当初は空冷並列6気筒で開発されていた1980年代のフラッグシップ

1972年に量産車初の並列4気筒DOHCエンジンを搭載した900スーパー4(Z1)を世に送り出したカワサキが、新時代のモデルとして世に送り出したのが1984年のGPZ900R。カワサキ初の水冷並列4気筒DOHC4バルブエンジンはZ1の83PSを優に上回る115PSを発揮し、最高速240km/h以上、0-400m加速は10.976秒で世界最速を誇った。

GPZ900R以前に圧倒的な性能で世界を席巻したZ1の空冷エンジンから新世代機への開発は、1980年からプロジェクトがスタートした。当初は空冷2バルブ並列6気筒エンジンが開発され、100PSのパワーを発揮していた。これは開発目標の一つである「ハイパワー・低振動」を実現するものだったが、スムーズすぎるという理由で見送られることになったという。

そして次に着手したのが原点回帰の並列4気筒エンジン。新たにDOHC4バルブを採用し、次いで水冷化が決定された。空冷では熱問題をクリアできず、120PS以上のパワーを発生させることが難しいとされたのが理由となる。結果的にGPZ900Rの後継機であるZZ-R1100は当時最高の147PSをマークしており、その判断の正しさを証明した。

完成した二輪世界初の水冷並列4気筒DOHC4バルブエンジンは、コンパクト化のために現代の高性能バイクでも採用されるサイドカムチェーン方式とし、二輪初となる二次バランサーを採用して低振動化を図っている。これらの優れたエンジン設計により、ダイヤモンドフレームが大型車として初めて導入されたのだ。

外観はカワサキ初のフルカウルで、そのスタイルは空冷GPZ1100の流れを汲みつつ独自のデザインが与えられたもの。映画「トップガン」(1986年)での登場も人気を後押しし、現在に至るまでGPZ900Rを好むライダーは多い。北米では初めて「Ninja(ニンジャ)」のペットネームが与えられ、ブランド確立にも寄与した伝説的名車が元祖ニンジャのGPZ900Rだ。

1984年に発売されたGPZ900R。写真は北米仕様でサイドカバーに「Ninja(ニンジャ)」のロゴを置いていた。欧州仕様にはNinjaのロゴはなく、国内GPZ750Rは1985年のG2からNinjaのロゴ付きとなった。

サイドカムチェーン式の水冷並列4気筒エンジンをダイヤモンドフレームに搭載する画期的なメカニズムを採用。エンジンは車体剛性の一部としても活用され、車重の軽量化にも貢献していた。

1983年に発売されたGPZ1100は、空冷Zシリーズの集大成的モデルでGPZ900Rを上回る120PSを発揮し、燃料供給も先進のDFIを採用。1985年までGPZ900Rと併売された。

1984年に発売された750ターボは、ザッパー系空冷並列4気筒エンジンにターボを搭載し、GPZ900Rに迫る112PSを発揮。空冷1100やミドルクラスターボなど様々なメカニズムが最速を競ったが、最終的に生き残ったのは水冷エンジンだった。

8万台以上が生産されたロングセラーのGPZ900Rは3世代に分けられる

撮影車は欧州仕様の1988年モデルで型式はA5。初代の設計を受け継ぐ仕様で、16インチホイールを採用したフロントまわりにはAVDS(オートマチック・バリアブル・ダンピング・システム)が装着されており、フロントブレーキをかけてもサスペンションの過度な沈み込みを抑える当時流行したメカも採用。リアは18インチで前後ともバイアスタイヤの時代だった。

GPZ900Rの水冷直4をベースに、1986年には排気量を997ccに拡大したGPZ1000RXに発展。さらに1988年にはアルミフレームとダウンドラフトキャブレターを採用したZX-10、1990年には排気量を1052ccに拡大しつつラムエアシステムを導入したZZ-R1100へ進化を果たし、最高速は300km/hに迫った。

一方、GPZ900Rは根強い人気に支えられ後継モデルが発売された後も独自に進化を果たしていくことになった。1990年のA7では、フロントが一般的な17インチホイールに改められ、リアタイヤは18インチのままワイド化。フロントフォークは径38mm→41mm、ブレーキキャリパーも1ポット→4ポットに変更された。

最後のモデルチェンジとなったのは1999年のA12でラジアルタイヤを採用。フロントブレーキキャリパーは6ポットになり、ガス封入式リアサスペンション(従来はエア加圧式だった)に変更されるなど足まわりを充実させた。最終型となった2003年のA16は、初代モデルをオマージュした赤/灰と青/白の2色のカラーリングにファイナルエディションのエンブレムが同梱されていた。

