スギちゃんが「ワイルドだろぉ~」で一世を風靡し、東京スカイツリーも堂々開業した2012(平成24)年。「ZZR1400(北米名:Ninja ZX-14)」がフルモデルチェンジを行って「Ninja ZX-14R(欧州名はZZR1400のまま)」へ劇的変貌! 排気量はさらに拡大され遂に200馬力(ラムエア加圧時210馬力)の大台へと到達した発展の裏事情とはッ!?

●「大きくて立派」なこともカワサキ旗艦を選ぶ動機付けになる……。かくいう市場調査の結果で我が意を得た開発陣は存在感ありまくりなリヤまわりを構築。特にエンド形状にまでこだわった2本出しの大容量マフラーは見る者を圧倒するとともに、排ガス浄化&消音化とハイパワー化を高い次元で両立させるキーポイントにもなったとか
Ninja ZX-14Rという万能旗艦【その8】は今しばらくお待ちください m(_ _)m
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川崎重工業の公式資料から伝わってきたZZR開発陣の歯ぎしり!?
ちょうど目の前に「Ninja ZX-14R」の技術ハイライトを特集した川崎重工技報・174号 2014年1月という資料があるのですが、そちらのまえがきに……
「(前略)2006年に発表した『ZZR1400(北米仕様:ZX-14)』は、その独創的なフレーム構造によるコンパクトなライディングポジションと軽快なハンドリング、振動の少ないスムーズなエンジンにより市場では高い評価を得た。

●2011年型「ZZR1400」。2008年型で190→193馬力(ラムエア加圧時203馬力へパワーアップ ※欧州フルパワー仕様〈以下同〉)
しかし、常用回転域でのスロットルレスポンスの弱さなどから、完全に競合車を凌駕するまでには至らなかった。そのため、さらにパフォーマンスを向上させた『至上最高のフラッグシップ』をテーマに「Ninja ZX-14R(欧州仕様:ZZR1400)」と開発した。

●2012年型「ZZR1400」(北米などでは「Ninja ZX-14R」)。最高出力はついに200馬力(ラムエア加圧時210馬力)の大台へ
……とあります。
もちろん、ここでいう競合車とはスズキ「ハヤブサ」のこと。

●2011年型スズキ「ハヤブサ」。2008年に2代目となり1340㏄エンジンは197馬力を発揮!
カワサキ開発陣は冷静に彼我の実力を分析して「まだ……まだ足りないッ!」と血の涙を流した(?)のでしょう。

●「Ninja ZX-12R」では最高速バトルで勝てず、「ZZR1400」だとゼロヨンバトルで圧勝できず……。「Ninja ZX-14R」開発においては絶対的勝利を期したのです!
捲土重来に向けての開発は、じっくりと時間をかけて着実に遂行されていきました。
全身を鍛え直す合い言葉は「全てはパフォーマンスNo.1のために」
まず従来型オーナーの意見を集めてみるとスタイリングは概ね好評なので、外観はそのイメージを引き継いでいくことで確定。

●マツダでユーノス・ロードスターを形作り、カワサキにてデザイン革命を起こした田中俊治さん入魂の6連ヘッドライト(写真は2006年型「ZZR1400」)

●その意匠はシャープにモディファイされて2012年のフラッグシップ大改良版へも受け継がれることになりました
アッという間に299㎞/hが出せるバケモノ級の運動性能を持ちながら近所のお遣いも厭わない扱いやすさを発揮するという長所はさらに伸長させ、少々弱かった高級感や質感、最新電子制御などは着実にアップデートする……という新型旗艦のコンセプトは早々に確定したとか。

