モーターサイクル技術の開発拠点を日本としているボッシュ(BOSCH)が、新たなライダー支援技術の試乗会を開催した。レーダー技術を軸に展開される新機能は、なんと6種類。そのうち5種類を体験し、残る1種をこの目で確かめてきたのでお伝えしたい。
●文:ヤングマシン編集部(ヨ) ●写真:真弓悟史 ●外部リンク:BOSCH
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レーダーを核とした6種のARAS新機能を一挙公開&テストもさせてくれた!
ボッシュ(BOSCH)といえばドイツの会社で、ABSをはじめ、レーダーを利用したACC(アダプティブクルーズコントロール)といったライダー支援技術をKTMやドゥカティ、そしてカワサキなど多数のバイクメーカーにOEM供給することでも知られている。
一方で、ボッシュのモーターサイクル技術の開発が日本を拠点としていることはご存じだろうか。
今回は、そんなボッシュがレーダー技術を核とした6種のARAS(Advanced Rider Assistance System)機能の発表試乗会を開催したので参加してきた次第。場所は栃木県にある同社のテストコースだ。普段はなかなか立ち入る機会のない施設であり、ちょっとワクワクする。
ARASとは、先進ライダー支援技術のことで、もっともイメージしやすい現行技術としてはACCが挙げられるだろう。一般的なクルーズコントロール機能に加え、前走車をレーダーで検知することによって自動的に一定の車間距離を保ったまま追従することが可能なシステムだ。バイクでもカワサキのニンジャH2 SXなど採用例が増えてきているが、四輪ではかなり普及が進んでおり、最近では軽自動車でも多くの車種が搭載している。
新しいARASとして紹介されたのは全部で6つ。上記のACC技術をさらに拡張するものが2つ、ACC技術を生かしながら普段の走行シーンに役立てるものが1つ、緊急時のブレーキをサポートする技術が1つ、そして車両後方のレーダーを使用して追突事故のリスクを低減する技術が2つという構成だ。
試乗会では各技術を順番に体験するが、グループごとにテスト項目の順序は異なっていた。我々ヤングマシンは、まず最初にRDA(ライディング ディスタンス アシスト)なるものから試乗することに。前方レーダーを使ったもので、前走車への危険な接近を抑制するものだというが……。
今回紹介された6つのARAS新機能
ACC S&G=アダプティブクルーズコントロール ストップ&ゴー | ACCに加え、車速30km/h未満でも安全な車間距離を維持。速度0の停止までサポートし、先行車両が発進すればライダーの操作により再発進~追従走行する。 |
GRA=グループライド アシスト | バイクの集団走行、いわゆる千鳥フォーメーションを検知して適切な車間距離を保つ。ACCに追加される機能だ。 |
RDA=ライディング ディスタンス アシスト | ライダーは自由に運転できるが、先行車への接近を検知すると制御が介入、車間距離を自動調整する。 |
RDW=リア ディスタンス ワーニング | 後方から車両が近づき、車間距離が短い状態が一定時間続くとディスプレイに警告表示をする。 |
RCW=リア コリジョン ワーニング | 追突される危険を検知すると、後方への警告灯を高速点滅させて後方車両のドライバーに注意を促す。 |
EBA=エマージェンシー ブレーキアシスト | 緊急制動時にブレーキ入力が足りない場合、十分な制動力を得るために液圧を上げてサポートする。 |
RDAはマニュアル走行とACC走行のいいとこ取り!
