2024年9月18日(水)・19日(木)の両日、東京都調布市の味の素スタジアムでスズキが開発中の原付一種「e-PO(イーポ)」(上写真)の報道説明会・試乗会が開催された。

e-POは、見た目は小径ホイールを採用した折りたたみ電動アシスト自転車といったふうだけど、ペダルをこがなくてもスロットル操作で自走ができるので、いわゆる電動モペッド(原付一種)にカテゴライズされる乗り物だ。

ジャパンモビリティショー2023(2023年10月26日~11月5日)のスズキブースでも展示されていたので記憶にある人も多いと思う。あれから1年を待たずして、開発中の車両とはいえ早くも試乗できることになったのでレポートしたい。

コンセプト:日常からレジャーまで気軽に自由に移動しよう!

試乗に先だっては説明会も行われた。まずはプロダクトコンセプトから。e-POがどういう使い方を想定されているのかというと、一言で言えば日常からレジャーまで気軽に使える乗り物だ。
電動アシスト自転車の気軽さと、EVバイクの快適さ、その両方のメリットをイイとこ取りしているのだ。日々の通勤では駅や会社との往復に使い、休日には折り畳んでクルマに積み、旅行先の移動手段としても使える。そんな幅広い使い方が想定されている。

ターゲット:都内企業に勤務する30~40代の会社員男性

▲説明を行ったスズキ株式会社 二輪営業・商品部 チーフエンジニアの福井大介さん


開発した商品をどんなユーザーに売りたいのか? マーケティング領域でいうペルソナも設定されている。開発時のペルソナは次の通りだ。

e-PO開発時のペルソナ

・東京都内在住
・都内企業に勤務する30~40代会社員男性
・自宅から勤務先まで片道約4km
・普段は電車通勤、出勤はリモート等もあって週2日程度
・住まいは賃貸のマンションまたはアパート
・移動にかかる負担は最小限にしたいと考えている(金銭的、身体的、精神的、時間的)

開発当初はコロナ禍ということもあって、働き方や通勤・通学手段の変化を踏まえて、上記のようなペルソナを設定したそうだ。

満員電車での通勤・通学から解放され、精神的、時間的な負担を軽減しながら日常の移動の中に気軽に運動を取り入れることができる。

つまり、e-POはこれまで国内の日常の移動を支えてきた50ccスクーターの代替モビリティとして提案されており、特定原付(※)を含め様々なモビリティが登場しているコミューターカテゴリーにおいて、カーボンニュートラル時代の新たな移動手段として考えられている。

※特定小型原動機付自転車:16歳以上免許不要の自走可能な電動モビリティ(最高速度は20km/h)。特例モード(6km/h以下)に対応していれば自転車専用道路、自転車歩行者道なども走行可能

特徴その1:電動アシスト自転車との違い「1:3」の強力アシスト

e-POの特徴について簡潔に紹介したい。まず、3つの走行モードが選択できること。

1. フル電動走行モード
バイクと同じように、ペダルを漕がなくてもスロットル操作だけで自走できる。

▲電源、ライト、走行モードの切替などはメーター周りに集中配置されている。メーター内にはバッテリー残量、速度、オド(積算距離)、現在の走行モードなどが表示される

 

▲楕円部がスロットル。レバータイプではなく、バイク同様、手前にひねることで後輪が回る。その左にあるのが変速装置だが、こちらは一般的な自転車と同じ機構


2. アシスト走行モード
電動アシスト自転車のアシスト比(最大で人力1:モーター2)以上の強いアシスト(1:3)が可能で、24km/h超の速度でもアシスト機能が継続される。これによりフル電動走行モードよりも軽快に走ることができる。

3. ペダル走行モード
バッテリーが切れた(電欠状態)としても普通自転車のようにペダルのみで人力走行が可能。なお、ペダル走行モード時でも原付一種なので、歩道などは走れないしヘルメットもかぶっておく必要がある。その際も灯火器類は使用可能だ。

▲左のグリップ部付け根には、ウインカースイッチとホーンボタンがある


電動アシスト自転車との大きな違いが、モーターによるアシスト比だ。24km/hに達した時点で電動力がカットされる電動アシスト自転車(最大で1:2)に比べ、e-POは1:3のアシスト比により24km/hを超えてもモーターによるアシスト(電動力)が継続され、力強くスムーズに加速を続ける。
法定速度は30km/hだが、ガソリン原付と同じように、フル電動時やアシスト走行時でもそれ以上の速度で走れるだけのパワーを備えているのだ。

特徴その2:電動アシスト自転車と同じドライブユニット&バッテリーを採用

ドライブユニットとバッテリーには、電動アシスト自転車に多く採用されているパナソニックサイクルテック製を採用した。
バッテリーは電動アシスト自転車用としては最も容量の大きな16Ahで、電動アシスト自転車とのバッテリーの共用も可能となっている。

▲技術的な説明を行ったスズキ株式会社 二輪パワートレイン技術部 技術企画課の神谷洋三さん

特徴その3:軽量・コンパクトで折り畳める!

