125、ハイブリッド、160の順に試乗し、出た結論はPCX160

2010年のデビュー以来、圧倒的な人気を誇るスクーター・PCX。これほどまでに使い勝手に優れるバイクは他になく、個人的には現代版スーパーカブに値するモデルと認識している。

それを裏付けるように、2021年型PCXシリーズは売れに売れていて、1月~6月の上半期で125が1万4300台(前年は年間1万7200台)、160は3246台(前年は年間4212台)と前年を大きく上回るペースで推移しており、2021年も日本一のセールスを記録するのは間違いない(二輪車新聞調べ)。

一方、2018年からラインナップされているPCX e:HEV(ハイブリッド)は、ホンダの販売データによると初年度が1200台、2019年は800台、2020年は400台とまだまだ数は少ない状況だが、日本一売れているバイクだからこその未来志向で、バイクの先進性を社会に訴える役割を果たしている。

そんな3種類あるシリーズでどれが買いなのかというと、私の結論はずばりPCX160。これまで125、ハイブリッドの順番で乗って、最後に160を借りてアクセルを開けた瞬間に「これだ!」と直感できるくらいだった。

>PCX125 年間1万7000台以上を販売する人気車は、最新型でどう変わった?

全く新しいスタイルに刷新され、エンジンやシャーシも全面的に改良された2021年型PCX160。従来のPCX150から排気量が7ccアップし156ccとなった。

身長170cmのライディングポジション。足が伸ばせて快適だがハンドルもスクリーンも低めの設定となっている。ポジションはPCXシリーズ全車共通となる。

ライダーの体重65kgほどで足着き性はかかとまで接地。車体幅もあるので、座る位置によってはかかとが浮く。

125と160のわずか30cc程度の差が、大きな使い勝手の差になることを実感

日本国内にPCX150が導入されたのは、PCXのデビューから2年後の2012年のこと。当時は150cc版に需要があるかが分からず控えめの計画台数としたことが裏目に出てしまい、ホンダは多くのバックオーダーを抱えることになった。

150は、実際に乗ってみるとその使い勝手の良さを実感できるもので、2021年型で排気量が156ccになって、より磨きがかかっている。例えば都内から横浜へ行くといった用事がある時に、一般道で向かうよりも高速の方が効率がいいし楽なのは明確。PCX160にはそのための最低限の性能があり、片道30km程度なら苦にならないサイズだ。

そして、この“最低限”は一般道においては大きな余力となり、車重が125と同じなので痛快な走りが楽しめるのだ。加えて250ccクラスのビッグスクーターよりもすり抜けがしやすいなど機動力に優れていて、エンジンをかけていない時の取り回し性もいい。PCX160に乗ると都市交通において最強の乗り物と感じるだろう。

わずか32ccの排気量差とは言え、125と160にははっきりと分かる性能差があり、発進から最高速に至るまで通勤バトルでは160の圧勝。125はファミリーバイク特約が維持費の面で有利とされるが、等級次第では任意保険料に大きな差はなく、160で得られるメリットの方が大きいと筆者は考える。

新型PCXはエンジンが従来の2バルブから4バルブに変更されるとともに、令和2年排出ガス規制値をクリアしながら出力を向上させた。160の最高出力は15.8PS/8500rpmで125を3.3PS上回っている。

リアホイールは従来の14インチから13インチに小径化し、サスストロークが伸長。同時にシート下スペースを28→30Lに拡大させている。これは全車共通の変更だ。

フロントホイールは初代から受け継ぐ14インチで2021年型はタイヤを従来型より10mmワイドサイズに変更し、ホイールも新作になっている。これも全車共通の変更となる。

160と125のメーターは共通。ウインカー(緑の部分)や燃料計の表示を際立たせており、消し忘れや入れ忘れを防いでくれる。右窓にはトラクションコントロールのインジケーターとなるTマークもある。

160と125のシート下にはこのようにジェットヘルメットを収納できるほか、後方部分にはレインウエアなどを入れるスペースもある。

ハンドルまわりは全車共通。左のフタ付き収納スペースは500mlのペットボトルも入る容量を確保。またUSBタイプCの充電ソケットも装備している。給油リッドの裏にはタンクキャップを置くスペースもあって便利だ。

