今となっては四半世紀近く前の話となってしまうのですけれど、2001年8月29日にスズキとカワサキは同時にプレスリリースを発表。その内容は「二輪車の業務提携で基本合意」というものでした! 「ウ……ウソやろ、こんなことが許されていいのか!?」と某格闘漫画ワンシーンのように、筆者も目を見開いて驚愕したことを覚えています……(^^ゞ

●2002年型カワサキ「D-トラッカー」カタログ表紙より。上のタイトル文字背景写真は、そのDトラをベースにしたスズキ「250SB」なのですけれど、カラーリングを上手く変更することでスズキっぽさを演出していますね〜
アナタの知らないOEMの世界【その3】は今しばらくお待ちください m(_ _)m
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鎬を削ってきた国内メーカー同士が強力タッグを組むなんて!?
スズキとカワサキといえば、1999年に突如降臨して実測300㎞/hオーバーを叩き出した「GSX1300Rハヤブサ」へ対し、

●はい、スズキのフラッグシップ初代ハヤブサですね。カワサキが1972年にZ1こと「900 Super4」を登場させて以来、マシンは変われどほぼほぼずぅぅぅ〜〜〜〜っと欲しいままにしてきた世界最速バイクメーカーの座をサクッと奪取した超新星。欧米バイク誌(紙)がこぞって最高速テストを行い、そのたびに実測300㎞/h超えを披露してみせたハヤブサの高い実力は瞬く間に広く全宇宙に知れわたりました。ただ速いだけでなく極低速域から驚くほどの扱いやすさを持ち合わせていることも口コミで広がり、押しも押されもしない人気車に……
翌2000年にはもう刺客たる「Ninja ZX-12R」を世へ送り出し、バチバチのフラッグシップ頂上対決を繰り広げた因縁浅からぬ間柄。

●なんと350㎞/hの目盛りまで刻まれたスピードメーターを引っさげて登場してきた最初期……2000年型の「Ninja ZX-12R」。ただ、ハヤブサとの完全決着を果たす前に悪い冗談のような299㎞/hスピードリミッターの義務化がスタートしてしまいモヤモヤ……。そのあたりの顛末から「Ninja ZX-14R」へ続く壮大な(?)クロニクルはコチラから!
……ではありましたが海外向けのビッグバイク市場はともかく、いざ国内のマーケットを冷静に眺めれば1位ホンダと2位ヤマハへ大きく水をあけられた3位スズキ、4位カワサキという立ち位置。

●時代の追い風を受けて超売れ筋に成長した(ビッグ)スクーターを持たないカワサキと排ガス規制対応に難のある250の並列4気筒や油冷シングルへ大幅改良用リソースをかけたくない(?)スズキの思惑が一致。お互いが完全に補完し合えば2位へ肉薄することも可能だった!?
さらに当時は騒音&排ガスの規制がイッキに厳しくなり、国内各メーカーのドル箱だった400&250レーサーレプリカや2ストデュアルパーパスなどが次々と消滅するという憂き目に……。

●1996年にフルモデルチェンジを受けた「RGV-Γ250SP」。写真は240台限定で用意されたとされるラッキーストライクカラー……。馬力規制で牙を抜かれ(45馬力→40馬力)、ユーザーの心はネイキッドモデルへ全集中していたなか、空気を読まない(褒め言葉)スズキが車体のみならずエンジンまで全面刷新(シリンダー挟角を90度から70度へ変更+セルフスターター装備+乾式クラッチ&新カセット式ミッション採用etc)して世に問うたモデルだったのですが……。時代の逆風をモロに受けつつ、それでも1999年に生産終了するまで細々と販売が継続されました。もう1983年に「RG250Γ」を出したメーカーの意地としか言えない所業に小生は感涙……
総じて国内での二輪販売数は急激な落ち込みを見せていたのですね。
それでもまだ余裕のあったホンダとヤマハはともかく、スズキとカワサキはこれ以上収益が悪化すると二輪事業を継続することすら難しくなってしまいかねない。

●四輪車メーカーとして確固たる地位を築いたスズキ。言わずもがなの超巨大コングロマリット(複合企業)な川崎重工業。長期間にわたり採算が取れなければ二輪部門なんて簡単に切り捨てられるかも、とは一時期バイク業界のなかでまことしやかにウワサされた話題……
かくいう共通の危機感を抱いた両社は水面下で接触&協議を重ねていき、先述のとおり2001年8月末に「二輪車・ATVの商品開発、調達、生産などの分野において、互恵と平等の精神に基づき業務提携を行うことで基本合意した」と公式に発表するに至りました。

●当時のプレスリリースはこちら(カワサキ側。スズキ側から出たものと文面はほぼ同じです)。驚きはしましたが、やっぱり後の「ホンダとヤマハ」のほうがインパクトは大でした
互いのブランドを尊重しつつ弱点を補完し合う関係を目指す!
狂乱の1980年代バイクブームは言うに及ばず、以降も四つ巴で激烈な性能向上&販売バトルをやり合ってきたメーカー同士が部分的にせよくっつくなんてことは想像の範囲外。

