F650GSには単気筒と2気筒が存在する

BMWのGSは、ゲレンデ・シュポルト=オフロードスポーツを意味するシリーズ名で、現在のラインナップはビッグ=1250(1254cc)、ミドル=800/850(853cc)、スモール=310(312cc)の3つの排気量帯で構成されている。今回紹介するF650GSは、ミドルの立役者として重要な役割を果たしたモデルだ。

実はF650GSは同じ名前で2種類存在しており、ここで言う立役者とは2008年にデビューした並列2気筒のモデル。一方で元祖F650GSも存在しており、こちらは2000年に登場。エンジンは652cc単気筒を搭載し、1999〜2000年にはワークスレーサー、F650RRがパリ・ダカールラリーを連覇している。

ビッグGSの元祖であるボクサーツインのR80G/Sが1980年代にパリダカを制したのと同じように、ミドルGSの元祖であるF650GSも同じ舞台で優勝を遂げたことで、堂々とGSを名乗る資格を得ている。これが、2008年に並列2気筒エンジンを搭載した「続・F650GS」として正常進化を遂げたのである。

面白いのは排気量を798ccに拡大したにも関わらず、F650GSのネーミングを踏襲したこと。これはオフロードに特化したフロント21インチのF800GSが同時にラインナップされたので、オンロードのF650GSと差別化するため。もちろん、単気筒のF650GSと地続きのブランドであることをアピールする狙いもあっただろう。

BMWのフラッグシップであるGSシリーズの元祖はこのR80G/S。1980年に発売され翌年のパリダカを制覇。さらに1983~1985年まで3連覇を果たし、GSブランドの伝説となっている。

R80G/Sの約20年後にF650ファンデューロをベースとするレーサーのF650RRが1999~2000年にパリダカを2連覇。これを機にF650 もGSを襲名し、フロント21インチのF650GSダカールも発売された。

2気筒版F650GSのオフロード仕様としてF800GSも2008年にデビュー。ホイールはキャストからスポークに変更されている。大型化してしまった当時のR1200GSに対し、待望のミドルGSとして歓迎された。

F800GSよりもフレンドリーなパッケージで日本人にもマッチ

F650GSは、以前レポートしたF800STと同系のロータックス社製並列2気筒エンジンを搭載。一方、最高出力はF800STの85PSから71PSに抑えられており、扱いやすさを重視した特性に変更されている。また、上級版のF800GSは85PSを発揮しており、同じエンジンで差別化を図っていることも650と800の呼称の表れとなる。

シャーシは、F800STのアルミツインチューブや片持ちスイングアームとは全く異なる新設計。鉄パイプフレームに両持ちスイングアームというオーソドックスなものになった。F800STでは30度前傾していたエンジンは8.7度前傾に起こして搭載し、F800GSはスキッドプレートを装着することでエンジンをガードしている。

足まわりはF650GSがフロントに径43mmの正立フォークを採用し、19インチのキャストホイールを装備。リアはF800GSとも17インチとなるが、リムおよびタイヤ幅はF650GSの方が細いサイズとなっている。サスストロークもフロント180mm(800は230mm)、リア170mm(同215mm)とオンロード寄りの設定だ。

そのためシート高は海外モデルの標準で820mm、ローシートで790mm(800は同880mm/同850mm)と日本ブランド並みの低シート高を実現。車重も199kg(800は207kg)と軽量なため、大型初心者でも安心なモデルとして人気となった。

撮影車は2011年型のF650GS。ハイラインと呼ばれるABSやグリップヒーター、センタースタンドを装備しているモデルで、ABSはオフにすることも可能だ。

F650GSは前後キャストホイールにチューブレスタイヤを装着するのでパンク修理も楽になる。オンロード寄りの装備としつつもアップマウントされたマフラーがアドベンチャーツアラーのスタイルを演出する。

並列2気筒エンジンは、360度クランクでボクサーツインエンジンと同じ爆発間隔を実現。F650GSは71PSを発揮し最高速は185km/h(800は85PSで200km/h)を公称する。

フロント正立フォークにシングルディスクブレーキと簡素な装備。その分軽量な仕上がりとなっている。

スイングアームは両持ちのアルミキャスト製。F800STはベルトドライブだが、GSでは小石などの嚙み込みも想定されるためチェーンドライブとしている。

リアサスペンションは手動でプリロード調整が可能なので、積載や二人乗りに素早く対応できる。

現行を除くFシリーズの特徴はシート下に配置された燃料タンク。給油口は右サイドカバーにセットされて容量は16Lを確保する。本来のタンク部分にはエアボックスを配置している。

ダートでも押さえが効くワイドなパイプハンドルを装備。一方、ハンドル切れ角はF800GSの42度に対してF650GSは40度と制限されている。

メーターは、楕円が上下2段に並んだ独特なレイアウト。液晶画面は気温や平均燃費、時計、燃料計などを表示する標準的な内容だ。

後のホンダNC700Xシリーズにも結びついたと勝手に想像

今でこそ当たり前となった並列2気筒エンジンを搭載したファンバイクは、2気筒Fシリーズがデビューした当時はそれほどメジャーな存在ではなかった。個人的にもミドルGSはボクサーツインで復活して欲しいと願っていたので、F800GSを初めて見た時は「これじゃない感」を抱いていた。

また、2気筒F650GSについては「これがGS?」という印象だったのだが、2012年にホンダNC700Xが大ヒットした時に、新しいコンセプトだったと気付かされたのだ。燃料タンクの位置にヘルメットが置けたF650スカーバーの要素を取り込み、2気筒F650GSのコンセプトに近付けるとNC700Xになるではないか。

当時、2気筒版F650GSを見る機会は多く、時代はローコストで使い勝手のいいスタイリッシュなツーリングバイクを求めていたのだろう。今回改めて試乗してみても、大きさやパワーなど、色々と「ちょうどいいな」という印象。長く付き合えるバイクとはこういうモデルなのだろう。

エンジンはボクサーツインと同じ爆発間隔なのでサウンドやフィーリングがRシリーズに似ている。現行のF750GS/F850GSは、同じ並列ツインエンジンでもアフリカツインなどと同じ270度クランクなのでボクサーっぽさはない。

2011年型F650GS主要諸元

・全長×全幅×全高:2280×845×1240mm
・ホイールベース:1580mm
・シート高:790mm
・車重:199kg
・エンジン:水冷4ストローク並列2気筒DOHC4バルブ 798cc
・最高出力:71PS/7000rpm
・最大トルク:7.65kgf-m/4500rpm
・燃料タンク容量:16L
・変速機:6段リターン
・ブレーキ:F=ディスク、R=ディスク
・タイヤ:F=110/80R19、R=140/80R17

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