ホンダは、249ccの水冷単気筒エンジンを搭載した新型スクランブラー「CL250」を5月18日に発売した。これにやや遅れてプレス向け試乗会が開催されたので、「思ったよりレブル250っぽいよね」と巷で言われるデザインなどについても答えを探ってきた。

●文:ヤングマシン編集部(ヨ) ●写真:真弓悟史、ホンダモーターサイクルジャパン ●外部リンク:ホンダ

見た目はレブルっぽい……? でも跨るとその意味がわかる

思った以上にレブルだよなぁ……。CL250/500が正式発表されたとき、多くの方がそう思ったに違いない。僕もそのひとりだった。

個人的には1962年に発売された初代CL72のデザインが大好きで、事前に制作していたヤンマシスクープの予想CGも旧CLに寄せたデザイン。レブルのエンジン&フレームを使いながら、かなり大胆にイメージチェンジしているとの予想だった。

実車を目の前にすると、かつてのストリートスクランブラーというよりはレブルの拡張版に見える。じっさい、フレーム&エンジンだけでなくヘッドライトユニットなど共有する部品も少なくない──。

ところが、跨った瞬間に印象はガラリと変わり、なぜこのスタイリングなのかという謎がどんどん解けていった。

アップマフラーの張り出しがイカツイ。が、跨る際にはほとんど邪魔にならない。

スクランブラー=オフロード系でしょ、というアタマでいたのだが、跨ったときに感じたのは『これってアメリカントラッカーじゃん』である。

ハーレーをたとえに出すと伝わる方も限られるかもしれないが、レブル250がスポーツスター・フォーティエイトだとすれば、CL250はXR1200だ。余分なものをそぎ落としてシンプルなボバースタイルのクルーザーに仕立てたのがレブルだとすれば、CL250はストリートを元気よく走り回るために自由さが拡張されている。

レブル250の場合、跨ると目の前に何もないかのようなスカスカのメーターまわりや、低く凝縮されたような車体が、ライダーに反骨的な自由さを感じさせる。

CL250はというと、まずライディングポジションが大ざっぱな感じ。……というと印象が悪いので言い直すと、おおらかで開放感に満ちている。どこかアメリカンの“陽”の部分が強調されていているかのようで、ぴったりフィットというよりは自由度に主眼が置かれている印象だ。

レブル250に重なる部分ももちろんあるが、大きな違いを生み出しているのは見晴らしのよさだ。アップライトなライディングポジションと、レブル250の690mmから10cmプラスのシート高790mmによって、単純に視点が高く、周囲を広く見渡すことができる。自由度の高いライポジによって、ハンドルを切ったり顔を左右に向けたりもしやすい。

シート高は790mm。これはレブル250の690mmに比べれば高めだが、オフロード車っぽいスタイルの割には足着き抜群だ。ただし、シート形状はやや角が張っていて、脚をまっすぐ下ろすには少し当たる。車重は172kgあるのでオフロード系に比べれば多少重いが、支えるのに苦になるほどではなく、さらにこの質量感が走るときにはちょうどいい。フラットなシートに腰掛けると、ややワイドなハンドルが掴みやすい位置に。タンク&フレームはスリムで、左右のステップ間はやや広め。(ライダーは身長183cm/体重80kg)

参考:身長165cm 男性

参考:身長155cm 女性

レブル250が自由さと少しの緊張感をもたらすとすれば、CL250は自由さがさらに開放され、よりリラックスできるフィーリングだ。

だから、オフロード系を意識しているというよりは、かつてホンダが販売していたストリートトラッカー「FTR」の車格をもう少し立派にした感じ、という印象になるのである。そう、車格は思ったよりも立派で存在感がある。

そう捉え直すと、エンジン下にエキゾーストパイプが通る配置や、オフ系としては低めのシート高、広めのハンドルバーなど全てに納得がいくようになる。昔のCL72のようにスポーツバイク「CB」の派生でスクランブラーを作ったのではなく、クルーザーモデルから派生して誕生したからこそ、この街乗りスクランブラーというコンセプトになったのだと理解できた。

開発者に聞いてみたら、じっさいに使い勝手の部分ではFTRを参考にした部分もけっこうあるようだった。気兼ねなく走り出せて、コンビニに行く下駄替わりにも使える。それでいて、その気になればロングツーリングやワインディングロードの快走、なんなら少しの林道なんかも楽しめる、というわけだ。

