偉大な916系を超えるためにスタイルに新しい方向性を提案

ドゥカティの代表作と言えばスーパーバイクの916。これに異存があるライダーはほとんどいないだろう。鬼才、マッシモ・タンブリーニ氏の作品であり、1990年代のスーパーバイク世界選手権(SBK)での目覚ましい活躍、そして何よりもそのデザイン性の高さにおいても、バイク史の殿堂入り間違いなしのモデルだ。

1994年に登場した916(916cc)は1999年に996(996cc/998cc)に、そして2002年の998(998cc)へと進化していった。9年に渡りドゥカティのフラッグシップとして君臨し、SBKではデビューイヤーから3連覇。カール・フォガティ選手、トロイ・ベイリス選手がホンダなど日本メーカーを相手に6勝3敗という圧倒的な勝率を誇った。

この偉大なるモデルの後継として2003年にデビューしたのが999であり、そのミドルバージョンが749である。SBKのSS600レース参戦のベース車としてこちらもレース参戦を視野に開発されたモデルで、基本設計は999シリーズ(999cc)と共通。車名は749だが排気量は748ccと従来型と同じだ。

この749を語る上で避けて通れないのが、999シリーズと共通の独特なスタイル。ピエール・テルブランチ氏が、偉大な先代モデルを超えるべくデザインした渾身の作品だが、あまり支持を得られていなかった記憶がある。一言で表すなら異形。ちなみに著者はカッコいいと感じていた少数派だ。

1994年にデビューした916。当時、ドゥカティはカジバに吸収されており、916はビモータの創業者で当時カジバに所属していたマッシモ・タンブリーニ氏が生み出したモデルとしても有名。

916はSBKで圧倒的な強さを発揮。1994~1999年までの6年間で5度のチャンピオンに輝いた。写真右端がタンブリーニ氏だ。

2003年にデビューした999。998をベースにスタイルを完全新設計。従来のドゥカティのイメージとはかけ離れており、賛否両論を呼んだ。749はこれの弟分となる。

縦の2灯ヘッドライトに変更したのは過去との決別を意味する!?

749がデビューした2003年は、レースに参戦する日本の並列4気筒エンジンのスーパースポーツモデルが750cc→1000ccに拡大する前年で、ドゥカティのLツインが持つ約250ccのアドバンテージが消えかかっていた時期だ。そこで、兄貴分の999は排気量を999ccにまで拡大し、さらによりコンパクトなシリンダーヘッドを採用するテスタストレッタエンジンに進化させた。

一方、749も排気量を変えずにテスタストレッタエンジンを採用して日本勢の並列4気筒600ccに対抗したが、レースでは150ccのアドバンテージを持ってしても同年デビューのCBR600RRには対抗できなかった。

シャーシは998系のスチールトレリスを継承しており、日本のスーパースポーツがアルミフレーム一色という状況でも鉄パイプフレームを貫いて勝利を積み重ねていた。この強さからスチールトレリスフレームはドゥカティを象徴したメカになっている。

ドゥカティが培ってきたLツイン+鉄フレームという独自の武器を受け継ぎながら、そのピークとも言える時期に、過去を否定するかのような縦2眼のヘッドライトに刷新した999および749シリーズ。偉大なる先代を超えようという志は十分感じられるもので、スピードメーターにも縦型レイアウトを採用。メカではなくデザインで新たな魅力を打ち出したシリーズとなる。

撮影車は最終型となる2006年型の749ダーク。外装やシャーシは999と共通で排気量が異なる兄弟モデル。748で採用していた片持ちスイングアームを採用していないのも999および749系の特徴となる。

