使う気はなかった

 その存在を初めて知った時、なんて不格好なんだろうと思ったものでした。
 トップケースというやつです。トップボックス、リアボックスとも呼ばれているようですが、そんなことはどうでもいい。だって、少なくとも僕のバイク人生には、まったく無縁のものだから。好きでお使いになっている方は、それはそれでいいのです。個人の自由です。ただ、僕は一生トップケースを使わない。パニアケースならばもしかしたら使う日も来るかもしれないけど、トップケースは絶対にない……。
 若いころは、そう信じて疑わなかったのです。

 バイクって、スポーティでスマートでカッコいい乗り物じゃないですか。なのに、なんですか、あれは。車両メーカーの開発者たちが一生懸命に「マスの集中化」を図ったというのに、トップケースはそのことをこれっぽっちも気にせず車体の最後部、それも一番高い位置に取って付けたかのように鎮座するのです。というより実際に取って付けたんでしょうけど、トップケースを。
 そこって、集中化されたマスからもっとも遠いところじゃないですか。そんなところに箱を取り付けて、しかもその中に荷物をあれこれと詰め込むわけでしょう? 僕が車両メーカーの開発者だったら頭を抱えてオーマイガッて叫びます。車体前後の重量配分はどうなります? 台なしじゃないか、と。

食わず嫌い

 でもまあ僕もかつてはバイク雑誌の編集者の端くれ。バイク用品と呼ばれるものは何であれ、実際に手にして使ってみるのがプロとしての正しい姿勢だろうと、買ってみたのですよ。トップケースのトップメーカーであろうイタリアのGIVIのやつを。
 で、そのころ乗っていたホンダCRF250Lに取り付けてみたわけです。

トップケース

 CRF250Lは車体がスリムですから、大きなトップケースは不釣り合いだろうと、ヘルメット1.5個分が収納できるぐらいの、容量33リットルのGIVIモノロックケースB33NMLDってのを選んだのですが(現在は廃番)、使ってみたら便利なこと便利なこと!

 トップケースの中には雨具を常備できますから、バイクで出かけている最中、いつ雨が降り出しても困らない。これは安心です。
 出かけた先ではヘルメットが収納できますから、手が空きます。ツーリング先で散策したり、街へ買い物に出かけたりした際に、とてもラク。

 しかも安全です。というのも昔、ヘルメットホルダーにぶら下げて愛車を離れた際に、イタズラされたことがあったんですよね。それも、二度も。一度目はよくある話で、ヘルメットの盗難。ベルトのDリングのすぐ横を、刃物で切られていました。
 二度目の被害はひどかった。ヘルメットの中に、ヤバイものを入れられたのです。それを知らずに被ったものだから、さあ大変。完全に回復するのに三ヶ月以上を要しました。警察に被害届を出しましたけど、犯人は捕まらず。ヤバイものが何だったかは、模倣犯が出ると厄介ですので説明はしませんが。

 とにかくトップケースがあると、安心だし、ラクだし、安全でした。
 トップケースを取り付けると、確かに車体前後の重量バランスが変わりますし、コーナーでの車体の倒し込みに少々違和感が生じますから、中に入れる荷物は、なるべく少なく、なるべく軽く。基本的にはそういう使い方をしていたので、トップケースを取り付けるデメリットよりも、メリットのほうが勝っていたかも知れません。
 こんなことなら、もっと早く使うんだった。トップケースに対する、僕の若いころの印象というのは、いわゆる「食わず嫌い」だったんですね。

さらにハマる

 仕事柄、バイクに撮影機材を積むこともありますから、こういうときも大助かり。カメラバッグをトップケースに入れておけば、雨天対策に。また、トイレ休憩などで一時的にバイクを離れる際も安心です。
 なので、愛車をCRF250Rallyに乗り換えた際には、トップケースを大きめのものに買い換えました。同じGIVIの、E43NTL-ADVってやつ(こちらは現行品)。

トップケース

 車種専用ステーで取り付ける必要のある「モノキーケース」ではなく、純正品のキャリアや市販キャリアに取り付けることができる汎用の「モノロックケース」です。定価は37400円ですが、Amazonなら2023年3月21日現在で23000円。

トップケース

 E43NTL-ADVは、ベーシックなE43NTLにオプション品である〈インナーボトムマット、バックレスト、ネット&フック〉をあらかじめセットにした製品。
 写真はバックレストで、タンデム時、リアシートに座ったライダーの背中が痛くならないようにするためのもの。

トップケース

 こちらはインナーボトムマット。柔らかいクッション素材でできているので、振動などによる衝撃を緩和してくれます。

トップケース

 これはネット&フック。トップケースの蓋の上に、荷物が固定できます。濡れたレインウェアなど、トップケース内に入れたくない物を積む場合にも有効。
 ベーシックなE43NTLに、これらのオプション品を別に買って取り付けるとしたら、けっこうな金額になっちゃうのですが、あらかじめセットされているE43NTL-ADVならば格安。しかも取り付け時の加工も一切不要。

トップケース

 容量は43リットルで、ヘルメットによっては2個、収納することも可能です。

トップケース

 取り付けたら、安心、安全、便利なトップケース。
 確かに見た目は「……」な感じもしますけど、使わないときはワンタッチで外せるんですから(取り付けベースはキャリア側に残ります)、今では僕のバイクライフに欠かせないものになりました。
 変われば変わるもんですね。タイムマシンがあったら昔の自分に会いに行き、「お前、将来、これ付けるぞ」と教えてやりたい。
「誰がそんなもの!」と言い返されるだろうけど(笑)。

 

 

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