コックピットの物々しいダクトが迫力満点

カワサキのZXR250は近年注目を浴びた往年のレーサーレプリカモデル。初代は1989年にデビューし1999年まで販売は続いていたが、レプリカブームが去った後は人気が下火になっていた存在だ。それが2019年にZX-25Rが発表されて以来、そのルーツとなるZXR250も改めて脚光を浴びることになった。

4ストローク250ccの並列4気筒エンジンが復活したことを現代のライダーは大歓迎。1980年代のレーサーレプリカブーム時は250ccと言えば2ストロークが王道で、4気筒250ccモデルは女性向けと言われる風潮もあったほど。しかし、いざ生産終了になってみると2万rpm近くまで回るエンジンの爽快感を懐かしむ声が聞かれるようになっていたのだ。

1989年に発売された初代ZXR250は、クラス初の倒立フォークの採用やカワサキ初の走行風でエアボックスを過給するラムエアシステムなど、ライバルを凌ぐ装備が数多く盛り込まれていた。また、ダクトがタンクを貫通するクールエアシステムは、「レーシングスーパーウエポン」のキャッチフレーズ通りの“兵器”らしさを醸し出しており、ZXR250を象徴する装備となった。

1991年には特徴的だった丸目2灯のヘッドライトは廃止され、逆三角形タイプにイメージチェンジ。エンジンはショートストローク化や内部パーツの軽量化でレスポンスが向上した。メインフレームや前後ホイールまで新作されており、レプリカブームの陰りに抗うかのような気合の入ったフルモデルチェンジを実施した。

1989年の初代ZXR250は兄貴分のZXR400と同時デビュー。完全新作のレプリカモデルを2機種同時デビューさせるほどブームは加熱していたのだ。また、同年はゼファーも発売されており、この大ヒットでレプリカモデルブームは急速に衰退していった。

1991年にはC型にフルモデルチェンジ。無骨な初代から一転スラントノーズのスマートな印象の外観となっている。性能面では薄肉アルミフレームの採用などで3kgの軽量化を達成するなど磨き込まれている。

1991年に発売されたバリオスは、ZXR250のエンジンを採用。ゼファーの大ヒットを受けて250ccのバリオスにも同じギリシャ語のネーミングが与えられる一方、ゼファーとは異なるフルパワーのエンジンが対照的と言えるものだった。

倒立サスにアルミフレームなど、こんなに贅沢な250ccモデルはもう出ない!?

ZXR250は、1993年に馬力規制で45→40PSに5PSダウンした後も販売が続けられた。撮影車両は1995年型で、1999年にはライムグリーンのC7が発売されて生産を終了している。改めてZXR250を振り返ると、今では考えられない贅沢な造りが見てとれる。

まず、クラス初採用のフロントフォークは径41mmという極太サイズで、12段階の伸び側減衰力調整と無段階のプリロードアジャスター付き。ブレーキは径300mmのダブルディスクで、それぞれ現代の大型モデルに匹敵する装備となる。さらに前後ともラジアルタイヤを標準装備していた。

フレームとスイングアームは、現代の250ccモデルではまず見られないアルミ製。大型薄肉アルミ押し出し材を採用したダイヤモンド型E-BOXフレームは、軽量化と剛性アップを両立した装備となる。また、スイングアームはアルミプレス材のKISーARM(カワサキアイソストレインアーム)を採用し、ねじれ剛性を高めている。

極めつけはサイドカムチェーン式の並列4気筒エンジン。1気筒あたり62.5ccしかないのにも関わらずDOHC4バルブヘッドを採用し、レブリミットは1万9000rpmに達している。排気量が小さいなら回すしかない! と、ひたむきに速さを求めていた時代を象徴するパワーユニットは、現代のZX-25Rが支持されているように、ライダーの本能に訴えかけるメカニズムなのだ。

撮影車は1995年型のレッド。当時としてはコンパクトだったが、2気筒モデルが全盛の現代ではワイドに見えてしまう。

ハンドルの低さが印象的。リアフェンダーは空気の清流効果が高いスイングアーム固定タイプを装備している。

ホイールはC型でX字スポークタイプに改められた。フロントダブルディスクの250ccモデルは現代では希少だ。

リアブレーキは径220mmのシングルディスクで1ポットキャリパーを採用。丸筒のマフラーはノーマル品だ。

リアホイールは18インチを採用している。アルミ製プレス材のスイングアームは高級感満点だ。

K-RAS(カワサキラムエアシステム)はこちら。サイドのダクトからエアを導入し、エンジン後方のエアボックスを過給する仕組みだ。

洗濯機ホースと言われたK-CAS(カワサキクールエアシステム)はインパクト大。ここからシリンダーヘッドめがけて空気を送り込み、エンジンの冷却を助ける。

K-CASが貫通しているタンクだが、容量は余裕の15Lを確保している。

レーサーのように薄いシートは当時のレプリカで標準的なもの。タンデムシートとの段差が高く二人乗りは苦手だ。

初代のむき出しの2灯とは異なり一体化されたヘッドライトユニットを採用。スラントノーズでトップレベルの空力性能を獲得していた。

テールカウルはシートの下が小物入れになっており、レインウエア程度なら収納可能だ。

レッドゾーンが1万9000rpmのタコメーターは4気筒250ccならでは。スピードメーターを外すとそのままレーシングマシンのコックピットになる。

速くないと言われていたが、実用には十分な速さ

なぜZXR250が注目されるかというと、ZX-25Rと同じ4気筒エンジンを搭載しているからだろう。250ccなのに4気筒も必要? という向きもあるだろうが、多気筒化は高回転化=パワーアップを実現するための常套手段で、かつてはホンダの5気筒125ccレーサーが2万回転以上でピークパワーを絞り出していた例もある。

多気筒化のネガは、パワーバンド以下のトルクが薄くなってしまうことで、ZXR250も6000rpm以下には落としたくない感じだ。これが、4気筒250ccモデルが「遅い」と言われる要因だが、言われるほどスカスカでもなく割り切ってしまえば低回転でノンビリ走ることもできる。

もちろん真骨頂は高回転域で、他のエンジンではあり得ないほど回せるのはやはり楽しい。その際の排気音は、まるでレーシングマシンのもの。もしくは、スーパーカーと言ってもいい。甲高く突き抜けた高音はライダーをビンビンに刺激するものだ。ZXR250に限ったインプレではないが、これが一番の魅力と言えるだろう。

ZXR250については十分に現代でも通用する性能。それ以上に、この性能を超える4スト250ccモデルが作られていないことが残念に思えてしまう。奇跡のような車両を、末永く乗れるようにしてくれるレッドバロンに感謝したい。

K-CASのダクトがライディングの邪魔になる? というのは全くの杞憂で何の問題もなかった。回してもそれほど速くないのは、恐さにつながらないため、より楽しめる要素になる。

身長170cmのライディングポジションはかなり前傾しており、ステップも高いのでヒザの曲がりもきつい感じだ。

体重65kgの足着き性は両足かかとまでべったり接地する。

1995年型カワサキZXR250主要諸元

・全長×全幅×全高:2000×685×1090mm
・ホイールベース:1360mm
・車重141kg(乾燥)
・エンジン:水冷4ストローク並列4気筒DOHC249cc
・最高出力:40PS/15500rpm
・最大トルク:2.3㎏f・m/11000rpm
・燃料タンク容量:15L
・変速機:6段リターン
・ブレーキ:F=Wディスク、R=ディスク
・タイヤ:F=110/70R17、R=140/60R18
・当時価格:60万9000円(税抜)

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