●2023年型ヤマハ「ジョグ」カタログ表紙より。キックスターターのペダルがある無段変速機のカバーにはクックリと「HONDA」の刻印が……。ホンダ「タクト」のOEM車であることを、もう隠そうともしていませんね(^^ゞ 1980年代を引きずるめんどくさいオッサンはHとYの呉越同舟!?ぶりに、いまだドキがムネムネです
互恵関係がトントン拍子で急拡大し、2社のバイク部門がどうにかこうにかなって吸収 or 合併なんて状況になったらSUKAKIブランドが爆誕……!? なんてアホな妄想までしていた筆者でありました。
とにもかくにも真摯な話し合いとモロモロの調整は浜松と明石の間で綿密に行われたのでしょう。
翌2002年1月22日、晴れて両社は「2月から相互OEM供給を開始する」と高らかに宣言。

●当時のプレスリリースはこちら(スズキ側)。で、こちら(上写真は2002年型カワサキ「エプシロン250」カタログ)のような事案が発生したわけです。車体はまんま2001年型のスズキ「スカイウェイブ250 タイプS」なのですけれどカラーリングや車名ロゴのカッコよさで、とても映えておりました
2002年1月のプレスリリースに業務提携、最初の成果として発表された内容は……。
【スズキ(供給元)→カワサキ(販売者)】はスクーターが中心!
スズキの「スカイウェイブ250タイプS」をカワサキ「エプシロン250」として。

●1998年に登場した初代「スカイウェイブ250」は良くも悪くもオッサン!?ビジネスマンを相手にしたような出で立ち。しかし、1999年10月登場の2代目ヤマハ「マジェスティ」が突如巻き起こしたビッグスクーター(カスタム)大ブームに乗って、当時のトレンド〜ショートタイプのフロントスクリーン+メッキのパイプハンドル+各部メッキパーツ+ウインカーなどレンズ類のクリア化〜を全部盛りして2001年11月に登場したのが「スカイウェイブ タイプS」でした。そちらをOEMしたのが……

●はい、こちらのカワサキ「エプシロン250」なのです。2002年3月に発売開始! ……キャンディグランブルー×メタリックソニックシルバーの配色もガチ決まりで、「ぶっちゃけ本家のズズキ版よりカッコよくね!?」と某バイク編集部でも話題になっていたような(^^ゞ。猫も杓子も「マジェスティ」か「フォルツァ」という状況に反骨心を燃やしたナウなヤングが「カワサキのスクーターってヤバくね?」と脊髄反射的に相当数飛びついた……という記憶が残っております。中古車市場でもこのカラーリング、比較的よく見かけたよなぁ〜
同じくスズキ「アヴェニス150」をカワサキ「エプシロン150」と銘打ち国内市場に投入。

●1998年12月に発売されたスズキ「アヴェニス150」。16馬力を発揮する新設計された152㏄水冷4サイクル単気筒OHCエンジンを搭載し、コンパクトで扱いやすいボディサイズながら大径12インチタイヤとアルミホイールを採用。街中をキビキビ走っていざとなれば高速道路を駆け抜けることも可能な手軽で万能なスクーター……だったのですが登場する時代が早すぎた!? 2012年に登場し、大ヒットモデルとなったホンダ「PCX150(現在は160)」とやってることは同じだったのにねぇ

●というわけで2002年3月に登場したカワサキ「エプシロン150」。OEM化するにあたっての気合いの入り方が「エプシロン250」と違いすぎるような気が……。なお車名のエプシロンとは、ギリシャ語アルファベットの文字「E(Epsilon)」が由来となっております。……今さらですが「い〜(スクーター)」ってことなんスかね!?
海外市場へはスズキ「DR-Z125」がカワサキ「KLX125」としてデビューすることになりました。

●はい、こちらがスズキの誇る小排気量エンデューロレーサー2002年型「DR-Z125」です。エンジン外観が筆者の所有している「ジェベル200」ソックリでニヤニヤ。そんなことはさておき、こちらのOEM版カワサキ「KLX125」の写真は見つからなかったのですけれど、まぁ、車体色が緑になっているだけなはず m(_ _)m
その逆パターン【カワサキ(供給元)→スズキ(販売者)】は……
カワサキ「バリオス-Ⅱ」がスズキ「GSX250FX」に。

●1992年に登場したカワサキ「バリオス」(リヤサスがモノショックでしたね)をベースに、エンジン低中速域のトルクを強化しつつツインショック化して1997年にデビューしたのが「バリオス-II」(写真は2002年型)。2本サスへの変更は賛否両論ありましたが、シート下に小物入れスペースが新設されるなど実用面もアップしたことが評価されるとともに、よりネイキッドモデルらしい姿になったと概ね好評。最大のライバルたるホンダ「ホーネット」ともども2007年モデルで生産が終了するまで安定したセールスを記録していきました

