シグナスXからエンジン、シャーシなど全てを見直すフルモデルチェンジ

2021年末に発売されたシグナスグリファス(CYGNUS GRYPHUS=コンドル)は、シグナスXの後継機として発売された原付二種のスポーツスクーター。エンジンはシリーズ初の水冷エンジンを搭載し、低速から高速まで全域で優れたトルク特性を発揮するVVA(Variable Valve Actuation=可変バルブ)を採用している。

エンジンは高燃焼効率、フリクションロス低減、冷却性能向上を実現し、走りの楽しさと環境性能を両立させるブルーコアエンジンを搭載。圧縮比は従来の10:1から11.2:1へと高め、混合気のタンブル(縦渦)を効果的に生成させ、FIセッティングとの相乗効果で高出力と高燃費を両立するものとした。

フレームは新設計のアンダーボーンタイプを採用し、ステップスルーのボディ形状を継続。ホイールベースをシグナスXよりも35mmも延長している一方、キャスター角はわずかに立てられており、安定性と旋回性をバランスさせている。ホイールサイズは12インチを継続して俊敏さを重視、タイヤサイズは前後とも10mmワイドとしてエンジンパワーの向上に対応した。

外観は完全に刷新され、初代YZF-R25を彷彿とさせる逆スラントノーズのフェイスデザインに。2眼LEDヘッドライトが獲物に狙いを定める肉食獣のイメージを表現している。実際に乗っても、グリファスの走りは肉食獣のそれ。力強い走りは、都会のコンドルと言えるものだった。

2021年12月23日に発売されたシグナスグリファス。エンジンや車体、外観まで完全に新しく生まれ変わったシグナスシリーズの最新作で、従来の空冷からついに水冷としたエンジンは12PSを発揮している。

身長170cmのライディングポジションは足の位置が少し高い印象で膝が曲がる。センターフレームのないステップスルーボディをシグナスXから踏襲する。

体重65kgの足着き性は少しかかとが浮く。前作のシグナスXでは両かかとがほぼ接地したので、これはわずかに悪化した部分。シート高は775mm→785mmと10mmアップしている。

前作以上にとてつもなく速い! 原二スクーターに速さを求めるならシグナスグリファス

今回、シグナスグリファスに乗る前に従来型のシグナスXにも試乗。Xの印象は、とてつもなく速い! というもので、原二スクーターでは敵なしでは? とさえ思える走りを見せてくれた。そして、グリファスについては排ガス規制の影響などで、Xを超えることは難しいだろうとも予想していた。

ところがである。シグナスグリファスはそれ以上にとてつもなく速い! 排ガス規制なんてなかったかのように純粋に性能アップしているのに驚いた。私のこれまでの試乗経験で体感的に一番速い原二スクーターはグリファスと言える。ヤマハが車名にコンドルを意味する「グリファス」と付けたのも大いに納得できる仕上がりだ。

特に爽快なのは高回転域で、6000rpmでVVAが作動し高回転カムに切り替わってからが本領発揮となる。CVTの減速比が高速側に移行し、エンジン回転がパワーバンドの8000rpmあたりに上昇すると150ccクラスと同等かそれ以上のパワーフィールになり、どんどん車速が上がっていくのだ。

高速道路に乗れない原二スクーターには過剰と思えるほどのポテンシャルが与えられており、通勤時に次々とライバルを置き去りにしていく走りはまさにコンドル。加えてシグナスの名にも恥じない走りを実現している。一方、VVAが作動するまでの加速は抑えられている感じで、スタートダッシュはXの方が鋭いような印象だ。

NMAXにも使われている水冷4バルブ124ccブルーコアエンジンを採用。最高出力は12PSを発揮し、6000rpmで高速型カムシャフトに切り替わるVVAを装備する。

