「生産終了」が決定したモデルが相次いでいる昨今。殿堂入りを惜しみつつヒストリーを紹介していくのが当コーナーだ。第2回はホンダのクルーザー系旗艦「ゴールドウイング」(のリアトランクレス仕様)。その詳細を見ていこう。

小粋なバガー仕様、CB400やVFRと同時に終了へ

2022年4月28日、ホンダが「一部の二輪車の生産終了に関する案内」というリリースを発表した。
これによると「日本国内向け二輪車に対して2022年11月生産分より令和2年排出ガス規制が適用されることに伴い、 一部機種につきましては2022年10月生産分をもって生産終了とさせていただきます」とある。

多くの人が衝撃を受けたのは、やはりCB400SF/SBだろう。ホンダ伝統のV4を受け継ぐVFR800F/Xも終了を惜しむ人が多かったに違いない(CB400SF/SBは当Webサイトの小川さんが記事にされているので、VFR800F/Xはいずれ記事にしたい)。

目を疑ったのは「Gold Wing」の文字だ。「この前フルチェンジしたばかりなのに生産終了!?」と驚いたのだが、よく見ると(リアトランクレスタイプ)とあり、なおかつ小さな文字で「Gold Wing Tourは含まれません」とある。

若干ややこしいのだが、大部分のライダーが思い描くリアトランク=トップケース付きのゴールドウイングは、'18年型から「ゴールドウイングツアー」となり、トップケースのない仕様が「ゴールドウイング」となった。

つまりトップケース付きは新排ガス規制に適合して今後も存続するが、ケースなしは規制に対応せず生産終了になる・・・・・・という意味に取れる。ここからは筆者の想像だが、トランクレス仕様の生産終了は、恐らくセールスが原因だろう。大部分のユーザーがケース付きを選び、ケースなしは販売台数が伸びなかったと思われる。

ちなみに、'18年1月にホンダが発表したゴールドウイングシリーズの受注状況に関するリリースによると、「タイプ別の受注構成比は、ゴールドウイング ツアーDCT<エアバッグ>54%、ゴールドウイング ツアー34%、ゴールドウイング12%」だった。ケース付きが合計88%と圧倒的に支持され、この傾向が現在まで続いていたのだろう。

↑リアトランクレスの「ゴールドウイング」。スクリーンはツアーより110mm短く、車重は23kg軽量だ。車体色はマットジーンズブルーメタリックのみの設定。'22年型はツアーより約52万円も安い。

 

↑リアトランク付きの「ゴールドウイングツアー」。皆が思い描くゴールドウイングらしいスタイルだ。'22年型は赤×黒、黒、白の3色設定。


しかし、ケースなしはとてもカッコイイと個人的に思う。
ショートスクリーンとサイドケースによるバガースタイルは、ゴールドウイングのイメージを覆す軽快感がある。さらに'20年型で登場したマットバリスティックブラックメタリックと、ラストモデルとなったマットジーンズブルーメタリックは、赤の挿し色が映えて、実にワルっぽい。

殿堂入りは仕方のないことだが、残念に思った一人だ。

【ヒストリー】'18モデルのデビューから5年で終了へ

ゴールドウイングシリーズは、'75年のGL1000以来、ホンダの最上級ツアラーとして君臨。ホンダを代表するプレミアムモデルだ。

現行モデルがデビューしたのは前述のとおり'18年型。実に17年ぶりのフルチェンジで、2輪車唯一の水平対向6気筒エンジンをコンパクト化したほか、フレームの大半をダイキャスト製に改め、最大38kgもの大幅な軽量化を果たした。同時に新開発のダブルウィッシュボーン式フロントサスで、高級サルーンのような乗り心地も獲得している。
また、iPhone内のアプリをメーター上で再現できるアップルカープレイをバイクで初採用したのもトピックだった。

トランクレス仕様は、スタイルもさることながら、車重の軽さも魅力の一つだ。
デビュー時の'18ではツアーDCT比で18kg軽量。さらに最終の'22年型ではトランク付きより23kgも軽くなっている。

↑'18年型では(写真上から)マットマジェスティックシルバーメタリック、キャンディーアーダントレッド、パールスタリオンブラウンの3色を設定。中でも銀と茶色は、リアトランクレス専用色だった。

 

ゴールドウイングツアーには当初から6速MT(マニュアル)仕様と、セミオートマの7速DCT+リバースギア仕様の2タイプを用意。リアトランクレス仕様は6速マニュアル仕様のみだったが、'19年型でDCT仕様が追加された。

