3月の19日(土)から21日(月・祝)まで開催された第38回大阪モーターサイクルショー2022で「史上初!? 高校生がモーターサイクルショーに出展!」と話題になったのが、熊本県立矢部高等学校だ。

熊本県立矢部高校はバイク通学が盛ん!

矢部高校は熊本県の山間の街、山都町(やまとちょう)にあって、普通科のほかに食農科学科と林業科学科も設置されている特色のある県立高校だ。阿蘇南外輪山の南山麓に位置することから、周囲は全て山、山、山。よって、生徒の多くはバイク通学をしていて、地元警察署との長年の信頼関係から「免許証が学校で発行される」という驚きの仕組みを持った学校でもある。

乗せて教える教育を実践! バイクの部活「二輪車競技部」も!

もちろん、生徒の交通安全教育には力を入れていて、いわゆる「乗せて教える」教育が浸透しており、学校行事として交通クラスマッチなんていう原付バイクによる運動会のようなものまで実施されている。また、生徒が生徒にバイクの乗り方を教えるということも学期に1回行なわれているが、そうした場で“教える側”になっているのが、全国でも珍しいバイクの部活「二輪車競技部」の部員たちだ。
二輪車競技部の部員たちは、学校が所有する練習場で安全運転技術を向上すべく練習しており、二輪車安全運転の県大会や全国大会への出場、優勝を目指している。

矢部高校が出展した理由とは?

今回、大阪モーターサイクルショーに出展したのはこの二輪車競技部で、1・2年生の部員と顧問の先生、監督やOBらが揃って来阪した。今回、彼らが初出展したのには次のような理由がある。
・安全運転の啓発
・二輪車競技部のPR
・山都町のPR

【安全運転の啓発】
熊本県下では矢部高校と同じく、バイク通学を許可している学校が多い。コロナ禍となり、密を避けられる移動手段として、バイク免許の取得者、バイク購入者が増えているが、若年層やリターンライダーの単独転倒といった事故も増えている。昨年には県内高校生のバイク死亡事故も発生し、普段から安全運転、運転技術の向上にいそしんでいる部員らが自ら安全運転の啓発を呼びかけたいという思いがあった。

【二輪車競技部のPR】

矢部高校は山都町(人口約14,000人)内にある唯一の県立高校で、3学科3クラス、総生徒数130人ほどの小規模校だ。二輪車競技部の部員数も5~10人ほどであることが多く、二輪車安全運転全国大会への出場を目指して、運転実技と安全運転の向上に取り組んでいる。現在の部員は5人で、2年生が4人、1年生が1人という状況だ(2022年3月19日時点)。
バイクに乗る部活というのは他にない特色であり、近年は「地域みらい留学」制度(越境入学)を利用して他県から入学、入部する生徒もいて、そういった生徒や入部希望者を増やしていきたいという思いもある。実際、今回の出展ブースには来年入学予定という大阪在住のお子さんとその親御さんも見学に来ていた。

【山都町のPR】
熊本県嘉島町(かしままち)と宮崎県延岡市を結ぶ計画の九州中央自動車道が、2023年度、山都町の中心市街地に位置する矢部インターチェンジ(仮称)まで延伸する予定だ。熊本都市圏から山都町へのアクセスが良くなるほか、観光客の増加も期待されている。
豪快な放水で有名な国指定重要文化財「通潤橋(つうじゅんきょう)」や壮観で見ごたえのある「五老ヶ滝(ごろうがたき)」など観光資源の活性化にも期待がかかっている。筆者も山都町を数度訪れているが、ツーリングで走っていても楽しく、見どころの多い美しい町だ。通潤橋のそばにはバイクを停めやすい広々とした「道の駅 通潤橋」もある。マスツーリングにもオススメだ。

ブースを訪れた人たちは、どう見たのか?

