TDMシリーズが販売されていた1990年代前半~2010年代は、ニッポンにおける大排気量車……はもちろん、バイク全体を巡る動きが驚くほど変化していった時代でもあります。森羅万象がんじがらめだった1980年代を知る者にとっては、それこそ違う惑星の出来事かと思えるほどに……。例えば高速道路では80㎞/h以上出せば違反となり、ETCも使えず二人乗り走行も御法度だったのDeath Yo!

TDM900カタログ

●ようやく「TDM900」に到達いたしました(2006年型カタログより)。プレストコーポレーション……懐かしいですねぇ。1996年に創業され、2020年6月をもって業務を終了したヤマハ(逆)輸入バイクの取り扱い会社。八重洲出版のムック「バイク図鑑」の足着き性チェックや広報車引き取りのため、東京から海老名にあった倉庫まで足しげく通ったっけなぁ(遠かった……いや、遠い目)。長い間、本当にお世話になりました。ARIGATO!

 

 

TDM850/900という出木杉クン【後編その1】はコチラ!

 

CB750という地味めなシビ子【前編】はコチラ!

 

デロリアン?(違う) チロリアン?(違う) 赤毛のアン?(違う)

 

絵入りアン……(『すすめ!!パイレーツ』内のギャグ by 先ちゃんこと江口寿史センセ)いや、

すすめパイレーツ

「すすめ!!パイレーツ 完全版 第6巻」著:江口寿史 こちらはKindle版で全8巻のうち、こちら沢村 真選手の表紙を紹介したのは完全に筆者の趣味です(泣いた……)。さて、『ストップ!! ひばりくん!』で大ブレイクを果たし、現在も美麗なイラストレーションなどで大活躍している江口寿史先生の最初期ギャグ作品(週刊少年ジャンプ連載:1977年〜1980年)内で、当時大ヒットしていた映画『エイリアン』とかけて小さな塗り絵入りの和菓子を「絵入りアン(まんじゅう)」としたダジャレネタ(Kindle完全版 第5巻「あこがれのオールスターの巻」収録)に死ぬほど大笑いしたものでございます。なお、「紙の本がいい!」という向きには小学館さんからも完全版が全4巻で発売中!

 

 

エイリアンとも称された(?)「TDM850」の後期型が日本市場へ鮮烈デビューを果たしたのが1998年7月のこと。

 

すでに大型自動二輪免許制度が1995年にスタートして数年が経過しており、念願叶って教習所でビッグバイク免許を取得したライダーたちがウゾゾゾゾゾッと増殖しまくって、なおかつ「積年の恨み、晴らさでおくべきか!」とばかり、排気量400㏄以上のバイクを現在の“ガンプラ”よろしく先を争い買い求められていた時期でもありました。

デストロイガンダム

●2024年3月9日に発売されたバンダイ「HG 1/144 デストロイガンダム」はTVアニメ『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』で活躍した巨大可変モビルスーツ「デストロイガンダム」がHGシリーズで立体化されたもの。全高は約390㎜で迫力のサイズでありながらモビルアーマー形態への変形が可能! 価格は消費税10%込みで1万4300円ナリ……1980年、300円を握りしめて1/144ガンダムのプラモデルを近所の駄菓子屋に買いに行ったころとは、まさに隔世の感がございますが、クオリティもまた途轍もないレベルへ到達しており納得しきり。現在ガンプラは新製品や再生産品が発売されるたび「手に入らない!」というファンの悲鳴がSNSに流れてまいります

 

 

最高時速180㎞/hまでの速度リミッター馬力の自主規制(リッターオーバーのバイクでも100馬力が上限)は依然として残ってはいたものの、国内正規ラインアップとしてビッグネイキッド(ホンダCB1000SF&X4、ヤマハXJR1200/R、スズキGSF1200/S&イナズマ1200、カワサキ ZRX1100/Ⅱ&ゼファー1100/RSほか)が投入されて大人気を博し、

XJR1200

●いやぁ……いちいちカッコいいヤマハの真骨頂でおますなぁ。1994年3月に登場したこちらのヤマハ「XJR1200」はハイパフォーマンスツアラー「FJ1200」向けをベースにした1188㏄空冷4スト並列4気筒DOHC4バルブエンジン(97馬力/9.3㎏m)を美麗なスタイリングの車体へ搭載して大人気を博しました。税抜き当時価格は89万9000円(消費税3%込みの価格は92万5970円)で、これは同年同月に国内仕様として再発売されたスズキ「GSX1100Sカタナ」と全く同一だったんですね……。30年前にタイムトラベルしたいッス

