アンチレプリカだったカワサキを象徴するZZR
カワサキは日本のバイクメーカーの中で、変わり者としてライダーに愛されている。まず、最も変わっているのは、スクーターなどのコミューターを販売していないところ。そしてもう一つは、世界グランプリに対して一線を引いていること。特にWGPが最も熱かった1980年代に2年しか参戦しなかったことが、違いを決定づけている。
1980年代はWGPを頂点とするレースブームで、そこからレプリカブームが派生していた時代。これらブームに背を向けたカワサキはレプリカモデルではなく、スポーツバイクのジャンルにツアラーを投入したのだった。それが1985年のGPZ400Rで、爆発的ヒットを記録した。
また、カワサキは1984年にGPZ900RおよびGPZ750Rをリリース。これも映画「トップガン」に起用され、独自のコンセプトが注目されるきっかけに。WGPだけでなく鈴鹿8耐にもワークス参戦を休止している中で、プライベーターがツアラーのGPZ750Rで参戦。逆にその存在感が際立ってしまうなど、カワサキらしさがこの時期に醸成されていた。
そんな水冷GPZの後継として登場したZZ-R(後にZZR)シリーズは、カワサキツアラーの完成形。アンチレプリカという特殊な立ち位置が、公道における志向を徹底的に突き詰めたオールラウンダーを生み出した。スポーツ性を犠牲にせず、速さと快適性を兼ね備えるカワサキ独自のコンセプトは、熱烈なファンを生み出すことに成功したのだ。
GPZ400Rは1985年に登場。カワサキ初の400cc水冷直4モデルでフルカウルを纏っていたが、アップライトなハンドルポジションのツアラーコンセプトだった。それでいて最高出力は59PSを発揮しベストセラーに輝いた。
Z1に代わるフラッグシップとしてカワサキ初の水冷エンジンを搭載した1984年のGPZ900Rは、北米ではNinjaのペットネームを獲得。水冷908ccエンジンは115PSを発揮し最高速は240km/h以上、0-400m加速は10.976秒をマークして世界最速の座を手にした。
GPZ900Rのエンジンをベースに1052ccまで拡大したのがZZ-R1100。1990年の初代モデルは145PS、1993年の改良で147PSまで高められ最高速は300km/hに近付いた。素直な出力特性とハンドリングで街中や峠道もこなせる懐の広さを持つ。写真は1991年モデル。
ZZ-Rシリーズの国内最大排気量を誇ったのがZZ-R400。1100と同じ1990年のデビューで初代はシリンダーヘッドまわりを冷やすK-CASのみ採用していた。最高出力は58PSとGPZ400Rよりも出力は低い。写真は1991年モデル。
400ccにラムエア過給も! 佇まいは完全にビッグバイクの迫力
ここで紹介するのは1995年式のZZ-R400。2003年からシリーズの名称がハイフンを取ったZZRに統一されており、今ではZZR表記が一般的だ。ZZ-R400は、1989年まで販売されたGPZ400Rの後継機として1990年に発売されたクラス唯一の本格ツーリングモデル。1993年にはモデルチェンジしてスタイルを一新した。
エンジンは、GPZ400Rの水冷直4DOHC4バルブとは異なる新設計。それでいて1988年のZX-4から後のZXR400へと至るサイドカムチェーン式直4ユニットとも別モノで、海外で同時発売されたZZ-R600のエンジンをスケールダウンしていた。57.5mm×38.5mmのボア×ストロークは、GPZよりもショートストロークでZX-4とわずか0.5mmの違いしかない。
それでも、あえて旧式とも言えるセンターカムチェーンのエンジンを新設計したのは、アルクロスフレームとのマッチングだろう。シリンダー両サイドをフレームが囲う特殊な形式はGPZ400R以来の伝統で、コーナリングの切り返し時に発生するねじれに対して優れた強度と復元性を発揮する。
スタイリングは1993年にツインラムエアシステムを採用し147PSを発揮したZZ-R1100に習ったもの。馬力規制で53PSにダウンしつつも初代ZZ-R400では非採用だったラムエアを装備することで、世界最速のビッグバイク、憧れの逆輸入車のイメージにより近付けている。ここで完成形に至り、2007年まで続くロングセラーモデルとなった。
撮影車は1995年式の後期型。ツインラムエアダクトにダウンドラフトタイプのキャブレターは1100と同じ当時最新のメカニズムだった。流麗なフォルムと落ち着きのあるカラーリングはまるで1100のよう。
