エンジンとプラットフォームを共有するホンダ400XとCBR400Rが、排ガス規制対応と合わせて足まわりをグレードアップ。倒立&ダブルディスク化で大幅に商品力をアップさせた。デビューから9年目を迎える両車、その深化ぶりを比較試乗にてチェックした。
●文:ヤングマシン編集部(大屋雄一) ●写真:長谷川徹 ●外部リンク:ホンダ
【テスター:大屋雄一】国内外/排気量を問わず2気筒が大好きなモーターサイクルジャーナリスト。つい最近までNC750Sが愛車だった。’19年にフロントが17→19インチ化された400Xに乗って感激したことから、今回の試乗も楽しみにしていた。 |
’22 ホンダ400X/CBR400R
【’22 HONDA 400X】■全長2140 全幅830 全高1380 軸距1435 シート高800(各mm) 車重199kg ■水冷4スト2気筒DOHC4バルブ 399cc 46ps/9000rpm 3.9kgf・m/7500rpm 変速機6段リターン 燃料タンク容量17L ■ブレーキF=Wディスク R=ディスク ■タイヤF=110/80R19 R=160/60R17 ●色:白 黒 ●価格:85万8000円
【’22 HONDA CBR400R】■全長2080 全幅760 全高1145 軸距1410 シート高785(各mm) 車重192kg ■水冷4スト2気筒DOHC4バルブ 399cc 46ps/9000rpm 3.9kgf・m/7500rpm 変速機6段リターン 燃料タンク容量17L ■ブレーキF=Wディスク R=ディスク ■タイヤF=120/70ZR17 R=160/60ZR17 ●色:赤 青 黒 ●価格:84万1500円
【400Xライディングポジション】スタンディング姿勢にも対応できるアドベンチャーらしいライディングポジション。防風効果に優れるほか、足着き性も良好だ。[身長175cm/体重68kg]
【CBR400Rライディングポジション】’19年にハンドル位置が下がって前傾姿勢が約8°深くなったが、幅広いシーンに対応できるバランスの良さあり。[身長175cm/体重68kg]
ユーロ5に対応したが、動力面でのネガはなし
クロスオーバーモデルの400XとフルカウルスポーツのCBR400Rは、外観だけでなくコンセプトもまったく異なるが、エンジンとプラットフォームを共有するという間柄だ。デビューは9年前の’13年で、当初は400のみで開発が進行していたが、途中から欧州のA2ライセンス向けに最高出力を35kW(47.6ps)とした500を加えたため、結果的に排気量が2本立てになったというエピソードは有名だ。
そんな400XとCBR400Rの両車が、’22年にビッグマイナーチェンジを実施した。主な変更点はフロントフォークの倒立化およびフロントブレーキのダブルディスク化だ。399ccの並列2気筒エンジンについてはアナウンスこそないものの、型式が2BLから8BLになったことから、何らかの変更によって最新の平成32年排ガス規制に対応したことは明らかだ。最高出力46psと最大トルク38Nmについては従来型を維持するが、燃費はWMTCモードでわずかに減少している。
【’22 HONDA 400X】乗り心地はクラスを超越。ツインらしい鼓動感も。
まずはそのエンジンから。両車とも’19モデルでバルブタイミングやリフト量の最適化をはじめ、吸排気系の変更/FIセッティングの見直し/シフトフィーリングの向上/アシストスリッパークラッチの導入など、大幅に手を加えている。今回、両車をじっくり乗り比べて驚いたのは、エンジンのキャラクターの違いだ。最高出力/最大トルクはもちろんのこと、1次/2次減速比や6段ミッションの各変速比まですべて共通なのに、だいぶ印象が異なるのだ。
具体的には、400Xは一般道で多用する2500〜4500rpmの領域でツインらしい鼓動感があり、スロットルの動きに対するレスポンスもいくぶん良い。これに対してCBR400Rは、排気音こそ400Xと同じパルス感を響かせるが、4000rpm付近を超えてからの吹け上がりが非常にスムーズで、トップ6速100km/hを5200rpmで巡航している際のハンドルやステップから伝わる微振動の少なさは、「これって本当に2気筒?」と疑いたくなるほど。しかも、7000rpmを超えてから一段とパワーが盛り上がるので、その気持ち良さを知ってしまうと、ついつい低いギアで上まで引っ張りがちになる。
シフトチェンジは軽いだけでなく節度感があり、クラッチレバーの操作力の少なさもあって、変速自体が非常に気持ち良い。本当にいいエンジンに育ったなぁ、というのが偽らざる感想であり、ユーロ5対応による動力性能面でのマイナスはほぼないと言える。
フォークの作動性が向上。約3万円アップは安すぎ!?
