トライアンフのビッグアドベンチャーであるタイガー1200シリーズが日本上陸。伝統の3気筒エンジンは、タイガー900シリーズで実績のあったTプレーンの不等間隔爆発となり、大幅な軽量化も実現。オールラウンダーとして磨きをかけるべく、すべてを刷新していた。

●文:伊丹孝裕[ヤングマシン/ミリオーレ] ●写真:長谷川徹 ●外部リンク:トライアンフモーターサイクルズジャパン

上陸したばかりのタイガー1200シリーズの試乗会が開催。試乗会当日はワインディングやウエット路面、後日再び借り出して都内近郊&郊外を楽しんだ。

Newタイガー1200シリーズは、4種類から選べる!

トライアンフのアドベンチャー「タイガー1200」シリーズがフルモデルチェンジを受け、計4グレードが日本へ導入されることになった。語るべきことは、主に3つあり、まず1つ目が大幅に軽量化されたこと。2つ目が大幅に引き下げられた価格。そして3つ目が刷新されたエンジンと車体がもたらす高い一体感だ。

今回ラインナップされた4グレードは、下記の通りである。

タイガー1200GTプロ/245kg/236万4000円〜

タイガー1200GTエクスプローラー/255kg/254万9000円〜

タイガー1200ラリープロ/249kg/251万9000円〜

タイガー1200ラリーエクスプローラー/261kg/269万9000円〜

タイプは、大きく分けてGT系とラリー系があり、GT系はフロントに19インチ、リアに18インチホイールを組み合わせる一方、ラリー系はフロントに21インチホイールを装着。オフロードにおける走破性が重視された仕様となる。

また、それぞれの上位グレードとして、エクスプローラーを用意。プロと異なる点は、燃料タンク容量の増大(20L→30L)を筆頭に、各種ガード類、タイヤ空気圧管理システム、シートヒーター、死角にいる車両を検知するブラインドスポットレーダーなどが追加装備される点だ。

大幅な軽量化を実現し、価格もダウン

ではまず、どれくらい軽くなったのか? 261kg(当時の公式サイトには243kgとあるが、これは乾燥重量だ)だった従来モデルの「タイガー1200XRT」を引き合いに出すと、新しいタイガー1200GTプロは16kgの軽量化を達成している。

その内訳を見ていくと、エンジンでマイナス15kg、フレームでマイナス5kg、スイングアームでマイナス1.5kg、アルミ燃料タンクでマイナス2.7kg、リチウムバッテリーでマイナス2.3kgなどがその最たる部分で、コンポーネント単体で合算すると、26.5kgも削ぎ落されたことになる。もちろん装備の追加や設計変更によって重量が増した部分もあるため、差し引きした数値の一例が、16kgの軽量化というわけだ。

一般公道では、タイガー1200 GTプロとGTエクスプローラーを試乗することができた。

軸配置を見直したことでコンパクト化したエンジン。前モデルより15kgも軽くなった。900で定評のあるTプレーンクランクシャフトを採用し、不等間隔爆発に。

現実的な面で嬉しいのは、価格の低下だろう。新しいGTプロとGTエクスプローラーが、それぞれ236万4000円と254万9000円なのに対し、従来モデルのタイガー1200XRTは275万円。同様に、新しいラリープロとラリーエクスプーラーが、251万9000円と269万9000円なのに対し、これらに相当する「タイガー1200XCA」は、283万7700円だった。

モデルチェンジの度に価格がどんどん上昇していくことに慣れ、もしくはそれにあきらめてしまっている今、この事実はちょっと特筆に値する。だからと言って、簡略化されている装備はなにひとつなく、電子デバイスや安全性は大きく向上。これほどコストパフォーマンスに優れるフルモデルチェンジは、昨今、他になかったはずだ。

威圧感のないビッグアドベンチャー

今回はラリープロをクローズドコースで、GTプロとGTエクスプローラーを一般公道で試すことができた。ただし、クローズドコースの路面は雨を含み、しかも粘土質の区間もあったため、軽量のオフロードモデルでも乗り手を選ぶほど。下手にコースインすると立ち往生する可能性があったため、不整地での振る舞いは別の機会を設けたい。ひとまず、転ぶことなく車両を戻せただけで一定の評価に値する。

もっとも、一般公道も雨に見舞われたわけだが、ここで好印象だったのが、軽量なGTプロではなく、より大きくて重いGTエクスプローラー(撮影時間の都合上、走行写真がなくて申し訳ない)の方だった。