撮影車は1988年型の欧州仕様GPZ900R。ブラック×グレーのカラーリングには本来、赤く塗装されたホイールが装着される。撮影車両はスクリーンもスモークタイプだが、他は基本ノーマル状態を保っている。

1970年代の丸基調のデザインから角基調に変化したトレンドを採り入れたボディデザインに長方形のテールランプがニンジャのリアまわりを特徴付けている。

エンジンは水冷並列4気筒DOHC4バルブ908cc。903ccのZ1から約10年を経て同等の排気量に原点回帰した。当初115PSだった出力はこのA5から110PSに変更された。

当時流行していた16インチのフロントホイールを採用。フロントフォーク前側に設置されているのが、アンチノーズダイブ機構のAVDSで底部に調整ダイヤルを装備している。

リアブレーキもフロントと同様の1ポットキャリパーを採用。

リアタイヤは18インチで標準は130/80V18。速度記号のVは240km/h対応で当時の高性能ぶりを物語っている。チェーン調整はエキセントリック式で中央のカラーを回転させて調整する。

燃料タンク容量は22L。キャブレターは水平配置のホリゾンタル式なので、前後に長い昔ながらのタンク形状だ。

シートは前後一体型でグラブバーも標準装備。キーシリンダーはシート脱着用とヘルメットホルダー用の2つが設置され、収納式の荷掛けフックもテールカウル左右に装備している。

エラの張ったデザインが特徴的なアッパーカウル。ウインカーも新形状の角型タイプを採用していた。

水平基調のテールまわりは発売当時の近未来的デザインでニンジャのポイントの一つ。

ハンドルはセパレートだがアップタイプとしている。カワサキらしく最速モデルでも実用性が高い。

スピード、タコ、燃料計、水温計のアナログ4連メーター。左側のボタンを押すと電圧もチェックできる。

【インプレション】20年ぶりのニンジャ! 意外と乗りやすかった

私が最初に買った大型バイクは1985年型のGPZ750R。ナナハンと言っても排気量以外はエンジン、車体ともGPZ900Rとほぼ同じなので、20年超ぶりのGPZ900Rの試乗は懐かしいの一言。そして当時とのギャップもあり、「意外に乗りやすい!」というのがファーストインプレッションだった。

私は1998年からバイクメディアで編集業務に携わることになったが、仕事で最新のバイクに乗るたびにGPZ750Rとの違いに気づくことになり、それまで走らせてはビッグバイクの迫力に浸り、眺めてはその格好よさに悦に入っていた愛着が薄れていくことになったのだ。

最新のモデルは、おしなべて速くて快適だった。ニンジャではハンドルにしがみついて、恐怖と闘いながら出していたスピードでも最新型では余裕だったり、ニンジャではビビりながら曲がっていたコーナーもあっさりクリアできたりして、バイクの進化を実感。同時に「ニンジャは乗りにくい」というイメージが私の中に植え付けられていたのかも知れない。

それが、久しぶりの試乗で特に印象的だったのは素直なハンドリング。GPZ750Rに乗っていた頃の私は経験不足で素のハンドリングを妨げていたのだろう。試乗したGPZ900Rは16インチの初期世代だが不自然な感覚はなく、1ポットのブレーキにも不足は感じなかった。ただ、当時も今もAVDSの効果はよく分からなかった…。

エンジンは、カワサキらしい重厚感のあるフィーリング。私は後にGPZ750Rに公認車検でGPZ1000RXの998ccに換装したのだが、750ccでも900ccでも重い回転物がグルグル回っている感じが好印象、乗った瞬間に当時の感覚が蘇った。車重はあるし設計は過渡期のものだが、レッドバロンならパーツ供給も安心なのであえて16インチニンジャに乗るのも面白いかも知れない。

GPZ900Rに試乗。20年以上前にニンジャを所有していた時は苦手だったコーナーリングも今回は楽しめた。

身長170cmのライディングポジション。以前所有していた時は大柄に感じたポジションも意外にコンパクト。前傾もわずかしかない。

体重60kgの足着き性は両足かかとまでべったり接地する。シート高はわずか780mmでリッター級にしては低い部類となる。

1988年型GPZ900R主要諸元

・全長×全幅×全高:2200×750×1215mm
・ホイールベース:1500mm
・シート高:780mm
・車重:228kg(乾燥)
・エンジン:水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ 908cc
・最高出力:110PS/9500rpm
・最大トルク:8.7kgf-m/8500rpm
・燃料タンク容量:22L
・変速機:6段リターン
・ブレーキ:F=Wディスク、R=ディスク
・タイヤ:F=120/80V16、R=130/80V18

SHARE IT!

この記事の執筆者

この記事に関連する記事