続いてハンドリングについて。フレームはφ35mmの鋼管をメインチューブに使用したダイヤモンドタイプで、これは’13年のデビュー時から基本的に変更なし。足回りについても、同時にデビューしたネイキッドモデルのCB400F(’16年にディスコン)も含めて全車共通だった。ホイールは前後17インチで、400Xのみキャスター角を寝かせるなどして、クロスオーバーらしいハンドリングを構築していた。
’16年にはフロントフォークにプリロード調整機構を追加。’19年には400Xのフロントホイールが19インチに大径化された。そして今回の’22モデルでは、両車ともフロントフォークが従来のφ41mm正立式から、同じくインナーチューブ径φ41mmのショーワ(日立アステモ)製のSFF‐BPに変更された。片方にスプリング、もう片方にビッグピストンの減衰力機構を持つのがこの倒立フォークの特徴であり、車両全体のバランスを整えるため、スイングアームの剛性最適化やフロントホイールの軽量化などが実施されているのだ。
SFF‐BPの効果は、走り出してすぐに実感できる。動き始めの抵抗が少なく、それが乗り心地の良さを生んでいる。’19年からリアに採用された分離加圧式ショックとの相乗効果もあって、路面追従性など足回りの動きはクラスを超えていると言ってもいい。
【’22 HONDA CBR400R】安定性はツアラー並み。伸び上がりは元気良し!
400Xのハンドリングは、倒し込みや切り返しでフロント19インチならではの手応えはあるものの、舵角の付き方は穏やかで、おおらかに気持ち良く向きを変えていく。フロントブレーキのダブルディスク化によるバネ下重量とジャイロ効果の増加によるネガを懸念していたが、少なくともハンドリングのイメージはほとんど変わっておらず、むしろフロントフォークの作動性アップによるメリットの方が大きい。加えて、ワイドなシュラウドとスクリーンによる防風効果が非常に高く、これぞコンパクトアドベンチャーといった雰囲気だ。
CBR400Rは、CBRシリーズ共通のスポーティな外観から切れ味の鋭さを想起させるが、実際には微速域から安定性が高く、VFR800Fのようなスポーツツアラーに近いハンドリングだ。80km/hを超えるとカウリングの効果もあってかその傾向がさらに強まり、車線変更は400Xよりも手応えを感じるほど。その一方で、横風を食らったときやギャップ通過時など外乱に対してはすこぶる強く、高速道路を淡々と巡航できてしまう。フォークの作動性および剛性が上がったことで、腕に覚えのあるライダーなら従来型よりも高い旋回力を引き出せるかもしれない。
ブレーキについては両車ともフロントがシングル→ダブルディスク化され、さらにCBR400Rに至っては、キャリパーがピンスライド片押し式2ピストンからラジアルマウントの対向4ピストンに変更されるなど、大幅にグレードアップしている。その利きについては両車とも初期は穏やかで、そこからの立ち上がりも非常にナチュラルで扱いやすい。ちなみに、どちらも大型のシートバッグが積みやすいリア形状になっており、荷物をたくさん載せて峠道を下ったり、タンデムしたときに今回のブレーキ容量アップの効果を体感できるだろう。
より上質に進化した足回りと熟成されたエンジンのタッグは、もはやエントリーモデルの範疇を超越。約3万円の価格アップは安いと断言できる。
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