三原じゅん子参議院議員が「自民党政務調査会 二輪車問題対策プロジェクトチーム(略称、PT)の新たな座長(2代目)に就任した。1月24日にはバイク業界やメディアを集めての座談会「二輪業界の明日を考える座談会」が開催された。前編の駐車問題に続いて、中編では、今度数十年の大きな課題であるカーボンニュートラルについての議論をお届けする。

日本は、培われてきたものを大切にする価値観

議論は、全国各地の加盟バイク販売店による団体「全国オートバイ協同組合連合会(略称、AJ)」の大村直幸会長から始まった。

大村:いま、我々販売店はあらゆる面で不安になっています。ひとつは、カーボンニュートラルによってエンジンがなくなってしまうという不安。ユーザーとしても、販売店の商売としても不安です。エンジンファンといっても過言ではない先生は、この点をどのようにお考えでしょうか。

三原:本当に“突然きましたね”という感じで。もちろん、世界がカーボンニュートラルに向くなか色々な政策が進んできていることは承知していましたが、実際に自分たちの愛するマシンがEV車に変わっていく…。

そこには当然、大切なメリットがあるわけです。ただ、私たちの暮らしを守るという意味では、激変緩和が必要だと思っています。

ガソリンで動いていたエンジンが技術革新的に変わっていくというのは、そう簡単なものではないと思います。例えば、そこに付随する重量はどうなるのか、バッテリーはどうなるのかという様々な問題が出てきます。どれだけ私たちはそこに向かって技術を革新していかなければならないのか。モノを作る側も大変だと思いますけれど、果たしてユーザーが付いていくことができるのか。

また、現状お仕事で使われているマシンをこれからどうしていくのか。あまりにカーボンニュートラルという言葉が先行しすぎると大変な事が起きてしまうだろうと思っています。当然、諸外国と比較して遅れているのは承知していますが、そのぶん、日本は今まで培われてきた物を大切にしていくという価値観を持っている国ですので、これからの課題は多くなってくると思います。

ただ、一人のモータースポーツファンからすれば、やはりガソリン車の音や匂い、響きがなくなるさみしさは当然あります。そうしたところを今後どのようにシフトしていって、それをどれだけ魅力的にできるのか。これは別の意味で大変な苦労が必要だろうと思います。

そして、日本独特の原付のあり方についても考えていかなければならないことは多々あると思います。例えば、都心から離れた過疎地域では、原付の使い方や年齢層が変わってきています。このように、非常に難しい問題が堆積していると思っております。

東日本大震災では、ガソリン車が役に立った

吉田:実際、東日本大震災の時、私と大村さんは70人ほどのオートバイ隊を4つに分けて交替で現地に行きました。その時に「電動オートバイを送ります」と言ったら拒否されたんです。「電気もないのに電動オートバイを送られても邪魔になる」と。なので、1か月くらいの間、交替でガソリンや軽油などの燃料はもちろん、自分たちで食料もまかなえるように全部積んでいって喜ばれました。

出典:(一財)消防防災科学センター「災害写真データベース」


(災害の)初期段階では電気は役に立たないわけです。だから、災害の時に電動オートバイしかなかったらどうするんでしょう。にっちもさっちもいかなくなるのではないでしょうか。

これについて「東京はどうするのか」と小池百合子さん(都知事)に話したことがあります。そうしたら「船で川をさかのぼって医薬品や食料を運ぶ計画があります」と。では、そこから運ぶのはどうするのか。阪神淡路大震災のときのように、道路が寸断されていて四輪が走れなかったら。そうしたら「そうですね、やはり二輪は必要ですね」と言われました。

実際、あの時は本当に道路が寸断されて、建物が邪魔で、高速道路が倒れて… その時オートバイが大活躍しました。私も神戸に店が2軒ありましたが、オートバイだったので午前中に着きました。四輪で来た仲間は僕より現地に近い所から出発したのに、到着したのは翌日の昼でした。それにあのとき、現地に一番早く来ていたのは自衛隊のオートバイ部隊でしたしね。

出典:(一財)消防防災科学センター「災害写真データベース」


だから、やはりカーボンニュートラルで全部電気にしていいのかと言ったら、そんなことは全然ないと僕は思っています。いま先生が言ったように、難しいですけど、残していくべきものはあると思います。