いきなり結論じみて恐縮だが、たまたま最初にテストしたRDAが今回の新技術でもっとも印象的なものになった。なぜなら、ACCが持つ特定の機能だけを普段の走りの中で“都合よく”使うことができるからだ。
そもそもACCの制御機能をワインディングでも使えないか?というのがアイデアの出発点だったというが、確かにRDAはワインディングをアクティブに走るときにも邪魔になることはなく、さらに街中でも多くの場面で実用的に使える機能だった。
テスト車両はKTMの1290アドベンチャーを自動遠心クラッチ仕様にカスタムしたもので、トランスミッションはマニュアル。EICMA 2024での発表が見込まれるAMT仕様であれば、RDAとさらに相性はよさそうだ。
ACCとRDAの大きな違いは、ACCが設定した速度で走り続け、前走車を検知した後は一定の距離を保って追従するのに対し、RDAでは速度をコントロールするのがあくまでもライダーであり、前走車に近付いたときにだけ制御が介入するという点だ。スロットルを開け足せば任意に加速でき、その気になれば追い越しも、車間距離を詰めることもできる。
レーダーで前走車を検知したら一定の車間距離(正確にはタイムギャップ)を保つように制御が働く。少しのスロットル操作でマニュアル加速に復帰するスポーツモードと、ズボラなスロットル操作でも適度な制御を保ってくれるコンフォートモードの2種類が設定可能。車間距離は5段階から選べるが、今回のテストでは5段階中の4(遠め)に固定された。
RDAの働きは以下のようなものだ。
普通に交通の流れに乗って発進~加速し、スロットル一定のまま前走車に近付いていくと、まずはスロットルを少し戻したかのように加速が鈍り、続いて車間距離が一定になるよう速度が制御される。車間距離が詰まればブレーキも自動でかけてくれる。ただしスロットルを全閉した際はRDA制御が切れ、普通にエンジンブレーキで減速していくだけになる。
開発者によれば「ある意味、距離に対するトラコンのようなもの」というが、まさにそんなイメージで車間距離が詰まると制御が働く。筆者としては、まるで前走車に見えない巨大なエアクッションが貼り付いたような感じで、そこに突っ込むと速度が吸収されるかのようにボフ~ンと受け止められる……みたいな感覚になった。
RDAのメーター表示見本。設定は機能のオン/オフと車間距離設定のみとシンプルだ。
もっともRDAの恩恵を感じるのは、(言葉は悪いが)前走車のドライバーが下手くそな場合だ。今回はボッシュのスタッフが運転するクルマの後を追って走ったのだが、ワインディングロードではあえて挙動の安定しないクルマの運転を再現してくれた。たとえばコーナーのはるか手前からブレーキをかけられたり、立ち上がりでほとんど加速をしてくれない……など。
多くのライダーにとって、前走車とリズムが合わないせいでスロットルを戻すことを強要されるのは、けっこうなストレスになるはずだ。
そんなときでも、スロットル一定のまま近付いていけば、あるいは追従していれば自動的に車間距離を保ったまま減速してくれる(テスト車の仕様では速度に合わせたギアチェンジは必要)し、立ち上がりでも前走車に合わせてスムーズに加速してくれる。これを手動スロットルで合わせようとした場合、どうしても前走車とのリズムのズレによってギクシャクしがちになるが、RDAを使っていると大きなズレが生じる前に制御が介入してくれるので、ほとんどストレスを感じない。
これが本当に楽ちんなのである。前走車にイメージと違う加減速をされても、システムは人間の反応速度よりも早く制御してくれるので、たとえば「あっ、イレギュラーな減速をされたな」と気づいたときにはすでに自車も減速しはじめている。車間距離が不用意に縮まりすぎることがないのだ。
また、ACCの場合、前走車との距離や速度域によってはライダーのイメージよりも強く加速する場合があり、状況によっては思ったほど気楽に使えないものだが、RDAの場合、加速はあくまでもライダーの右手に委ねられている。
言い換えれば、ACCの“前走車に近付いたら車間距離を一定以上に保つ”という機能だけを都合よく利用し、それ以外は全てライダーがコントロールできるわけだ。この“ライダー自身に任されたアクティブさ”と、“要所のみ働く自動制御”との塩梅が、とても好ましかったのである。
ちなみに、RDAは強めのブレーキング(急ブレーキ未満)までこなしてくれるほか、なんと速度ゼロまで対応し、前走車に続いて完全停止することも可能だった。自動遠心クラッチ仕様ゆえにエンストする心配もなかったわけだが、これは電子制御クラッチを持つオートマの一種であるAMTとの組み合わせで、さらに威力を発揮しそうだ。