試乗会当日はかなりタイトなワインディングをテスト。こんなシチュエーションでのUターンも苦にならない扱いやすさが魅力。

いくら軽くなったとはいえ、GTエクスプローラーの車重は255kgに達し、しかも30Lの大容量ガソリンタンクを抱えて走ることになる。本来なら、それを聞いただけで及び腰になるところだが、同様に30Lタンクを備えるBMW・R1250GSアドベンチャーやドゥカティ・ムルティストラーダ1260エンデューロと比較すると、威圧感はほとんどないに等しい。

850mmと870mmに切り換えられるシート高は、低い方にセットしておけば、両足の母指球が地面に着き(ライダー身長174cm/体重63kg)、フルタンクに近い状態でも車体の引き起こしには、それほど力を要さない。走り出してもその印象は変わらず、この手のモデルでは、極低速のストップ&ゴーやUターンもできるだけ避けたいものながら、なんの苦もなく行えることに驚かされた。もちろん、GTプロならさらに安楽である。

重量バランスが前後方向にも上下方向にも優れ、実際のサイズよりもずっとコンパクトに感じられるところがいい。ハンドルフルロック状態でもグラリと来ることがなく、クルマ1台分の峠道を行ったり来たりする撮影も難なくこなすことができた。

上上がタイガー1200GTプロと1200ラリープロの20Lタンクで、下が1200GTエクスプローラーと1200ラリーエクスプローラーに採用される30Lタンク。左右ガードの張り出しもあるため見た目はかなり威圧感がある。

また、普通なら半クラッチを多用するような場面で大いに役立ってくれたのが、発進をアシストする機能だ。不思議なことに、トライアンフはこれについて特に言及しておらず、リリースにも記載されていないのだが、クラッチレバーを離していくと、あるタイミングでエンジン回転数が上昇し、ストールを防いでくれていることが分かる。この機能とヒルホールドコントロール(坂道発進などでブレーキを一定時間キープしてくれるデバイス)を上手く使えば、エンジンストップのリスクからほぼ解放されるに違いない。

イギリス製アドベンチャー。タイガー1200シリーズはそんな英国クラフトマンシップを感じさせてくれる。

随所から感じさせる英国ブランドらしさ

タイガー1200全般に言えることだが、こういうさりげないおもてなしが車体各部に散りばめられ、それが安心感や一体感、扱いやすさの元になっている。ライダーをフォローする実直な作り込みに、英国人気質、あるいは英国ブランドらしさがうかがえる。

英国らしさと言えば、合理的な物事の進め方もそのひとつで、例えばリンクレスになったリアサスペンションにその一端が見て取れる。従来モデルに備わっていたリンクが廃されたのは、コストダウンのためではない。SHOWAのセミアクティブ電子制御サスペンションが新たに採用され、サスペンションのストローク量やストロークスピードがリアルタイムで変化。これによって、リンク機構が受け持っていた領域をサスペンション本体がカバーできるようになり、リンクの必要性がなくなったというわけだ。

スイングアームは、スチール/アルミニウム/マグネシウムのハイブリッド構造によって、軽さと部品点数の削減と整備性の良さがそれぞれ向上。エンジンをフロントに寄せ、荷重配分を最適化するために左右に分割されたラジエターなどにも、機能ありきの合理主義があらわれている。

革新的なトライリンクスイングアームを採用。駆動は耐久性やメンテナンス性に優れたシャフトドライブを採用する。

リアサスペンションはリンクレスのモノサス。電子制御が進化したことでリンクレスを実現。車体右側にはプリロードを調整するための大きめなアクチュエーターを装備。

フロントフォークのトップからは減衰力を連続的に変化させるためのコードが出る。GTはキャストホイールの19インチで、ラリーはスポークホイールの21インチとなる。キャリパーはブレンボ製モノブロック。

一方、まったく新しいシステムの導入も忘れてはいない。それがGTエクスプローラーとラリーエクスプローラーに採用された「ブラインドスポットレーダー」だ。これはコンチネンタル社との共同開発によるもので、車体後部にミリ波レーダーを設置。自車の死角に入った車両や、後部から接近する車両を検知し、サイドミラーに備えられたインジケーターを介して危険を知らせるセーフティデバイスである。