代替する物が現れるまで、今のバイクに乗り続けられる環境を

「環境省脱炭素ポータル」サイトより転載


大村:
安倍政権のときもカーボンニュートラルという政策はありましたが、菅政権の時に環境大臣らが替わり、その勢いが強まりました。以前、僕たちが国土交通省や経済産業省にうかがったときは「カーボンニュートラルの対象にオートバイと商業車はなく、乗用車だけ」という話でした。しかし、そのあと乗り物だけでなく製鉄所までが対象となって。

これは公式の話ではありませんが、大きく対立した意見があるわけですよね。1990年〜2020年の間に、日本の電子部品産業はほぼ衰退したと言われています。その原因は環境問題と石油が無くなるという話がきっかけでした。あれから30年、石油が無くなるという話はなくなりました。人間が未来を想像するにはまだ難しいことが多いと思います。

世界の流れから外れるというのは、政治的にかなりリスクがあるかもしれない。だから、これからのことは先生方に判断して欲しい。ただ、判断を下す前に、両極の意見をしっかり聴いて欲しいと思っています。

色々言いましたが、今一番大切だと考えているのは、50〜125ccのオートバイに乗っているユーザーにとって代替する物が現れるまで、今の乗り物に乗り続けられるような環境を作って欲しいということです。

電気かガソリンかは大きな違いなので、丁寧に進めたい

大阪府、大阪大学、自工会で行なわれている産官学連携のEV実証実験「eやんOSAKA」資料より転載


三原:
本当に大事なことだと思います。両極端の意見は当然あると思いますし、それを聴かないということはあってはならないと思います。どんなに素晴らしい政策にしても、それによってこぼれ落ちる方がいては何の意味もありません。SDGsに乗っていくのであれば、こぼれ落ちる人たち、立ち行かなくなる人たちがいなくなるようなカタチをみんなで模索していくことが大切だと思います。

世界に冠たる自動車王国、オートバイ王国である日本の歴史や文化の継承は重要なことだと思います。これを皆無にしてしまえという意見もあるかもしれませんが、そうした声も聴きながら、答えを急がないことが大切なんだろうなと思います。私たちのようにオートバイを愛する者たちにとって、電気なのかガソリンなのかは大きな違いがありますので、丁寧に進めていきたいと思います。

経産省からは「二輪がコミューターになれ」と言われた

吉田:経済産業省自動車課長が田中茂明さんだった当時「二輪がコミューターになれ」と言われたことがあります。「作る時から廃棄するまでの全てを考えたとき、本当にエコなのは50ccのオートバイかもしれない。人を運ぶだけだったら小型の二輪は燃費も良いし、部品点数も少ない。製作から廃棄まで考えた時に、何が本当にエコなのかというのは、もっと主張していった方がいい」と言われたことがあります。

なので、二輪業界がもっと声をあげて、先生に伝えてもらって欲しいと思っています。大型のバッテリーなんかは、廃棄するときに大量の二酸化炭素が出るわけですから、二輪のほうがずっとエコなのではと思います。

三原:それこそが丁寧な説明になってくると思います。

国交省は「燃料が何かは別としてエンジンを残す」という考え方に

カワサキのHEV二輪研究車(手前)とEV二輪研究車(奥)


大村:
さきほど政府の方針について話しましたが、我々はエンジンのことを大切に思っていますし、クルマやオートバイは日本を支えてきた産業の核です。オートバイは今のままでもエコですし、年明けに国交省が“エンジン技術は残す必要がある”という発言をし始めました。そのすぐ後には豊田章男さんが“クルマを走らせる550万人へ”という広告を出しました

そして、つい先日から国交省は“燃料が何かは別としてエンジンを残す”という考え方になっています。またヨーロッパのメーカーもディーゼルエンジンの開発はやめないという話も出てきています。そのように色々な動きが出てきている中で、国内のオートバイについては高速道路の料金見直しや、平日割の導入、自動車税の見直しなど色々なことをやって頂いております。

カーボンニュートラルに関してはこのような議論が交わされた。バイクはもともと省エネルギー、省スペースでエコな乗り物である。ライフサイクルアセスメント(LCA)で考えてもその優位性はゆるがない。電動キックボードなど新しいモビリティが登場するなか、コミューターはその地位を守れるのか。eフューエルや水素といったエネルギーの活用で、脱炭素の流れの中でも内燃機関は生き残っていけるのか、オートバイ議連と関係団体の動きに注目したい。

(後編・高速料金問題 に続く)

 

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