アドレスV125を過去のものとした通勤快速キング

シグナス125SVの後継機として2003年に発売されたシグナスXは、前後12インチのホイールを採用した通勤快速スクーター。シグナス125SVは10インチだったが、サイズアップとともに走行性能が向上し、通勤快速の代名詞として君臨していたスズキのアドレスV125を過去のものとした名車としても知られている。

このシグナスXも、2021年末に新たに水冷エンジンを採用した新世代のシグナス グリファスが発売され、撮影車の2020年型で最終となってしまった。しかし、シンプルで軽量な空冷エンジンは当初からメッキシリンダーを採用しており完成度が高く、4バルブによる性能面での定評もあった。

シグナスXは2003年の初代、2007年にFI化した2代目、2013年のフェイスリフト版、2018年に発売されたフルLEDヘッドライトの最終型(撮影車)に分けられる。この間、ヤマハからはNMAXやトリシティ125、アクシスZが発売されたが、シグナスXは20年近く販売が続けられてきた。

ロングセラーとなったのは、やはり通勤快速の鉄板モデルとして支持されてきたからだろう。二輪車新聞の推計値では、2020年は4300台、2021年は4100台と現在でも販売台数は安定しており、実績はトリシティ125やNMAXよりも上。通勤時間帯の街道を颯爽と駆け抜けていくシグナスXを見ない日はないと言えるほどメジャーな存在だ。

現行のシグナスXは2018年末に上級版のSRと統合。写真は2020年カラーとなる。現行モデルは平成28年排ガス規制対応で最高出力は歴代で最も低い9.8PSだが、走りは期待以上だった。

シグナスXは上級版のSRが従来は本流だった。SRは2004年の初代、2008年のFI化、2011年のタコメーター追加、2013年、2015年のフェイスリフト、2017年の排ガス規制対応とこまめにモデルチェンジしてきたのがその証拠。写真は、2017年のモトGPエディション。

身長170cmのライディングポジションは、ステップが高くハンドルが低めでコンパクトな印象。ステップスルータイプのスクーターの標準的なポジションだ。

体重65kgで足着き性は両かかとがほぼ接地する。シート下容量も確保しつつ、この足着き性は高評価だ。

通勤では無敵!? そう思える元気な走り

乗ってみるとシグナスXは期待通り、通勤では無敵と思える走りを見せてくれた。シグナスXの試乗以前にこれまでホンダのPCX、リード125、ヤマハのNMAXについても書いてきたが、どのモデルよりも痛快だった。

初期加速から伸びに至るまでの全速度域がパワフルで、その速さは「本当に9.8PS?」と疑うレベル。とにかくエンジンが元気で、通勤でライバルとなる他の125ccスクーターがバックミラーの中でどんどん小さくなっていったのには驚いた。これは人気なのも当たり前だな〜、と走って納得ができたのだ。

そして、シグナスXの試乗で以前台湾に取材に行ったことを思い出した。台湾ではスクーターが庶民の足として広く活用されており、通勤時間帯はスクーターが道を埋め尽くすほど利用が多い。その際にキムコのモデルを一気試乗したのだが、激戦区のトップメーカーだけに元気な走りが印象的だった。

シグナスXには、その時に感じたのと同じ「元気さ」があり、それもそのはずヤマハ台湾製で現地でも販売されていたモデルなのだ。いい意味で台湾テイストが色濃く残されており、世界屈指のスクーター激戦区で勝ち抜く走りを体現している。分かりやすく言うとホンダのモデルにはないヤンチャなところがウリだ。

エンジンは空冷単気筒SOHC4バルブで2007年型からFIを採用。初代10.4PS、2~3代目は11PSなのに対し最終型は9.8PSに抑えられているが、それを感じさせない走りを見せる。

台湾の通勤風景。温暖な気候から老若男女が幅広くスクーターを愛好している。台湾のトップメーカー・キムコは装備や性能面でハイスペックを奢る傾向が強く、シグナスXはそんな中で鍛えられたモデルだ。

シャーシは際どいくらいスポーティ! スクーターとしての利便性も優秀

とにかく走りが元気、シグナルダッシュで全開にすると交通の流れを一気にリードできるので、テンションが上がるシグナスX。前後12インチの足まわりは小回りも利くので、すり抜けも自在だ。車重も軽くホイールベースがコンパクトなことからPCXやNMAXよりも俊敏さを見せてくれる。

これにはいい面もあるが、安定性に欠けるという負の面もある。現在一大勢力となっているセンターフレームや大径ホイールを採用するPCXやNMAXなどのシャーシに比べて、路面の荒れや轍に対して挙動がバタつく傾向があり、走りが元気な分だけ際どさが感じられることがあった。また、ABSも非装備なのでそれも心得てライディングすべきだろう。

シグナスXの液晶メーターは、タコメーターが最も目立つようデザインされており、これがこのモデルのコンセプトを物語っている。リアのサスペンションも2本として、スクーターのパッケージの中で徹底的にスポーツ性を追求したレプリカ的モデルと言える。

もちろん利便性も優れており、シグナスXはシート下に31Lものトランクスペースを確保。給油口はシート下ではなくフロントポケット部分にあり、あまり屈まなくても給油できるのが嬉しい。他にも充電ソケットを用意しており、徹底的に通勤性能とスポーツ性を磨いたモデルだ。

前後ディスクブレーキを採用するのもハイスペックを追求する台湾の土地柄が感じられる部分。制動力、コントロール性は125ccスポーツバイクと遜色ない。

リアサスペンションは豪華な2本ショックでスイングアームはアルミ製。プリロード調整はクリック式で、車載工具のドライバーで簡単に変更可能だ。

ヘッドライトとポジション灯はLED。ウインカーは電球でハンドル部分にセットされている。

テール&ブレーキランプもLEDでスタイリッシュなデザインだ。グラブバーにはフックもあり積載にも配慮。

幅広だが前方を絞って足着き性も両立したシート。グラブバーも標準装備しており、二人乗りも十分こなせる。

シート下の容量は31Lも確保されており、ヘルメットとレインウェアも収納可能。PCXの30L、NMAXの23Lよりも大容量だ。

シート下の底部分にはドライバーとプラグレンチなど最低限の車載工具をセットする。

右にシャッター付きキーシリンダー、12V電源、グローブポケット、左にロック可能な給油口、中央にリング状のコンビニフックなど便利な装備が充実。ステップスルーなので足下に荷物を置くこともできる。

メーターはフル液晶でバーグラフ式タコメーターが上段にセットされる。時計や燃料計、トリップメーターもあり、必要十分な機能だ。

2020年型シグナスX主要諸元

・全長×全幅×全高:1890×690×1120mm
・ホイールベース:1305mm
・シート高:775mm
・車重:119kg
・エンジン:空冷4ストローク単気筒SOHC4バルブ 124cc
・最高出力:9.8PS/7500rpm
・最大トルク:1.0kgf・m/6000rpm
・燃料タンク容量:6.5L
・変速機:Vベルト式無段変速/オートマチック
・ブレーキ:F=ディスク、R=ディスク
・タイヤ:F=110/70-12、R=120/70-12
・価格:33万5000円

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