“エンジンを眺める楽しみ”は、内燃機関を動力源とするモビリティの中でも、パワーユニットが露出するバイクだけが持つ悦楽と言えるかもしれない。押し寄せる電動化の波で、今後もその楽しみが継続できるかはいささか不安な状況ではあるが…。ここでは筆者の取材経験から独断で「見た目やカッコ良さにこだわっている国産現行エンジン」を5機ピックアップしてみた。異論反論は重々承知。みなさんの意見もどんどんお寄せくださいマセ!

●文:ヤングマシン編集部(松田大樹) ●写真:長谷川 徹/YM ARCHIVE

①【カワサキW800/メグロK3】SOHCだけどOHVの味わい? 眺めて楽しめるエンジン最右翼

最大の見どころはエンジン右側のカムシャフト駆動用シャフト。水平方向に走る空冷フィンと対比するかのように屹立し、さらに回転方向を変えるギアを収めたケースをヘッドに配したその姿は、現行国産機では間違いなく“眺めて楽しめるエンジンNo.1”だろう。

実はこれ、現代的なSOHC4バルブを採用しつつも“プッシュロッドを持つOHVのようなクラシカル感や美しさが欲しい!”というエンジニアのこだわりで、通常はチェーンで駆動されるカムシャフトを、あえて専用設計のシャフト&ギア駆動としているのだ。つまりはルックスのために凝りまくった(=コストの高い)メカニズムを導入しているのだから恐れ入る。

このエンジンは1999年に登場したW650に端を発するが、当時、こんな異例のエンジンを作ろうとした開発陣は各方面から激しいツッコミを浴びたはずで、それでも市販にこぎつけてくれた努力と英断には大拍手を贈りたい。カワサキW系はロングストロークかつ重めのクランクマス、等間隔爆発の360度クランクなどが生む、乗り手を急かさない穏やかなエンジンフィールも今となっては唯一無二だ。

写真はメグロK3。クランクシャフトから回転を取り出し、回転方向を90度変換してカムシャフトを回すベベルギアを用いたカムシャフト駆動は、ドゥカティ随一の名車として知られる1970〜80年代の通称“ベベル”なども採用する。いずれにしてもかなり希少かつ高価なメカニズムだ。

ベベルギア部のカットモデル(写真はW650)。製造面でも加工面でも、いかにもコストが掛かりそうなメカニズムだ。

【KAWASAKI MEGURO K3】■空冷4スト並列2気筒SOHC4バルブ 773cc 52ps/6500rpm 6.3kgf・m/4800rpm ■車重227kg シート高790mm タンク容量15L ■タイヤサイズF=100/90-19 R=130/80-18 ●価格:135万3000円

②【ホンダGB350/S】“バーチカル単気筒”のシリンダーは2度前傾!?

ツルリと丸みを帯び、思わずバフ掛けしたくなるようなクランクケース形状や、それを引き立てるべく、頭の飛び出しをできるだけ抑えて配されたケースボルト類など、やはり旧車的な価値観の美しさを持つのがGB350のエンジン。

シリンダー後方のキャニスターをオイルキャッチタンク風に処理するなど、スキモノ揃いの開発陣のこだわりが各所に満載されているのだが、そのひとつが“バーチカル(=直立)”を謳いつつも、実は約2度前傾させているというシリンダー。本当に直立だと、人間の目には後傾しているように見えてしまうそうなのだ。

見た目はクラシカルなエンジンとはいえ、エンジンで最も高熱となる燃焼室の上部を積極的に冷却するオイル通路や、最大のメカ的見せ所である、澄んだ鼓動感を演出するための凝ったバランサー機構などなど設計は令和流の最新モード。単なる過去の焼き直しに留まっていない点もGBのセールスポイントだろう。

すくっと直立(して見える)シリンダーと、350ccとしてはボリューム感のあるヘッドのバランスが絶妙。丸いメッキのカバーは外しても「HONDA」のロゴが刻まれているなど、そこここに開発陣の楽しい“仕込み”がなされている。

ケースカバーを固定するボルトは、頭の飛び出しを極力抑えた形状。ツルリと丸みを帯びたケース形状を引き立てつつ、 バフ掛けや磨きやすさまで考慮されているのだ。

【HONDA GB350】■空冷4スト単気筒SOHC2バルブ 348cc 20ps/5500rpm 3.0kgf・m/3000rpm ■車重180kg シート高800mm タンク容量15L ■タイヤサイズF=100/90-19 R=130/70-18 ●価格:55万円

③【ホンダCBR1000RR-R】本物レーシングパーツだけが持つ迫力と美

モトGPマシンと同じボア・ストロークから設計がスタートしたというホンダ最強の並列4気筒は、セミカムギアトレインや極限まで狭められたバルブ挟み角、そのための凝ったフィンガーフォロワー配置といった、現状考えられるほぼ全ての高回転・高出力化技術が投入された珠玉の存在だ。

そんな本気汁がにじみ出る外観に加え、内部に目を向ければチタン製のコンロッドやRC213V-Sと同一素材を奢った鍛造ピストン、DLCコートが施された漆黒のカムシャフトなどなど、高価なエンジンパーツが満載されているのも大きな特徴。これらのパーツが持つ妖艶な迫力や美しさは、エンジンマニアにとってたまらない魅力だろう。