ライダーが前走車との車間距離に集中していれば、RDAに近い動きは可能かもしれないが、そこに意識を割くとアクティブな走りは楽しめないし、景色を見る余裕もなくなる。何より四六時中それでは疲れてしまうだろう。
個人的な感覚として、RDAはマニュアルクラッチ&MTでも成立しそうに思えたが、それを実現するかどうかは各バイクメーカーの考え方次第ということになるだろうか。
速度ゼロまで対応するACC S&G
バイクにも採用例が増えてきたアダプティブクルーズコントロールの発展版がこれ。テスト車は、11月のEICMA 2024での正式発表が見込まれるKTM新型アドベンチャーのプロトタイプで、今回の試乗会のためにKTMから特別な許可をもらって使用したという車両だ。
メーター表示のサンプル。通常のACCと表示内容は変わらない。
プロトタイプ車の最大の特徴は、AMT(オートメイテッドマニュアルトランスミッション)仕様であること。MT機構をベースに自動変速システムと電子制御クラッチを採用したものだが、運転感覚的にはいわゆるオートマの一種と思ってもらって構わない。
このAMTとACCを組み合わせることによって、速度ゼロまでの完全停止と自動発進に対応したのがACC S&Gというわけだ。
最初の発進~巡行までをマニュアル操作し、ACC S&G機能をONにすることで一定速度の巡航あるいは前走車への追従走行がはじまる。前車が減速すれば自車も減速し、完全停止まで対応。再発進する際はスロットルを開けるかACCボタンを押すだけでOKだ。
こちらは四輪ですでに実現している機能なので驚くようなことは特にないが、穏やかすぎるとも感じられる発進加速は「ハンドルがまっすぐになっていないときの発進」など様々な状況に対応するためだといい、元気よく加速したいならスロットルを開け足せばいいという合理的な考え方で設定されている。
テストコースの高速周回路にて。タイムギャップ(同じ所を通る時間差)が一定になるように管理するため、速度が上がればそのぶん車間距離は大きくなる。
クローズドコースということで、ドキドキしながらも機能を信じ、ブレーキレバー&ブレーキペダルから手足を離して完全停止まで試してみた。
ACC S&Gは前方のレーダーを使用。速度を自動的にコントロールし、必要に応じてブレーキも作動する。
KTM本社が特別に試乗を許可してくれたというプロトタイプのマシン。ヘッドライトまわりのデザインなどは現行モデルとかなり異なっている。
クラッチレバーはない。ギアシフトは通常オートマチックだが、左手レバーでマニュアル操作が可能。
ギアチェンジ操作はシフトペダルでも可能。中身は電気的なスイッチだ。
美しい千鳥フォーメーション走行を可能にするGRAは、ACC走行への追加機能
GRAのメーター表示サンプル。右斜め前の車両を検知するとこの緑の部分のような表示になる。
グループライドアシスト=GRAは、ジグザグのフォーメーションで走行する、いわゆる千鳥走行をアシストする機能。従来のACCでは前方のバイクのみを検知していたため、斜め前方のバイクに近付きすぎたりすることもあったが、GRAでは適切なフォーメーションを保つことができる。3台での走行と2台での走行を試したが、どちらも問題なく機能した。
このGRAは、レーダーが新世代になって検知する範囲(視野みたいなもの)が広がったことと、複数の車両をより正確にとらえることができるようになった(解像度が増したような感じ)ことで実用化できたという。このレーダーはEICMA2023で発表されたもので、各メーカーがニューモデルに順次採用していくはずだ。
最後尾のニンジャH2 SXベースの開発車両が筆者。高速周回路のバンク出口でかなり意地悪な位置取りをしたときにだけ斜め前方のバイクが検知から外れたが、そうしたイレギュラーなことをしない限りは、きっちり作動し続けてくれる。千鳥走行の左右を頻繁に入れ替えても全く問題なかった。
前方レーダーを使用し、ACCの機能に追加される形で働くのがGRA。必要に応じてブレーキも作動する。
緊急時にブレーキの入力不足を補助
EBAが作動したときのメーター表示サンプル。
エマージェンシーブレーキアシスト=EBAは、レーダーで衝突の危険性ありと判断された場合にフロントブレーキの制動力をブーストするというもの。強い制動に慣れていないライダーは、緊急時にブレーキを必要なだけ強く握ることができない場合があるので、その不足分をEBA機能が補うわけだ。あくまでも入力不足を補助する機能であり、操作なしで勝手にブレーキがかかることはない。
EBAが作動すると、ブレーキレバーが勝手に深くまで握られる感じになり、かなり強めの制動力が発生する。ただし、元々強めに握ることができるライダーにとっては違いが感じ取りにくいかも?
