’78年(昭和53年)に誕生し、途中2度の生産終了を経験するも不死鳥のごとく蘇ってきたヤマハのSR400が、ついに’21年3月のファイナルエディションをもって幕を閉じた。まだ500がある時代からたびたび試乗しているテスター・大屋雄一氏が、あらためて「SR」と向き合う。
●まとめ:ヤングマシン編集部(大屋雄一) ●写真:真弓悟史 ●外部リンク:ヤマハ
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’21 ヤマハSR400ファイナルエディション
【’21 YAMAHA SR400 FINAL EDITION】■全長2085 全幅750 全高1100 軸距1410 シート高790(各mm) 車重175kg ■空冷4スト単気筒SOHC2バルブ 399cc 24ps[18kW]/6500rpm 2.9kgf・m[28Nm]/3000rpm 変速機5段リターン 燃料タンク容量12L ■ブレーキF=ディスク R=ドラム ■タイヤF=80/100-18 R=110/90-18 ●色:青 黒×灰 ●価格:60万5000円
【ビッグオフの流れを汲むスリムなボディ】メインチューブをドライサンプ用のオイルタンクに活用したセミダブルクレードルフレームは、XT500で培ったノウハウを生かしたものだ。車体ギリギリまで寄せられたマフラーからも分かるように、SR400はスリムさが際立つ。車体寸法と車重はMT-25とほぼ同等。
【ライディングポジション】シートやサスペンションの沈み込みと車体のスリムさにより、足着き性は抜群にいい。ハンドル幅が狭いこともあり、ライポジは非常にコンパクトだ。[身長175cm/体重62kg]
[◯] この振動は本物の証だ。ネオクラとは格が違う
私が初めてSRに触れたのは’90年代前半のこと。レーサーレプリカブームの末期であり、その少し前にはカワサキからゼファー(400)が発売された。SRの長い歴史を振り返ると、あの時点でまだ折り返しにも達していなかったのは驚きだ。
まずはエンジンから。SR400は’19年に平成28年排ガス規制に対応しており、今回試乗したファイナルエディションについてはメカニカルな部分での変更はなし。24psを発生する399ccの空冷単気筒は’10年にFI化して以降、キックスターターによる始動性が向上し、1~2回のキックで目覚めてくれる。路面を一歩ずつ蹴り出しているような加速感と、歯切れのいい排気音がシンクロする感覚は、フライホイールの重いシングルならではで、この雰囲気はキャブ時代から何ら変わらない。
バランサーなし&リジッドマウントが生み出す振動は、回転数に比例してシンプルに増幅する。これは設計当時の”軽くスリムに”を具現化した結果であり、ロードスポーツとしての速さを追求していたという本物の証だ。昨今ブームのネオクラシックがバランサーやラバーマウントなどで振動を消しつつ、鼓動感だけを巧みに演出しているのとは対照的であり、これはSRだけの味だ。
そして、このエンジン以上にSRがロードスポーツであると訴えてくるのがハンドリングだ。フレーム/前後サスペンション/タイヤの限界が高くないので無理は禁物だが、コーナーの手前で十分に減速し、リアに荷重を残しながら倒し込むという旧車らしい乗り方をすると、本当に気持ち良く旋回する。また、車重の軽さとタイヤの細さのおかげで切り返しも軽快だ。上り勾配ではパワーの少なさが表面化し、また下りでは制動力がそれほど高くないことから峠道での速さはそれなりだが、バンク角の少なさをうらめしく思うほどにスポーティに走れるのは事実だ。
ブレーキは、フロントのシングルディスクがコントロール性重視なのに対し、リアのドラムは奥で制動力が急に立ち上がる傾向にあり、特に雨天時はていねいに操作したい。
【バイク用で最もシンプルなエンジン】パリダカで2連覇したXT500の空冷SOHC2バルブ単気筒を基に、クランクマスを増やすなどして誕生したSRのエンジン。’99年に生産終了となった500と400のボア径は共通で、ストロークを84mmから67.2mmに短縮したのが400だ。最高出力は’10年にFI化された際に27psから26psへ。’19年の排ガス規制対応で24psに。
フロントは’84年まで19インチ&左側シングルディスク&シングルピストンキャリパーで、’85年に18インチ&ドラム化。’01年に右側ディスク&2ピストンキャリパーに。リアは初代からドラムブレーキ&2本ショックを継続し、5段階にプリロードを調整可能。
【最後までLEDを採用せず】’19年モデルで灯火類の法規対応が求められ、ヘッドライトについては部品メーカーの協力を仰ぎ、近代的なプラスチックではなく新作のガラスレンズでこれをクリア。前後のウインカーも雰囲気を残しつつ変更されている。
’85年に幅が狭められたハンドルバー。メーターは’09年のFI化の際に燃料残量警告灯を追加。’14年に文字盤が黒となり、’19年に再び白へ。回転計は初代から採用する。’93年にヘッドライトが常時点灯式となり、そのスイッチを生かす形でハザードランプが新設された。ウインカーはプッシュキャンセル式。’03年にはイモビライザーが採用された。
タンクは初代~’84年まで12Lのナロータイプ、’85年から14Lとなり、’96年に表記が12Lとなった。シートはボルト2本で固定されており、’94年にタンデム用のベルトを省略。約40mm下がるローダウンシートあり(4万700円)。
’79年から400にも採用されているグラブバー。テールカバーは当初400のみで、これも’79年より500にも採用される。フェンダーは初代からスチールだ。
ブルーのファイナルエディション用に作られたデカール。ダークグレーはタンクに「ファイナルエディション」と入る。
[△] ABS義務化が決定打。欲しい人は早く決断を
厳しくなる一方の排ガス規制に対して執念とも言える改良で対応してきたが、’21年10月から継続生産車にも適応されるABS義務化については、SRらしさを残しつつの装備は難しかったようだ。すでに中古車もプレミアム価格なので欲しい人は早めに。
[こんな人におすすめ] 正真正銘ラスト。生産を継続したヤマハに感謝!
先日、56年前に発売されたカワサキの500メグロK2に試乗。峠道で早くに限界が現れたのは車体だったので、’78年から基本設計が変わらないSRが今もスムーズに走れることに感心。最後に試乗できたことはテスター冥利に尽きる。
【ヤマハ純正外装セットが登場】昨年8月、ヤマハの純正アクセサリーを手掛けるワイズギアから「SR400クラフトビルド外装セット」が発売された。’19年モデルの40周年記念限定車とも異なるWサンバースト塗装と、ファブリック調のシート表皮、オリジナルデザインの真鍮製サイドカバーエンブレムなどが特徴で、価格は14万8000円。なお、タンクは’10年以降のFIモデルに対応する。 |
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