デビューから5年を経て、足りない部分を補った正常進化を果たす

ヤマハの125/155スクーターのNMAXはアジアや欧州などで新型に切り替わっており、日本では2021年6月末に新型125が先行発売された。NMAXはPCXと同じジャストサイズのスクーターで日本では2016年から販売を開始。PCXは2010年のデビューで6年先行しており、満を持してリリースされたのだ。今回は、新型だけでなく従来型NMAXにも同時に乗ってみたのでそのインプレッションをお届けしたい。

新型NMAXのエンジンは、吸排気やFIセッティングを変更し令和2年排出ガス規制に対応しつつ、最高出力は12PSを維持している。また、エンジン始動用モーターと発電のジェネレータ機能を一体化した「Smart Motor Generator(スマートモータージェネレーター」を初採用しているのが大きな変化で、エンジンを始動する時にセルスターターの「キュルル…」という音がしなくなった。

さらにフレームも改良。NMAXはアンダーボーンのスクーターとは異なり、パイプが上下に通るスポーツ系スクーターのプラットフォームとして進化しており、新型はメインパイプとダウンチューブの径をそれぞれ60mmと40mmとしている。車重は4kg増えたが、軽すぎず手ごたえのあるハンドリングと接地感が得られるようにした。サスペンションは前後ともセッティングを変更し、ホイールは新作としている。

そして、実際に乗ってみると、新型NMAXはまさに正常進化というのが第一印象。性能面ではなく快適性の向上が著しく、PCXに負けてない! と断言できる仕上がりだった。従来型の特徴である走りの良さに加え快適さや利便性を増しており、目をつぶってブラインドテストをしたらどちらがNMAXでPCXか分からないかも知れない(実際そんなことはできないが…)。

2016年に国内デビューしたNMAXが二代目に進化。エンジンは排ガス規制に対応するだけでなく、アイドリングストップ機構も新たに装備。着信通知などを知らせてくれるスマホアプリにも対応している

身長170cmのライディングポジションは窮屈さはなく、足も前後に動かせるので長距離も楽。スクリーンはPCXより立ち気味なので、ウインドプロテクションも良さそうだ

体重65kgで足着き性は少しかかとが浮く。スペック上ではNMAXが765mmでPCXが764mmとほぼ同じだがPCXでは完全接地だったので、シートの幅やサス設定の違いだろう

新型NMAXがPCXよりもわずかに速い印象なのはVVAがあるおかげ?

新型NMAXは走ってみると飛び抜けた速さは見られないものの、新型PCXより最高速がちょっと速いな、と感じられた。調べてみるとNMAXは2016年の従来型から4バルブヘッドを採用しており、加えてVVA=Variable Valve Actuation(バリアブルバルブアクチュエーション)を踏襲しているので、動力面では有利なのだろう。

ちなみにライバルPCXも2021年型で4バルブヘッドを採用し、最高出力は12→12.5PSにアップしている。新型NMAXは12PSのままなのでホンダがNMAXに対抗してきている状況だ。ただ出力差に反してトップスピードで新型NMAXの方が速いと感じられるのは6000rpmで高回転型カムに切り替わるVVAのおかげだろう。

一方、新型NMAXは性能ではなく快適性でPCXに対抗。新型NMAXはエンジンフィーリングが滑らかになっており新型PCXに似ている。おまけにスマートモータージェネレーターの採用で音もなくエンジンが始動するところや信号待ちでアイドリングストップするところなど、まるでPCXに乗っていると錯覚させられるのだ。

従来型NMAXは、アイドリング時にもエンジンがストップせず、さらに振動が大きめなので新型の後に乗ると気になってしまう。また、加速時の振動も荒々しい感じだ。ただし、これはバイクらしいフィーリングでもあり決して不快なものではない。また、速さにおいては従来型NMAXが一段上なので、排ガス規制が新型の動力性能にいかに影響しているのかも分かる。

新型NMAXのエンジンは吸排気の仕様やFIセッティングの改良で令和2年排出ガス規制に対応。出力は12PSを維持しているが、発生回転が7500→8000rpmに高められている。6000rpmで切り替わるVVAも変わらず装備する

新型NMAXの大きな変更はエンジン始動用モーターとジェネレータの機能を一体化した「Smart Motor Generator(スマートモータージェネレーター)」の採用。PCXと同じ装備でこれによるアイドリングストップ機構も導入された

同じ通勤ルートで従来型NMAXに試乗。フィーリングはワイルドかつ速さは圧倒的だった。ただし、快適性や装備面などでは新型の方に分がある。程度のいい中古があったらこちらも十分にオススメできる

スポーツスクーターの代名詞“MAX”の血統が息づくシャーシ

ヤマハはスクーターのパイオニアで、1977年にパッソルでこの分野を切り開いたメーカーだ。その後、1995年のマジェスティ、2001年のTMAXと革新的モデルを生み出しているが、現在世界的にラインナップを拡大しているのはTMAXの血筋を引くシリーズとなる。初代TMAXが提唱したオートマチックスポーツの血統は、シリーズ最小排気量となるNMAXにも息づいているのだ。