開放感あるポジションそのままに、気楽で気遣いのいらない走り

エンジンを始動すると、思いのほか元気のいいサウンド。歯切れがよく、うるさくない程度に存在感がある。アップマフラーによって排気口から耳までの距離が近く、それでいて破裂音や反響音みたいな雑味は少ないので、純正マフラーとしてかなり好ましい音量、音質になっていると感じた、

フラットなシートに腰を下ろすと、ややワイドなハンドルバーは少し遠めと感じる方もいるかもしれないが、手を伸ばせば自然な場所にあり、身長183cmでも窮屈さはない。やや前寄りのステップは体重がかけやすく、スタンディングも容易。足を着く際に少し邪魔な位置とも言えるが、走る時の快適さを考えればこの位置がいい。

アシスト&スリッパークラッチ装備で軽いクラッチレバーを握り、1速に入れると、苦もなく発進できる。エンストするような気配はなく、トルクは必要十分だ。

最初に感じたのは、フロントホイールのゆったりしたステア感。ライダーが入力して車体が傾いたあと、やや遅れてハンドルが切れてくる。この前輪19インチならではのリズムがとても心地よい。先走って勝手に曲がろうとするでもなく、前輪21インチのオフロード車のようにハンドルを切り増ししてやる必要もない。

長く乗り慣れたマシンであるかのように馴染みやすく、すぐに気持ちよく走れる。

体重を軽くかければ車体はスッと傾き、172kgの車重による程よい手応えが安心感を生む。ハンドルの切れ角は左右38度もある(レブル250は35度)ので、小回りも安心。とにかく一貫して安心して乗れる感じがある。

タコメーターがないので回転数はわからないが、エンジンのまろやかな低速トルクはスロットルを大きく開けるとパルス感に変わっていき、パワーが出る回転域になると少しの振動も出てくる。ドラマチックなパワーバンドなどとは無縁だが、スロットルの開け閉めで表情が変わり、エキゾーストサウンドのメリハリよく変化するのが好ましい。

街乗りでは本当に何も考えずに楽に乗ることができて、何の気遣いもいらない。前150mm/後145mmのホイールトラベルにより、路面の凹凸も難なくいなす。

首都高に乗ると、快適で振動が非常に少ないのは70km/hくらいまで。気持ちよく走れるのは90km/hくらいまでだろうか。そこからもう少し速度が出せるエリアにいくと、100km/hくらいで少し振動が気になるようになるが、逆に110km/hを超えたあたりからはまた振動が収束していくので、新東名などの120km/h区間ではしっかりスピードを載せるか、一番左の車線でゆったり走るか、メリハリをつけて選んだほうがよさそうだ。

最高速度は150km/h程度らしいので、120km/h巡行でもいっぱいいっぱいという感じにはならなそうだ。

トラッカーってスポーツバイクだった

ワインディングロードに持ち込むと、これが意外なほど面白い。レブル250もクルーザーとしてはかなり快走を楽しめるし、バンク角も公道では使い切っちゃいけない35度あるので、スポーツネイキッドなんかと一緒に走っても大きく置いていかれることはない。

でも、CL250はバンク角がさらに深い38度とされているほか、けっして高級ではないがストロークの長さで好ましい特性を生んでいる前後サスペンション、そして前19/後17インチのホイールによって、かなり気持ちよく走れるのだ。

最高出力はCRF250Lと同じ24psとされていて、これがスロットルをワイドオープンしたまま曲がっていける安心感になっているし、車体はライダーのアクションをしっかりと受け止めてくれる。

ただし無理は禁物だ。サスペンションはよく動くので雑なブレーキ操作をすると挙動に表れやすく、また挙動が乱れたあとは少し余韻が残りやすい傾向があるからだ。ハングオフなんかでシャカリキになって走るのではなく、リーンウィズで程よいペースの快走がいちばん気持ちいい。

ゆったりしたフィーリングが根っこにあるから、安心して身体を預けてスポーティな走りも楽しめる。

スロットルワイドオープンでゆったりしたリズムに身を任せ、気持ちいいペースを保ちながら快走するイメージも、トラッカー(フラットトラック由来のスポーツバイク)に重なる。じっさいのスピードは平和な範疇だが、それでも走りに身を任せて操作や路面に集中していくことができるのだ。演出された軽々しいシャープ感などとは無縁の、ライダーが主役になれるスポーツ感があった。