前方にある白い球(バレーボールくらい)を目標に制動力のブーストを体感。小さな目標物を正確に捕捉するレーダーにも感心させられた。小型の自転車でもきっちり捕捉するという。
前方レーダーで対象物を検知。ブレーキは自動では働かず、あくまでもライダーが操作したものへの補助となる。
後方レーダーを使用するRDWとRCW
後方レーダーを備えた現行モデルが採用しているブラインドスポットディテクション(死角検知)は、ミラーの視界から外れた位置に車両がいることを警告してくれるという機能。今回発表された2つの新機能は、いずれも似て非なるものだった。
RDWは、自車の後方に車両が近付き、一定時間が経過するとディスプレイに警告を表示するというもの。言ってみれば「煽られてますよ~」と知らせてくれるわけだ。注意力が落ちてきたときに右車線を走っていたりすると、後方から近づいてきた車両に気付くのが遅れたりすることもあるが、そうした際に速やかに譲ることができる。
RCWは後続車に対して警告を発する機能。追突の危険が差し迫っていると検知した場合、後方車両に対しトップケースにマウントした警告灯を高速点滅させることで注意を促していた。これは実際の車両で採用した際にはハザードランプの高速点滅になるだろうか。
RDWは後続車両がバイクの場合でもライダーに知らせてくれた。
停止した自車に速度が高いまま後続車両が近づくと警告灯が高速点滅する。
RDWのメーター表示サンプル。
RCWのメーター表示サンプル。
RDWは後方の車両が接近している時間が一定以上になるとメーター表示でライダーに知らせる。
RCWは後方車両との速度差を検知し、危険と判断すると後方車両に知らせる。
市販車の新たな進化に期待!
ボッシュの新機能はいずれも興味深かったが、安全を一番に据えながらファンライドも犠牲にしないよう腐心していことが印象的だった。
2021年の時点で、世界では年間に119万人、1日あたり3200人が交通事故死しているといい、そのうちの21%がライダーだという。この状況を少しでも改善すべく、ボッシュはアクティブセーフティとしてABS、MSC(モーターサイクル スタビリティ コントロール)を発展させ、さらにARASを、そして未来にはコネクティビティを発展させようとしている。
ボッシュの開発スタッフと話していて感じたのは、みんなバイクが大好きだということ。バイクを操る楽しみは最大限に尊重しながら、新たなライダー支援システムを次々に生み出そうとしている。
今回の発表試乗会でも、ARAS機能の次のステップとなる可能性を提示してくれた。それは道路状況の地図データ予測や道路レイアウトを制御データに追加するというもの。これを既存のARASと併用した新機能の登場も楽しみだ。
ARASの簡易システム図。前後のレーダーに加えてセンターにECUとABSユニット、シート下にIMU(慣性計測ユニット)を配置し、ディスプレイで情報を表示する。
EICMA 2023で発表された第6世代のレーダー。ミリ波によって物体を検知する。検知範囲と解像度の向上により、ARAS新機能が実現した部分もあるという。
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