 

 

引きずられるようにビッグクルーザー(ホンダ ワルキューレ、ヤマハ ロイヤルスター/ツアークラシック、スズキ デスペラード800&イントルーダーLC、カワサキ バルカン800/クラシック&1500/クラシックほか)、

ロイヤルスター

●1996年から2000年まで日本の正規ラインアップモデルとして発売されていたヤマハ「ロイヤルスター」(写真は1997年型)。あの「VMAX」とベースを同じにする1294㏄水冷V型4気筒DOHC4バルブエンジンは最高出力75馬力/5000回転、最大トルク11.4kgm/3500回転を発揮し、車両重量330kgの体躯を悠然と動かしたもの。税抜き当時価格は125万円。大型スクリーンやサイドバッグなどを標準装備した「ロイヤルスター ツアークラシック」は同147万円でありました。なお、1999年3月には車両重量258㎏のロー&ロングボディに60馬力/8.3㎏mの1063㏄空冷Vツインを搭載した「ドラッグスター1100」が同83万円で発売されてヒットモデルへ!

 

 

ビッグツアラー(ホンダ ゴールドウイングSE&VFR、スズキRF900R、カワサキ GPZ1100ほか)、

RF900R

●海外では1993年10月から輸出を開始していたRFシリーズの最大排気量モデル「RF900R」が1994年3月に日本凱旋! 937㏄水冷4スト並列4気筒DOHC4バルブエンジンは最高出力89馬力/9000回転、最大トルク8.7㎏m/7000回転という実力を発揮し、乾燥重量203㎏の車体を軽やかに走らせました。税抜き当時価格は84万8000円(ただし逆輸入車は135馬力で、どうしても多くのライダーの目はそちらへ流れていき……(^^ゞ)。なお、フェラーリのテスタロッサを彷彿させる細かいスリットの入ったサイドカウルデザインですが、モチーフはそちらではなく、魚のエイ(板鰓亜綱[ばんさいあこう]に属する軟骨魚類のうち、エラが体の下側(お腹)に開くもの)ですからね、お間違えのなきよう……

 

 

ビッグオフロード(ホンダ アフリカツイン)、ビッグツインスポーツ(ホンダ ファイアーストーム、スズキTL1000S)などが続々と登場して選択肢も爆増。

 

 

「いやいやいや少々高くても、保証などの安心感が正規販売車両ほどではなくとも、海外フルパワー仕様速度リミッターなし逆輸入車っきゃないでしょう!」というライダーも数多く、毎年のように進化していたリッタースーパースポーツ(ホンダCBR900RR、ヤマハYZF-R1、スズキGSX-R1100、カワサキNinja ZX-9Rほか)や、夢の300㎞/hを標榜するメガスポーツ(ホンダCBR1100XX スーパーブラックバード、

2001_CBR1100XX_JPN

●1997年、“世界最高(←最速ではない)のスーパースポーツ”を標榜して登場したホンダ「CBR1100XX スーパーブラックバード」はフルパワー仕様で164馬力/12.7㎏mを発揮する1137㏄水冷4スト並列4気筒DOHC4バルブエンジンを流麗なフォルムに包み込んだ高い完成度で一躍メガスポーツ界の主役へと躍り出ました。逆輸入車もバカ売れし、カワサキ「ZZ-R1100」との比較試乗記事がバイク雑誌業界に溢れかえりましたねえ……。その後も実のある改良を繰り返してロングセラーとなり、なんと2001年3月には国内仕様の「CBR1100XX」まで登場(写真)! エンジンスペックこそ100馬力/10.0㎏mとなりましたが、税抜き当時価格110万円というリーズナブルな価格も評価され、一定以上の支持を獲得いたしました。いや実際、国内で乗るには十分に過ぎる高性能でしたヨ

 

 

ヤマハYZF1000Rサンダーエース、カワサキZZ-R1100ほか)などが海外ディストリビューターと太いパイプを持つ、レッドバロンほかの有力ショップ(や商社)を通じてドンドン日本へと運び込まれ、納車を待ち望んでいる全国のライダーへ届けられていきました。

 

特に1990年代後半は歴史的な円高時代で1ドルが約80円〜90円(現在は1ドル約147円!)でしたので、海外のモノが割安に買えるイメージも、逆輸入車(輸入車)ブームに拍車をかけたのです。