相手車両の接近度合いに応じてインジケーターの点滅速度が変化する他、接近の方向によって片側、もしくは両側が点滅。思わぬところにクルマやバイクがいてヒヤリとする場面は、誰にも経験があるとも思うが、そういう状況に起因する事故やトラブルを未然に防げる可能性が高い。

不等間隔爆発の1160cc3気筒エンジンは150psを発揮

エンジンは、スピードトリプルRSと基本設計を共有する1160ccの水冷DOHC並列3気筒だ。ただし、クランクピンが90°ずつ位相された「Tプレーン・トリプル・クランクシャフト」に換装され(現行のタイガー900シリーズで実用化)、クランクが180°→270°→270°と回転する毎に点火する不等間隔爆発を得ている。

トライアンフは、これによってトラクションとトルク特性をバランスさせることを試みたわけだが、その目論見は成功している。スロットル開度に対して、どの回転域からもリニアな反応を示し、タイヤのグリップ感が途切れることなく伝わってくる。フルタンクに近いGTエクスプローラーを6速2000rpmで走らせ、そこからスロットルを開けてもスムーズに増速。低回転域のフレキシビリティに文句をつける隙はない。

エンジンの出力特性と、サスペンションの減衰力とプリロード、トラクションコントロール、ABSなどが最適化されるライディングモードには、レイン/ロード/スポーツ/オフロード/ライダー(それぞれの介入度を好みでカスタマイズできる)があり、これはGTプロも同様だ。

最も穏やかなモードはレインだが、ほとんどの場面をこれ一択で済ませられるほど、充分な余力がある。他のモードを選択したり、調整する場合も極めて分かりやすく、ハンドル左側に備えられたモードボタンとジョイスティックで走行中も簡単に操作が可能。メーターに表示されるグラフィックの美しさも含めて、トライアンフの優れたインターフェイスは他メーカーから一歩抜きん出ている。

メーターは好みに合わせて様々な表示方法から選べる。ライディングモードは、レイン、ロード、スポーツ、オフロード、ライダー(制御の介入度を好みでカスタマイズできる)から選べ、モードによって出力特性だけでなくトラクションコントロールやABSなどの介入度合いも変化。クイックシフトはアップ&ダウンに対応。

すべてにおいて上質なオールラウンダー

ところで、試乗会の会場は開放的な空間だったために気がつかなったが、後日あらためてGTエクスプローラーを借り出した時、排気音の静かさが好印象だった。バイクで出掛けたり帰宅したりするのは、得てして早朝や深夜になりがちながら、必要以上に気をつかわないで済むほど、音量も音質も抑え込まれていた。

ビッグアドベンチャーを選ぶ、多くのユーザーが好んで走るであろう、高速道路や中高速のワインディングはどうか。そこで体感できたのは、ハンドリングの穏やかさだ。いたずらにスポーティでもなければ、ダル過ぎるわけでもなく、車体をリーンさせた分だけスムーズに旋回。タイヤ前後に荷重が均等に掛かり、しなやかなサスペンションがそれを後押ししてくれる。なにがあっても破綻しそうにない高いスタビリティを感じながら、美しい軌跡を描くことができるはずだ。

旋回中にスロットルを開け閉めした時のいなし方もナチュラルで、ピッチング方向にもロール方向にも過度な姿勢変化は起こさない。特に開けた時は、ほどよい鼓動感がそのままトラクションへと変換され、バンク中の挙動がさらに安定。右手のオンオフでエンジンの出力とタイヤのグリップ力を自在に操れる手の内感が魅力だ。

最初に、軽量なGTプロよりもGTエクスプローラーの方が好印象と記したのは、このあたりのフィーリングに因るところが大きい。大容量ガソリンタンクがプラスに働き、その重量バランスとサスペンションのしなやかさによって、路面の追従性がより明確になっているからだ。乗り心地にも優れ、クルージングにさらなる上質さが加わっている。

もちろん、物理的にはGTプロの方が軽快なわけだが、重量差は10kgと意外と少ない。GTエクスプローラーを選ぶと、航続距離が200kmほど伸びることや、ブラインドスポットレーダーはGTプロに後付けできないことなど踏まえるとメリットは大きく、検討の価値がある価格差(18万5000円差)だと思う。

いずれにしても、長距離ツーリングを快適にこなすためのありとあらゆる装備が盛り込まれ、それでいて軽さとコンパクトさ、日常域での使い勝手にも配慮されているのが、新型タイガー1200というオールラウンダーである。