車体の重量は23kgで、普通自転車とほぼ同じだ。シート高の調整もできるので足つき性に不安のある方でも対応できると思う。

また、折り畳み機能を持つので、クルマに積んで移動先の足として活用できるし、保管スペースが最小限で済むので、マンション・アパート住みの人でも室内保管しやすく、紫外線による劣化や盗難の心配もない。

電動モペッドならではの注意点も!

ペダルをこぐだけでも走れるので電欠も気にせずに気軽に使えるのはいいが、電動モペッド(原付一種)ならではの注意点もある。昨今、東京・渋谷での取り締まりが話題となっているのもこの点なので、この機会に確認してほしい。

1. ヘルメットは常時着用
ペダルを漕いで走るアシスト走行モードまたはペダル走行モードでも、車両区分が原付一種なのでヘルメットの着用は常時必要だ。

2. 歩道は走れない!

電動モペッドは原付一種なので、どんな走行モードでも歩道を走ることはできない。自転車歩行者道(自歩道)や自転車専用道路も走れない。走れるのは車道のみだ。

▲あくまでも原付一種なので、歩道上に設置されている自転車歩行者道(上写真)や自転車専用道路、自転車レーンなどは走れない


3. 登録・標示や保険加入が必要
原付一種なので、市区町村での登録とナンバープレートの取り付け・標示、自賠責保険への加入が必要だ。

▲モペッドは原付一種だということをお忘れなく。ネット通販で気軽に購入できるが登録は必要だ

試乗:自走だけでも速い!アシストすればさらに速い!

さて、試乗は平たんなアスファルトの特設コースで行われた。平たん路ということもあって、ギヤは7速固定で走行モードを切り替えながらの走行。坂道での登坂性能を体感できなかったのは残念だが、原付一種スクーターに匹敵する加速・巡行性能は体感できた。


●フル電動モード
想像以上にパワフル。電動アシスト自転車と同等の車体重量ということもあってか、ゼロ加速時(スタートダッシュ時)のトルクには驚かされた。

また、一度最高速度付近に乗ってしまうとスロットルオフ時の減速が弱いため、慣性でどんどん進んでいってしまう。この辺はやはり自転車っぽい乗り味で、スロットルの微妙な操作よりもライン取りに集中していたというのが正直なところ。

なお、フル電動時にペダルを漕ぐことにより人力によるアシストも可能なので、よりパワフルに走れたのが印象的。メーター読みで37km/hは確認できた。

●アシスト走行モード
フル電動時のトルク感が調整されているということだろうが、スタート時にはフル電動時よりも力強さが感じられた。7速ギヤで発進してもペダルの踏み込みが重いという感じはない。コースの直線がそれほど長くなかったので試せなかったが、平たん路ならおそらく40km/hオーバーも可能だろう。

●ペダル走行モード
ペダルが重いということもなく、小径ホイールの普通自転車とそん色のない走り出し。もちろんペダルのみで急坂を登ろうとすれば、それなりの負荷を感じるだろうけど、平たん路では全く問題ないレベルだ。

まとめ:共用バッテリーに可能性! 普通免許を持つ自転車ユーザーが乗ってくれそう

やはりe-PO最大の特徴&ウリは、多くの電動アシスト自転車に採用されているパナソニックサイクルテック製の軽量ドライブユニット&バッテリーだろう。

電動アシスト自転車と変わらないサイズ・重量の車体に、電動アシスト市場で高いシェアを持つドライブユニット&バッテリーを採用したことで、電欠や故障時の不安が少なく、流通・販売・アフターメンテナンス体制も市場投入時から整備されている。

普通自動車の免許を持ちながらもバイクに乗ったことのないユーザーが、電動アシスト自転車の乗車・所有経験を基に、気軽に試乗・購入・所有してくれる可能性が高い。

モペッドという乗り物自体は、ガソリン原付一種として昔から存在しているが、クルマ以外は自走モビリティを所有したことがない、小さなパーソナルモビリティは自転車しか所有したことがないといったユーザーの購入・所有欲をくすぐってくれそうだ。

e-POに乗ることで、自走二輪モビリティの有用性に気づき、自動二輪免許を取ってみたいなんて思ってくれたら、スズキはもちろんのこと二輪業界にとっても嬉しいことだろう。

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