軽量・スリム・コンパクトなスポーツバイクを求めて生まれたSR

2021年のSR400ファイナルエディションで43年の歴史に幕を閉じたSRは、今でこそクラシックモデルとして支持されているが、当初のヤマハのコンセプトは異なるものだった。SRは、1978年に提唱された「ヤマハスポーツ新時代」を体現する一台としてデビューしたもので、軽量・スリム・コンパクトさを追求するためにビッグシングルエンジンが選択されたのだ。

当時のヤマハニュースに掲載された試乗インプレッションには「試乗当日、もっとも楽しかったのは、このSR500/400で、その軽い身のこなしと、素晴らしいコーナリング性能を利し、他の高性能マシンを追いかけまわすことであった」(モト・ライダー誌)という内容が並び、その走りに注目が集まっていた。

こぼれ話としては、このモト・ライダー誌は「ロードボンバー」というSRのベースとなったXT500のシングルエンジンを搭載したレーサーを造り上げて、SRがデビューする1年前の1977年に鈴鹿6耐で18位を獲得(翌年の8耐では8位)している。この企画も影響してか、SRがデビューした後もタイムトンネルレースなどで多くのライダーがシングルならではの軽快な走りを楽しんでいた。

1977年、雑誌『モト・ライダー』(三栄)の企画でSRの登場を予言するようなロードボンバーが製作されたのは偶然なのか…? 軽量でコンパクトなスポーツバイクを目指していたのはSRと完全に一致する。写真提供:三栄 モーターファンBIKES

 

同じ様に、SRのアイデンティティとなったキックによるエンジン始動は、軽量を旨とするスポーツバイクとして合理的に選ばれたものだった。それが時が経つにつれてキックスターターは希少な装備となり、クラシックバイクとしての側面が浮き彫りになっていった。

ヤマハとしてもこの状況を十分に意識しており、フロントディスクブレーキとキャストホイールだった装備を、1985年にはフロントドラムブレーキとスポークホイールにしている。これだけも十分クラシックなスタイルだったが、1990年前後には往年のブリティッシュモデルの名作であるBSAゴールドスターやノートンマンクス風にカスタムすることが一大ムーブメントになり、SRの人気を不動のものとしていったのだ。

SRの前身はパリダカールラリーでも活躍した1976年のXT500(左)。このエンジンとシャーシをベースにロードスポーツのSR(右)が誕生した。

1978年にデビューしたSR400。最終型と変わらないスタイルが印象的だ。初代はグラブバーを持たず、フロントにディスクブレーキを採用していた。

登場2年目でキャストホイール仕様のSPにモデルチェンジ。スポーク仕様がなくなり、当初のコンセプト通りスポーツ路線をより強化していった。

1983年にはスポークホイールモデルがレギュラーとして復活して人気に。ヤマハの販売データによるとデビュー当時よりも販売台数を伸ばしており、後のレトロ化のきっかけになった。

1985年にフロントドラムブレーキおよび18インチ化でレトロ指向を強めた。SR400史上最も販売数を伸ばしたのがこの型で、1993~1996年の間に2万6800台を記録した。

2001年に排ガス規制に対応するため二次空気導入装置等を装備。フロントブレーキも再びディスク化され、同時にSR500が絶版となった。

キャブ仕様の終幕後に二度の復活を果たしたFI仕様、そして本当の絶版車に

SR400の歴史は大きく二つに分けることができる。前半はここまで説明してきたキャブレター時代で、後半は2010年からのFIの時代となる。さらにFIの時代は2016年までのものと、2018年以降のさらに二つの世代に分けられる。FI前後期に共通するのは、発売前に一旦生産終了していることで、SR400は二度も復活を果たしているのだ。

2010年のSR400は、FI化に伴いスロットルボディも新設計。FIに必須の燃料ポンプはサイドカバー内側に新たに設置したサブタンクに内蔵し、SRの顔とも言える美しいティアドロップタンクを継承しているのは見事。マフラーも新設計し触媒を採用するとともに、エキゾーストパイプにO2センサーをセットし、フィードバック制御で環境性能を向上させている。

FI化で最高出力は1PSダウンしたが、元々27PSしかなかったので大きな変化とはならない。しかし、FI世代の車両はエンジンを含めた大規模チューンには向かないため、1990年代に全盛を極めたSRカスタムブームは下火になってしまった。