もう少し細かく言うなら、車体は安定感がベースになっていて、エンジンもフラットな特性であることから、右手を大きくひねりながら余計な緊張感なくトラクション感を楽しめる。シートに体重を預け、遠心力でググっとサスペンションが沈み込むのを感じるのも楽しい。

そんな走りを、常識的な速度の範囲内で楽しめる。クルーザーベースだからこそ、ストイックにならず“陽”のスポーツ性が味わえるわけだ。

レブル250をベースにしたのがよかったんだと納得

開発者によれば、『CL』の車名を復活させるのが目的だったわけではなく、レブル250/500をベースに何か新しいものをつくるというのが先だったようだ。だからこそ、こうした自由度と汎用性の高いベーシックなバイクが生まれたのだと思う。

そして個人的には、『バイクは自由の象徴である』と言われると、やっぱり道を選ばないというところも大切にしたくなる。そうした意味で、CL250は行ける範囲も広く、単に乗り味だけではない自由度の高さがあるのがいい。

レブルからプラス1万1000円の62万1500円で買えるCL250は、リーズナブルな価格やそのキャラクターから、爆売れのレブル250にもうひとつの選択肢を作り出したと言えそうだ。

HONDA CL250[2023 model]

HONDA CL250[2023 model]

HONDA CL250[2023 model]

通称名 CL250
車名・型式 ホンダ・8BK-MC57
全長×全幅×全高 2175×830×1135mm
軸距 1485mm
最低地上高 165mm
シート高 790mm
キャスター/トレール 27°00′/108mm
装備重量 172kg
エンジン型式 水冷4ストローク単気筒DOHC4バルブ
総排気量 249cc
内径×行程 76.0×55.0mm
圧縮比 10.7:1
最高出力 24ps/8500rpm
最大トルク 2.3kg-m/6250rpm
始動方式 セルフ式
変速機 常時噛合式6段リターン
燃料タンク容量 12L
WMTCモード燃費 34.9km/L(クラス2-2、1名乗車時)
タイヤサイズ前 110/80R19
タイヤサイズ後 150/70R17
ブレーキ前 油圧式ディスク(ABS)
ブレーキ後 油圧式ディスク(ABS)
乗車定員 2名
価格 62万1500円
色 橙、灰、白
発売日 2023年5月18日

CL250のディテール

以下の写真はホンダモーターサイクルジャパン提供

ヘッドライトユニットはレブル250と共通だが、ハンドルの切れ角を35度→38度と増やしたことにともないハーネスのスペース確保のためユニットを10mm前方へ。フォークスパンはレブル比で10mm狭い。

レブル250と共通のLEDテールランプは柔らかな楕円形状で、当初から汎用性を考えて作ったものだという。GB350Sにも使用されている。ウインカーもLEDで、こちらもレブル250と共通部品を使う。

シンプルなメーターとハンドルバー。グリップはクローズタイプだが、オープンエンドタイプに交換した場合はバーエンドにネジ山が気ってあり、ウェイトなどを取り付けることも可能だという。

水冷単気筒エンジンはカムシャフトをCRF250Lと共通の低速トルク型に変更。レブルの26ps/9500rpmに対し、CLは24ps/8500rpmとしている。マフラーは歯切れがよく雑味のない音質を実現。サイレンサーの外観とマフラーカバー類はすべて2気筒471ccのCL500と同じだというから驚きだ(中身エキパイとサイレンサーの中身は少し違う)。

正立フロントフォークのストロークは150mm。19インチホイールによって安定性が増し、ステアリングの応答性も絶妙に鈍いゆえ非常に扱いやすい。

リアサスペンションは2本ショックタイプでプリロード調整が可能。17インチホイールのトラベル量は145mmだ。

シート高は多くのユーザーに対しハードルを下げるため、800mm切りを実現。タックロールタイプでフラットな造りになっている。シート下のスッキリしたスペース作りや、タンデムグリップなどが後から取り付け可能なボス&ボルト、シートをはめ込むと見えなくなるシートレールの溶接跡など、見せるところと隠すところを使い分けている。

HONDA CL250[2023 model]

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