 

実際、1989年設立の日本法人HDJ(Harley-Davidson Japan K.K.)が正規販売をスタートさせていたハーレーダビッドソンは、すでに物凄い勢いで登録台数を伸ばし続けており、

ハーレー883

●ハーレーダビッドソンジャパン……元トヨタ社員の日本人社長が1991年に就任してから、やることなすことが全て大当たり。20年以上続いた恐ろしいまでのシェア拡大ぶりはもはや伝説と化しております。今やもう信じられないようなことですが、人気の高かった「スポーツスター XL883」シリーズを、なんと消費税込み88万3000円(パパサン、ということですね ※写真は2009年型XL883)で販売したり、全国の自動車教習所にハーレーを大型自動二輪免許の教習車として大量配備してもらったり、販売店をクルマのディーラーのような姿に変えたり……女性ファンを獲得すればブームは起こるを地でいく戦略は見事でした〜

 

 

ドゥカティやBMWを始めとした欧州ビッグバイクを求めるマニアな人々の数もウナギ登り……。

 

いや、今こうして車種やメーカー名を打ち込んでいくだけでも大型二輪車に関しては夢と勢いに満ちていた時期だったなぁ……と思います(ロングロングアゴーなアイ……)。

 

ビッグバイクブーム真っ盛り、満を持しての再登場……をしたけれど

と、こんなキラ星のごとくビッグネームが光輝く時代に再登場をはたした後期型「TDM850」は、ビッグバイクライダーの裾野が拡がった分、少なくない数となりつつあった“通”な単車乗りに支持されていき(270度クランク位相エンジンの露払いとなった「TRX850」のインパクトも大きかった!)、前期型とは比ぶべくもないほどの人気を集めたと聞き及んでおります。

1999_TDM850カタログ

●1999年型「TDM850」カタログより。メインコピーが“オーガニック・スポーツ”とのことで有機的なスタイリングであることを的確に表現しております……が、令和に生きるライダーの目で見てしまうと化学薬品などを使わない健康維持に優れる(ともされる)食品を想起してしまいますねぇ。まぁ実際、トラクションに優れる特徴的なエンジンフィールがとても気持ちいいため、ストレス発散効果でとてもヘルシーなマシンであることは間違いないのですけれど(^^ゞ

 

 

……とはいえ、それはあくまで前期型との比較であって「XJR1300」並みの大ホームランを記録したわけではありません。

ヒットイメージ

●ビッグバイク免許取得者が大幅に増えた恩恵もあってヒットは打てたものの、それ以上にビッグネイキッドやらメガスポーツやらビッグクルーザーやらハーレーダビッドソンへ流れていく人もまた多かったのです……

 

 

そうなってくると、国産メーカーであるヤマハとしては頭を抱えてしまうわけです。

 

それはなぜか? 

 

ここまで散々述べてきたように「TDM850」の主な市場はヨーロッパ……。

 

当然ながらメインマーケットである欧州でベストな性能を発揮させるべく開発は進められました

 

かくして仕上がった海外向けモデル「TDM850」を、1990年代後半当時の日本において、国内正規ラインアップとして販売する……というのは、我々が思っている以上にオ・オ・シ・ゴ・トだったのです。

1998_欧州仕様メーター

●1998年型「TDM850」欧州仕様のインストルメントパネル。ちょいと見づらいですが、画面左側のスピードメーターをよく観察すると当たり前のように“220㎞/h”の表示があることが分かります。もちろん国内仕様は180㎞/h以上は出ないので意味ナシ。内部機構を変えず、文字盤のみ表示をなくす……という手もあったでしょうけれど、そこはそれ。ヤマハはキッチリ約270度針が動いた先に180㎞/hがくるよう作り直してきました。もちろん相応のコストはかかっていたはずです……

 

 

というのも、当時はまだ海外向け車両日本向け車両とでは、多岐にわたる大きな隔たりがあったためなんですね。

 

排ガス内に含まれる有害物質の規制値も違えば、マフラーから出る音量の許容dB(デジベル……音圧の単位)も相当に違う。

1997年TDM850欧州

●1997年型「TDM850」欧州仕様の一例。バックミラーの有無はさておき、下で紹介している国内仕様と見比べてみてください……。アナタはどれくらい違いを発見できるかな? サイゼリヤのキッズメニュー間違い探しよりは簡単なはず(笑)