VVAが作動するとメーター左上にインジケーターが点灯する。30km/h前後から高回転型カムを使っているのが分かる。

シグナスグリファスは、セルと発電機を一体化したスマートモータージェネレーターを採用するので、エンジン始動の際にモーター音がしなくなっている。

新しいシャーシは、シグナスXにあった不安定な挙動を抑制している

高回転カムに切り替わるとすさまじい速さを発揮するシグナスグリファスだが、シャーシの進化で安定性を獲得しているのも特筆したい。従来型のシグナスXもグリファスと同じようにかなり速いが、路面状況によってはヒヤリとする場面があったのだ。グリファスは、Xと同等以上の速さを発揮しつつ安定感が増している。

ホイールサイズはXもグリファスも12インチで、安定性ではNMAXの13インチ、PCXの前14インチには敵わない。それでもグリファスがXよりも安定した印象を受けるのは、ホイールベースの延長が効いていると思われる。また、サスペンションは硬めだが高速域で機能するセッティングなので、これも安定性向上に一役買っているだろう。

ブレーキは前後ディスクでかなりよく止まる。リアはディスク径が30mm拡大され、Xよりも車重が6kg増した分を補っているようだ。また、左レバーで前後が制動されるコンビブレーキを採用しつつ、ABSの採用を見送っているので、余計な重量及びコスト増が避けられているのはいい面である。

装備ではシグナスXにはなかったUSBソケットを追加。一方、発電機とスターターの機能を持つスマートモータージェネレーターを採用しつつ、アイドリングストップ機構は不採用(ホンダ車は同モーターとアイドリングストップが必ずセット)なのも潔い割り切りで、過剰装備に目をくれず販売価格をシグナスXの2万円(税抜)増に抑えているのもグリファスのセールスポイントだろう。

フロントは径245mmのディスクブレーキを採用。回転センサーとリングはついているが、ABSは装備していない。フロントフォークは減衰力設定を最適化している。

リアは径230mmのディスクブレーキでシグナスXより径を30mm拡大して制動力を強化。前後タイヤは12インチを継続しながらそれぞれ10mmワイドになっている。

リアは豪華な2本ショックでプリロード調整付き。標準では最弱から1 コマ進めた位置にセットされているが、それでもサス設定は硬めとなる。

シートは前方が絞り込まれており、足着き性に配慮した形状。タンデムのグラブバーはセパレートタイプで荷掛けフックはなし。高密度のクッションシートを採用している。

シート下容量は28Lとされヘルメット1個分のスペースを確保。他にチェストプロテクターやレインウエアなども収納可能だ。

シートの裏に車載工具があり、リアサス調整用のフックレンチを搭載している。

ヘッドライトはLEDを採用し、ロービームで右側、ハイビームで左も点灯する。ウインカー部分は、鳥類最大級となるコンドルの翼をイメージしたデザインだろう。

テールランプは、縦型の赤灯がブレーキランプで横型の2本はポジション灯となる。最新のMTシリーズのような印象的なデザインを採用。

アッパーカウルには小ぶりなスクリーンが別体で装着されている。

ハンドルまわりはコンパクトですり抜けしやすい。グリップは樽型でフィット感が高かった。

フロアまわりはD字型のコンビニフックがありビジネスバッグも積載可能なスペースがある。給油口は左上に設置されているので簡単にアクセスできる。

シグナスXは12V電源だったが、グリファスではUSBジャックに改められた。コードだけで簡単にスマートフォンを充電できるのはありがたい。

メーターはフル液晶タイプを踏襲するが、デザインを刷新。青バックで日中の視認性はいまひとつだった。下からバーが上昇する三角形のタコメーターが斬新。

2022年型シグナスグリファス主要諸元

・全長×全幅×全高:1935×690×1160mm
・ホイールベース:1340mm
・シート高:785mm
・車重:125kg
・エンジン:水冷4ストローク単気筒SOHC4バルブ 124cc
・最高出力:12PS/8000rpm
・最大トルク:1.1kgf-m/6000rpm
・燃料タンク容量:6.1L
・変速機:Vベルト式無段変速/オートマチック
・ブレーキ:F=ディスク、R=ディスク
・タイヤ:F=120/70-12、R=130/70-12
・価格:35万7500円

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