バイクで日本一周。

素敵な響きですよね。

仕事の休みに少しずつ走るのも楽しいけれど、まとまった時間を使って、日本をぐるりと一周する。今日はどこまで走ろうか。明日はどこへ行こうか。そんなことを考えながら旅を続ける。

一度はチャレンジしたいと思っているライダーも、多いのではないでしょうか。

そんな日本一周ライダー。近年、見かけることが多いのは、荷物の後ろに掲げられた「日本一周」というようなメッセージが書かれた看板です。

看板が、その人の旅を教えてくれる

私の印象では、2000年代後半ごろからでしょうか。「日本一周」と書いた手作りの看板をつけて走るライダーを、よく見かけるようになりました。

「日本一周 ○日目」と、日数を書いている人もいます。

まだ出発したばかりなのか。それとも、もう何カ月も旅を続けているのか。そんな看板を見ると、ちょっと気になってきます。

その後、SNSが広まるにつれて、アカウント名を掲示する人も見かけるようになりました。旅先の景色や食事、その日に起きた出来事を投稿して、旅のようすを伝える。

道路ですれ違った人の旅を、あとからSNSで追いかけることだってできるわけです。

看板に書かれたひと言から、ずいぶん遠くまでつながるようになったものです。

「何をしている人か」が分かる安心感

看板には、メリットがあると思います。

荷物をたくさん積んだバイクと、そのそばにいる見知らぬライダー。事情を知らない人には、どこから来て、何をしている人なのか分かりません。

そこで「日本一周」の文字が目に入ると、

「ああ、旅をしている人なんだな」

と、ひとまず事情が伝わります。

もちろん、看板があれば何でも信用してもらえるという話ではありません。でも、声をかけるきっかけにはなるでしょう。

「日本一周ですか。すごいですね」

「どこから来たんですか?」

「今日はどこまで行くんですか?」

何もないところから話しかけるのは、少し勇気がいります。でも、看板が話題をひとつ用意してくれる。

そこから地元の人に道を教えてもらったり、おいしい店の話を聞いたりすることもあるでしょう。そうした出会いは、長い旅の楽しみのひとつです。

手作りの看板は、小さな自己紹介でもあるのですね。

それに、この看板は、周囲への自己紹介だけではないのかもしれません。

「自分はいま、日本一周をしているんだ」

そう実感するためにつけている人もいるでしょう。毎日、日数を書き換えることが、旅の記録になっているのかもしれません。

出発したときには「1日目」だった数字が、少しずつ増えていく。その看板をあとから見返すのも、きっと楽しいでしょうね。

 

看板がなくても、旅はできる

一方で、ずいぶん見慣れたせいでしょうか。

大きな荷物を積んだバイクに看板がないと、かえって「何をしている人なんだろう」と思われそうな気さえします。

……さすがに、それは考えすぎかもしれませんけどね。

でも、本来は看板をつける必要なんてないのです。日本一周をしていると伝えたい人は、伝えればいい。SNSで旅のようすを発信したい人は、発信すればいい。

誰にも知らせず、淡々と走る旅だっていいでしょう。

「日本一周○日目」と毎日書き換えるのが楽しい人もいれば、旅に出てから何日たったか、だんだん分からなくなるくらいが心地よい人もいるはずです。

誰かと話したい日もあれば、ひとりで景色を眺めていたい日もある。そのくらい自由でいいのだと思います。

旅に出られる時間は、案外限られている

社会人がまとまった時間を確保して日本一周をするのは、なかなか大変です。

なかには、会社を辞めて旅に出る人もいるでしょう。

言葉にすれば「仕事を辞めて日本一周」ですが、実際に決断するとなれば、簡単な話ではありません。旅の費用も、その後の暮らしも考える必要があります。

年齢を重ねれば、仕事や家庭で担うことが増える場合もあります。そう考えると、若いうちは、長い旅に踏み出せる機会のひとつなのだろうと思います。

もちろん、若くなければできないわけではありません。少しずつ各地を巡る方法もあれば、仕事を終えたあとに、ゆっくり出発する人もいるでしょう。

それぞれに、旅に出られるタイミングがあります。

だから、いま日本一周の途中にいる人を見ると、その時間を存分に楽しんでほしいと思うのです。

無事に帰ってきてこそ

「日本一周」の看板をつけていても、いなくても、旅先にはそこで暮らしている人たちがいます。

こちらには旅の途中の一夜でも、相手にとっては毎日の生活の場所です。バイクを停める場所や、夜の音、ごみの始末。そうしたことへの気遣いは、忘れずにいたいものです。

そして、日程や「一周すること」に追われて、無理をしないこと。

疲れたら休む。天気が悪ければ予定を変える。事情が変わったら、途中で帰ることがあってもいいでしょう。

看板に書いた目標のために、無事に帰ることが後回しになっては困ります。

日本をぐるりと走って、何を見つけるのか。

忘れられない景色かもしれません。気の合う友人かもしれません。「あの町のご飯、うまかったなあ」という思い出かもしれません。

人生を変えるような大発見でなくても、十分です。

看板を掲げるかどうかは、その人次第。

どうか節度を持って旅を楽しみ、何かひとつ、自分にとって大切なものを持ち帰ってほしい。そして何より、無事に帰ってきてほしい……。

「日本一周」の文字を見かけると、そんなことを思い、心の中で祈るようにしています。

(おしまい)

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