 

 

まぁ、それくらいは誰でもパッと思いつくことかもしれませんが、ほかにもヘッドライトの光軸(右側通行向けと左側通行向けとでは内部構造からして異なっていた)、スピードメーターの文字盤表記(前述した最高速度の違いだけでなく、マイル表示の国もありますからね)、細かいところではスイッチボックスに設定されるボタンの数や内容、リヤフェンダー長リフレクター(反射板)の位置や数などなどなど……。

1998年TDM850日本仕様

●1998年型「TDM850」日本国内仕様。上の欧州仕様(の一部)と比べてウインドシールドとリヤフェンダーの形状違いはすぐに分かりますよね。あとはこれまでの文章内で説明してきたとおりなのですが……。ひとつ書き忘れていたのが車体の各部に貼付される「コーションステッカー」……つまりは取り扱い上の注意やタイヤ空気圧などが記されているシールも各国のユーザーが読めるものを作らなければならないので地味に面倒……。小冊子になっている取扱説明書サービスマニュアルも同様ですね。とにかくまぁ、作り分けは大変なのですよ……

 

 

それぞれの国が定めた保安基準に間違いなく適合させなければ、その国で販売ができないのですから非常にシビアな問題です。

 

そして地球上でも極めて異常(?)……いや、厳しかったのが我が国ニッポンでした。

 

国ごとに仕様を変えるってそんなに大変? しようなんです(^^ゞ

 

運輸省(現:国土交通省)さんのキリッとした働きかけのもと、将来ある若者や働き盛りのライダーを憎っくき交通事故から守護するため、国内4メーカーは自主的にMAX180㎞/hのスピードリミッターや排気量ごとに定められた上限出力をあくまで自主的に設定したのです。

1998_TDM850JPN

●改めまして1998年7月10日から発売された後期型「TDM850」(型式名RN03J)です。各気筒相互の爆発間隔を前期型の等間隔から不等間隔(360度毎爆発→270度/450度毎爆発)に変更し、TPS(スロットルポジションセンサー)装備のキャブレターを採用してスロットル開度に対する点火タイミングを最適化。かつシリンダー背面にオイルタンクを配置してマスの集中化などを行った849㏄水冷4スト並列2気筒DOHC5バルブエンジンは最高出力80馬力/7500回転、最大トルクは8.2㎏m/6000回転というパフォーマンスを発揮しました。乾燥重量は203㎏(装備重量229㎏)。シート高は795㎜。燃料タンク容量20ℓ、60㎞/h定地走行での燃費は30㎞/ℓで理論上の満タン航続距離は600㎞。税抜き当時価格は79万8000円(消費税5%込みの価格は83万7900円)でした〜

 

 

その上、世界的に見ても厳しくなりつつあった排ガス&騒音の規制値もクリアしなければ、日本国内の市場へ向けた正規ラインアップとして販売することはできない……となれば、その大変さが少しは伝わるのではないでしょうか。

 

つまりはエンジンを制御するECU(Electronic Control Unit)の内容も大幅に書き換えて速度を抑制するロジックなどを付け加えなければならない、マフラーも音量対策のため多段膨張室の形状や数を変えたり、排出ガスの有毒物質を大きく抑制する必要があるならFI(フューエルインジェクション)や触媒や各種センサー類を新たに装備する必要が出てきます(二次エア導入装置の新設も有効でしたね)。

TDM900マフラー

●“サイレンサー”とはよく言ったもので(写真は「TDM900」)、純正マフラーならほぼ例外なくこの太い筒の中にいくつかの部屋(膨張室)が金属で仕切られており、エンジン燃焼室から飛び出してきた爆音になりかねない高いエネルギーを持つ排ガスを膨張&拡散させ、さらに隔壁へ何度もブチ当ててエネルギーを減衰させることで消音を実現しているのです。マフラーにサイレンスな部屋を2つ作ればいい国と4つ用意しなければならない国とでは、そりゃぁ対策が変わってくるというもの。さらにここへ音量だけでなく排ガス内有毒物質の“浄化”まで絡んでくると……!