大阪モーターサイクルショーの来場者は、矢部高校二輪車競技部の出展をどう見て、どう感じたのだろうか。ブースで対応していた先生や生徒らに、来場者とのやり取りや自身の考えについて聞いてみた。

●二輪車競技部顧問 米村龍一さん
顧問になって5年になります。生徒の全国募集も担当していますが、そうした場でも「やっぱり、乗せて教える教育は大事ですよね」という声が多いんです。学校見学の際も「二輪車競技部を見たい」という見学者が増えていて、今日もそういう声を多く頂きました。世の中的にどちらかというと「高校生のうちに免許を取って教えてほうがいい」という流れになっているのかなと改めて実感しました。

現在、他県からの部員も2人いますし、来年度も二輪車競技部があるからということで2名、大阪府と長野県から入学・入部いただける予定です。2名ともお父さんがバイクに乗っていて、その影響は大きくて、生徒本人が安全に運転したいとか、ちゃんと練習したいと考えているようです。

コロナ禍で、県の二輪車安全運転大会二輪車安全運転全国大会が中止になったり、部の活動も制限されていますが、全ての活動が安全運転につながるような取り組みをしていきたいですね。

●二輪車競技部OB 田中秀穂さん
お話させて頂いた皆さんが「こういう活動は広げていきたい、広がっていけばいいのにね」とおっしゃってくださいました。三ない運動を受けていた40~50代の方たちは「隠れて免許を取るんじゃなくて、学校で認めて、学校で教えて、これが交通安全教育だよね」とおっしゃってくれて非常に嬉しかったです。

●二輪車競技部キャプテン 岸本怜旺(れお)さん(林業科学科2年生・17歳)
大阪府の吹田市出身です。自然が好きで、自然保護や林業をしたくて、林業科学科がある矢部高校に地域みらい留学制度で入学しました。担任の先生に「部活に入ったほうがいい」と勧められて「単純に面白そう」と思って二輪車競技部を選びました。

原付バイクは持っていますが、寮が近いのでバイク通学はしていません。部活では、全国大会に向けて昨年8月に普通自動二輪免許を取ってCB400SFで練習しています。バイクは全身運動で、すごく面白いなと思います。「とにかくスピードを出したい」という人もいますし、漠然と「バイクは怖い」と思ってる人もいますが、どちらも安全運転講習はやるべきだと思っています。

中学時代の周りにはバイクに距離を置いている人が多かったし、そういう人たちに二輪車競技部という部活があることを知ってもらいたいし、知ってもらうことに意味があると思います。「危ない」というイメージで嫌悪されているという意味では、林業とバイクはすごく似ているなと思います。そういう知らない人たちへの情報発信は変えていきたいなと強く思っています。

●二輪車競技部部員 龍 伸弥(しんや)さん(林業科学科2年生・17歳)
今日は多くの方に「応援してるよ!」「頑張ってね!」と声をかけてもらえました。年配の方は「免許を取れるんだ!」「俺も三ない運動だったけど、こっそり取ってたよ」なんて話もされていました。

僕自身は福岡出身です。もともと機械が好きで、地域みらい留学のリストで矢部高校を見つけて、二輪車競技部にも惹かれて入学しました。1年生で入部して、今は原付のレッツに乗っていて、たまにツーリングもしています。二輪車安全運転全国大会に出てみたかったのですが、コロナ禍で中止になってしまい残念です。将来は大きなバイクに乗りたいです。

後列左から米村龍一顧問、堂上千颯さん、竹岡風馬さん、岸本怜旺キャプテン、梅田卓実さん。前列左から龍伸弥さん、OBの田中秀穂さん、監督の本田和幸さん


コロナ禍での入場制限はあったものの、3年ぶりの開催ということで大いに盛り上がった大阪モーターサイクルショー。矢部高校と二輪車競技部の取り組みは多くの来場者の心に残り、新たな動きにつながってくれるはずだ。

※大阪モーターサイクルショー会場以外の学校関係写真は2015~16年に撮影

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