これまでの流れを断ち切るような大幅刷新を受け、’21年型で新登場した新生モンスターが、日本のストリートに降臨。ドゥカティ伝統の“怪物”は、果たしてどれほどイメチェンを図ったのか? 『ヤングマシン』誌メインテスターの丸山浩氏が、速攻試乗インプレッションを敢行した。
●まとめ:ヤングマシン編集部(田宮徹) ●写真:長谷川 徹 ●外部リンク:ドゥカティジャパン
【テスター:丸山浩】長年にわたり『ヤングマシン』誌メインテスターを担当。全日本ロードレースに加えて、イベントレースでネイキッド使いとして大活躍した実績を持つ。 |
ベタベタの足着き性と、しっかり切れるハンドル!
これまでのドゥカティ モンスターは、数々のモデルチェンジや熟成やバリエーションモデル追加などを受けながらも、どこか年型の初代(モンスター900)からの流れを感じさせるオーセンティックな雰囲気があった。これに対して、車名に排気量などを盛り込まずシンプルに「モンスター」とだけ名乗る新型は、先代までとはずいぶんとイメージが異なる。フレームからして、これまでの伝統だった鋼管トレリス構造ではなくスーパーバイク由来のアルミ製フロントフレームを使うのだからこれは当然のことなのだが、しかし一方で相変わらずのドゥカティらしさ、モンスターらしさもある。
その筆頭となるのが、Lツインとも呼ばれる水冷V型2気筒エンジンのフィーリングだ。937ccの排気量が与えられたこのエンジンは、他機種にも使われてきたものに熟成を加えた仕様で、「静粛性を高めて…」という ような技術説明もあったのだが、パルス感や荒々しさは健在。そこにドゥカティらしさが凝縮されている。
対して、これまでのモンスターとは圧倒的に異なるのが、まずは足着き性。日本向けはローシート&ローサスを装着した状態が標準仕様扱いとなっていることもあるが、ほぼリッタークラスでここまで足着き性に優れるというのは、これまでのモンスターに抱いてきたイメージからするとかなり異なる。
加えて、先代821と比べて片側7度も増して広角になったハンドル切れ角も、これまでとは大きく異なるポイント。これまでのモンスターは、とにかくハンドルが切れなかったのだ。ハンドル切れ角アップを可能にしたのは、アルミ製フロントフレームの採用が大きい。これまであれだけ鋼管トレリスフレームにこだわってきたのに今になって…という思いがないわけでもないが、鋼管トレリス時代にはフレームワークで剛性を高めなければならないので、どうしてもステムまわりですぐ横に広げなければならず、これがハンドルを切れなくさせる要因になっていたのだ。
もうひとつ、これまでモンスターらしさとして認識されていた項目から消されてきたのが、ものすごくワイドで低めにセットされたバーハンドル。良く言えば個性、悪く言えば違和感あるライディングポジションから、ごく普通で扱いやすい設定に改められている。
これらの結果、新型モンスターはこれまでにない扱いやすさを手に入れた。一般ライダーが市街地やワインディングで違和感なく扱えて、信号待ちで停止するときにドキドキせず、Uターンもスムーズだ。
ただしモンスターは、あくまでもスポーツバイク。もしも、以前の696あたりのエンジンを使って設計したら、よりフレンドリーな性格になっただろうが、それでは本来のモンスターらしさを完全に失っていたかもしれない。低回転域でのレスポンスが機敏で、ライディングモードをもっともマイルドなアーバンにすればある程度は穏やかだが、スポーツで乗ると「ドタドタドタッ!」とかなり力強く前に進む。大排気量であることも低回転域トルクの厚みにつながっていて、低中回転域だけで市街地を走れてしまう。
それでいて、高回転域でもしっかりパワーを発揮。とはいえ、リッタークラスで絞り出すように最高出力を上げたLツインだとストリートでの乗りにくさも生むが、このエンジンはそうではない。結果的に、スポーツ性と扱いやすさの両立が図られている。
ライディングモードは、前述のアーバンとスポーツの中間にツーリングを加えた3タイプ。アーバンとツーリングの間にはそれほど大きな違いが感じられず、出足の柔らかさが欲しいときにはアーバン、それ以外はスポーツでいいかなという感じ。スポーツにした
から極端に狂暴というわけでもない。
クイックシフターは、市街地で1〜2速を使うときにガチャガチャするときもあるのだが、高回転域での作動は非常に軽く、フェザータッチでスパッとシフトチェンジできて快感。そんな部分にもスポーツバイクの香りがする。
軽量な車体と柔らかな脚が気軽なスポーツ性を生む
コーナリングは非常に軽快。日本仕様はリヤサスがローダウンされていることもあって、よく寝るがそれほど旋回性が高いわけではない。とはいえ、コーナーを意識するだけでバンクしていくような特性は、初中級ライダーがスポーティに走らせたいときには扱いやすさにつながる。上級者がさらなる運動性能を求める場合、サスペンションの調整などをしたいところだが、調整機構はイニシャルのみ。だからこそアクセルワークで前後荷重を操る楽しみを追求したい。トルクフルなエンジンなので、高回転域をキープしなくてもしっかり2次旋回しながら立ち上がれる。そういう点にもスポーツ性を感じられるだろう。
前後サスは柔らかめ。以前のモンスターシリーズは、グレードによってはけっこうハードなセッティングで、高速道路で路面の継ぎ目などを通過するときにショックを大きめに感じることもあったが、新型はいつでも乗り心地がよい。フロントブレーキはかなり強力に利くので、その点から考えるとフロントサスのバネレートをもう少し上げたいとも思えるが、初期タッチでのコントロール性に優れるので、ハードブレーキングしなければ問題ない。
日本仕様はローシートなので、長時間のライディングではお尻が痛くなりやすい。足着きの問題がないなら、標準シートに換装することも考えたいところだが、このシートを採用することでドゥカティの間口を広げているというのも事実。近年、ドゥカティのエントリーモデルとなってきたのはスクランブラーシリーズだが、やっぱりドゥカティはスポーツバイクのブランド。新型モンスターにはその要素も十分に盛り込まれている。
普通に乗れて、扱いやすく、でもエンジンはスポーティ。丸1日試乗した感想は「スタンダードストリートマシン」だった。その印象は、従来のモンスターが築き上げてきたイメージとはやや異なるが、ドゥカティを知る最初の1台としてこのモデルは最適だ。
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