2021年型PCX160主要諸元

・全長×全幅×全高:1935×740×1105mm
・ホイールベース:1315mm
・シート高:764mm
・車重:132kg
・エジンン:水冷4ストローク単気筒SOHC4バルブ 156cc
・最高出力:15.8PS/8500rpm
・最大トルク:1.5kg-m/6500rpm
・燃料タンク容量:8.1L
・変速機:Vマチック無段変速式
・ブレーキ:F=ディスク、R=ディスク
・タイヤ:F=110/70-14、R=130/70-13
・価格:40万7000円

125にこだわるなら、モーターパワーのハイブリッドも選択肢にする価値あり

それではハイブリッドはどうなのか? まず燃費のいい125ccスクーターにハイブリッドは不要と思うだろうが、実は目的は燃費向上ではなく、むしろ性能アップに主眼が置かれているのがPCXハイブリッドのユニークなところだ。実際、スペック上で60km/h定地燃費はPCXの55km/Lに対してハイブリッドは55.4km/Lと同列、優位性はほとんどない。

PCXは、アイドリングストップ機構を実現するためにACGスターターを採用している。これは、クランクシャフトと同軸のモーターがエンジンを始動し、また発電機にもなるというメカニズム。PCX e:HEVはこれを発展させ、エンジンをアシストできるようにモーターを強化したもの。その動力源として、リチウムイオンバッテリーも搭載している。


ハイブリッド機構が本領を発揮する場面はスタートダッシュで、モーターがエンジンをアシストしてくれる。PCX e:HEVにはDとSの走行モードがあり、特にSモードにした時に「おお!」と感じる加速力にびっくりするはずだ。モーターには回った瞬間から大きなトルクを発生する特性があり、125ccエンジンにモーターのトルク値を足すとPCX160の最大トルクを逆転するほど。これがPCX e:HEVの長所となる。

ただ、電力が無限にあるわけではないのでモーターのアシストはアクセルオープン後の3秒間のみ。シグナルダッシュで前に出る優越感を味わうために、PCXの金額にプラス約9万円の追い金を出すかは悩みどころ。125ccにこだわる人で予算に余裕があるなら充分に選択肢になるだろう。

2021年型PCX e:HEVは、2018年にデビューしたPCXハイブリッドの最新仕様。4バルブヘッドに進化したパワーユニットを採用し性能を底上げしている。ハイブリッドシステムは従来型を踏襲。

ACGスターターを兼ねたアシストモーターも駆動に活用するのがシステムの概要。その際の電力はリチウムイオンバッテリーから使うので、空になってもエンジンの始動に影響しない。

信号待ちから発進した直後のメーター表示。アシストゲージがフルアシスト表示になっている。左上は停止時のメーター表示でアシストゲージ、チャージゲージ、バッテリー計がハイブリッドならではの表示。バッテリー計はアシスト用のリチウムイオンバッテリー残量となる。

発進してしばらくするとアシスト量が減り始める。アシストは約3秒間継続され、その後1秒で徐々に減少する仕様になっている。

これは完全にアシストが終了した状態。ちなみにこの状況でもアクセルを一度閉じてから開けると“追いアシスト”してくれる。

減速時などの充電中はチャージゲージが2段階で点灯する。“追いアシスト”を使いすぎてしまうとバッテリーゲージの減りが早くなるので注意。

シート下はリチウムイオンバッテリーのスペース分が食われてしまうが、ヘルメットのスペースはきっちりと確保されている。B4サイズのバッグも収納できた。

2021年型PCX e:HEV主要諸元

・全長×全幅×全高:1935×740×1105mm
・ホイールベース:1315mm
・シート高:764mm
・車重:136kg
・エジンン:水冷4ストローク単気筒SOHC4バルブ 124cc
・最高出力:12.5PS/8750rpm/1.9PS/3000rpm(モーター)
・最大トルク:1.2kg-m/6500rpm/0.44kg-m/3000rpm(モーター)
・燃料タンク容量:8.1L
・変速機:Vマチック無段変速式
・ブレーキ:F=ディスク、R=ディスク
・タイヤ:F=110/70-14、R=130/70-13
・価格:44万8800円

SHARE IT!

この記事の執筆者

この記事に関連する記事