レッドバロンがメディア向けに開催した試乗会に、コンディション良好な数々の絶版車が登場! メカの解説と当時の思い出を交えつつ、現代目線からのインプレをお届けしよう。第4弾はカワサキのZZR1400(欧州版Ninja ZX-14R)。国内で2020年に生産終了した比較的新しいモデルで、やっぱり魅力的だった!
取材協力:ヤングマシン
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最強最速路線の元祖、その系譜を受け継ぐメガスポーツ
高い巡航性能と運動性を両立したメガスポーツを代表する1台であるNinja ZX-14Rは、ZZR1400の進化版として'12年にデビュー。ややこしいのだけど、今回試乗したのはモデルチェンジ前のZZR1400ではなく、欧州仕様のNinja ZX-14Rだ。
欧州では「Ninja ZX」より「ZZR」が浸透していたため、ブランディングの関係で欧州ではモデルチェンジ後の呼称も「ZZR1400」のまま継続したという経緯がある。

↑'14年型ZZR1400(Ninja ZX-14R欧州仕様)。カワサキのフラッグシップとして、水冷直列4気筒は前世代の1352ccから1441ccに到達。最高出力は200ps+ラムエアを叩き出す。国内には逆輸入車として入荷してきたが、排ガス規制などの影響で2020年モデルをもって生産終了。試乗車の走行距離は2万3300km。外観、走りとも絶好調だ。
筆者にとってZZRと言えば、やはり往年のZZ-R1100が思い浮かぶ('03年頃から車名がZZRに統一されたが、それ以前はZZ-Rだった)。ZZ-R1100こそZX-14Rの遠い先祖で、カワサキらしい“フラッグシップ”“最強最速路線のグランツーリスモ”といった血統が引き継がれている。
そのZZ-R1100に対抗するため、ホンダから'96年にCBR1100XXスーパーブラックバード、スズキから'99年にGSX1300Rハヤブサが登場。ハヤブサが性能、人気ともにメガスポーツの覇者となった。しかし負けじとカワサキも'00年にNinja ZX-12Rをリリースして返り咲きを狙う……。
ところが欧州で最高速300km/h以下の自主規制が行われ、以降は“サンビャク”に至るまでの質にこだわる時代に入った。ZX-14Rは、そんなアツい時代の後継者でもあるのだ。
この路線に筆者は思い入れがあり、ZZ-R1100の先代にあたるZX-10に乗っていた。ZX-14Rが生産終了する数年前に本気で購入を考えていたことがある(結局、オカネや置き場所の関係で諦めたのだけど……)。
ちなみにZZ-R1100は欧州などの呼称で、北米での車名はZX-11。今回のネーミングと同様の関係だ。

↑先代モデルの6眼を2眼レンズ内に収納したような顔が圧倒的な威圧感を放つ。中央のラムエアダクトも存在感抜群。曲線主体のボディは空力性能を追求している。

↑フロントにラジアルマウント4ポットキャリパーとペータルディスクをセット。Fフェンダーも空力を考慮したデザインだ。

↑顔と並んで、外観上のアイコンとなるサイドフィン。先代モデルのフィンをより大型化し、一段と強調している。

↑左右にアナログメーター、上部に液晶パネルとインジケーターを設置し、雰囲気のあるコクピット。速度計は280km/hの表示があるが、300km/hを示す目盛りが刻まれる。
巨体にビビるが、シルキーなエンジンと自然な旋回で乗りやすい
'12年の発表時、まだまだ珍しかった200ps+ラムエアというパワーにも驚かされたけど、衝撃的だったのが北米向けのPVだ。2代目ハヤブサとのゼロヨン対決を行い、ZX-14Rが4戦全勝。ハヤブサが10秒台(十分速いが……)なのに対し、ZX-14Rは全て9秒台を叩き出したのだ。
とにかくスゴいパフォーマンスにビビってしまう。そして実際にまたがってみると、デカい。試乗したのは7年ほど前だけど、記憶よりデカい。目の前のタンクがデカいし、車体自体もデカい。車重は268kgあり、取り回しもなかなか大変。さらに、かなりの前傾ポジションなので、ますますビビる……が、実際に走らせてみると、実にラクチンだ(笑)。

↑グリップエンドは遠く、高さはヘソ下程度。かなり上体が前傾する。ただし、ハンドルとシートの位置は、大柄なイメージだった先代ZZR1400や過去のZZ-R1100よりコンパクト。ヒザの曲がりもSSほどキツくない。