 

 

ヘッドライトは内部構造から大変更しなければならないし(イギリス、オーストラリア、ニュージーランドなど日本と同じ左側通行の国もあるので、それら仕様との共用ができたとはいえ……)、場合によってはローシートやハイシートまで用意しておくのがベター。

 

他にもメーター、フェンダー、リフレクター、ウインドシールドの形状などなど、大きなところから小さなパーツやステッカー類に至るまで、各国の法規や言語に合致するよう多種多様な改善をせねばならない……。

各国いろいろ

●交通機関や通信技術の劇的進化で、なんだか地球が小さくなったような気もしちゃいますが、いやいやいやいや実際のところ多様性は増すばかり。だが、それがいい!

 

 

成型部品ならいちいち金型まで起こす必要も出てきますので、当然ながら多大なるコストが上乗せされてしまうということですね。

 

まぁ、そんなコストを跳ね飛ばすくらいに大ヒットしてくれれば何の問題もないのですけれど、損益分岐点ギリギリのところを鳥人間コンテストの人力飛行機よろしく湖上スレスレをダッチロールしているようなモデルだと……。

 

 

後期型「TDM850」がそうだった、と言っているわけではないのですが、結果的に1998年に復活登場した翌年、カラーリングチェンジと各部に小変更を受けた1999年モデルで国内仕様の進化は終了してしまい、そのままでしばらく細々とラインアップには残り続けていた……という記憶がございます。

TDM850

●1999年型「TDM900」カタログの表紙。まさかこちらが国内仕様最後のTDMになるとは……。しかし、公式リリースを確認すれば、1998年の復活モデルで3000台!とブチ上げていた国内年間販売計画がほんの1年後、1999年仕様のリリースでは300台と記されておりましたので、やはり厳しかったのかな、と……。それでも1999年モデルで2色ともカラーリングを変更し、タコメーター文字盤にヤマハ音叉マークを追加するなどのこだわりをみせたのは流石です

 

 

リッター&リッターオーバークラスのバイクがモテモテだった時代!

 

いやもう、そのころのバイク業界と言ったなら1998年にあの赤白ウルトラマンフェイスのヤマハ「YZF-R1」が鮮烈デビュー!

1998_YZF-R1

●いやもう何度だって紹介&露出しますよの初代(1998年型)ヤマハ「YZF-R1」。「TDM850」……の前身とも言える「XTZ750スーパーテネレ」が始めた、エンジンのコンパクト化へ非常に効く主要三軸(クランクシャフト・メインシャフト・ドライブシャフト)の三角形配置を新開発された998㏄水冷4スト並列4気筒DOHC5バルブエンジンに導入したことで当時としては異例なほどのスイングアーム長を稼ぎ出し、新しいリッタースーパースポーツの運動性を確立した革命的モデル……。一時期は猫も杓子も状態になりましたね。ジュワッ!

 

 

1999年にはスズキ「GSX1300R ハヤブサ」量産市販車初の300㎞/hオーバーの称号を引っさげて超絶デビュー!

1999_GSX1300Rハヤブサ

「アルティメット スポーツ」(公道における究極のスポーツバイク)というコンセプトを具現化するため、鎧兜(よろいかぶと)モチーフとして高い空力特性とライダーへの防風効果を徹底的に追求した独特のデザインで全銀河へ衝撃を与えた“ハヤブサ”。ヘッド位置を低く抑えたアルミツインスパーフレームに175馬力/14.1㎏mを発揮するサイドカムチェーン式1298㏄水冷4スト並列4気筒DOHC4バルブエンジンを搭載し、世界各地で行われた最高速テストでは夢の実測値300㎞/hオーバーを何度となく達成! 正真正銘の最速市販車として大ブレイクを果たしたのです

 

 

……と、リッタースーパースポーツメガスポーツという大人気ジャンルにエポックメイキングなモデルが相次いで登場し、そちらに触発された他メーカーがまた全力でライバルを叩き潰しにくる……という1980年代、日本市場において250や400のレーサーレプリカバトルで起きたような大きなうねりが、欧州(特にスペイン)を中心とした世界的な市場において巻き起こったのですよ! 

 

排ガス、騒音、最高出力……厳しくなるばかりの様々な(自主)規制で下を向きがちだった日本の単車好きも、毎年のように高性能化していくビッグバイクたちの姿へメロメロとなっていったものです。

 

日韓共催のサッカー、ワールドカップがあった年に完全刷新ッ!