●シート直下には格納式、グラブバーには固定式の荷掛けフックが用意されるところもカワサキ旗艦の伝統!? いや本当にセンタースタンドの操作からサイドスタンドの出し入れ、車両の引き起こしや取り回しに至るまで威圧的な車体からは想像ができないくらい扱いやすかったのであります( ̄^ ̄)ゞ
圧倒的なパフォーマンスを獲得するため定評ある心臓を大きく改良!
何と言っても気合いが入っていたのはエンジンでした。
自然吸気なパワーユニットでトルクをマシマシにしたいとなれば排気量を増やすのが超王道……とはいえ、鉄とアルミでできた鉄馬の心臓は大きくなりすぎると車体運動性が悪化しがち。

●吸排気ポートの大幅改良&磨き上げから燃焼室形状の見直し、ピストン裏側にオイルを直接噴射するオイルジェットも新装備。さらにポンピングロスを削減するためシリンダー下部に連通穴を設定し、ほかにも油圧チェーンテンショナーの改良、2軸2次バランサーウェイトの最適化、エアクリーナーエレメントを保持する構造の見直し……などなど。いやもう従来のエンジンとはベツモンと言っても過言ではないでしょう。まさしく執念の結晶体!
なので84㎜というシリンダーボアはそのままにピストンストロークを従来型の61㎜から65㎜へ延長し(結果としてボアストローク比はあの名車「ZZR1100」の0.763へ近づく0.774に!)総排気量を1352㏄から1441㏄まで拡大しつつエンジンの巨大化を極力抑制することに成功したのです。

●性能曲線比較図。従来モデルに比べて新型は排気量拡大の恩恵を最大限に活かして全域で性能向上を実現しているのですが、特に5000rpmあたり(出力線とトルク線が交わるちょいと前)からブ厚いトルクが立ち上がり、パワーをググググッと押し上げていることがよく分かりますね。なお、1441㏄のエンジンなのに最高出力の発生回転数は1万回転ですよ!
おかげでアルミモノコックフレームは基本構成を従来型から踏襲でき、各部の剛性をキメ細かく最適化していくという作業に全集中!

●川崎重工技報 174号より「アルミニウムモノコックフレームの変更部」。ヘッドパイプ底面の板厚とエアクリーナーエレメントの取り付け構造を変更して適切な剛性を実現! バッテリーボックスのフタは樹脂製からアルミ製に変更してクロスメンバーとして機能させる。さらにスイングアームからの高負荷入力を受け止めるブラケット部の高真空ダイキャストパーツは川崎重工業で内製することでコストダウンしつつ求められる強度を抜本的に見直した……などなど改良部分は多岐にわたりました
200馬力(ラムエア加圧時210馬力)という圧倒的なパワーをしっかり受け止めながら、従来型以上に軽快なハンドリングを実現させるという離れ業をやってのけたのです。
車両安定化に寄与する高度な電脳デバイスも我が物とした!
当然ながら各種電子制御も大幅に進化いたしました。
カワサキは2010年型の「1400GTR」で初めてトラクションコントロール(KTRC)を導入し、続く2011年には「Ninja ZX-10R」でサーキットでのスポーツ走行にも対応するS-KTRC(Sport-KTRC)を発表。

●2011年型「Ninja ZX-10R ABS」。10Rはこの顔になってスーパーバイク世界選手権(WSBK)でバシバシ勝ち始め、2015年からはジョナサン・レイ選手を擁して2020年まで破竹の6連覇を飾りました。2021年モデル以降、現在の〈奥目〉顔になってからは苦戦が続いていますね……。単なる巡り合わせでしょうけれど(^^ゞ
「Ninja ZX-14R」へは、それら2つのトラコンを統合(!)し、スイッチひとつで多種多様な走行状況に適応する車両安定化システムを構築したのです。

●2連アナログメーターの中央上部に液晶パネルを設定するという基本的なレイアウトは従来モデルを踏襲しながら、数字のデザインや細やかな意匠変更で高級感を大幅に向上したメーターまわり。その液晶部にはパワーモード(F=FULL or L=LOW)とKTRC(1=乾いた路面で最大のスポーツ性能を発揮 or 2=雨天時の走行に最適 or 3=公道で時折遭遇する滑りやすい未舗装路に対応 or ー=トラコンオフ)の状況を知らせる欄が新設されました
すでに従来モデルで設定のあったABSも凹凸路面にまで対処できる仕様へと進化!