●レプリカさえカモれるスポーティな250ネイキッドとして一時代を画すも2000年に生産を終了していたスズキ「バンディット250V/VZ」。モデルチェンジでの復活が望まれていましたが、ちょうど業務提携の話が水面下で進んでいたころでもあり、「安定した人気を誇るバリオス-Ⅱをスズキブランドでも販売すればWin-Winじゃないか!」とでもなったのでしょう。2002年2月22日、ニャンオーオーニャンニャンニャンと2が沢山そろう日に「GSX250FX」が発売されました。スズキの魂GSXとカワサキを想起させるFXとを車名へ2つともいただくという快挙を果たしてのデビューでしたが、逆に「GSX250FX」と略さずイッキに全部言わないと何のバイクなのか分かってもらえないという弊害が……(「GSX」でも「FX」でも96.2%伝わらない)。素直に「バンディット250 Neo(ネオ)」くらいにしておけば認知度だって爆上がりしたのではないか……と筆者は思いました
カワサキ「D-トラッカー」がスズキ「250SB」として国内マーケットへ。

●1998年に登場したカワサキ「D-トラッカー」(写真は2002年型)はデュアルパーパスモデルをベースに前後17インチホイール+オンロードタイヤを履かせるというモタードジャンルの文法を軽二輪クラスで確立したパイオニア。そのスマッシュヒットは他メーカーのフォロワーを数多く輩出させました。カッコ良くて軽量で市街地走行でもキビキビ、かつワインディングでも侮れない速さを発揮する……ということが口コミで広がっていったという印象ですね。以降もモデルチェンジを受けながらドル箱であり続けた名車!

●「250SB」という車名。いや、スーパーバイカーズからのSBというのは分かるのですけれど、せっかくDRという4ストデュアルパーパスの金看板があったのですから「DR-Z250SM」……いや、もうちょっとユルくして「DR250SM」もしくは「DR250SB」くらいにしておけば、バイクへそんなに詳しくない方々にもスッと浸透していったのではないか。仮に「DR250SM」だったら、2005年モデルとして衝撃的デビューを果たすスズキ「DR-Z400SM」との相乗効果も狙えたのではないかなぁ……と令和となった今でも毎晩布団の中で妄想する日々です
モトクロッサーのカワサキ「KX65」もスズキ「RM65」という名前で海外にて販売開始されました。

●はい、こちらがカワサキの誇るミニモトクロッサー2002年型「KX65」です。小さいからといってナメてかかると思わず舌を巻く本格装備のリトルダイナマイト! そんなことはさておき、こちらのOEM版スズキ「RM65」の写真は見つからなかったのですけれど、まぁ、車体が黄色になっているだけなはず m(_ _)m
互いの弱点を補い合うという点では納得もしたけれど……
どれもこれもなかなかのインパクトですが、やはりOEMとはいえKawasakiブランドでスクーターが発売されるという状況には驚かされましたね〜。
時はまさに空前絶後のビッグスクーターブーム真っ只中でしたから、販売台数をポン!と増大させるには格好のジャンルと目されたのでしょう。

●2002年型カワサキ「エプシロン150」カタログより。今見ても非常に端正でカッコイイスタイリングですし、仮に前後12インチホイールを14インチにしたらまんま2010年に登場した初代ホンダ「PCX/150」やん!となってしまいますね(筆者個人の感想です)。ではなぜ反響が薄かったのか……。恐ろしいことに2000年以降のビッグスクーター(カスタム)大ブーム時代は「メッキパイプハンドルでなければイケてるスクーターにあらず」という風潮が確かにあったのです! 歴史にたらればもニラレバもありませんが、もし仮にスズキが素早く「アヴェニス150タイプS」を作り、そちらを「エプシロン150」として販売していれば……
逆にうら寂しく感じたのはカワサキ→スズキの車種たち。
「嗚呼、スズキが誇ってきた250の並列4気筒スポーツと油冷シングルオフロード系モデルの系譜は完全に終わってしまったんだな……」と深夜の編集部で居眠りをしながらiBookのキーボードを涎……いや涙で濡らしたものです(^^ゞ。

●1995年に登場したスズキ入魂の249㏄油冷4スト単気筒DOHC4バルブエンジンを搭載する「DR250R」。こちらがなんだかんだいって2004年型まで生き残っていたからこそ、「DR250SMという名前にはしたくない!」という意見が勝ってしまったのかな……!?
さて次回は2002年から始まったスズキ&カワサキ本格的相互OEM時代が、どのように変遷していったのかを追ってまいりましょう!

●イカしてるぜ! 2004年型カワサキ「エプシロン250」(のカタログより)。同年、OEM供給ではなく正真正銘、共同で開発されたマシンも世に出たのですが不協和音は次第に大きく……!?
あ、というわけで「エプシロン250/150」も「GSX250FX」も「250SB」もかくいう歴史を象徴する時代の証言車。莫大な在庫量を持つレッドバロン『5つ星品質』中古車の中から狙ってみるのもオススメですよ!
アナタの知らないOEMの世界【その3】は今しばらくお待ちください m(_ _)m