 

かくいうお祭り騒ぎ状態が続くなか、ヨーロッパで絶大な支持を得てきた「TDM850」は、2002年に排気量も拡大してのフルモデルチェンジを敢行し「TDM900」へと生まれ変わりました

2002_TDM900_EU

●2002年モデルとして登場した「TDM900」は、ボアアップにより849㏄から897㏄まで排気量が拡大された水冷4スト並列2気筒DOHC5バルブエンジン(最高出力86馬力/7500回転、最大トルクは9.1㎏m/6000回転)を軽量なアルミフレームに搭載して、乾燥重量は従来型の203㎏から190㎏へと劇的なダイエットに成功! シート高は825㎜。燃料タンク容量20ℓ……あ、ミッションが6速化されたことも歓迎されました〜

 

 

外観から受けるイメージこそ後期型「TDM850」と似通ったところがありましたが、中身はもう正真正銘の全面刷新!

 

270度位相クランクを持つ珠玉の5バルブパラレルツインエンジンは、ボアを拡大して849㏄から897㏄まで排気量を増大され、フューエルインジェクションも採用した上でミッションは5速から6速へと変更。

 

スチール製だったフレーム&スイングアームも満を持してアルミ化され、大幅な軽量化に成功していました。

ダイエット

●従来型となる「TDM850」に無駄な贅肉があったわけではないのですけれど、「TDM900」は骨格部分が鉄からアルミ化され、さらに一部のアルミパーツを樹脂化するなどの素材置換効果がとても大きかったのです

 

 

すでに同じヤマハの「YZF-R1」が“ツイスティロード(=ワインディングロード)最速”を標榜し、大人気を博しておりましたが、こちとら「TDM900」は“キング オブ ザ マウンテンロード”と銘打って、山岳ワインディングはもちろん、市街地の石畳路やちょっとしたオフロードなどまで走る路面を選ばない万能性をアッピ~ル(^_^)

TDM900走り

●いやぁ〜、筆者も「TDM900」には何度か乗らせていただきましたが、まさしく万能ツーリングマシンという印象を得ましたね〜。シート高こそ従来型850の795㎜から825㎜となってゴー&ストップの多い市街地では少々気を遣いましたが、そのぶん田園地帯の一般道や高速道路を淡々と走るときには膝の曲がりがキツくないので本当に快適。あ、リアル6速になったので“幻の6速”をつい探してしまうストレスから解放されたことも大きかったですね。ワインディングを快走するときは、アルミ骨格となった軽量化の恩恵を存分に堪能いたしました。難点を敢えて挙げるならアイドリング+α……2000回転付近のトルクの薄さくらいのものですかね。慣れるまで3回ほどエンストこいたのは墓場まで持っていくナイショ話です……(^^ゞ

 

 

EU圏内を始めとして当然のごとく高い人気を獲得していきます。

 

2000年代の日本は、すでに逆輸入車が市民権を得ていた時代となっており、高品質なヤマハ輸入バイクの提供にこだわり1996年に創業されたプレストコーポレーションも絶賛営業中でしたので、「TDM900」の国内仕様車は用意されず南アフリカ仕様が日本の「TDMじゃないとダメなんだ!」というコアなファン層へ続々と届けられていきました。

TDM900アルミフレーム

●メインフレームとシートレールはもちろん、スイングアームもアルミ化された「TDM900」。フロントタイヤは120/70ZR18、リヤタイヤは160/60ZR17に変更され(従来型は110/80ZR18150/70ZR17)、より軽量化を図った前後ホイールも導入されるなど熟成に抜かりはなく、軽快なバンキングとピタッと安定するコーナリング中の挙動とが高い次元で両立されていました。そこへ路面グリップにも恩恵ある270度位相クランクのパラツインバイブレーションが加わるのですから……最の高でしたヨ!

 

 

以降、2004年モデルで小規模なマイナーチェンジが行われ、2008年モデルからABSを搭載した「TDM900A」が登場したくらいで、

TDM900/A

●2008年型「TDM900」カタログより。この年のモデルから万一のときに高い安全性を担保してくれるABS仕様車も登場して、完成度は極まれり……。なお、2004年モデルのマイナーチェンジでは、エンジン制御の変更、前後足まわりの設計変更、ブレーキマスターシリンダーの大径化(14㎜から16㎜へ)などの変更が実施されていました。うろ覚えで恐縮なのですが、最後に乗ったABSモデルは確かに極低速域のトルクが上乗せされていてエンストしづらかったような……

 

 

あとは毎年のようにカラーリングチェンジを果たしながら堂々のロングセラー化(「TDM」シリーズは全世界トータルで10万台以上を売り切ったと聞いております)していった万能モデル……だったのですけれど、プレストコーポレーションでの取り扱いは2010年型にて終了

