ある日、突然、出前機が……!

愛車、ハンターカブ125をカスタマイズをしました。

いや、正確に言えばカスタムしたのではなくて、「カスタムされました」……。

話は少し遡り8月末。家を引っ越したときのこと。引っ越しと言っても同じ敷地内にある別の建物へ。わずか20mほどの引っ越しだったので、友だちに頼んで5、6人でえっちらおっちらと家具や荷物を運んでいたのです。

しかしそのとき、僕は気づかなかった…。仲間のうち一人が、30分ほど姿を消していたことを…。

引っ越し作業がひと段落し、あらためて家のあちこちを見回っていたところ(引っ越し先は5DKのログハウスでとても広いのです。一人暮らしなんだけど……)、事前にバイクを移していたガレージの前で、僕は思わず崩れ落ちた。

えーーーーー! ハンターカブに、で、で、出前機が……付いてる!

ハンターカブ

姿が見えなかった友だちは、じつは引っ越し作業を抜け、密かに僕のハンターカブに出前機を取りけていたのだ。彼は中古のマルシン製出前機をヤフオクでゲット(ボロボロだったらしい)、各部をきれいに仕上げ、僕のハンターカブと同じ赤色に塗装したのだという。

ん? なんのためにそんなことをしたのか??

「いや〜、ビックリするかなと思ってー」

ただのイタズラかい!  僕はこの“出前仕様”にカスタム(?)されたハンターカブを見たとき、一瞬何が起きたかわからなかったが、次の瞬間「あー、やられた!!」と驚き、その後には笑えてきて、さらによくよく考えたら、なんだか感心してしまった。

いったいハンターカブに出前機を付けようと考えた人が、世の中にどれだけいるだろうか? 結構いるのか?? いや、まずいないだろう。しかし“カブ”と出前機というのは、じつはきっても切り離せないほど深い関係があるのだ。

出前に革命を起こした「マルシン出前機」

マルシン出前機出前機が誕生したのは1960年代初め。それまでお蕎麦屋さんの出前と言えば、お盆の上にせいろを積み上げ、片手運転で運んでいた。出前機はその出前事情に革命を起こした。頑丈な金属製フレームに吊られた荷台は3つのエアサスペンションによって衝撃を吸収し、常に水平を保つ。これをスーパーカブに取り付ければ、お蕎麦屋さんは蕎麦や丼ものを迅速かつ確実に出前できるようになったのだ。

マルシン出前機カタログ

中でも出前機の代名詞となったのが「マルシン」の出前機。主にお蕎麦屋さん向けの「1型」以外にもお寿司屋さん向けの「2型」、中華料理店や定食屋さん向けの「3型」などのバリエーションがあった。マルシン出前機の性能を語るエピソードに、1964年の東京オリンピックおよび72年の札幌冬季オリンピックで聖火の予備(トラブルで聖火が消えたさいに使用する)を運ぶ役割を担ったという逸話がある。それほどマルシン出前機の信頼性は高かったのだ。しかしその後、ピザの宅配などの“デリバリー”が普及するとともに“出前”の需要は減少、今やスーパーカブで出前するお蕎麦屋さんを見ることもすっかり少なくなった……。

これがハンターカブ“出前仕様”だ!

という出前機の歴史はさておき、問題は我がハンターカブである。荷台に高々とそびえる真っ赤な出前機は、はっきり言って目立つ。正直言ってこれで走るのはハズカシイ……。僕が住んでいるのは田舎なので、このバイクで走り回ってたら「あー、またあの出前ハンターカブ!」となるのは時間の問題である。もしかしたら地元の郵便局から配達員としてスカウトされる可能性すらあるのではないか。

とはいえこのハンターカブ仕様にカスタマイズされたこの出前機、見れば見るほどよくできている。いったいどんなモチベーションがここまで仕上げさせたのだろうか(イヤミだよ……)。

ハンターカブ

荷台にボルトオンで付けられているのだけど、まるで純正オプションのようなフィット感と安定感。

 

マルシン出前機

ステー部のメッキもきれいに丁寧に仕上げられている。赤いカラーはハンターカブの色を見本に調合したらしい。

 

マルシン出前機

まるでウッドデッキのように美しく仕上げられた荷台部分(何のため?)。

 

マルシン出前機

とりあえずウチにあったどんぶりを載せてみた、の図。

 

確かによくできているんだけど、でも恥ずかしいものは恥ずかしい。ということでじつは出前仕様にカスタムしてからひと月近く、ハンターカブに乗っていなかった。しかしついにこの“出前仕様”を出動させるときがきたのだ……。

ハンターカブ出前一丁号、南房総を走る

9月後半、家の敷地の草刈りをしようと、止めていたハンターカブを邪魔にならないよう動かそうとしたとき、セルスターターを回そうとすると、異変が起きた。

キュル、キュル、キュ、キュ、キュ、キュ……(シーン)

ああ! エンジンがかからない。まさかの? バッテリーあがり!?

「オイルが入ってなくても走った」という伝説があるほど、絶対的なサバイブ性能を誇るカブ。いつだってセル一発でブルンとかかると思っていた。そのカブのバッテリーを上げてしまうほど放置していた自分を責める。

幸い、家の前の坂道を使って押し掛けしたらすぐにエンジンは始動(キックがあることを忘れていた……)。しかし上がったバッテリーをチャージするにはある程度走らせなくては……。ということで30分ほど走らせるため、町(南房総エリアの中心地である館山)まで買い物がてら出かけることにした。ついにこのハンターカブ“出前一丁”号で出動するのだ。

ハンターカブ

南房総エリアゆいいつのスタバ、スターバックス館山店前にて。うーん、似合わない(涙)

それにしてもやはり目立つ目立つ。館山に向かう道で対向車線を走ってきたライダーが、こっちに突っ込んでくるかと思うほどガン見していた。信号待ちでは後ろのクルマからの視線が痛い(いや、そんなに見てないと思うけど、すでに自意識過剰状態)。

運転した感覚として、出前機自体が14kgあるため、かなりの重量物を後ろに載せてるという違和感がある。極低速で曲がるときは、慣れないとちょっとフラッとしたり。とはいえ“慣れ”のレベルか。蕎麦屋の出前ではここに蕎麦やら親子丼やらを載せて走るのだから。

ハンターカブ

道沿いにあったラーメン屋さんの前でパチリ。うーん、似合う……(やっぱり)。ハンターカブで出前したら、目立つし宣伝効果あり?なんて。やるか?「河西軒」!?

ハンターカブ

立ち寄ったカインズホームでプラスチックのバスケットを買ったので(ハンターカブ用に買ったんではないが)試しに載せてみた。ここにいわゆる“ホムセン箱”(ホームセンターで売っているボックス)を載せたら、相当な積載性だな。卵とかも、割れないんだろうなあ。

ハンターカブ

ちなみに荷物はアームに付けられた荷台シートをおろして固定する。ふんわりと、しっかり固定される。シンプルだけどさすがの構造。出前機60年の歴史はダテじゃない。

ハンターカブ

帰り道、夕暮れの海辺に止めてみる。これはこれで、なんともいえず和む。出前の途中でサボってるふう?

いや、まずい……だんだんこの“出前仕様”に慣れてきてしまった気がする。ということで、手のかかった“大人のイタズラ”に敬意を表して(?) もうちょっとだけこのまま乗ってみようと思う。いっそデリバリーでも始めるか? なんて(笑)。

 

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