欧州のネイキッドバイクと言えば原型はモンスターにある

ドゥカティを代表するモデルの一つとなったモンスターは、1993年に900がデビューすることでその歴史をスタートさせた。日本でもそうだが、1990年代はフルカウルからネイキッドの時代に移行した頃で、国内では1989年に登場したゼファーの大ヒットがきっかけとなった。

欧州と日本で少し異なるのは、日本のネイキッドは懐古調だったのに対し、モンスターは全くの異形だったこと。今でこそモンスター900は見慣れてしまったが、デビュー当時にその姿を写真で見た衝撃は今でも覚えている。酷評も当然あったが、筆者は「カッコイイ!」と一目見た瞬間に感じたのだ。

欧州のネイキッドはストリートファイターとも呼ばれるが、1980年代に性能が高められたサーキットでも通用するモデルのシャーシをそのまま使い、カウルを取り払っただけの割り切った構成がそれを物語っている。初代モンスターは、851系のトレリスフレームにSS900ベースの904ccLツインエンジンを搭載した、まさに「ファイター」と言えるものだった。

モンスター900はその孤高のコンセプトで一躍ヒットモデルとなり、1994年に入門版のモンスター600、1996年にモンスター750とシリーズを拡大していった。さらに2000年以降のFI化を経て2005年以降のS2Rシリーズまでが第一世代として進化を続けた。

これが第二世代にフルモデルチェンジしたのは2009年のモンスター696と1100からで、796は2011年にデビュー。696は両持ちスイングアームだったが、1100と796はS2Rで初採用された片持ちスイングアームを標準装備し、マフラーもS2Rのようなアップタイプとなった。

初代モンスター900。当時、スーパーバイクやスーパースポーツシリーズでフルカウルのイメージが強かったドゥカティに突如現れた異形のネイキッド。最高出力は74PS、乾燥重量は185kgだった。

初代モンスター900のシャーシは851/888シリーズのトレリスフレームを採用。日本車ではVFR750R(RC30)などにあたるTT-F1レースに参戦するベースモデルだった。一方でエンジンはSS900の904ccを使っていた。

第一世代のモンスターは、2003年に排気量アップしたモンスター800が2005年にS2Rに進化。この頃には日本メーカーも欧州ではストリートファイターを次々とデビューさせていたこともあり過激な外観で対抗した。

第二世代に進化を果たした空冷モンスター。写真は2013年の20周年アニバーサリーモデルで、初代カラーを身に纏っている。左の1100は2011年にEVOに進化し右2本マフラーとなった。

空冷第二世代は2バルブ機で最も内容が充実したモンスター

ここで、紹介するモンスター796は2014年モデルの一台。空冷第二世代のモンスター1100と696の間に位置するミドルサイズで、モンスター750、モンスター800、モンスターS2Rを経て2011年にデビューしたモデルである。

696cc/80PSの696と1078cc/95PSの1100がラインナップされた上で803cc/87PSの796が用意されたのは、その年に1100がEVOに進化して100PSの大台に乗り、さらに電子制御を導入してよりハイエンドのスペックを獲得したからだ。

空冷第二世代のモンスターは初代と同様にレース指向のシャーシを採用。レース部門のドゥカティコルセと共同で開発されたデスモセディチのショートフレームコンセプトを継承したトレリスフレームは、スーパーバイクの1098Rと同じ径と厚みのパイプで構成されている。また、シートフレームも鋳造アルミを採用したデスモセディチRRから派生しており、軽量に仕上げられている。

エンジンは空冷SOHC2バルブのデスモデュエを採用するが、ベースとなった696からクランクケースの改良などで1.9kgの軽量化を果たした。また、ストロークを8.8mm延長して排気量と圧縮比をアップし、696よりも1500rpm低い回転で最大トルク8.0kgf-mを発生する。