2007_TDM900メーター

●「TDM900」のメーター部分です(写真は2007年型)。小ぶりながら効果的だったウインドシールドが跳ね上げる走行風をヘルメット上部に感じつつリラックスしたライディングポジションで距離を稼ぐ高速道路巡航は気持ちよかったですね〜。まさにTDMが日本で売られていた期間はハイウェイにおけるバイクの地位が向上しまくった時代でもありまして、2000年に法定速度が80㎞/hから100㎞/hへ。2005年には免許取得3年以上かつ20歳以上なら高速道路で2人乗りができるようになり、2006年11月から全国でバイク用ETCの運用がスタート。ついでに書くておくと2007年7月から馬力の自主規制が撤廃され、2018年ころから国内仕様にも速度リミッターが装着されなくなり……。と、往年を知るオッサンからするとヒジョ〜に灌漑いや、感慨深いものがあり、目から汗が星 飛雄馬のように流れる次第です

 

 

その後も続いた海外市場向けの生産も2012年型をもって全面的に終わってしまいました。

 

“アドベンチャー”ジャンルが大爆発して何でもアリの世界に……

 

と、いうのも全世界的に人気を集めるジャンルが大きく変化をしたからなのですね。

 

2004年にBMWが世に放った「R1200GS」は、文句のつけようのないスタイリング走行性能で圧倒的な大ヒットモデルへと上りつめていきます。

R1200GS

●1980年に登場した「R80G/S」以来、脈々と水平対向2気筒エンジンの(ある意味マニアックな)ビッグオフローダーを作り続けてきたBMWが、この2004年型「R1200GS」と2006年に追加された「R1200GSアドベンチャー」とで一気にメジャー化した……という印象がございます。威風堂々たる体躯と馬に乗っているかのように高いアイポイントで、抜群にリラックスできるライポジのままオフロードだけでなくワインディングも高速道路もガシガシ走破できる新時代のマルチパーパスモデル……。“アドベンチャー”という分かりやすいジャンルを自ら確立してしまったという意味でもエポックメイキングでしたね!

 

 

こちら、ひと昔前なら「ビッグオフローダー」と呼ばれていた車両なのでしょうけれど、ウリである悪路走破性は維持しつつフレームやサスペンション、タイヤや各種電子制御の進化も受けて、舗装路……一般道にワインディングや高速道路での爽快な走りまで獲得してしまったのですから、人気の出ないワケがありません。

2008年R1200GS

●写真は2008年型BMW「R1200GS」……。人気が出る→得た原資でネガをつぶして洗練→さらに人気が出る→弟分(F800GSなど)も作る→さらにさらに人気が出る……といった好循環をどんどん繰り返して今やどうなっているかは、公式ウェブサイトなどをご覧下さい(^^ゞ まぁ、大ヒットしたということは優良な中古車がレッドバロンに揃っているということですから、ぜひご確認を!

 

 

瞬く間に絶対王政を敷いた「R1200GS」シリーズに各メーカーが対抗モデルを用意していき、ヤマハが選んだ道は栄光に輝くブランド“スーパーテネレ”の大復活……つまり「XT1200Zスーパーテネレ」を2010年にデビューさせることだったのです! 

XT1200Z

●「R1200GSの牙城へ迫れ!」と10数年の時を超えて復活を果たした2010年型「XT1200Z スーパーテネレ」! 「TDM850/900」と同じ270度位相クランクを採用した1199㏄水冷4スト並列2気筒DOHC4バルブエンジンは最高出力110馬力/7250回転最大トルク11.6㎏m/6000回転のパフォーマンス。「R1200GS」同様、リヤタイヤはメンテナンスが楽で耐久性も高いシャフトドライブによって駆動されました。シートは高さ調整機能が付いており、845㎜と870㎜が選択可能。装備重量は261㎏、燃料タンク容量は23ℓ。当時ヤマハの逆輸入車を販売していたプレストコーポレーションでの消費税5%込み参考小売価格は168万円(ファーストエディション)でありました。残念ながら日本では2019年に販売が終了。全世界的にも2021年モデルにて生産が終了したようです。現在は「テネレ700」がラインアップで頑張っていますが、“スッテネ”3度目の復活も期待したいところ!

