ヤマハは、バイクの発進/変速操作を電子制御&自動化する新機構「Y-AMT」を開発し、2024年9月30日に国内発売予定の「MT-09 Y-AMT」に搭載する。クラッチレバーとシフトペダルを廃した機構は何をもたらす?

●文:ヤングマシン編集部(ヨ)

完全なオートマチックとして走ることができ、ハンドシフト操作も可能

ヤマハは次世代シフトテクノロジー「Y-AMT(ヤマハ オートメイテッド マニュアルトランスミッション)」を6月に発表。クラッチレバーとシフトペダルを排除して、完全オートマチックで走らせることと、手元の操作でギアチェンジを行うことができる。

これまでにもヤマハは、2006年にスポーツツアラー「FJR1300」向けにYCC-S(ヤマハ チップド コントロール シフト)を開発。それは油圧クラッチを自動制御しつつ、変速についてはライダーが左足のシフトペダルまたは手元のコンパクトなレバースイッチを操作する必要があった。

今回のY-AMTは、指で操作するマニュアルシフト、または2モードのフルオートマチック制御を可能とする電子制御技術だ。つまり、クラッチ制御だけでなくシフト操作もオートで行われ、モードを切り替えることでライダーによるマニュアル操作も可能になるというもの。クラッチと同時にシフト操作も制御されるということは、クイックシフターよりもスムーズかつ素早いギアシフトが可能になるのは間違いないだろう。

クラッチレバーとシフトペダルはなく、電動アクチュエータによってクラッチユニットとシフト機構が駆動される。

Y-AMTは、同じくマニュアルトランスミッションをベースとしながら油圧作動のYCC-Sシステムと異なり、2つの電動アクチュエータによってクラッチユニットとシフト機構を制御。また、ライドバイワイヤの電子制御スロットル(YCC-T)と併用することで、よりスムーズなギアチェンジやクルーズコントロール機構、切り替え可能なライディングモードなども統合制御することが可能になっている。

システムの重量はわずか約2.8kgだといい、“コンパクトな車体設計フィロソフィーはそのままに、エンジン幅をいたずらに広げることなく、マシンのハンドリングやパフォーマンスを維持できる”と明言しているのもヤマハらしい。

オートマチックシフトモードは2つ。街乗りやツーリングといったノーマルな使い方に馴染む『D』と、よりスポーティなギアシフトに制御される『D+』、これに(搭載する車種によるだろうが)パワーモードやトラコンなどの各種電子制御、今後搭載される機種によっては電子制御サスペンションなどが統合制御されるはずだ。

価格は+10万円以内?

国内で7月に実施されたオンライン発表会では質疑応答もあり、走行性能などについても言及された。

まず、このY-AMTを最初に搭載する機種として発表されたのはMT-09 Y-AMTだが、今後についてはMT-09系の並列3気筒マシンをはじめ、MT-07系の並列2気筒マシンへの搭載も明言された。このほかにもヤマハは『複数の計画がある』としており、Y-AMTの市場への普及次第で多機種への展開も見えてきそうだ。

MT-09 Y-AMT

Y-AMTを用いたMT-09の0-400m加速は10.9秒だといい、888cc/120psのエンジン性能を考えればかなりのもの。ライダーがマニュアル操作で毎回これと同じフル加速を再現できるかといえば、それ相応のスキルが求められそうだ。

チェンジペダルについては完全に排除されており、オプションとしての設定もなし。シフト操作をするレバー型スイッチは材質やフィーリングにこだわったものだという。

Y-AMT搭載による価格上昇は「大幅ではない」としており、ホンダEクラッチの+5万円、DCTの+10万円を意識したものだ。ちなみに、燃費については通常のマニュアルトランスミッションと同等だそうだ。

シフト操作は左手側のシーソー型スイッチで行う。『+』ボタンを人差し指で引くように操作してシフトアップ、親指で『-』ボタンを押してシフトダウンできる。ATモードでの走行中も操作で介入が可能だ。

右手側スイッチボックスにはAT-MTやモードを切り替えるボタンがある。

ヤマハ最新のスイッチボックスと大きく変わらず、システムのシンプルさとコンパクトさがうかがえる。

ホンダEクラッチ/DCT、BMWのASAと何が違う?

気になるのは、相次いで登場しているホンダEクラッチやDCT(デュアルクラッチトランスミッション)、さらにBMW・R1300GSアドベンチャーに搭載予定のASA(自動シフトアシスト)といった機構とどう違うのか。今わかっている情報を表にまとめてみた。

Y-AMT YCC-S DCT Eクラッチ ASA
クラッチレバー なし なし なし あり なし
シフトペダル なし あり オプション あり あり
ハンドシフト あり あり あり なし なし
自動変速 可能 不可 可能 不可 可能
マニュアル変速 可能 可能 可能 可能 可能
AT限定免許 OK OK OK NG OK
メカニズム MTベース MTベース DCT専用 MTベース MTベース
搭載機種 MT-09 FJR1300AS アフリカツイン
ほか多数
CB650R
CBR650R
R1300GS
発売 2024年 2006年 2010年 2024年 未発表


ホンダDCTはクラッチユニットを2つ備えた専用の機構を持ち、メリットは非常に素早くスムーズな変速が可能なこと。複雑な機構で重量的には不利、かつ価格もそこそこ上昇(10万円程度)してしまうのがデメリットと言えるだろうか。

それ以外はマニュアルトランスミッション機構をベースとしており、いずれもクラッチを自動制御するが、Eクラッチはいつでも手動操作で介入できるのが他の機構との大きな違いだ。いずれもマニュアル変速は可能になっており、自動変速についてはY-AMTとASAが可能。メリットは機構が比較的シンプルで廉価にしやすいことだが、全てに共通するようなデメリットはこれと言ってない。メーカーやシステムによって自動変速の可/不可がある点や、シフトペダルの有無などをどう解釈するか、といったところだろう。

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