那須モータースポーツランド(MSL)のステップアップ試乗会にスズキの新型アドベンチャー「Vストローム800DE」が登場。シリーズ旗艦のVストローム1050、兄弟車のGSX-8Sに比べて、どんな走りを見せるのか? サーキットで試乗したインプレをお届けしよう。

独自の設定と足まわりで異なるキャラクターに仕上げた

前回のGSX-8Sに続いて試乗したのがVストローム800DEだ。那須MSLで行われたステップアップ試乗会には、650を除くVストロームシリーズ(1050、800DE、250)が揃っていたのは幸運だった。シリーズを比較して試乗できる機会はそうそうない。

↑シリーズの血統を思わせるDR750S譲りのクチバシを踏襲しながら、六角形状の縦2眼LEDヘッドライトで差別化。DEは「デュアルエクスプローラー」を意味する。ホイールベースはGSX-8Sの1465mmから1570mmにロング化し、最低地上高も75mmアップの220mmとしている。


800DEの実車はモーターサイクルショーで見ていたけど、改めて目の前にするとデカい。同じくステップアップ試乗会に用意されていたVストローム1050と引けを取らないほどの大きさだ。

――インプレに入る前に、まずは簡単なマシン解説から始めよう。Vストローム800DEは'23年3月にデビューしたブランニューのアドベンチャーモデル。775cc並列2気筒や鋼管フレームなどの基本設計をGSX-8Sと共有しながら、キャラクターが大きく異なる。

世界初の2軸1次バランサー「スズキクロスバランサー」は同様ながら、各車に合わせて出力特性を変更。最高出力はVストローム800DEが82ps/8500rpm、GSX-8Sが80ps/8500rpmで、最大トルクは同じ7.7kgf・m/6800rpmとなる。

2次減速比も異なり、Vストロームは2.941、8Sは2.764で、Vストロームの方がトルク型。車重はVストロームが+18kgの230kgとなっている。ヘビーな車体や悪路に対応した設定としているのだろう。

なお、電子制御系では8Sと同様に3パターンの走行モードを備えるが、トラコンは3モード+オフに加え、介入が少なくダートでの走行に適したG(グラベル)モードがVストロームに追加されている。

さらに足まわりも専用。8Sがリアのプリロードのみなのに対し、グレードの高いフル調整式サスが奢られる。ホイールトラベル量は8Sのフロント130mmに対し、フロント220mm。リア212mmを実現。これはVストロームシリーズで最長のトラベル量となる。

↑GSX-8Sと同じく完全新設計の水冷775ccDOHC並列2気筒エンジンを搭載。スズキの並列2気筒エンジンでは初の270度クランクを採用した。アップダウン対応のクイックシフターも標準装備。

↑フロント21インチ&リア17インチに、ショーワ製前後フルアジャスタブルサスの組み合わせ。リアサスはリンク式だ。標準タイヤはダンロップのMIXTOURで前後ともチューブ仕様。

↑5インチのカラーTFT液晶ディスプレイを採用。さらに8SではオプションだったUSBポートをメーターユニットの左側に配置し、最大5V/2Aまで供給できる。

1050に匹敵する大柄な車格ながら、走りは軽やか!


那須MSLでVストローム1050と乗り比べてみても、やはりVストローム800DEは大柄だ。さすがに1050の方が車格が大きく、足着きもキビしいけど、800もかなり近い印象だった。

この迫力に若干ビビりながら取り回ししてみると、意外や拍子抜けするほど軽い。もちろん走行してみても、この印象は変わらず、実に軽快だ。

エンジンはGSX-8Sと同様、非常にスムーズに回転が上昇し、Aモードだと爆発的な加速が4000rpm程度から味わえる。やはりGSX-8Sと似たフィーリングだが、低回転域からのピックアップはVストロームの方が若干鋭く、ストロークの長いサスと相まってキビキビ感が凄い。その上で高回転パワーもしっかりある。

また、マフラーはGSX-8Sがショートタイプなのに対し、Vストローム800DEはロングサイレンサーを装備しており、サウンドにより低音が効いている印象だ。

走行モードの変更で大きく印象が変わるのも8Sと同様。自分なら普段は適度にスポーティなBモードで走り、のんびりツーリングする際にはCモード、ハードに攻めたい時のみAモードという使い方になるだろう。

ハンドリングも低~中速域ではGSX-8Sよりシャープだ。フロント21インチと高い重心位置も手伝って、パタッと鋭く車体を寝かし込める。大径ホイールだと車体は寝ているのに意外と大回りしてしまう場合があるけど、Vストローム800DEにはそれがない。ニュートラルさはGSX-8Sが上回るものの、800DEもネイキッドに近い感覚でフロントが寝て、ニュートラルに曲がれる。