スタイルは楕円型のヘッドライトが特徴的で、中央にLEDのポジション灯を設置。タンクカバーは初代モンスターの形状を踏襲しつつ現代的にアレンジ。前方左右に設けた吸気口はダミーではなくエアボックスに直結。内部のタンクは樹脂製でシート下まで伸ばして容量を稼ぐ複雑な形状となっている。

空冷第二世代のモンスターは、2015年には完全に水冷モデルに入れ替わってシリーズが終了。唯一796がモンスター797に進化して2017~2020年まで発売されたが、現在は生産終了している。

写真は2014年モデルのモンスター796最終型。スーパーバイクと同じコンセプトのショートフレームや楕円形のヘッドライトでイメージを刷新したが、それでもモンスターらしさ健在のスタイルだ。

S2R以来、モンスターの定番となった片持ちスイングアームを踏襲。メガホンタイプの左右2本出しマフラーもスタイリッシュだ。

エンジンは空冷2バルブのデスモデュエを採用。アシストタイプのスリッパークラッチを搭載しているので、クラッチが軽い。

フロントブレーキは径320mmディスクにブレンボ製ラジアルマウント4ポットキャリパーの組み合わせ。現在でも十分通用する装備と言えるだろう。

タンク部分はカバーで中身は樹脂製タンクとなっている。ABS装着車はユニットを設置するためタンク容量が13.5L。ノンABSは15Lだ。

シートはタンデムシートカバーが付属。シート高は800mmでモンスター1100よりも10mm低くセットされている。

楕円形状のヘッドライトはハイとローが上下に分かれており、その境目にLEDのポジション灯をセットする。このレイアウトは後の水冷モンスター1200/821にも継承された。

ハンドルはテーパー形状のバーハンドルを採用。モンスターシリーズの特徴である低くワイドなポジションとなっている。

メーターはフル液晶のデジタル表示でコンパクトに仕上げられている。上部にシフトアップインジケーターが付いているのはこの時代のスポーツ車のお決まり。

モンスター796はドゥカティに乗り慣れていなくてもすぐに楽しめる

モンスターシリーズは、過去にモンスターS2RとS4Rの取材で試乗した経験があるのだが、あまり楽しめなかった印象が残っている。それ以外にスーパーバイクシリーズなどにも乗ったことがあるが、ドゥカティに対しては「手に負えない」という苦手意識がある。

そこで試乗した2014年モデルのモンスター796。これは正直「超楽しい!」という意外な印象だった。エンジンパワーはいい意味でドゥカティらしい荒々しさがなく、ライディングポジションも標準的。日本メーカーのバイクのようにとっつきやすかったのだ。それでいて、ヒラヒラとコーナリングできて、スタタタッ~と軽々と立ち上がれるLツインのメリットは健在。これでワインディングを走ったら相当楽しいはずだ。

約10年前のモデルなのでABS以外の電子制御はなく、スイッチやメーター表示もいたってシンプル。個人的にはキャブレターの苦労や面倒な電子制御の各種モード設定などをせずに済むこのくらいの年式や装備が好み。初めての外国車に選んでみてはいかがだろうか。

モンスター796は、エンジンが同じ爆発間隔となるヤマハのMT-07に似た気軽さとフィーリングだった。後に廉価版として用意されたモンスター797よりも足まわりなどが豪華装備で、さらにこの格好良さはいい!

2014年型モンスター796/ABS主要諸元

・全長×全幅×全高:2114×784×1079mm
・ホイールベース:1450mm
・シート高:800mm
・乾燥車重:167kg/169kg
・エンジン:空冷4ストロークL型2気筒SOHC2バルブ 803cc
・最高出力:87PS/8250rpm
・最大トルク:8.0kgf-m/6250rpm
・燃料タンク容量:15L/13.5L
・変速機:6段リターン
・ブレーキ:F=Wディスク、R=ディスク
・タイヤ:F=120/70ZR17、R=180/55ZR17

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