1993年以降の後期型最大の特徴は、このツインラムエアダクトのインテーク。走行時の風圧をダイレクトにエアクリーナーボックスに取り込み高速走行時のパワーフィーリングを向上させるメカニズムだ。
GPZ400Rから受け継いだアルクロスフレーム。アルミ製の様々なサイズの部材を組み合わせて、剛性としなやかさを兼ね備えた軽量なフレームとしている。ZZRではツインチューブ部がGPZよりもかなり太くなっている。
ホイールは前後17インチでラジアルタイヤを装着。GPZ400Rでは当時流行の16インチが装着されており、ハンドルが切れ込む傾向にあったのが改善されている。フォークは径41mm、ディスクは径300mmとビッグバイク並みの装備だ。
スイングアームも贅沢にアルミ製を奢る。リアショックはプリロード調整と伸び側減衰力の調整が可能で、荷物や路面の状況に合わせてセッティングを変更できる。
タンク容量は18Lと充分なサイズ。タンク横にはETCがない時代ならではの、高速チケット収納に便利なキー付きの小物入れを備えており、ツーリングモデルのコンセプトを体現している。
この時代のカワサキならではの装備として有名な、収納式のバンジーフックをタンデムシート横に設置する。フルカウルでハイパワーでもレプリカではなくツアラー、そこがカワサキらしさでもあった。
低いのがエライという時代にアップタイプのハンドルを採用するのも、カワサキツアラーの特徴。あくまでも公道での楽しさに根ざした開発思想がファンを惹きつけていた。
メーターはアナログの4眼式。トリップメーターも機械式ながらツインタイプと本格ツアラーらしい豪華装備となる。ZZ-R1100では320km/hまでメーターが刻まれており、大いにロマンを感じさせた。
1995年型ZZ-R400主要諸元
・全長×全幅×全高:2070×695×1175mm
・ホイールベース:1430mm
・シート高:780mm
・車重:195kg(乾燥)
・エンジン:水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ 399cc
・最高出力:53PS/11000rpm
・最大トルク:3.8kg-m/9000rpm
・燃料タンク容量:18L
・変速機:6段リターン
・ブレーキ:F=Wディスク、R=ディスク
・タイヤ:F=120/60ZR17、R=160/60ZR17
・価格:69万4000円(税抜当時価格)
ライバル紹介(同門含む)
1987年にGPX400Rが派生するもGPZ400Rも併売された。GPZ400Rを改良した並列4気筒を搭載するが鉄フレームで、人気は今一つだった。
1988年、カワサキはレーサーレプリカに近いZX-4をリリース。アルミツインチューブフレームに新開発4気筒エンジンを搭載。乾燥重量はわずか152kgという過激スペックだった。
1989年のZXR400/Rでカワサキもレプリカを解禁。ZX-4譲りのスペックに加えて徹底的にサーキットを狙ったスタイルと装備を獲得し、最強の400レプリカとして君臨した。
1991年、400ccツアラー戦線にヤマハがディバージョン400で突如参入。エンジンは並列4気筒を装備するもなぜか空冷。ジェネシスコンセプトを踏襲し、前傾シリンダーヘッドを採用していた。
1993年にはスズキがRF400Rを発売。GSX-R400系のパワーユニットを新開発フレームに搭載。外装は独特なデザインのフルカウルとし、1995年にはVCエンジン仕様も用意された。
ディバージョン400の反応が薄かったヤマハは1997年に水冷エンジンを搭載したFZ400を発売。フロントにはブレンボ製のブレーキキャリパーを装備するなどカスタムテイストを盛り込んだ。
1992年にデビューし大ヒットを飾ったCB400SFに、2005年に追加されたハーフカウル仕様がCB400スーパーボルドール。すでにZZR400も絶版となり、400ccツアラー市場を独占した。
2011年、カワサキは並列2気筒モデルのNinja400Rでツアラーを再ラインナップ。カワサキにはこれ以前にも2気筒のGPZ400SやEX-4が存在しており、ツインに回帰した形だ。
ホンダも2013年に並列2気筒モデルのCBR400Rをリリース。スポーティで使い勝手のいいオールラウンダーというカワサキのコンセプトに時代が追い付いた!?