッタリ着いて申し分ない。ところが8Sに跨ると、またもやビックリ。ニーグリップ部のスリムさではなんと8Sの方が細く感じられるのだ。おかげで足着きも優秀。もっとも、ハンドル位置を含め乗車した際の高さ感など、全体的には8Sの方がひと回り大柄なポジション。膝の曲がりもMTは小柄な人でも乗れるようにちょっと強めなのに対し、8Sは緩やか。人によっては長時間乗車だと疲れ方が変わってきそうだ。
取りまわしに関しては約20kg違う車重がいかんともし難かった。ホイールベースもMTは8Sより65mmも短いので、Uターンを含めた小回りのしやすさでは圧倒的にMTの勝ち。ただ、けっして8Sが厳しいわけではない。単体で見るとその軽さ感は優秀なので、街中でもCモードを使えば乗りやすく感じられるはずだ。
エンジン特性の面では、MTは下からドルルルと鼓動感を演出として意識的に感じさせるような味付けが特徴だ。この鼓動感は回転数を上げていっても長く続き、癒されるような楽しさを覚えさせてくれる。パワーカーブもマイルドで、攻撃的な顔は見せないから安心してスロットルを開けていくことができる。このあたりはジャジャ馬だった8SのAモードと決定的にキャラクターが異なる部分で、もし8Sにライディングモードがなければ、実際に購入する段階に至ってどちらを選ぶか迷うことはないと思えた。
しかし、8SにはCモードがある。鼓動感をMTほど強めに感じさせない上、クロスバランサーのおかげである程度回せば、シュッと静かになってスムーズさが際立ってくるエンジン。乗りやすさでもMTと甲乙つけ難い。景色を楽しみながら、のんびり走ることもできる。これはきっと迷ってしまう。
どちらも峠で楽しめる! が、価格差分の「違い」はアリ
峠でもMTとは十分以上に「ライバル」だった。絶対的なスポーツ性能については、もう圧倒的にA・Bモードがある8Sの勝ち。MTも単体としては、しなやかな足まわりやフレームそしてエンジン特性で、鼓動感とともに峠で気持ちよくスポーツを感じることができる。が、そこに「速さ」を求めだしたら8Sには勝てない。それは排気量や馬力差によるものではなく、想定している速度レンジが8SのA・Bモードとは決定的に違っているからだ。MTはライディングモードに加えてトラコンも持っておらず、その限界が如実に現れてしまう。
ただMTは、ピュアな走りが味わえるとも言える。「このあたりが限界かな」とバイクと対話しながら操る喜びがあり、ビギナーが走りを学ぶのにもうってつけだ。なお8SはCモードだとMTと似たような乗りやすさ。エントリー層でも気軽に峠を楽しむこともできるのだから、ヤマハに限らず他の2気筒ミドル勢にとっても大きな脅威と言わざるを得ない。速さが光っても8Sのサス設定は硬くはなく、Cモードでもしなやかに動きながらギャップ吸収性も抜群。乗り心地の上でも、「ひとつ上」を感じさせる。
ライディングポジションのコンパクトさや扱いやすさが際立つエンジン特性、小回りの効き具合などトータル的に見ると、よりエントリー層に近いのはMTの方だと言えるだろう。
しかし、エントリー向けとして見た場合の8Sもなかなか。それにもうひとつ忘れちゃならないのが8Sには双方向クイックシフターも標準で付いている。スーパースポーツほどカチャッカチャッと小気味よく作動するタイプではないが、幅広い速度で作動し、色んな場面で活躍してくれそうだ。
価格面としては、8SとMTでは約23万円の差。8Sが備える数々の機能からして値段相応の価値はあるけれど、MTのコスパの高さにも唸らざるを得ない。
【SUZUKI GSX-8S】双方向対応のクイックシフターも標準装備しているので何かとラクだ。MT-07国内仕様は現状オプションでも設定なし(欧州仕様は’23でオプション対応)。CBはオプションでアップ方向のみ用意されている。
走行モードによる出力特性の違い【スムーズなGSX-8Sと鼓動感のMT-07】
【SUZUKI GSX-8S】8Sの心臓部は完全新開発の775ccDOHC4バルブ水冷4スト並列2気筒。270°クランクが鼓動感を生みつつ、スズキ・クロスバランサーがスムーズな回転特性を実現する。アシストスリッパークラッチや冷却システムも最新設計。
【YAMAHA MT-07】鼓動感を味とするクロスプレーンコンセプトによってCP2と名付けられた688cc水冷並列2気筒。パワーモードは持たないが、その扱いやすいエンジン特性は街中からワインディングまで万人が楽しめるものとなっている。