その核となるのは上下にパイプが走るフレーム形式で、スポーティな走りを支えている。新型NMAXでは新設計となるが基本は変わっていない。一方、ライバルのPCXは2018年型の3代目で同様のフレームを採用しており走りがスポーティになったが、元を辿るとNMAXのフレームを意識したものと言えるだろう。

筆者はNMAXよりも先にPCXに試乗しそのスポーツ性の高さに感激したのだが、これはすでにNMAXが持っていた資質なのだと今回の試乗で気づかされた。通勤や街乗りでも加重のかかる中高速コーナーは結構あるもので、そこでの安心感、安定感がスポーツバイク並みなのはこの2台の美点だ。

さらに新型NMAXは、軽快な新型PCXに比べてフロントの接地感に手応えが感じられるものだった。より攻められそうなところはやはりMAXの血統だなと感じられ、PCXとの違いとなっている。とは言っても、双方がそれぞれの良さを吸収しているのでかなり相似形となっていると言えるだろう。

写真は従来型NMAX。新型NMAXはエンジンハンガーを改良することで振動低減を図っている他、メインパイプを径60mm、ダウンチューブを径40mmにしている

写真は2018年型PCX発表時の新旧フレーム比較。ダウンパイプだけの従来型に比べスポーツ性が向上した。ステップスルーではないので燃料タンクをセンターに配置できるのもメリットだ

前後サスペンションは設定を変更。ホイールは新作でタイヤサイズは110/70-13で不変。フロントタイヤは従来のPCXよりも10mm太かったが、2021年型でPCXも110/70-14を採用して同じ太さとなった。

リアサスペンションには2段階でイニシャル調整ができる新機構を追加しておりPCXに差をつける。二人乗り時に即座に対応できるのはありがたい装備だ

スマートキーや充電ソケットにスマホ対応とフル装備を実現

新型NMAXは快適装備の導入も進んだ。便利なのはスマートキーの採用で、これは慣れると通常のキーを使うのが面倒になってしまうほどだ。また、今や常識と言える充電などに使う12Vのソケットも標準装備されている。他にもトラクションコントロールの導入で、装備面でも新型PCXと差がなくなり、全くの互角の状況となっている。

特筆すべきは、専用アプリ「Y-Connect(コネクト)」に対応していること。これは、車両とペアリングすることで燃費管理やメンテナンス時期のお知らせ、最後に駐車した位置の確認など様々な情報を知らせてくれるアプリで、スマホへの着信やメッセージの通知もメーター画面に表示してくれる。

また、Y-コネクトでは「Revs Dashboard(レヴズダッシュボード)」が楽しい。スマホ画面でエンジン回転数、スロットル開度、加速度、エコ運転状況、瞬間燃費、回転計の表示が可能なので、ハンドルにマウントした際は追加メーターとして活用できるのだ。また、走行距離、エコ運転の結果を、同じアプリを使用するユーザーがランキング形式で確認できるので、ゲーム的要素もある。

ここまで充実を図った新型NMAXだが、価格は従来型から税抜き1万円アップに留めている。新型PCXより1万円(税抜き)高いがVVTとY-コネクトで帳消しにしているとも言える。どちらを買っても125スクーター最高峰の出来映えを味わうことができるのは間違いない。

シート下のスペースは23Lを確保。ヘルメットを収納可能としつつ前方に2個分のヘルメットホルダーも装備している

左に12Vジャックを備えた小物入れ、右にはフタ付きの収納ボックスが配置されている。中央はイグニッションスイッチだ

NMAXでは初装備となるスマートキー。これでPCXに装備で見劣りする部分がなくなった

メーターは燃費や電圧なども表示する多機能表示になっている。写真は新採用されたトラクションコントロールのステータス表示だ

新作のヘッドライトは従来型のイメージを引き継ぎつつ明るい6灯の新デザインに変更している

テールランプにはライン発光LEDも採用されてスタイリッシュになっている

Y-コネクトのレヴズダッシュボード画面。タコメーターだけでなくスロットル開度までリアルタイムで表示される。いずれは、ライディングのスマートさもランキング化される?

2021年型NMAX ABS主要諸元

・全長×全幅×全高:1935×740×1160mm
・ホイールベース:1340mm
・シート高:765mm
・車重:131kg
・エンジン:水冷4ストローク単気筒SOHC4バルブ 124cc
・最高出力:12PS/8000rpm
・最大トルク:1.1㎏f・m/6000rpm
・燃料タンク容量:7.1L
・変速機:Vベルト式無断変速機
・ブレーキ:F=ディスク、R=ディスク
・タイヤ:F=110/70-13、R=130/70-13
・価格:36万8500円

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