年々新しいチャレンジが行われているMotoGPマシン。ここ最近の目に見える進化はホールショットデバイスとライドハイトデバイスだ。ドゥカティから始まったこの2つの機構は全メーカーに普及。今シーズンからドゥカティは走行中もフロント下げる機構を導入したが……

●文/まとめ:小川勤(ミリオーレ) ●写真:ミシュラン

ロケットスタートを可能にするホールショットデバイス

2018年あたりから進化を続けているホールショットデバイス。現在は前後サスペンション(リアはリンクの可能性も)に作用して、ご覧のようなシャコタンスタイルでスタートしている。

昨今のMotoGPのスタートシーンはなかなか強烈で、ウイリーするマシンが減り、すべてのマシンが凄まじい勢いをキープしたまま1コーナーへと飛び込んでいく。まさにロケットスタートという感じなのだが、2022年第2戦インドネシアGPのスタートシーンの写真が上がっていたので並べてみた。

こうして改めて見てみると、ギョッとするほどマシンのシルエットが崩れ、前後サスペンションがグッと短くなり、かなりシャコタンになっているのがわかる。
▲ドゥカティのデスモセディチGPのスタンダード状態のシルエット(上)とスタート時のシルエット(下)を比較。スタート時は前後ともかなり車高が下がっているのがわかる。停止時とスタート時のフロントフォークのストローク量の差は明確。そしてウイリーしているのにフロントフォークが伸びていない状態にも注目したい。
▲ヤマハとKTMもかなりシャコタンに。どちらかというとKTMのWP製フォークよりもオーリンズ製フォークの方がサスが沈み込んでいるように見える。電気的な制御は禁止されているため、各メーカー独自機構で機械式に制御している。
▲アプリリアのこのシルエットはかなり独特。見た目だけでいえばもっともエアロダイナミクスが追求されている印象だ。フロントカウルの空力デバイスもブレーキまわりの造形も秀逸。とてもまとまっているように見える。


スタート前にライダーがハンドル周辺のスイッチやダイヤルを回して車高を落とすシーンを見た方も多いと思うが、車高を落として電子制御でウイリーを抑止することで、よりパワーを出せるようになり、そのパワーを路面に伝え加速力に繋げることが可能になるわけだ。

ちなみにホールショットデバイスは1コーナーでブレーキングすると解除される。もちろんメーカーによって異なると思うが、イギリスのように1コーナーまでの距離が短くスピードが乗らない場合やオーストラリアのようにスタート直後の1コーナーでフルブレーキングしないコースでは使わない場合もあるという。

ライダーは一生懸命走るだけではだめ。レース中にモードを切り替え、車高も調整する

ここ数年は、全メーカーがスタート時に車体前後の姿勢を低くするホールショットデバイスを活用し、決勝レース中もライダーがリアの車高を変えられるライドハイトデバイスを使い出している。走行中の車高調整はリアのみだったが今シーズからドゥカティはフロントにもライドハイトデバイスを導入。ライダーはこのライドハイトデバイスを手動で操作している。

2021年にLCRホンダの中上貴晶選手に話を聞いた印象だと、ストップ&ゴーのレイアウトのコーナーで有効だが、レバーを押すタイミングはかなりシビアとのこと。そのタイミングはすべてライダーに委ねられているそうだ。

この他にもLCRホンダの場合、パワー、エンジンブレーキ、トラクションコントロールに対して各3段階が選べ、これらをレース中に選択しながら走っているというからその忙しさは想像がつかないほどである。

しかし、フロントのライドハイトデバイスに関しては物議を醸している。現在のレギュレーションでは禁止されていないが、ドゥカティ以外の5メーカー(ホンダ、ヤマハ、スズキ、KTM、アプリリア)がこのデバイスを使うには専任スタッフが必要でコストがかかると反対したのだ。また市販車に応用できないという意見も挙げられた模様。もちろんこれにドゥカティは反論したが、2023年シーズン以降は使用禁止が決定した。ただし、スタート時のホールショットデバイスは今後も使えるという。

近年、ドゥカティからスタートした技術は多い。空力デバイスもホールショット&ライドハイトデバイスもそうだ。空力デバイスは多くのメーカーの市販スーパースポーツに装備され実用化が進み、一般のライダーがその恩恵を受けられるようになっている。ライドハイトデバイスだって停車時に車高が低くなったら便利だし、乗れるバイクの選択肢が増える気がするけど……(ハーレーダビッドソンのパンアメリカはシート高を自動調整する機構を装備済み)。

今後、このライドハイトデバイスがどう進化していくのか?また市販車に応用されていくのか注目したい。
▲下のヤマハとホンダの2台と比較するとドゥカティの車体姿勢がいかに低いかがわかる。前後とも沈んでいる印象で、フロントフォークの伸び量は圧倒的に少ない。▲ドゥカティと比較するとフロントフォークが伸びきっているのがわかる。直線の長いコースやストップ&ゴーの多いコースではフロントのライドハイトデバイスが有効に働くのかもしれない。

※本記事は”ミリオーレ”から寄稿されたものであり、著作上の権利および文責は寄稿元に属します。なお、掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。 ※特別な記載がないかぎり、価格情報は消費税込です。

WEB YOUNG MACHINE - NAIGAI PUBLISHING, Co., Ltd. All rights reserved.

SHARE IT!

この記事の執筆者

この記事に関連する記事