そして、FI前期は2016年型をもって生産終了。約1年半の開発期間を経て2018年に登場したFI後期型は、O2フィードバック制御の精度を向上させるためにECUが大型化され、設置場所も移動。また、蒸発ガソリンの外気への排出を抑えるキャニスターを新たに車体左側に装備している。

最後のSR400は2021年型で、これまでに二度の復活を果たしてきたことも踏まえ「ファイナルエディション」の名称を追加。もう二度と復活することがないことをネーミングで示すことになった。

ここで紹介する車両は2016年型で、FI前期の最後のモデル。カジュアルな「400」のロゴが目を引くタンクで、音叉マークがないのが新鮮なカラーデザインだ。

SRの象徴である空冷単気筒エンジン。排気ポートに空気を送り込む二次空気導入装置はキャブ最終型からの装備。さらにFIやO2センサーなど排ガス規制に対応する装備が導入されている。

FIになってもエンジンはキックスタートオンリー。FIでも優れた始動性を維持できるよう開発に取り組んだという。セルスターターはSRのコンセプトに反するため採用されなかった。

マフラーにはハニカム触媒を採用して排ガスを浄化する。FI前期車は強化された騒音規制にも対応するが、FI後期では規制緩和によって音質が歯切れのいいものになった。

ヘッドライトやウインカーは初代モデルから変わらずの丸型でライトはガラスレンズのまま。昔は多くのモデルに装備されていたが、今では希少なものとなった。

メーターも初代からアナログ機械式のスピード&タコメーターの2連タイプ。アナログ+液晶ですらなくトリップも機械式で、ここも変わらないSRの魅力と言える。

ハンドルはいたって普通のバーハンドルでスイッチまわりも昔ながらのデザインで車体と調和している。それでも右側にはハザードスイッチを装備し機能は充実している。

フロントブレーキは、キャブレターの最終型からディスクに回帰している。2000年代からのSR400は、従来のカスタムベースからトコトコ乗りの街乗り&ツーリングモデルとして支持層に変化があり、ブレーキも使い勝手の良いものになった。

2016年型SR400主要諸元

・全長×全幅×全高:2085×750×1110mm
・ホイールベース:1410mm
・シート高:790mm
・車重:174kg
・エジンン:空冷4ストローク単筒SOHC2バルブ 399cc
・最高出力:26PS/6500rpm
・最大トルク:2.9㎏m/5500rpm
・燃料タンク容量:12L
・変速機:5段リターン
・ブレーキ:F=ディスク、R=ドラム
・タイヤ:F=90/100-18、R=110/90-18
・価格:51万円(税抜当時価格)

ライバル車紹介(同門含む)

1978年にSR400と同時デビューしたSR500。エンジンの内寸はベースのXT500と同一なので、こちらの方が正統派と言えるかも。1999年型を最後に絶版となった。

1985年にSRがクラシック路線に舵を切るのと同時にデビューしたSRX400/600(写真は400)。軽量・スリム・コンパクトをより推進した正常進化型でよりスポーティな4バルブエンジンを搭載。

ホンダがSRに対抗してリリースしたのが、1985年のGB400TT。こちらもオフロードモデル譲りのXR系エンジンを搭載したが1988年型で終了してしまった。

1991年に登場したスズキのグース350。車名はマン島TTコースのグースネックコーナーからきており、ビッグシングルカスタムに新風を巻き起こそうという狙いは明確だった。

スズキのテンプターは1997年発売。エンジンは空冷単気筒396ccを採用した。セルモーター搭載と現代的だが、デュアルツーリーディング方式のフロントドラムブレーキはSR以上にレトロだった。

GB400TTではSR400に対抗できなかったため、1998年にホンダはCL400をリリース。コンセプトの異なるスクランブラータイプで勝負したが、こちらは一代限りで終了してしまった。

GBやCLで対抗し切れなかったホンダは、2001年に再びXR系のエンジンでCB400SSをリリース。セル付きのGBに対して初代はキック始動オンリーとしたが、2004年型でセルスターター付きに改良した。

カワサキは、ツインのエンジンでSRに対抗。2006年にW650をベースにストロークダウンして399ccとしたW400がデビュー。2009年4月発売のファイナルエディションで生産終了した。

2021年、SR400ファイナルエディションとほぼ同時にデビューしたのがホンダのGB350。インドを主要市場とするグローバル化を果たして、今後はホンダが日本で空冷ビッグシングルを存続させることになった。

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