バイクに求められる姿が明確に異なっていた2台
8Sの次なる相手はホンダのCB650R。価格は100万1000円〜と8Sに近い設定だが、CBは今どき貴重な並列4気筒を採用! 最高出力も8Sを15㎰も上回る95㎰を発揮する。排気量の違いはあるが、これはいい勝負ができるのではと考えていた。だが蓋を開けてみると、これまた予想外の結果に。結論から言うと、この2台はライダーがバイクに求める姿の違いで嗜好がハッキリ分かれる別存在であった。
その最たるものは、やはりなんといってもエンジンだ。CBのエンジンは直4とは言ってもヒュンヒュンと軽く吹け上がるスーパースポーツ系ではなく、クランクマスの重さを感じさせる往年の大型車に通じるようなテイスト。回転上昇でいえば2気筒なのに8Sの方が断然軽くて早い。どちらがスポーティかと聞かれれば、誰しもが迷わず8Sと答えるだろう。
ライディングポジションや取りまわしでもCBはいかにも“大型車”なテイスト。エンジン横幅が長いぶんどっしり座っている感があり、押し引きの際も重たさを感じさせる。パワー差で峠ではCBが勝てるかと思ったが、そもそも95㎰を出せるのは回し切ったとき。峠の速度域ではそこまで到達しない。結局、コーナーごとに軽々とパワーを引き出せる8SのA・Bモードに立ち向かうのは厳しかった。
車重はたった1kg差しかないのに、この軽さの違いはどこから生まれるんだろう。考えるに、それはやはりエンジンの回りの良さとクランクマスによるジャイロ効果の差に他ならない。それにハンドリング自体も8Sは非常に軽くて攻めやすい。クロスバランサーによってエンジン前後長を短くした8Sは、ライダーを前方に乗せて俊敏さを高めつつ、長めのスイングアームでコントロール性も確保する車体作りをしているな。スポーツ向けとして、従来以上に理にかなっているのだ。
一方、CBは“峠を大型車で楽しむ”雰囲気そのものを大事にしているようで、その重厚感から「マシンを操っている実感」が得やすくなっていた。サスペンションも峠をガンガンに攻めることを推奨してはおらず、ゼブラゾーンでは減速しないとギャップでフロントが乱れてしまう。ある意味、大人なのだ。概してCBはミドルクラスながら、特に昭和時代の大型4気筒に憧れるような人に(高い質感も含めて)その雰囲気を味わわせてくれるキャラクターの持ち主だった。軽さや速さの8Sが好きか、それともバイクには重厚感や征服感を求めるのか。これはもう、ライダー次第だ。
【HONDA CB650R】エンジンは3車中で最強の95psを発揮する648cc水冷並列4気筒。大排気量らしい重厚な吹け上がりが特徴だ。
【HONDA CB650R】クイックシフターはオプション設定でアップ方向のみ。電子スロットルではないため、双方向は難しい。
GSX-8Sはこれからの新しいミドルバイク像かも
乗り始めた直後は、「よくもまあベテランの腕に挑戦するような、ジャジャ馬を作ったもんだ」と思わせたGSX-8S。峠に持ち込んだときの目を見張るような速さは、今までの国産ミドル2気筒勢がもはやライバルとは思えないくらい。KTMの890デュークなどイケイケの外国車勢に勝負を挑んでもおかしくない、元気の良さだった。
しかし乗り込んでいくうちに、Cモードの存在でエントリー層にもオススメできるフレンドリーなキャラクターを持っていることを知らされた。ハイベテランからエントリー層まで、これまでにない幅広いライダーに対応した超マルチスポーツこそ、8Sの正体だったのだ。それに「速さ」だけではなく、ツーリングバイクとしても8Sは優秀だ。
適度に余裕のあるライディングポジションに加え、クイックシフターはもちろんアシストスリッパークラッチでレバー操作も非常に軽いから疲れにくい。さらにクロスバランサーによるスムーズさと静粛性。不快な振動をライダーに伝えてこないから、とにかく快適。バックミラーも高回転域で震えずにしっかり後方を確認できる。高速道路を移動中は、これにクルーズコントロールも付いていたなら申し分なしと、そこだけが惜しく感じられた。
初心者に最も優しいMT-07、重厚感こそ正義というCBに対し、1台で何台もの顔を楽しませてくれる8S。これはもうあらゆる人にオススメできる。エントリー層が選ぶとしてもCモードで物足りなくなってきた時、A・Bモードがあるから、買い替える必要がないのもイイネ!
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