カワサキから発売される新型「KLX230シェルパ」に試乗する機会を得た。今や貴重な空冷シングルにフロント21&リア18インチホイールを採用する軽快モデルの走りはいかに? ベースを共有するKLX230Sとともにインプレをお届けしよう。
※取材協力:Webike+ ※写真:平塚直樹

コンパクトながら余裕のあるライポジ、足着き性も上々

2022年型で生産終了したカワサキのKLX230が各部をリファインし、2025年型として再登場した。今では数少ない空冷単気筒233ccを搭載する本格オフロード車で、無印のKLX230に加え、低シート仕様の「KLX230S」、そして派生モデルの「KLX230 SHERPA(シェルパ)」を追加した。

↑KLX230シェルパ(カワサキ 63万8000円)。ローダウン仕様のKLX230Sをベースに、専用の外装やハンドガード、アルミスキッドプレート、スタックパイプなどを与え、トレッキング仕様としている。11月27日発売予定が延期され、登場時期は未定だ(2024年12月8日時点)。※筆者撮影


ヤマハのセロー250が2021年で生産終了し、日本メーカーの国内モデルでは山野を気軽に駆け回れる「トレッキングバイク」が現在ラインナップされていない。そこで登場してきたKLX230シェルパは大いに注目されている1台だ。

そんな中、カワサキが千葉県でプレス向け試乗会を実施。KLX230シェルパに乗る機会を得た。シェルパの実物は車格が立派。質感もよく、特にメタリックベージュで塗色されたフレームが高級感を漂わせている。

またがってみると、車体はスリムながら、適度なサイズ感。250ながらコンパクトすぎず、ゆったりした雰囲気だ。足着き性は身長177cm&体重63kgの筆者では両足がしっかり接地。足を広げるとカカトが浮いてしまうが、不安感は少ない。

サスはソフトな設定で、ライダーが乗車するとグッと沈み込み、シート高845mmという数値から受ける印象より足着き性はずっといいハズだ。また、シートはやや硬めだが、1時間程度ではお尻が痛くならなかった。

開発者によると足着き性を重視しており、快適性やサスストロークをなるべく維持したまま、車体のディメンジョンから見直してシート高を下げているという。

↑ライダーは身長177cm&体重63kg。上半身が直立し、リラックスしたライポジ。ハンドルは拳 1つ分ほど広く、グリップはヘソの位置辺り。ステップ位置はやや後ろ気味だ。両足のカカトまでシッカリ接地する。ただし真下に降ろすと足がステップに当たる。なお170cmのライダーでも両足先が余裕で着く。

粘り強く、高速道路もOK、造り込まれたエンジン

走り出してすぐ感じたのはエンジンの元気さ。最高出力18PS/8000rpm、最大トルク1.9kgm/6400rpmのスペックは数値的にパワフルには見えないが、スロットルの動きに対するレスポンスが良好だ。幅広いレンジでパルス感を伴いながら、勇ましい「グオーッ」という吸気音を奏で、グッと加速。しかも1万rpm付近のレブリミッターまでストレスなく伸び上がる。

非常にフレキシブルにトルクが立ち上がり、232ccという排気量やスペックから受けるイメージより力強い。街中の30~60km/h程度の速度レンジなら3速だけでカバーでき、オートマ感覚で走れてしまう。

さらに極低速の粘り強さも美点。10kmk/h 未満の歩くような極低速では、アイドリングだけでノッキングせず、エンストもしない。一方、高速道路で100km/hを出してもエンジンに余裕を感じ、もう少し伸びそうだった。非常に造り込まれたエンジンと感じる。

↑SOHC2バルブの232cc空冷単気筒は、排ガス規制に適合しつつ、ECUマッピングや排気管長の変更、吸気側バルブの小径化などで低中速トルクを確保している。※筆者撮影

安心感と軽快さが同居し、自在にコーナリングできる

車体はしっかり安定感がある。走らせているとフレームの剛性を感じられ、特に直進時にガッシリと安心感がある。サスは初期からソフトでよく動き、奥ではしっかり踏ん張る設定だ。100km/h走行時でも直進安定性に優れるものの、段差ではかなりの衝撃がある。一方、街中では乗り心地がよく、快適だ。

そしてコーナリングが楽しい。安定感があるため、安心して車体をバンクできる。フロント21&リア18インチの大径ホイールを履くオフ車らしく、体重移動でターンすると、リアから旋回し、フロントが遅れてついてくる感覚。ただしシェルパは元気のいいエンジンとよく動くサスのおかげで、スロットルのオンオフによって車体がきっちりピッチングする。さらにハンドルの当て舵を加えると、かなりダイレクトに反応し、スパッと倒れ込む。