このRR-Rエンジン、あまりに凄まじい作り込みに感激した某メーカー(=非ホンダ)のエンジニアが、興奮のあまりヤングマシン本誌に詳細な解説文を寄稿してくれた…なんてエピソードも。排ガス規制の強化や電動化の波を踏まえれば、1969年のCB750フォア以来、高性能を追求してきたジャパニーズ並列4気筒の究極系にして、その歴史に幕を降ろす“ラスト・サムライ”となるかもしれない。

国産自然吸気エンジン最強の218psを発生するRR-Rの999cc並列4気筒。今年2月に発表された2022年モデルでは、吸気ポート形状の見直しや圧縮比のアップ(13.2→13.4)が行われている。

鍛造ピストンはスカート部にオーベルコートのコーティングを施し、ピストンピンクリップ溝にニッケル−リンメッキを施し耐摩耗性を確保。フリクションロスを低減するDLCコートはカムシャフトに加え、チタンコンロッドの大端スラスト部にも施される。

【HONDA CBR1000RR-R FIREBLADE SP】■水冷4スト並列4気筒DOHC4バルブ 999cc 218ps/14500rpm 11.5kgf・m/12500rpm ■車重201kg シート高830mm タンク容量16L ■タイヤサイズF=120/70ZR17 R=200/55ZR17 ●価格:278万3000円

④【ホンダCBR400R/400X/レブル500】めざせ! 超高性能機のカッコよさ

CBR400Rや400X、さらにレブル500が搭載する399cc/471ccの並列2気筒エンジンの登場は2013年。その際に開発陣とやり取りした筆者の印象に残っているのが「カッコいいエンジンを作りたかった」という言葉。当時のCBR1000RRや600RRなどの超高性能ユニットが持つ、筋肉質な機能美をこのエンジンでは再現したかったのだという。

そのいちばんのポイントは、通常ならクランクケース前方に配するバランサーシャフト(その分ケースはボコッと膨らんでしまう)を、構成の工夫によってシリンダーの背面に置いたこと。これによってマスの集中という機能的メリットを得つつ、ギュッと凝縮したクランクケースの塊感も獲得しているのだ。

ほかにもエンジンの前後長を短縮しつつ“CBRっぽく見える”シリンダーヘッドの高さを模索したり、2気筒らしく大きめのフライホイール周辺とのバランスを取るべく、シリンダーヘッドは逆に直4系よりボリュームを持たせるなどの工夫も。クラッチカバーのボルトもキャップ型とし、極力等ピッチで並べるといった小技も利かせている。

写真は2019年型400X。バランサーシャフトを持つにも関わらずオイルフィルター周辺に大きな出っ張りがない点や、ほぼ等ピッチで並ぶクラッチカバー固定ボルトが“カッコよさ”へのこだわり。

セルモーターの下に覗くのがバランサーシャフト。余談だが、CBR400R/400Xの399ccエンジンと、レブル500の471ccエンジンは同一ボアのストローク違い。大物パーツのシリンダーを共用化してコスト低減を図っているのだ。

【HONDA 400X】■水冷4スト並列2気筒DOHC4バルブ 399cc 46ps/9000rpm 3.9kgf・m/7500rpm ■車重199kg シート高800mm タンク容量17L ■タイヤサイズF=110/80R19 R=160/60R17 ●価格:85万8000円

⑤【ホンダCB1100】2本のカムは、グワッと離れてる方がカッコいい!

生産は終了してしまったが、ホンダのHPにはまだ掲載されている…ということでお許しを。CB1100の空冷並列4気筒は、水冷のCB1300用をベースにシリンダーから上を空冷化したエンジンだが、吸排気バルブの挟み角はCB1300の38度から53度へと大幅に拡大されている。RR-Rの欄でも触れたように、一般的にバルブ挟み角は少ないほど効率が高いとされるが…。

これには2つの理由がある。CB1100エンジンのメカニズム的な特徴でもある、点火プラグと排気ポート周辺をオイル冷却する機構のスペース確保がまず一つ。そして“いかにもDOHC!”という、堂々たる存在感のシリンダーヘッドを実現することが二つ目の理由だ。関係者いわく“空冷エンジンの2本のカムシャフトは、バーンと間隔が離れてる方がカッコいいでしょ?”。CB1100は性能ありきのエンジンではないから、挟み角拡大のデメリットよりも上記2点のメリットを優先できたということだろう。

さらに鋭角や直線部を極力排し、職人が手で金型を磨いたかのような温かみある造形を目指した外観や、ロープレッシャーダイキャスト製法で実現した2mmという極薄の冷却フィン、そのフィンの目立つ部分には金型の分割ラインを置かない工夫などなど、エンジンだけでも開発陣のこだわりは溢れんばかり。当然ながらそれ以外の場所にもエピソードが満載されている車両なだけに、返す返すも絶版が惜しい1台。

おそらく国産車で最後の空冷4気筒となるであろうCB1100。写真は前後17インチを履くRSのファイナルエディションで、シルバー塗装のEXファイナルエディションとは異なるブラック仕上げが特徴だ。

排気ポート周辺から点火プラグ座面を通過するオイル通路を設け、オイルクーラーで冷やしたオイルを導入することで燃焼室の温度を下げる機構(小写真参照)を持つCB1100。プラグ周辺のフィンが立ったパーツは、このオイル通路のフタなのだ。

【HONDA CB1100EX Final Edition】■空冷4スト並列4気筒DOHC4バルブ 1140cc 90ps/7500rpm 9.3kgf・m/5500rpm ■車重255kg シート高780mm タンク容量16L ■タイヤサイズF=110/80R18 R=140/70R18 ●価格:136万2900円

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