 

 

ほぼ時を同じくしてドゥカティからは「ムルティストラーダ1200」が登場し、KTMは「990アドベンチャー」をさらに洗練。

 

以降、魅力的なリッターオーバークラスのモデルが各車から次々と現れて、それがミドルクラス~小排気量クラスへと下方展開されていき、“アドベンチャー”は今に続く大人気ジャンルとなっていきました。

 

 

嗚呼……ああ、それなのに、元祖“(XTZ750)スーパーテネレ”の血を受け継ぎつつオンロード寄りの車体構成が与えられ、峠の王様とも称された「TDM」シリーズの魂は時代の流れに抗えず雲散霧消してしまったのか……。

 

 

いえいえ、名前やエンジン型式こそ変わってしまいましたが、パワフルかつ独特なトルク特性を堪能でき、前後17インチホイールで鋭く意のままの身のこなしも可能で、アップライトなポジションだからどこまでも走って行けるミドルクラスマルチスポーツが2015年に出ているではありませんか。

 

そう、「MT-09 TRACER(トレーサー)」です! 

MT-09トレーサー

●2015年2月10日から発売された正式名称、ヤマハ「MT-09 TRACER ABS」。“クロスプレーンコンセプト”にもとづく846㏄水冷4スト並列3気筒DOHC4バルブエンジンは、なんと2010年型「XT1200Zスーパーテネレ」と同じ最高出力110馬力を9000回転で発生し、最大トルク9.0㎏mを8500回転で絞り出していました。シート高は845㎜。車両重量は210㎏、燃料タンク容量は18ℓ。60㎞/h定地燃費は27.0㎞/ℓでしたので理論上の満タン航続距離は486㎞となります。タイヤはフロント120/70ZR17、リヤは180/55ZR17。TCS(トラクションコントロールシステム)も装備されて消費税8%込みの当時価格は104万7600円! いやもう当然のごとく売れに売れました。「TDM850/900」も実質後継機たるトレーサーの大活躍を眺めてニコニコ微笑んでいることでしょう!?

 

 

ベースとなった「MT-09」譲りの卓越したオンロード走行性能にアドベンチャー風味をふんだんにトッピング

 

堂々の大ヒットモデルとなり現在は「トレーサー9 GT/+」としてヤマハラインアップの重要な位置を占めております。

トレーサー9GT

●「MT-09トレーサー」は2018年から「トレーサー900」、2021年には「トレーサー9」へと改名&発展。2021年に登場した「TRACER9 GT ABS」は(写真は2023年型)、"Multirole fighter of the Motorcycle"をコンセプトに、市街地からツーリングまで多用途でスポーティかつ快適な走りを楽しめるモデルとして開発されたモデル。888㏄水冷4スト並列3気筒DOHC4バルブエンジンは、最高出力120馬力/1万回転、最大トルク9.5㎏m/7000回転の実力! シート高は820㎜/835㎜。車両重量は220㎏、燃料タンク容量は18ℓ。60㎞/h定地燃費は30.5㎞/ℓなので理論上の満タン航続距離は549㎞。消費税10%込みの価格は149万6000円。ミリ波レーダーと連携したACC(アダプティブクルーズコントロール)を搭載したブレーキを導入するほか、数々の上級装備を備えた「TRACER9 GT+(プラス)ABS」は2023年10月に発売開始され、消費税10%込みの価格は182万6000円

 

 

 

乗れば必ずアナタも快哉を叫んでしまうはず、「このバイク、出来過ぎ!」と……。

 

 

 

さて。次回はホンダ「CB750」系にいたしましょうかね。“FOUR”なのか“F”なのか、はたまた“K”か無印か……? 予想していただきつつ、ゆる~くお待ちくださいませ!

1982_CB750F

●写真はみんな大好きホンダ「CB750F」のカタログ表紙! 筆者も憧れましたねぇ……

 

 

あ、というわけで「TDM850/900」の存在が呼び水となり、万能性を身に付けた2000年代以降のアドベンチャーモデルは、どれも太鼓判を押せる仕上がりっぷり。憧れのオーバーリッター系もよし、500~900クラスもよし、はたまた400や250クラス……。日本全国に300強の店舗を構えつつ『5つ星品質』の中古車を販売しているレッドバロンなら、どのメーカーのモデルも安心して付き合っていけますよ!

 

 

CB750という地味めなシビ子【前編】はコチラ!

 

 

TDM850/900という出木杉クン【後編その1】はコチラ!

 

 

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