●従来型同様の滑りやすい路面でのABS性能は維持しつつ凹凸を含む路面での減速率をアップ! 実に従来比でフロントブレーキ操作のみで12%、フロント&リヤ両方のブレーキ操作で16%の向上を果たしたとか。リアルワールドでの使われ方を開発陣が真摯に調査し、フィードバックした成果! 実のところ筆者も取材時に広報車でパニックブレーキを掛ける事態に遭遇し「終わった」と思った次の瞬間、何事もなかったようにトラブルを回避できていたのには舌を巻きました……感謝しかないっ!
乗り手へ至上のライディング体験を与える旗艦となるために!
同時に排ガスをクリーンにする性能やエンジン熱害対策などにも、当然のごとく手が加えられました。

●川崎重工技報 174号より「エンジン排熱流の解析」。そりゃあ200馬力も発生する1441㏄エンジンゆえ発熱量はハンパないって! ゆえに生まれた熱をどう逃がすかについても徹底して研究が重ねられ、サイドカウル側面の開口部は大きくなって熱をうまく誘導&排出していく形状へ、さらにカウル内部の遮熱用隔壁も風洞実験や実走行を幾度となく行い改良が施されていったそうです
お察しのとおり、どれも重量増が避けられない対策の数々ではありましたが、ホイールを極限まで軽量化(従来型比で前輪で360g、後輪はなんと1030g減!)するなどの努力や、

●ホイールの軽量化は加減速時の慣性重量やジャイロ効果の低減に直結! バネ下重量も軽減されるのでサスペンション性能やハンドリングの向上にも大きく寄与するのです。万が一にも破断しない強度を確保しつつコンピュータをフル活用して贅肉を削りに削り、この美しいホイールの形状が完成しました。ぜひチェーン&スプロケットとともに磨き上げて、その繊細さへウットリしていただきたい〜
各部の見直しにより7㎏程度しが装備重量は増えず(ABS車同士の比較で261㎏→268㎏ ※一例。各仕様によって異なる場合あり)、先述の川崎重工技報でも「量産車そのままでゼロヨン(0~400mの加速):9.77秒を記録するモンスターマシンである」と高らかに宣言していました。

●2012年型「Ninja ZX-14R」(北米仕様)。シングルシートカバーをわざわざ取り寄せるオーナーも多かった!
ハテサテ、実際はどうだったのか?
2代目「ハヤブサ」と「Ninja ZX-14R」ゼロヨン龍虎の戦い、結末のひとつはコチラ!

●お互いに一歩も引かない好敵手。そしてカワサキとスズキ、お互いの威信をかけた旗艦対決は意外な方向へ……!?
というわけで、気合いの入りまくったフルモデルチェンジを敢行した「Ninja ZX-14R」はカワサキファンならずともショッピングリストの筆頭に書き留めておきたくなるようなモデルへと変貌し、世界金融危機の真っ只中でも着実な販売台数を稼いでいきました。
次回は外観変貌のポイントやさらに細かい改善内容、そしてデビュー以降の変遷などを語ってまいりましょう!

●ごめんなさい! 次回(?)こそオーリンズ仕様や「ハイグレード」の話を……m(_ _)m
あ、というわけでまだ記憶にも新しい2010年代の高性能車両は最新モデルと比べても遜色ない走行性能や安全デバイスを獲得しています。レッドバロンが『5つ星品質』として販売している中古車で安心かつ充実したバイクライフをスタートさせてみませんか? まずはお近くのお店で在庫確認を~!
Ninja ZX-14Rという万能旗艦【その8】は今しばらくお待ちください m(_ _)m