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ハンターカブ復活への伏線はクロスカブだった
以前、ヤングマシンの編集長をしていてスーパーカブ人気がじわじわ高まっていくのが気になり始めたのは10年程前のこと。毎年実施していた人気バイク投票企画で上位に名を連ねるようになったのだ。通説は、17インチサイズのミッション車が次々と絶版になり、選択肢が狭まったからというネガティブなものだった。
一方、ホンダの青山本社で行われているカフェカブミーティングは盛り上がっており、ブームの兆しはあった。そこで2012年末に初公開されたのがクロスカブ(110cc)だ。当時は、世界同時不況後の低迷期でバイク全体のセールスは芳しくなかったが、その中でクロスカブの売れ行きが好調だったのを記憶している。
初代クロスカブは、スーパーカブがビジネスユースから趣味のバイクへとユーザーの趣向が変化していく状況を巧みに捉え、よりアウトドアテイストを盛り込んでリリースされたモデル。今思えばこの頃からアウトドアブームも一部で火が着いていたのだろう。その結果の好セールスだった。
今回試乗したのは二代目のクロスカブ110で、2017年にモデルチェンジしたスーパーカブ110をベースにスタイルを大幅に刷新したモデル。2018年の発売とともに人気が爆発してバックオーダーを抱えるほどの大ヒットになったのだ。
二代目は専用デザインが与えられ、ワイルドでカッコいいスタイルが魅力
初代クロスカブは、オーストラリアで郵便配達に使用されていたNBC110がベースで、パイプハンドルや独立したヘッドライトなどの装備をそのままに、黄色と赤の明るいカラーリングでイメージチェンジを図っている。スーパーカブとの棲み分けはできてはいたが、遊び仕様としては中途半端さがあった。
二代目はここを大きく改善し、レッグシールドを取り払ったことで往年のハンターカブに近付いたのが大きなポイント。また、キャリア状になっているヘッドライトガードやスリット入りのマフラーガードなども、まさにハンターカブのイメージでカッコいい。
タイヤも従来のロードタイヤからセミブロックになってオフロードイメージが増しており、スーパーカブよりもストロークのあるサスペンションを装備しているおかげで、フラットダートの走破性を確保。ハンドルもアップライトなので、オフでのスタンディング走行もこなせるポジションとなる。
改めて試乗すると、CT125ハンターカブに通じる資質はクロスカブ110にほぼ盛り込まれていると感じる。ワイルドなクロカン風スタイルとオフ対応の足回りは共通要素で、装備のグレードが二台の差になっている。特に物足りなさを感じるのは110ccのエンジンとドラム式ブレーキだろう。外観では、アップマフラーが採用されなかったのも残念なところだが、これは当時開発中だったCT125ハンターカブへの導入が決まっていたという。
急ぐことはない、「昭和」カブとのんびりした時間を楽しもう
二代目クロスカブ110が登場した2018年は、スーパーカブシリーズ60周年の節目。累計生産1億台に達したパッケージの基本は今でも受け継がれている。この昔ながらの走りを楽しむのが趣味としてのカブライフの醍醐味で、希少なドラムブレーキの「カックン」としたフィーリングもまた味わいなのである。
同様にエンジンも「速くなくていい」と思えるのがカブシリーズの魅力。「ドゥルル~」と響く独特な排気音は、誰しも子供の頃から慣れ親しんだもので日本人にとっては癒しのサウンドと言えるもの。加えて遊び心あるスタイルを身にまとったクロスカブ110は、究極の実用車だったカブから真逆の存在に変貌している。
クロスカブでもスーパーカブでも110ccのカブシリーズは昭和のテイストを色濃く残しており、これが現代的な走りを手に入れたCT125ハンターカブやスーパーカブC125に対して“カブ主”たちに好まれる大きな魅力の一つ。実際、ハンターカブが2020年に発売されてもクロスカブ110の人気が堅調なのは、カブらしさが色濃く残されているところにあるのだ。
しかし、ブレーキ規制の網は110ccのカブシリーズにも迫っており、もしかしたら現行型が最後のドラムブレーキ仕様になるかも知れない。乗るなら今!?
2020年型クロスカブ110主要諸元
・全長×全幅×全高:1935×795×1090mm
・ホイールベース:1230mm
・シート高:784mm
・車重:106kg
・エンジン:空冷4ストローク単気筒SOHC2バルブ 109cc
・最高出力:8PS/7500rpm
・最大トルク:0.87kg-m/5500rpm
・燃料タンク容量:4.3L
・変速機:4段リターン式(停止時はロータリー式)
・ブレーキ:F=ドラム、R=ドラム
・タイヤ:F=80/90-17、R=80/90-17
・価格:34万1000円