マフラーに直接テールランプやナンバープレートホルダーをくっつけてしまうところが斬新。当時は日本メーカーでもセンターアップサイレンサーが大流行していた。

後期型からはキャスト製のスイングアームがプレス製に置き換わった。レーサー譲りの高価なパーツを即市販車に投入する形でドゥカティは進化を重ねていた。

サスのリンクが上部にあるのもドゥカティスーパーバイクの伝統。ピボットシャフトはエンジンケースを貫通しており、独自のシャーシレイアウトを追求していた。

ブレーキは「アキシャルマウント」キャリパーのダブルディスクとなる。749がデビューした2003年当時はまだ「ラジアルマウント」キャリパーは一般的ではなかった。

独特なデザインのアッパーカウル。縦配置にこだわりスクリーン上にポジション灯がセットされているのも斬新なレイアウトだ。

タンクは樹脂製で容量は15.5L。着座位置からみるとY字形状となっておりニーグリップ部が極端にスリムになっている。

トップブリッジの肉抜きが大胆で美しいハンドルまわり。見ての通りハンドルはかなり低い位置にセットされている。999では可変キャスター機能を採用していた。

メーターも縦配置。インジケーターの配置にもこだわっており、頂点の三角マークはシフトアップインジケーター。左右のボタンまでデザインされており独特な形状をしている。

ドゥカティのスーパーバイクは手加減なしなので、扱いはシビア

ドゥカティのスーパーバイクシリーズはレプリカではなく本物。とにかく速さを優先しており、一般ライダーがそのカッコよさに惹かれてツーリングや街乗りで使おうとすると、ハードなライディングポジションやシビアなハンドリングに面食らうはずだ。

これは749も基本は同じ。Lツインエンジンの前後長も影響してかハンドルは遠くて低い。まず腕立て伏せをしているようなポジションに慣れないといけない。また、極端にスリムなタンクでニーグリップがしにくく最初は不安定になる感じだ。

凄いのがコーナリングでのフィーリングで、並列4気筒モデルに慣れた身からすると、ものすごく軽くリーンする。クランクシャフトの幅が狭いことからこのような特性になっていると理解しているが、「転倒してしまうのでは?」と感じるくらい軽いので、これも慎重に操作する必要がある。

ただし、749の場合はパワーが100PS程度と少し抑えられているので、低中速域のパンチ力は999ほどは強くない。その分ギクシャクしにくくなるので、初級ライダーは749を選ぶことをおススメしたい。

以前にレポートしたモンスター796と排気量は近いが、スーパーバイクにはモンスターシリーズのようなフレンドリーさは見られない。いつか自分の走りが「バチッとハマる」日を目指して精進するのも楽しみ!?

ドゥカティのスーパーバイクの速さを探求した森脇護さんの取り組み

余談になるが、749について書いているうちにモリワキエンジニアリングの森脇護さんが造ったレーシングマシンを思い出したので紹介したい。私は1999年からレース担当として国内のサーキットに通っていた時期があり、その時のエピソードとなる。海外のスーパーバイクレースは996が活躍していた時期だ。

日本では、末期を迎えていた750cc4気筒規格を打破すべくXフォーミュラというカテゴリーが新設され、ヨシムラやモリワキは独自のレーサーを開発。森脇さんは「ドゥカティの速さの秘密を知りたい」とホンダVTR1000SP-1を鉄フレームにしたMTM-1(モリワキツインモンスター)をサーキットに送り込んでいた。

これが2003年にはMD211VFでのモトGPへの参戦に繋がることになり、デスモセディチで参戦したドゥカティと並んで鉄フレームでモトGPに挑戦したメーカーに名を連ねた。時を経てドゥカティはアルミフレームにスイッチしており、森脇さんにドゥカティの速さの秘密が何だったかも聞かず終いのままだ。

2000年前後、日本のレーサーはホンダ以外は同じようなアルミフレームで同じような4気筒エンジンという型にハマっており、ドゥカティやモリワキが鉄フレームで戦う姿にロマンがあったのは間違いない。それが、ドゥカティをカリスマ化させており、今でも鉄フレームモデルに漂う魅力の源泉になっている。

2000年にサーキットで撮影したモリワキMTM-1。エンジンはホンダVTR1000SP-1のVツインを使っている。ライダーは森脇さんがオーストラリアから連れてきた若手のブロック・パークスで当時鈴鹿に住んでいた。

2005年に撮影したMD211VF。エンジンはRC211VのV型5気筒を使用した。2003~2004年にかけてモトGPに参戦したMD211VFは7ポイントを獲得。なぜ鉄フレームにこだわったのかは、モリワキのHPに詳しい。

MORIWAKI MotoGP PROJECT

2006年型749ダーク主要諸元

・全長×全幅×全高:2095×780×1110mm
・ホイールベース:1420mm
・シート高:780mm
・乾燥車重:199kg
・エンジン:水冷4ストロークL型2気筒DOHC4バルブ 748cc
・最高出力:103PS/10000rpm
・最大トルク:8.0kgf-m/8500rpm
・燃料タンク容量:15.5L
・変速機:6段リターン
・ブレーキ:F=Wディスク、R=ディスク
・タイヤ:F=120/70ZR17、R=180/55ZR17

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