↑ボリュームのある車体ながら股下がスリムなので、足着き性は良好。身長177cm&体重61kgのライダーだと両足のカカトまでしっかり接地する。シートは幅広でクッションが厚く、快適。
シルキーという表現があるが、まさにそのもの。発進から極めて滑らかな加速を見せてくれる。大きく右手を捻らなければ、という条件付きではあるものの、分厚いトルクを伴い、まるでモーターのようにスムーズに静かに回転が上昇。これは振動を軽減する2軸2次バランサーの影響も大きいだろう。大きく長い車体も手伝って、恐怖どころか、実に安心できるフィーリングだ。
3000rpmも回せば街中は十分。それ以上の領域ではクオォォーンと加速が盛り上がっていくが、スロットルレスポンスが右手の動きに忠実なのでやはり安心だ。少し開ければ少しだけ、ワイドに開ければドッカーンと強烈な加速を見せてくれる。また、クラッチレバーが軽いのもいい。

↑見た目は手強そうだけど、足着きがよく、発進がスムーズ。気が付けば、思いのままに走らせている。
ハンドリングも自然かつ素直。スーパースポーツのようなヒラヒラ感とは異なり、軽やかながらもしっとりとした安定感がある。自由自在なエンジン特性と相まって、これまた安心してコーナリング可能。ブレーキもコントロールしやすい。
また、トラクションコントロールがあるのも安心材料。試乗では作動しなかったが、この巨体でリアが滑ってもカバーしてくれる心理的な保険は大きい。
巨体ながら意外と足着きがよく、スキルを問わずライダーの意のままに操れる。これは先祖のZZ-R1100を思わせる美質。ZX-12RはZZ-R1100路線とは異なるトガッたキャラクターで、先代ZZR1400もその系譜を感じた。しかし、ZX-14Rは現代版ZZ-Rと言える乗り味だ。

↑ハンドリングは安定感と軽快感が同居。操作をミスしてもトラコンがある安心感は大きい。ちなみにグラブバーと荷掛けフックをしっかり備えるあたりもZZ-Rの系譜を感じさせる。
高速クルーズが真骨頂、この上質さは代えがたい!
今回はショートコースでの試乗だったが、ZX-14Rが本領を発揮するのは高速道路。過去にスーパーチャージャー付きのNinja H2やH2SXと比較試乗した経験もあるけど、ZX-14Rの乗り味が一番光っていた。シルキーなエンジンに加え、飛ばせば飛ばすほどピタっと安定。他のライダーも同様の感想で、疲れにくさがピカイチだった。
例えるなら新幹線。それほど上質さを伴った速さを見せる。関係ないけど、カワサキ(川崎車両)は新幹線を製造してきたこともあってか、そんなイメージをつい思い浮かべてしまう。加えて、街乗りまで無難にこなすオールマイティさまで兼ね備えるのだ。
ちなみに現代の視点からすると、電子制御は乏しい。ABSのほか、2段階のパワーモード、3段階+オフのトラクションコントロールしかない。ただし'12年のデビュー当時、国産モデルでトラコン付きのモデルはまだメジャーではなかったので、装備されているだけでもありがたいとも言える。
また、かなりの前傾姿勢が少し気になる。高速クルーズがメインの使い方ならともかく、筆者にはちょっと前傾がキツい。バランスが崩れるかもしれないが、せめて2~3cm程度はグリップ位置を上げたい。なお、'16モデル以降はグリップ位置が若干高く、手前に変更されている。
現在、後継モデル的な存在としてスーパーチャージド998cc直4のNinja H2SXが存在するが、ZX-14Rのように自然吸気の大排気量車で、新幹線を思わせる上質さを備えたZZ-R1100路線のモデルは存在しない。それだけにZX-14Rは今後ますます貴重になっていくハズだ。改めて乗ってみて……やっぱり欲しい笑
ZZR1400(Ninja ZX-14R欧州仕様) 主要諸元
・全長×全幅×全高:2170×770×1170(mm)
・ホイールベース:1480mm
・シート高:800mm
・装備重量:268kg
・水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ1441cc
・200ps/10000rpm
・15.7kg-m/7500rpm
・ブレーキ:F=Wディスク、R=ディスク
・タイヤ:F=120/70-17、R=190/50-17
※諸元は'14年型