これはスズキクロスバランサーで前後長を短縮したことにより車体とフロントタイヤを接近することができ、フロント荷重が稼げたことも要因と思われる。


一方で直進性も優秀。8Sより100mm以上ホイールベースが長く、フロント21インチホイールとあって150km/h程度でもビシッと安定していた。

サスの動きは標準設定で適度に動き、衝撃吸収性もあるため、オンロード向き。前後ともフル調整式で、ステージに合わせてセッティングを大幅に変更できるのもGSX-8Sにはない特色だ。

↑ハンドルはかなりワイドで手前に引かれた設定。手がスッと伸びて上体が直立し、大らかなポジションだ。ステップ位置は低めで膝の曲がりに余裕がある。またシートの真下にステップがあるため、スタンディングもしやすい。

↑シート高は855mmとそれなりに高い。ただし、シートは角が落とされ、股下はスリムに絞られている。身長177cm&体重65kgのテスターではカカトが2~3cm浮くが、両足がしっかり接地する。ダブルシートは専用品で、ウレタンフォームの密度を上げて疲れにくい設計とした。

Vツインの1050に対し、スムーズなエンジンの素姓が際立つ

そして1050と比べると、800DEの振動の少なさと滑らかさが光る形となった。

↑試乗したVストローム1050は’20年型。1000からフルチェンジし、1050になった初代だ。アルミフレームに90度水冷Vツインを搭載し、最高出力は106ps、車重は236kg。フロント19インチ、リア17インチのキャストホイールを履く。


270度クランク755cc並列2気筒の800DEもそれなりに低速域では脈動感があるものの、1036ccのV型2気筒を積む1050は比べ物にならないほどドコドコ、ドロドロした味わいがある。低速域からあまりにパワフルなため、スロットルワークに気を遣う。また、1050は重心位置が800DEより上にあり、ベテラン向けのキャラクターと感じた。

一方の800DEは、1000に迫る巨体ながら、見かけに反してフレンドリーなモデルと言えるだろう。

長時間の高速クルージングは試していないが、防風効果に関してはスクリーンが巨大な1050に軍配が上がる。とはいえ、800DEのスクリーンはコンパクトながら効果的。胴体への走行風はしっかり防いでくれた。また、800DEはシートに適度なコシがあり、座り心地良好。長時間でも疲れにくいと思われる。

走行したのはサーキットのみだだったが、車重やエンジン特性の面からオフロード適性も1050より断然高そうな印象。高速クルーズがメインなら1050が適しているだろうが、オンもオフも視野に入れて、より多様なステージを楽しみたいなら800DEを選ぶのがオススメだろう。

650よりパワフルで装備充実、しっかりキャラが立っている!

Vストローム650と比較すると、パワーに優れるのが800DE。650は69ps、800DEは82psだが、数値以上に800DEの方がパワフルに感じる。また電子制御の充実度も圧倒している。ただし650は100万円以下でフロント19インチのミドルアドベンチャーという貴重な存在で、旅バイクとして今なお優秀だ。

↑Vストローム650は、69psを発生する645cc90度水冷Vツインをアルミフレームに搭載。ホイールはフロント19&リア17インチで、キャストホイールのSTD(写真)とスポークホイールのXTが選べる。


購入の際、GSX-8Sと悩む人は少数派かもしれないが、筆者はどっちもいいなと思ってしまった(笑)。とはいえ、オンロードでのスポーツ性能やニュートラルな走りを求めるなら、やはり8Sを選びたいところ。800DEは8Sより25万3000円高額だが、その分グレードの高いサスや大容量タンクほど数々の実用装備を採用しており、ツアラーとして使い勝手が高い。

まとめると、一見ハードルが高そうでありながら、実は乗りやすいVストローム800DE。1050、650としっかり違う性格が与えられ、しっかりキャラ立ちしていると思った。うーん、欲しい(笑)。

2023年型 Vストローム800DE 主要諸元
・全長×全幅×全高:2345×975×1310mm
・ホイールベース:1570mm
・シート高:855mm
・車重:230kg
・エンジン:水冷4ストローク並列2気筒DOHC4バルブ 775cc
・内径×行程:84.0×70.0mm
・最高出力:82ps/8500rpm
・最大トルク:7.7kgf・m/6800rpm
・燃料タンク容量:20L
・キャスター/トレール:28°/114mm
・ブレーキ:F=Wディスク R=ディスク
・タイヤ:F=90/90-21 R=150/70R17

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