現在まで脈々と続くバーチカルツインの伝統

W800は、2011年に登場したカワサキのネオクラシックモデルで、シリンダーが垂直に立ち上がるバーチカルツインの空冷エンジンが最大の特徴。高性能化が進んだ現代のバイクではエンジンが前傾しているが、昔ながらのスタイルを継承して現代に受け継いでいる。

この伝統のエンジン型式が車名「ダブル」の由来。原点は1955年のメグロ・セニアT1にまで遡り、国産車では他にはスーパーカブくらいしかないほどの歴史を誇っている。セニアT1は国産車最高性能を目標に開発され、651ccのバーチカルツインを搭載した当時の日本のフラッグシップとして名高いモデルだ。

カワサキは1964年にメグロを吸収合併し、1966年にはメグロのモデルをベースに製品化したバーチカルツインの650ーW1を発売。W1が国産車最大排気量と180km/hの最高速を誇ったのはメグロの技術が土台となっているのだ。また、カワサキが伝統的に大排気量スポーツ車を得意とするのは、メグロの血筋故と言えるだろう。

W1シリーズは、1969年のマッハ3や1972年のZ1の登場でお役御免となっていったが、日本の大排気量スポーツモデルの名機として燦然と輝く一台。その伝統を現代に受け継ぐモデルとして、1999年にW650がデビューし、2011年には排出ガス規制に対応するためにW800へと進化を遂げて現在に至っている。

1955年に発売されたメグロ最上級モデルのセニア T1。白バイ用として開発され、OHV2バルブ2気筒651ccエンジンは29.5PSを発揮し最高速は130km/hを実現。電気溶接など他社に先駆けた技術でフレームなどの工作精度も向上している。

セニア T2、その後継機のスタミナK1、カワサキ500メグロK2を経て、1966年にメグロ系技術者と川崎航空機工業の設計でエンジンが改良され、650-W1へと発展。エンジンはOHV2バルブ2気筒624ccで47PSを発揮したズバ抜けたモデルだった。

W1は、1973年にW3に進化して生産を終了。時代が一巡した1999年、現代に蘇ったのがW650でOHC4バルブ2気筒675ccの完全新設計エンジンを搭載。これが現在まで続くW800の元になり、2021年にはメグロK3へと先祖帰りを果たした。

W800はW650をボアアップし、キャブレターからFIに変更

1999年に登場したW650は、W1シリーズと共通の空冷バーチカルツインエンジンを採用するが、設計は現代化されており、SOHC4バルブのシリンダーヘッドやミッション一体型のクランクケースを採用していた。

一方、エンジンの外観をクラシカルに見せるためにカムシャフトをべべルギア駆動とし、エンジン右側に筒状のべべルギアタワーを設置。このタワーは、OHVエンジンのプッシュロッドカバーにも似た現代のエンジンではまず見られないパーツとなる。また、あえてキックスターターを装備するなど徹底的に往年の雰囲気を演出していたのだ。

2011年のW800は、これをベースに排気量を675ccから773ccに拡大。従来のボア72mm×ストローク83mmを5mmボアアップしているが、それでもロングストローク設定なのは変わらず。W1以来の360度クランクシャフトは継続し、2基のビッグシングルエンジンが順番に爆発しているような味わい深いエンジン特性となっている。

また、キャブレターだった燃料供給方式はフューエルインジェクションとし、サブスロットルを採用する事で自然なスロットルフィールを実現している。FI化に伴い必要となる燃料ポンプはタンク外に設置し、スタイルのキモである燃料タンクを容量も含めて変えることなくFI化を実現した。

2009年にW650が生産を終了し、2011年にFIを搭載して排ガス規制に対応したのがW800となる。写真の車両は2012年モデルで前年から継続のメタリックダークグリーン。W800ではキックスターターが廃止された。

W1のOHVからSOHCにメカニズムは変更されているが、ともにシリンダーヘッドがコンパクトな機構なので違和感はなし。シリンダーが垂直に立ち上がるエンジンはいかにもクラシカルな印象を与える。

メーターはアナログの2眼タイプ。ただし、ワイヤー式ではなく電気式とし厚みが抑えられている。メーター内の液晶画面にはオド、トリップメーター、時計を表示し、タコメーターには各種インジケーターを配置。

何の変哲もない電球式丸型ヘッドライトは、ガラスレンズで今見ると逆に新鮮。ウインカーはW650では細長タイプだったものをW800では丸型とし、よりクラシカルな印象となった。

燃料タンクはW650と同じ14Lを確保している。ぼかしが美しいデザインは、グラフィックに水転写デカールを採用し、繊細なグラデーションと凹凸のない美しい仕上がりを実現している。

タックロールシートはW800では間隔が狭くなっている。シートは前方をスリムな形状として足着き性を確保している。

フロント19インチの大径ホイールはクラシカルな外観だけでなく、穏やかな旋回性と直進安定性を適度にバランス。フロントには径300mmのシングルディスクブレーキを採用する。

弾けるような独特のエキゾーストノートを演出するキャブトンタイプのマフラーを採用。内部の構造は低中速域で最大のパフォーマンスが得られるよう設計されている。現代のモデルなので音は静かだ。

2012年型W800主要諸元

・全長×全幅×全高:2180×790×1075mm
・ホイールベース:1465mm
・シート高:790mm
・車重:216kg
・エジンン:空冷4ストローク並列2筒SOHC4バルブ 773cc
・最高出力:48PS/6500rpm
・最大トルク:6.3㎏m/2500rpm
・燃料タンク容量:14L
・変速機:5段リターン
・ブレーキ:F=ディスク、R=ドラム
・タイヤ:F=100/90-19、R=130/80-18
・価格:80万9524円(税抜当時価格)

ライバル車紹介(同門含む)

1999年に登場したW650は、排ガス規制の影響で2009年4月にW650ファイナルエディションを発売して生産終了した。最後の675ccキャブレターモデルは48PSを発揮した。

2006年には、W650をベースにストロークダウンして399ccとしたW400がデビュー。これも排ガス規制の影響で、2009年4月発売のファイナルエディション(写真)で生産終了した。

2011年に排気量拡大&FI化で生まれ変わったW800だが、2016年に再び排ガス規制の影響からW800ファイナルエディション(写真)で生産終了。カラーリングは往年のW3を再現したもの。

排ガス規制に対応し、2019年にW800カフェが新生デビュー。ビキニカウルやローハンドルのカフェスタイルに加え、強化されたフレームや前後18インチホイール、リアディスクブレーキを装備して走行性能も大幅に向上した。

2019年にはW800ストリートも同時デビュー。W800カフェを基本にアップハンドルでゆったり乗れるモデルとした。リアディスクブレーキ化に伴いABSも導入している。

2020年に排ガス規制に対応したW800が復活。車体はカフェ&ストリートを踏襲するが、フロントホイールは昔ながらの19インチに拡大。旧W800と見分けるポイントはLEDヘッドライトとなる。

2021年、フロント19インチの新型W800をベースに56年ぶりにメグロが大復活。車名は前身のメグロK2(1965年)を受け継ぐメグロK3となり、メグロ→W→メグロと伝統が継承された。

ヤマハ初の4ストロークモデルである1970年のXS-1を現代に再現したXSR700は、流れ的にはW800のライバルに相当。XS-1はW1同様にバーチカルツインのエンジンを採用していたモデルだが、XSR700はそのイメージだけを踏襲している。

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