↑'19年型ではダークネスブラックメタリックを新採用。ブラウンが廃版になり、2色設定となった。


登場3年目の'20年型では、早くもマイナーチェンジを敢行した。左側サドルバッグ内にUSBケーブルを標準装備。なお6速MT仕様のツアーでは、前後サスのセッティングを最適化し、ツアーDCT仕様ではFIセッティングとDCTの設定など見直したが、トランクレス仕様への言及はない。

注目は'20で追加された新カラー。ツヤ消しブラックの車体色に、赤いシリンダーヘッドカバーやコンソール、シートなどに赤いアクセントを組み合わせ、ストリートな雰囲気を醸し出している。

↑'20年型では、新色のマットバリスティックブラックメタリックが登場。赤い挿し色がイカす! 車体色は継続採用のシルバーと合わせ、2カラー設定となった。


そして'21年型ではシリーズを通じてDCT仕様のみに(海外ではMT仕様を継続)。全タイプとも新たに高出力の55Wスピーカーを採用し、より臨場感のあるサウンドとなった。ちなみにツアーは前後に各2つ、トランクレス仕様では前側に2つのスピーカーを搭載する。
さらに、従来モデルではソフトウェアのアップデートで使用可能だったアンドロイドオートが標準採用になった。

さらに新色のマットジーンズブルーメタリックが登場。レブル250やGB350、CB1100RSファイナルエディションにも採用されたカラーで、これがラストモデルとなった。

↑'22年型は、新登場したマットジーンズブルーメタリック1色のみの設定。

見た目も走りも軽快、現行型の素性をしっかり味わえる

残念ながら同時比較したことはないが、リアまわりが20kgも軽い「ゴールドウイング」は、トランク付きのツアーより走りが一段と軽快だ。ツアーは、言わばリアシートに20kgの荷物を載せているのと同じ状態。リアトランクレスは、先代より大幅にスポーティになった現行型をより積極的に操ることができるのだ。

↑見た目も走りも軽快なゴールドウイング。ペアライダーの居住性はツアーに劣るが、タンデムバックレストもオプションで用意されている。


なお、先代モデルにもトランクなしの「ゴールドウイングF6B」が存在していた。こちらは'13年にデビューし、ミッドカウルやミラー、シート、テールカウルが専用設計。シート高を下げてロー&ロングフォルムを獲得するなど手の込んだ造りだった。

ちなみに'14年にはゴールドウイングF6Cもデビュー。カウルとリアケースを撤去したネイキッドに近いモデルだったが、デビュー2年後の'16年に生産終了している。

↑'13モデルで登場したゴールドウイングF6B。初代GL1000などを除いて、歴代ゴールドウイングでも珍しいリアトランクレス仕様だった。'16年型で生産終了。

 

↑F6Bの翌年に追加されたゴールドウイングF6C。過去にはゴールドウイングの水平対向6気筒を用いたクルーザーのワルキューレやワルキューレルーンも存在したが、その系譜に連なる。


やはりゴールドウイングと言えば、リアトランクがあるフル装備の「ツアー」を望む人が多いと思われる。今後、バガー仕様の復活は難しいかもしれないが、個人的には排ガス規制に対応した新型でも再登場を期待したい。

余談ながら・・・・・・トランクレス仕様が消滅した後、トランク付きの車名が「ゴールドウイングツアー」のままなのか、それとも「ゴールドウイング」になるのか。個人的には気になるところだ。

2022年型 ゴールドウイング 主要諸元
・全長×全幅×全高:2475×905×1340(スクリーン最上位置1445)mm
・ホイールベース:1695mm
・シート高:745mm
・車重:366kg
・エンジン:水冷4ストローク水平対向6気筒SOHC4バルブ 1833cc
・内径×行程:73.0×73.0mm
・最高出力:126ps/5500rpm
・最大トルク:17.3kgf-m/4500rpm
・燃料タンク容量:21L
・変速機:7段DCT+リバース
・キャスター/トレール:30°30'/ 109mm
・ブレーキ:F=Wディスク R=ディスク
・タイヤ:F=130/70R18 R=200/55R16

関連記事はコチラ。
【生産終了車プレイバック①】スズキ伝統の直4ナナハン、46年の歴史にフィナーレ【GSX-S750】

 

SHARE IT!

この記事の執筆者

この記事に関連する記事