左右に振り分けられたラジエター。これによりエンジンを前方に搭載できスイングアームの長さを確保。マフラーは外車アドベンチャーの中ではかなり音量が抑えられている。

スクリーンは走行中でも手動で調整することが可能。

GTエクスプローラーとラリーエクスプローラーには、ブラインドスポットレーダーを搭載。これは車体後部にミリ波レーダーを設置し、自車の死角に入った車両や、後部から接近する車両を検知し、サイドミラー下のインジケーターを介して危険を知らせる四輪ではお馴染みのセーフティデバイス。

今回、オフロードコースはあまりコンディションが良くなかったため、インプレッションは別の機会にお届けできればと思う。

タイガー1200シリーズの4バリエーションを見てみよう!

タイガー1200GTプロ

TIGER 1200 GT PRO LUCERNE BLUE 239万4000円

TIGER 1200 GT PRO SNOWDONIA WHITE 236万4000円


TIGER 1200 GT PRO SAPPHIRE BLACK 239万4000円

主要諸元■全幅982 全高1436-1497(ミラーを含まない) 軸距1560 シート高850/870(各mm) 車重245kg(装備)■水冷4ストローク並列3気筒DOHC4バルブ 1160cc 150ps/9000pmm 13.26kgf・m/7000rpm 変速機6段 燃料タンク容量20L■ブレーキF=φ320mmダブルディスク+4ポットキャリパー R=φ282mmディスク+1ポットキャリパー タイヤサイズF=120/70R19 R=150/70R18

タイガー1200GTエクスプローラー

TIGER 1200 GT EXPLORER LUCERNE BLUE 259万4000円

TIGER 1200 GT EXPLORER SNOWDONIA WHITE 254万9000円

TIGER 1200 GT EXPLORER SAPPHIRE BLACK 257万9000円

主要諸元■全幅982 全高1436-1497(ミラーを含まない) 軸距1560 シート高850/870(各mm) 車重255kg(装備)■水冷4ストローク並列3気筒DOHC4バルブ 1160cc 150ps/9000pmm 13.26kgf・m/7000rpm 変速機6段 燃料タンク容量30L■ブレーキF=φ320mmダブルディスク+4ポットキャリパー R=φ282mmディスク+1ポットキャリパー タイヤサイズF=120/70R19 R=150/70R18■各種ガード類、タイヤ空気圧管理システム、シートヒーター、ブラインドスポットレーダーなども装備

タイガー1200ラリープロ

TIGER 1200 RALLY PRO MATT KHAKI GREEN 256万4000円

TIGER 1200 RALLY PRO SNOWDONIA WHITE 251万9000円

TIGER 1200 RALLY PRO SAPPHIRE BLACK 254万9000円

主要諸元■全幅982 全高1487-1547(ミラーを含まない) 軸距1560 シート高875/895(各mm) 車重249kg(装備)■水冷4ストローク並列3気筒DOHC4バルブ 1160cc 150ps/9000pmm 13.26kgf・m/7000rpm 変速機6段 燃料タンク容量20L■ブレーキF=φ320mmダブルディスク+4ポットキャリパー R=φ282mmディスク+1ポットキャリパー タイヤサイズF=90/90-21 R=150/70R18

タイガー1200ラリーエクスプローラー

TIGER 1200 RALLY EXPLORER MATT KHAKI GREEN 274万4000円

TIGER 1200 RALLY EXPLORER SNOWDONIA WHITE 269万9000円

TIGER 1200 RALLY EXPLORER SAPPHIRE BLACK 272万9000円

主要諸元■全幅982 全高1487-1547(ミラーを含まない) 軸距1560 シート高875/895(各mm) 車重261kg(装備)■水冷4ストローク並列3気筒DOHC4バルブ 1160cc 150ps/9000pmm 13.26kgf・m/7000rpm 変速機6段 燃料タンク容量30L■ブレーキF=φ320mmダブルディスク+4ポットキャリパー R=φ282mmディスク+1ポットキャリパー タイヤサイズF=90/90-21 R=150/70R18■各種ガード類、タイヤ空気圧管理システム、シートヒーター、ブラインドスポットレーダーなども装備

※本記事は“ミリオーレ”から寄稿されたものであり、著作上の権利および文責は寄稿元に属します。なお、掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。 ※特別な記載がないかぎり、価格情報は消費税込です

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