これらの動きを使うとより軽快にコーナリングでき、小回りも簡単。また、ブレーキも適度にシャープなタッチで、スポーティさに貢献してくれる。かといって挙動がシビアではなく適度にボカされており、基本的には安定志向だ。

↑ハンドリングは自然。リーンウィズやリーンアウト、前後に座ったりと自由度も高い。


なお、二人乗りも試してみた。サス設定がソフトなのでリアがグッと沈み込み、ハンドリングへの影響は大。試してはいないが、リアサスはイニシャルの無段階調整が可能なので、設定変更で改善できるかもしれない。

タンデムシートは薄く座面も小さめ。グラブバーもないので後席ライダーの快適度はあまり高くない。ただし、座面がフラット気味で、しっかりライダーの腰を挟むことができるのは安心だ。

↑タンデムシートの座面は小さい上に硬め。ただしタンデムライダーが乗ると沈み込んでフラット気味になる。

ダートではリカバリーが簡単、ビギナーでも安心だ

今回は試乗車の都合で本格的なオフロードは叶わなかったが、砂利のフラットダートや少しマディな草地を走ることができた。フロント21インチとブロックパターンタイヤがしっかり路面を捉え、サスがスムーズにストロークするため、グリップ感は良好だ。

ここで134kg(KLX230Sは133kg)の車重と足着き性が効いてくる。不意に車体が振られたり、スリップしたりしても軽いし、足が着くのでリカバリーしやすい。特にフロントの動きが軽いため、極低速時などで積極的にハンドル操作を使えるのも安心感に一役買っているようだ。

↑スタンディングの姿勢が取りやすいステップ&ハンドル位置。初心者でも不安なく脇道に入り込めるはずだ。


ABSはダートでもしっかり効くが、リアのみABSをキャンセル可能。停止状態で左ハンドルの赤いスイッチを長押しするとキャンセルでき、リアロックが可能になる。テールスライドを試してみたが、こちらも不安がなかった。こんな気にさせてくれるのも軽快なシェルパならではだろう。

少しだけ気になるのはミラー。ステーがショートタイプのためか、はたまた私の体格のせいか、腕が映りこんで後方視界があまりよくない。また、メーターにギヤポジションが表示されるスペースがあるが、表示はされない。これらはスタイルやコストなどの関係があると思われ、個人でカスタムしてもいいと思う。

KLX230Sに試乗、フロントまわりの違いで若干差はアリ

シェルパのベース車であり、基本構造が同様のKLX230Sにも試乗してみた。この「S」グレードは、KLX230から前後サスストロークを抑え、シートの肉厚を減らしてシート高をダウンしたモデルだ。

シェルパとKLX230Sの違いは外装のほかに、ハンドルとフロントまわりが異なる。シェルパが少し横幅を絞ったファットバーなのに対し、KLX230Sはブレースバー付きの幅広タイプだ。

また、シェルパはヘッドライトガードや金属プレート入りのハンドガードを標準で備えることから、軽量化のためにアルミ製アンダーブラケットを採用。KLX230/Sは鉄製アンダーブラケットで、トータルでの車重はシェルパより1kg軽い。

↑2025年型KLX230S(カワサキ 59万4000円)。STDのKLX230を基盤に、シートの肉厚と前後サスストロークの変更で、シート高を35mm低い845mmに設定した。KLX230/Sは11月27日に発売済み。


試乗すると、ファットバーでややフロントが重いシェルパの方がわずかにハンドルへ伝わる振動が少ない。また、ハンドル幅が狭めのため、より入力がしやすい印象だった。一方、KLX230Sは幅広ハンドルのため、オフでの抑えがより効くように感じる。

加えて、ハンドガードやスタックパイプなどの重量物がないため、フロントの挙動が若干乱れにくいのが利点。ギャップ通過時でもシェルパより安定感がやや高まっており、オンオフともにより軽快な印象だ。

↑KLX230Sはシェルパよりハンドル幅が少し広く、やや手前。ハンドルの差でシェルパと印象が少し異なる。

↑シェルパ、KLX230Sのどちらともオフに対応するが、装備面ではシェルパの方がオフ志向とのこと。シェルパはシュラウドが小さいため、地面が見えやすい利点もある。

[まとめ]セロー250に近い感覚、街乗りからツーリングまで多様に使える

筆者は過去に1993年型セロー225(ヤマハ)を所有。セロー250の試乗経験も豊富だ。現在は過去のスーパーシェルパの血統に連なるDトラッカー(カワサキ 2006年型)に乗っている。

シェルパの「空冷4スト単気筒SOHC2バルブ 232cc」というスペックから、筆者はセロー225に近いバイクなのかな、と勝手に思っていたが、個人的にはセロー250に似たフィーリングを感じた。セロー225のようにマウンテンバイク感覚で山野を駆け回るバイクというより、セロー250のようにエンジンがスムーズに回り、車体のガッシリ感やスムーズなサスの動きが似ていると思ったのだ。

キャブレター仕様で249cc水冷単気筒を搭載し、31psを発生するDトラッカーとはさすがにパワーは比べられないが、シェルパも中速トルクは十分ある。

開発責任者によると「セローはそこまで意識していません。あくまで先代のKLX230からの正常進化を目指しました」とのことだった。とはいえシェルパは、セロー250のように普段のちょっとした街乗りから高速ツーリング、かなりのオフロードまでこなす万能バイクなのは間違いない。セロー250の後継車を求めていたライダーにとって、現時点で最高の選択肢になるだろう。

なお、KLX230シェルパは発売時期が延期され、執筆時点での発売時期は未定。その理由は「チェックをしているため」とのことだ。不具合や部品供給が不足しているのではなく、タイ生産の車両を国内販売するにあたって念入りにチェックをしていることが理由という。今しばらくすれば正式な発売時期がわかるはずなので、発表を待ちたい。

[車両解説]KLX230S/KLX230シェルパ 

2022年型で生産終了したKLX230がリニューアルして、2025年型として復活。スーパーモタードのKLX230SMと共に海外で先行発売されていたが、ついに日本仕様が登場した。これと同時にKLX230シェルパが追加されることになった。

シェルパとは、ヒマラヤ地方における登山など山岳地方の案内人のこと。山の中へ自在に分け入って走破する様子をイメージしており、カワサキは1997年に「スーパーシェルパ」を発売。KLX250の水冷249cc単気筒を空冷化して搭載し、ヤマハのセロー225らと同カテゴリーのトレッキングバイクとして愛された。スーパーシェルパは2007年モデルで生産終了となったが、久々にシェルパの車名が復活した。

今や貴重な空冷単気筒エンジンは旧型をベースとしつつ、細部まで変更。ボア×ストロークは従来型と同じ67.0×66.0mmで、排気量も232ccのままだが、低中速域のトルク向上を主眼に置いた。吸気ポートを小径化し、吸気バルブをφ37→33mmに変更。エンジンの前で大きく曲がっているエキゾーストパイプはフレームの下側に届くほどまで延長するなど、低中速域でのレスポンスを重視して設計された。

セミダブルクレードルの高張力鋼ペリメターフレームは従来型をベースに、シートレールを新設計。従来より位置を下げることでシート高を低くしつつウレタン量を増加させ、足着き性と快適性をアップした。加えて、シート高を増やすことなくサスストローク量を増加させている。

セミダブルクレードルの高張力鋼ペリメターフレームは従来型をベースに、シートレールを新設計。従来より位置を下げることでシート高を低くしつつウレタン量を増加させ、足着き性と快適性をアップした。加えて、シート高を増やすことなくサスストローク量を増加させている。STDのホイールトラベルはフロント240mm、リア250mmを確保。KLX230Sとシェルパはフロント200mm、リア223mmを確保している。

シェルパはKLX230Sを基盤に、専用のヘッドライトカバーやシュラウド、サイドカバーで外観を差別化。さらにフロントのスタックパイプ、ハンドガード、アルミスキッドプレートでオフロード性能を高めている。

↑KLX230シェルパの車体色はミディアムクラウディグレー、ミディアムスモーキーグリーン、ホワイティッシュベージュの3カラー(写真左から)。※筆者撮影

 

↑シェルパは金属ステー付きのしっかりしたハンドガードとホルダー部が太いアルミテーパードハンドルバーを採用。シュラウドがコンパクトで前輪周辺の路面が見やすい。

↑KLX230/Sのハンドルはブレースバー付きで幅広く、オフ車然としたスタイル。メーターにはシリーズ共通でスマホ接続機能も搭載する。

 

KLX230S/KLX230シェルパ主要諸元(2025年型 国内仕様)
・全長×全幅×全高:2080 × 845 × 1140mm【2080×920×1150mm】 
・ホイールベース:1365mm【1365mm】
・シート高:845mm【845mm】
・車重:133kg【134kg】
・エンジン:空冷4ストローク単気筒SOHC2バルブ 232cc
・最高出力:18PS/8000rpm
・最大トルク:1.9kgm/6400rpm
・燃料タンク容量:7.6L
・変速機:6段リターン
・ブレーキ:F=ディスク、R=ディスク
・タイヤ:F=2.75×21、R=4.10×18
・価格:59万4000円【63万8000円】
【】内はシェルパ

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